火魅子伝 居場所 第16話(改訂版) (H:小説+マンガ+オリ M:九峪・清瑞・志野・織部・忌瀬・真姉胡・重然・愛宕 J:シリアス)
日時: 01/27 17:34
著者: 蒼獅


―翌朝―

清瑞は、昨日の夜に九峪から言われた事を話しに、忌瀬と真姉胡の元へ訪れていた。

「…………という事なので真姉胡には伝令役の乱破をしてほしいのだが……」

清瑞が話し終えると、忌瀬と真姉胡は、お互いを見つめると忌瀬が清瑞に話しかけてきた。

「え〜と、それは別にかまわないんですけど、何で真姉胡なんですか? 乱破部隊もあることだし、そこから伝令役の乱破を出せばいいと思うんですけど……」

「私は九峪様から言われてきただけで、理由はわからない。ただ個人的には、乱破部隊の者はこれから火魅子候補の方々の護衛や伝令役などをしなくてはならないので、人手不足なのだ」

「そういうことですか。わかりました。真姉胡、あんたこれからは九峪様の伝令役ね」

忌瀬が真姉胡にそう言うと、真姉胡は何かを言いたそうに忌瀬を見つめるが、観念したように頷く。

「まぁ、会議の時や、戦の時に九峪様の伝令役をしてくれればいいから」

「わかりました。私は会議の時は出席し、戦の時は九峪様のお側に居ればいいんですね?」

「ああ。では私は九峪様にご報告してくるから、これから頼んだぞ真姉胡」

「は、はい。わかりました」

清瑞はそう言うと、九峪の居る部屋へと向かって行った。

「はぁ〜忌瀬さん。どうして断らなかったんですか?」

真姉胡は、清瑞の姿が見えなくなると、忌瀬に尋ねる。

「どうしてって……。あんたね、九峪様からああ言われて来たって事は、私達は疑われているんだよ。そこで、多分九峪様はあんたを伝令役にして狗根国側に情報を教えるか教えないかで私達の目的を探ろうとしているんじゃないかと私は思うんだよ」

「じゃあ九峪様と清瑞さんは私が狗根国の乱破だと分かってるって事ですか?」

「そう言うことね。でなきゃいちいちあんたに伝令役なんて頼まないよ。それに、九峪様の乱破なら乱破頭の清瑞さんがいるし……。まぁ私達の目的は復興軍を内側から観察する事と、手助けする事だから下手な事しなければ大丈夫さ」

忌瀬はそう言って真姉胡の肩を叩く。

「はぁ〜、なんで私ばっかり……」

背中を叩かれた真姉胡は、ガックリと肩を下ろして呟いた。





―九峪の部屋―

清瑞は真姉胡の件を九峪に報告する為に、九峪の部屋へと訪れていた。

「九峪様、真姉胡は伝令役の乱破の事を引き受ける事になりました」

「わかった。ご苦労だったな清瑞」

「いえ」

九峪の労いの言葉に、清瑞は微笑を浮かべながら答える。

「じゃあ、真姉胡の件はいいとして、征西都督府へ送る乱破を三人選んで直ぐに送り込んでおいてくれ。後、この街に狗根国軍の討伐軍がどの位の規模で来るのかと、何日ぐらいで来るのかを知りたいんだ」

