火魅子伝 居場所 第18話(改訂版) (H:小説+マンガ+オリ M:九峪・紅玉 J:シリアス)
日時: 02/17 20:31
著者: 蒼獅


当麻の街に伊雅達を残した九峪と紅玉は、森へ戻っていった魔狼達の後を追い、森に入ると慎重に足を進めて行く。

暫く森の中を歩いていると、辺りの気配が変わった。

「紅玉」 「九峪様」

二人は同時にお互いの名を呼び警戒する。

「ゴァァァァッ!」

「ガァァッ!」

警戒する二人に、二体の魔狼が咆哮と共に突如として襲い掛かってきた。

「はっ!」

「せいっ!」

九峪と紅玉は、襲い掛かってきた魔狼を避け、炎の御剣と覇璃扇を魔狼に叩き込む。

しかし、魔狼は二人の攻撃を左右に分かれて避け、二人に鋭い爪を振るう。

「ふっ!」

紅玉は振るわれた爪を片方の覇璃扇で受け止めると、もう片方の覇璃扇で魔狼の目を貫く。

「ガォォォッ!」

目を貫かれた魔狼は、吼えながら腕を振り回し、紅玉は魔狼の腕の勢いを使い、魔狼から距離をとる。

九峪は、魔狼の爪を右に避けると、そのまま炎の御剣を振りぬいて、魔狼の左腕を切り裂き一旦離れる。

「紅玉こいつら」

「ええ。この魔獣達は何者かの指示に従って動いています。それに、先程とは動きが違います」

「俺達を誘っていたのか……」

九峪と紅玉は連携を見せた魔狼の動きを見てそう判断する。

二体の魔狼は、そんな二人を見ながら、ジリジリとにじり寄る。

「まだ他の魔獣の姿が見えないこともある。俺の背中、任せたぞ」

「わかりました。私の背中、九峪様にお預けいたします」

「わかった」

二人はお互い背を合わせて魔狼に武器を構える。

魔狼は、二人の周りを駆け巡り咆哮を上げた。

「「グオォォォッ!」」

すると、辺りからもう二体の魔狼が現れた。

「ちっ、厄介な」

「「「「ガァァァッ!」」」」

舌打ちを打つ九峪に構わず、魔狼達は二人に襲い掛かる。

「グゴゴッ!」

一体の魔狼が九峪に襲い掛かり、三体の魔狼が紅玉に襲い掛かる、

「はぁぁぁっ!」

「せいっ!」

九峪と紅玉は、襲い掛かってきた魔狼に対して、九峪は魔狼に向かって行き、炎を纏った炎の御剣を振り下ろす。紅玉は、両手に持つ覇璃扇を使って魔狼の攻撃を受け流す。

「ギャォォォッ!」

九峪の振るった炎の御剣をかわしたまではよかったが、炎の御剣が纏っていた炎が魔狼の体に触れると、絶叫を上げて燃えカスとなった。

「はっ!」

「ゴォォ!」

紅玉は受け流した三体の魔狼の内、先程目を貫いた魔狼の首に覇璃扇を振り下ろし、首をへし折る。

「紅玉離れろっ!」

九峪の大声に紅玉はその場から離れるようにして飛び上がり、着地すると九峪の方へと移動する。

「はぁぁぁぁっ!!…………せいっ!!」

九峪が気合と共に振りぬいた炎の御剣から、炎の塊が凄まじい速度で放たれた。

―ドォォォンッ―

爆発音と共に、その場に居た二体の魔狼は焼け焦げた体を晒しながら絶命していた。

「ガァァァッ!!」 「ゴォォォッ!!」 「グォォォッ!!」

息つく暇も無く、三体の魔狼が咆哮を上げながら九峪へと襲い掛かる。

「おぉぉぉぉっ!!」

九峪は気合の声と共に、三体の魔狼が振るう爪をなんとか受け止め、衝撃を利用して距離をとる。

しかし、一体の魔狼がすでに九峪の間近に迫っており鋭い爪を振るう。

「はっ!」

九峪は爪を振るった魔狼に炎の御剣で受け止める。

「「ガォォォッ!!」」

そこへ、二体の魔狼が九峪へと迫り来る。

「九峪様!」

「天の火矛!」

紅玉の叫び声を聞きながら、九峪は方術を放つ。

「「「ギャァァァァッ!!」」」

「はぁっ!!」

絶叫を上げて燃える魔狼に、更に九峪は炎の御剣を振るい、三体の魔狼を倒した。

すると、全ての魔狼を倒した二人に、上空から黒い影が迫ってきた。

「「っつ!!!」」

二人は、慌ててその場から離れる。