「わかりました。征西都督府へ送る乱破は私が選出した者を送ります。討伐軍の方は、少しばかり時間を頂きますが宜しいでしょうか?」

「ああ、構わない。正確な情報であればいいから」

「はい。では、私は乱破部隊の方へ行ってまいります」

「わかった。よろしく頼む」

清瑞は九峪の言葉を聞くと、さっと立ち上がり乱破部隊の訓練場へ向かって行った。

「さて、俺は鍛錬でもするか」

清瑞が立ち去るのを見送った九峪は、そう言いながら炎の御剣を手に取り、紅希がいる精神世界へ意識を飛ばした。





―当麻の街、城下―

沢山の人が野菜や肉を並べて客を呼び寄せている場所で、一組の男女が魚の入った籠を置き、ポツンと座っていた。

二人の内、男―重然―は、二メートルはあろうかという巨体に、褐色の肌を持ち、いかにも海人ですといったような格好をしている。

そしてもう一人の女、というかまだ少女と言うくらいの娘―愛宕―も、海人ですと言わんばかりの格好をしている。

「お頭〜この街ってこんなに活気がありましたっけ?」

「おお、俺もそれを思っていたところよ。三日前に復興軍がこの街を狗根国軍から解放したってのは聞いてがここまで活気ずいてるとはな」

二人は街の人々を見ながらそんな事を話している。

実はこの二人、火向灘の沖合にある石川島に根城を構えている海人集団の一団の者なのである。彼らは、復興軍が狗根国と戦っていけるかどうかや、優秀な人材が居るのかどうかを探る為に、この街へと足を運んだのだ。

「お頭〜これなら味方に付いてもいいんじゃないっすか?」

「俺もそう思うがよ……このまま俺達が城へ行っても門前払いがいいところだしな〜」

「な〜って、お頭〜しっかりしてくださいよ〜」

「まぁそんなに焦んなくてもいいだろ。それよりあれ、見てみろよ」

「え、どれっすか?」

重然の指差す方向に愛宕が顔を向けると、そこには志野の一座があり、現在は織部が相撲を行っていた。

相撲を行っている織部は、どうやら負けると服を脱いでいくらしく、男達は食い入るように織部を見つめている。

「あの女、相当強いぜ。多分お前と同じかそれ以上かもしんねぇぜ」

重然は織部を見ながら愛宕にニヤニヤしながら話し掛ける。

「む、そんな事はないっすよ。あたしの方が強いですって。あの人が負けたらあたしが行くっす」

愛宕は重然の言葉に、むっとしながら相撲が行われている場所に近づいていく。





愛宕が向かっている志野の一座では、ちょうど織部が男を縄の外へと押し出したところだった。

「ぐはっ!」

男が倒れると、織部は勝ち誇った顔で右手を観客に向けて挙げる。すると、倒れた男に観客の男達のブーイングが飛んでいく。

「さあさあ、次は誰だい?」

織部はそう言うと辺りを見渡す。すると遠くから声が聞こえてきた。

「は〜い。次はあたしがやるっす」

そう言って、愛宕は織部のいる所まで来ると、ビシッと織部を指差しながら言い放つ。

「あたしとあなた、どっちが強いか勝負っす!」

「はっ、このあたしに勝負だと? 面白い、受けて立とうじゃないか!」

織部は愛宕の言葉を聞くと獰猛な笑みを浮かべながら構える。

「いくっすよ〜。油断してると、あっ、という間に終わちゃいますからね〜」

「へ、それはこっちの台詞だ!」

二人はそう言うと、構えた。そして、一座の者が合図をだす。

―ドーン!!―

その合図と共に、二人はお互い距離をつめ、取っ組み合いを始めた。

「おりゃぁぁぁ」

「はぁぁぁぁぁ」

お互い気合の声を上げながら相手を押すが、二人の体はピクリとも動かない。

「くっ!」

「ちっ!」

お互い舌打ちを打つと、同時に相手の腰に回していた手を離して距離をとる。

(この人……思ったより強いっす)

(ちっ、こいつ……流石に言うだけあって強いじゃねぇか)