―ドゴンッ―

何か重い物が落ちてきたかのような音に、顔を上げて見て見ると、そこにはあの人狼が口を大きく開けながら立っていた。





「グググ、貴様ガ、アノ、……息子カ……」

人狼は、九峪の方を見ながらそう言うが、九峪には何のことか分からないので、黙っている。そんな九峪の様子などお構いなしに、人狼は九峪と紅玉が倒した魔狼を見る。

「グググ、ヨク倒したナ、ダガ、ココマデダ」

「お前があの魔獣を放ったのか?」

「グググ、ソウダ」

「そうか……なら、お前を倒すまでだ」

「私が居ることもお忘れなく」

九峪が人狼に言い放ち、紅玉は優雅な笑みを浮かべて、覇璃扇を構える。

「グググ、イイダロウ、イクゾッ!」

人狼はその言葉と共に、二人に襲い掛かった。

「おぉぉぉぉっ!」 「はぁぁぁぁっ!」

九峪は炎の御剣を、紅玉は覇璃扇を、それぞれ人狼に向かって放つ。しかし、人狼は地面を蹴ると、一瞬にして右に曲がり、二人の攻撃を避けると、そのまま太い腕を振り回した。

「っと」 「ふっ」

二人は振るわれた人狼の腕を武器で防御しながら、自ら後ろに下がって衝撃を殺す。

「グォォォッ!」

人狼は下がった二人に容易く追いつくと、そのまま腕を振り落とす。

「はぁっ!」 「はいっ!」

九峪と紅玉は、振るわれた腕を避けると、二人は振り下ろされた腕に炎の御剣と覇璃扇を突き刺す。

「グッ!」

腕に走った痛みに、人狼は不快そうに顔を歪める。その間に、二人は続けざまに九峪は足を、紅玉は先程刺した腕に、更に攻撃を加える。

「ガッ! キサマラッ!」

傷つけられた事に怒っているのか、自分の攻撃が二人に当たらないのが気に入らないのか、人狼は怒りの形相で二人を睨みつける。

そんな人狼を見て、九峪と紅玉は顔を見合わせる。

「なあ紅玉、魔人ってこんなに弱かったか?」

「ナンダトッ!」

「いえ、私が戦った魔人はもっと強かったです」

「オイッ!!」

「だよな。俺もあの時の魔人に比べたら弱く感じる。さっきの魔獣達の方が強かったんじゃないか?」

「キサマラッ!」

「そうかもしれませんね」

「……キケヨッ(涙)」

二人は人狼の声を無視してそんな事を話し合う。事実、二人にとってこの人狼は、力が強く、速いだけだ。紅玉が戦った魔人や、九峪達が戦った魔人のように、腕が伸びたり、体に魔力を纏って攻撃が効かない訳じゃないので、弱く感じたのだ。さらに、この二人は復興軍の中でも最強に位置する二人である。下級魔人であれば、既に一人で倒せるほどの力量を持っているのだ。それなのに、二人がかりで相手をしているので人狼が魔人としては弱く感じたのだ。

人狼はそんな二人の様子に完全に頭に血が上っている。

「キサマラッ! コロスッ!!」

怒った人狼が叫びながら二人に襲い掛かる。

「グォォォォッ!!」

人狼が二人に向かって馬鹿正直に鋭い爪を振るう。しかし、頭に血が上り、いくら速いといっても、攻撃を読んだ二人に当たる事は無く、逆に……。

「はぁぁぁっ!」 「せいっ!!」

二人の攻撃により、人狼の両腕がザックリと斬られる。

「ガァァッ!」

苦痛に呻く人狼に構わず、九峪と紅玉の猛攻が始まった。

九峪が人狼の足を狙って斬りつけ、紅玉の覇璃扇が人狼の顔を目掛けて突き刺さり視界を奪う。

しかし、やはり下級でも魔人というべきか、二人の猛攻にも耐え続ける人狼。

「「はぁぁぁっ!!!」」

「グォォォッ―――!!」

しかし、最後の一撃とばかりに放たれた九峪と紅玉の攻撃により、人狼は魔人にしては呆気無く倒されてしまった。

「ふぅ〜紅玉、大丈夫か?」

「はい。九峪様こそ大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。多少の傷ぐらいだな。それより、本当にコイツは魔人だったのか? あんなに魔人が弱いなんて」

「ええ。ですがこうして無事に倒したのですから良しとしましょう」

「そうだな。じゃあコイツを焼き尽くすから紅玉は離れてくれ」

九峪はそう言うと炎の御剣から炎を出現させ、人狼に向かって炎の御剣を振り下ろす。

―ボフッ―

人狼の体が徐々に炎に包まれていく。暫く警戒して見ていた二人だが、何も起こらないので当麻の街に帰ろうとすると、人狼の体が炎に包まれながらも突如として起き上がってきた。

「ちっ、まだ生きてるのかっ!?」

九峪はそう言いながら人狼を睨みつける。しかし、次の瞬間人狼はカッと目を見開いて、凄まじい大声で雄たけびを上げた。

「ウォォォォォォォォンッ!!!!」

人狼は暫くの間叫び続けると、遂にドシンッと倒れ跡形も無く焼き尽くされた。

「……いったい何だったんだ?」

「さあ、ですがあまり良い予感はしません」

「俺もそう思う。とにかく街へ戻ろう」

「わかりました」

九峪と紅玉は、人狼の最後の咆哮に何か嫌な予感を感じつつ、当麻の街へ戻るため走り出した。






「ウォォォォォォォォンッ!!!!」

当麻の街で警戒をしていた復興軍の面々にも人狼の最後の咆哮は聞こえてきていた。

「なに? 今の?」

咆哮を聞いた者達は不安げな顔になる。しかし、森の方から出てきた人影に安堵の息をつく。

「ただいま。こっちは何とも無かったか?」

九峪は帰ってくるなり門の外で警戒していた者達に笑顔でそう尋ねる。

「はい。あれから魔獣の姿は見ておりません」

「そうか。よかった」

「あの、九峪様。先程の獣の咆哮は何だったのですか?」

「あれは、俺達が倒した魔人の咆哮だ」

「ま、魔人!? 九峪様、また魔人が現れたのですか?」

九峪の言葉に、全員が驚く。

「ああ。あの魔獣を此処に放ったのもその魔人の仕業だったんだ」

「では魔獣は?」

「大丈夫。俺達で全滅させたから」

九峪の言葉に全員安堵の息をつく。しかし、九峪は厳しい顔で森の方を見つめる。その様子に気づいた志野が九峪に尋ねる。

「九峪様、どうなされたのですか?」

「いや、あの最後の咆哮……あの咆哮の意味が気になってな」

「あの咆哮の意味……ですか?」

志野は九峪の言う事の意味が分からず首を傾げる。そんな志野に九峪は説明するように話し始める。

「普通、獣が咆哮をする時ってどんな時だ?」

「え〜と、仲間を集めたりする時……でしょうか?」

「そう。俺もそう思って魔人か魔獣がここに来ていないか心配したんだけど……今のところ何も無いしな」

「ではこれからどうしますか?」

「う〜ん。とにかく、暫くは警戒態勢をとって門は閉める事。あと、街の外から来た人達にも眠れる場所を確保するようにしとかないといけないな。よし、皆、街の中に入るぞ」

「わかしました」

九峪の言葉に従うように皆街の中に入っていく。九峪は最後にもう一度森の方を見ると、皆に続いて街の中へと入っていった。





九峪と紅玉が去った後、蛇渇は人狼が倒された場所まで来ていた。

「カカカ、やはりあの程度では測れぬか。まあよい。奴が言うようにまだまだ我の敵ですらないの」

遠くから魔狼と人狼を相手に戦う九峪を見ていた蛇渇は笑いながら呟く。

「さて、役立たずではあったが最後に面白い事をしてくれたでの。少しばかり我が手を加えてやるか」

蛇渇は、あの人狼が最後に咆哮した事によって、今、此処に集まっている魔狼を笑いながら見つめ、なにやらぶつぶつと呟く。すると、此処に集まっていた魔狼の姿が消え、次の瞬間には己の姿も消えていた。





あとがき

どうも蒼獅です。第十八話如何だったでしょうか?

今回は、九峪、紅玉と人狼、魔狼の戦いをお送りしました。最後の咆哮で集まった魔狼を使い蛇渇は何をするのか? まあそれが分かるのは後ほど、という事で……。

さて、次回はいよいよ狗根国から討伐軍が派遣されたとの情報を入手した復興軍、討伐軍を撃退するため、作戦を練り、準備をする様子をお送りしようと思います。

宜しければ感想掲示板に意見や感想、指摘などをお願いします。

では今回はこれにて失礼します。