愛宕と織部はお互いが似た様な事を思いながら構え、ジリジリと距離を詰めていく。すると、突然、織部は深く体を沈み込ませ、そして一気に愛宕との距離を詰めた。

「おらぁ!」

織部が叫びながら愛宕に突撃する。

「いぃ!?」

愛宕は驚きの声を上げながらも、跳び箱の要領で織部の背中に手を突いて、そのまま手の力を使い、織部を自分の後ろに押す。

「おっとっと」

織部はそんな事を言いながらも、自分の背後に居る愛宕の気配を探る。すると、愛宕の気配が、すぐ側まで居るのが分かり、振り返ると、そこには愛宕の姿は見えない。

「!!?」

一瞬の驚愕。そこに出来た隙に、愛宕が織部から見ると地面スレスレの場所から織部の腰にある服を掴んだ。

「もらったっす!」

「ちっ! このやろう……舐めんな!!」

ほとんど織部の腰を掴まえて持ち上げようとしている愛宕は、勝ち誇ったように言うが、織部は気合の声を上げ、愛宕の腰の服を掴み上に持ち上げようとしている。

「ぐぐぐっ! 負けないっすよ!!」

「このっ! こっちだって負けてたまるか!!」

お互いが大声を上げながら相手を倒そうと更に力を入れた瞬間、観客の男達にとってはとても幸運な、当の本人達にとっては不運な出来事が起こってしまった。

―ブチンッ、ビリッー

「うおぉぉぉぉぉ―――――!!!!!」(×観客の男全員)

そんな音と共に、観客の男達が一斉に歓声を上げる。

「へ?」 「ん?」

二人は、観客の歓声の意味が分からず、破れた服を持ちながらお互い顔を見合わせる。そして、お互いの手に持つ服を見るとはっと気づく。

そう、二人とも勝負を決めようとお互いの持つ服を力一杯入れた所為で、服は破れ、二人はその綺麗なお尻を観客の男達に晒す事になってしまったのだ。

「「あぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」」

二人は大声を上げながらバッとその場にしゃがみ込む。先程まで、殆ど裸同然だったにも関らず、二人は突然の出来事にあたふたしていると、一座の方から志野が服を持って此方にやってきた。

「はい、織部姉さん。はい、あなたも」

「お、おう。悪いな座長」

「あ、ど、どうもっす」

二人は志野にお礼を言い服を着る。すると観客の男達が一斉に不満の声を漏らす。二人はそんな男どもを睨み付けて帰らすと、表舞台から降り、舞台裏へ行くとお互い顔を見合わせ笑い声を上げる。

「はははっ、いや、あんた強いな」

「えへへへ、そういうあなたこそ強いっすね」

二人がそう言って話していると、重然が愛宕のいるところまで近づいてきた。

「おう愛宕。俺の言ったとおりだったろ?」

「あ、お頭。そうっすね、あたしとこれだけやれる人なんて数えるほどしか居ませんからね」

重然は愛宕にそう言いながら織部の方を見る。すると、重然は驚愕した顔を浮かばせて織部をじっと見つめている。

「ん? なんか用かあんた?」

「おめぇ、もしかして……織部じゃねぇか? ほら俺の事覚えてねえか? 重然だよ」

「重然……重然!! もしかしてあの重然か? お前なんでこんなとこいるんだよ?」

「いや〜それが何でも復興軍がこの街を解放したってんで見に来たんだが……まさかお嬢に会えるとはな」

織部と重然が話していると、愛宕が問いかけてきた。

「お頭〜、この人の事知っんすか?」

「おう、お嬢は俺が昔、瀬戸内に居た頃に属していた海人集団の頭の娘なんだよ」

「へぇ〜そうっすか」

「それにしても重然が頭なんて呼ばれるなんてな。そう考えると随分経ったんだな」

「ああ。ところでお嬢。俺達復興軍の味方しようと思ってきたんだが……誰か知らなぇか?」

重然は、織部にそう言いながら頼むと、織部は笑いながら答える。

「ははは、何だ。そんな事ならうちの座長に頼めばいいぜ。お、噂をすれば……」

織部がそう言うと、一座の演目が終わったのか、志野がこちらに向かって来た。

「織部姉さん。もう終わりましたので片付けましょう」

「ああ。あっ、座長。この二人、重然と愛宕っていう石川島の海人集団のやつらなんだけど、復興軍に加わりたいってんで口利きしてやってくんねぇか?」

「ええ。そのくらいでしたら……」

志野はそう言いながらも二人を見つめる。その視線は二人を値踏みするような視線だ。

「おい、座長。この二人なら大丈夫だって。俺が保障する」

「……わかりました。では片付けが終わり次第、九峪様に会って頂きますのでくれぐれも粗相の無いように」

「へ、へぃ」

「わ、わかりましたっす」

重然と愛宕は、志野からそう言われてどもりつつ答える。

「では暫く待っていてください」

志野はそう言うと片付けをする為に織部を伴って出て行った。

「は〜いや、まいった。こりゃこの復興軍は只者じゃねぞ」

「そうですっね。志野さんの威圧感すごかったっす。でもお頭、志野さんが言ってた九峪様って誰なんでしょうね?」

「さぁ? けどもう少ししたら会えるんだからいいじゃねぇか」

志野と織部が出て行った後、重然と愛宕はそんな事を話しながら舞台裏から出て、暫く待っていると、志野が此方へ向かってきた。

「では、今から九峪様の所へ行きますので付いてきてください」

志野はそう言うと重然と愛宕を連れて、九峪の部屋へと向かって行った。





―九峪の部屋―

「九峪様。復興軍に加わりたいという者を連れてきました。入ってもよろしいでしょうか?」

「ああ、いいぞ」

「失礼します」

志野はそう言い丁寧に戸を開けると、中に入るように重然と愛宕を促す。

「し、失礼しやす」

「ししし、失礼しまっす」

重然と愛宕がカチコチに固まりながら部屋に入る。するとそこには、炎の御剣を握っている九峪がいた。九峪は、二人が入ってきたので、炎の御剣を床に置いて二人に話し掛ける。

「さて、復興軍に加わりたいって事だけど……」

重然と愛宕は、九峪の言葉にピンッと背筋を伸ばして、話し始める。

「あ、あっし、じゃない……私は石川島に根城を置く海人集団の一団の中の一つの頭をやっております重然と申す者です。そしてこっちは部下の愛宕です」

「あ、愛宕です」

「重然に愛宕な。俺は耶麻台国復興軍総司令官で神の御遣いの九峪だ。よろしくな」

「は、はい。えっと九峪様、神の御遣いってのはいったい?」

「ああ、俺は耶麻台国を復興させるために八柱神から遣わされたんだよ」

九峪の説明に、唖然として固まる重然と愛宕。すると、志野が助け舟を出すように二人に話しかける。

「お二人とも、固まってないで……。九峪様、彼らはどうしましょうか?」

「そうだな、これからは海路を使って行う作戦もあるだろうし、物資や人の運搬にも陸より海を使った方が速い事の方が多いんだ。だから重然と愛宕には宗像の海人集団と連携して船の製作を頼む。いつ大量の船が必要になるか分からないからそのつもりでいてくれ」

「へい。わかりやした」

「頼んだ。じゃあ重然、愛宕、これから君達は俺達の仲間だ。宜しくな」

「へい。海の戦いのなら任せてくだせぇ」

「あたしもやるっす」

二人はそう言うと、一礼して九峪の部屋を出て行った。

「九峪様。あの件なのですが……」

重然と愛宕が出て行ったのを確認した志野は、九峪にそう話しかける。九峪は、志野がもう答えを出した事に驚いた。

「え!? 志野。もういいのか?」

「ええ。私は火魅子候補になろうと思います。一座の皆と話してそう決めました」

「じゃあ明日皆に伝えるから……俺が言うのは筋違いだけど……いいんだな?」

「はい」

「わかった。これからよろしく頼む志野」

「こちらこそ宜しくお願い致します九峪様」

頭を下げて言う九峪に、志野も頭を下げて答える。

「それでは私も失礼致します」

志野はそう言うと立ち上がって、旧留守の間から出て行った。





あとがき

どうも蒼獅です。第十六話如何だったでしょうか?

今回は、真姉胡は伝令用の乱破の話は受けました。というより、受けないと怪しまれるので仕方が無いのですが……。

さらに重然と愛宕が登場し、織部と愛宕は相撲をとりました。まぁ勝敗は引き分けでしたけど……。

最後に、志野は火魅子候補になりました。

次回は、志野が火魅子候補という事を幹部の皆に教える様子をお送りしようと思います。そして、狗根国の様子もお送りする予定です。

宜しければ感想掲示板に意見や感想、指摘などをお願いします。

では今回はこれにて失礼します。