火魅子伝 居場所 第19話(改訂版) (H:小説+マンガ+オリ M:九峪・復興軍幹部 J:シリアス) |
- 日時: 02/25 13:00
- 著者: 蒼獅
―人狼を倒した翌日―
とある一室から会話が聞こえてくる。
「…………で、間違いないのだな?」
「はい。おそらく三日後には此処へ向かって出るかと」
「そうか。ご苦労だった。私は九峪様にご報告しに行ってくる。おまえは引き続きその街で情報を集めてくれ」
「わかりました」
清瑞は乱破からの報告を聞くと、九峪の部屋へと向かっていった。
九峪の部屋へ辿り着いた清瑞は、すぐに乱破からの報告を九峪に知らせた。
「間違いないのか清瑞?」
「はい。約五千の狗根国兵がこちらに向かってくるとの情報です」
「そうか……。清瑞、すぐに会議を開く。皆に知らせてくれ」
「わかりました」
清瑞は返事をするとすぐに走り去って行った。
暫くして、旧留守の間には復興軍の幹部達が揃っていた。旧留守の間に集まっている人物は、前の会議の時と同じ顔ぶれだ。
皆が集まったのを確認すると九峪は話し始める。
「皆聞いていると思うが、狗根国軍が五千の兵をこの街に送り込んでくるという情報が入った。そこで、どうやって五千の狗根国兵を撃退するかの会議を今から開きたいと思う」
幹部達は九峪の言葉を聞いて厳しい表情になる。
「五千ですか……。それほどの数、篭城してもあまり長くは持ちませんね」
「ええ、それに外に出ても今の私達の兵力は三千程です。これからも多少は増えるでしょうが、五千には届かないでしょうし、武力の違いもある上、兵力さえ下回っている現状では外も難しいかと……」
「でも外に出るといってもこの街はどうするの? せっかく狗根国から取り返したのに……」
「ですが街を守りながら戦っても……」
九峪の言葉に、皆がそれぞれ話し合いを始める。
暫く話し合いが続けられ、どうやら街を捨てての不正規戦か篭城戦かの二つに大まかに分かれたようだ。
幹部達は黙っている九峪を見て尋ねる。
「九峪様、我々では不正規戦か篭城戦を行うしか思いつきません。九峪様には何か策がありますでしょうか?」
そう問いかけてきた伊雅に、九峪は頷きながら答える。
「ああ。だが、これは皆に負担が掛かるし、時間や物資の問題がある。だが、それでもこれならいけるだろう」
「ではっ!!」
「ああ。策はある」
九峪の言葉に全員から、おぉ〜という声が漏れる。この苦境にあって九峪の言葉と落ち着いている態度は、皆にとって救いだった。皆は、九峪に期待の視線を送る。そんな視線を受けながら、九峪は話し始める。
「じゃあこれから説明するから聞いてくれ。まず、俺達が勝つには奇襲をするしかない」
「ですが、奇襲をするにしても……」
「そう。ただの奇襲なら優秀な兵士が居なければならないが、それをしなくても十分に奇襲を行うことが出来る物を俺達は持っている。何かわかるか?」
九峪の問い掛けに皆は考える。その中で星華がポツリと呟いた。
「……飛空挺……ですか?」
「星華。もう一度皆に聞こえるように言ってくれ」
「あ、はい。飛空挺を使えば、九峪様が仰ったように、優秀な兵が居なくとも奇襲ができます」
星華は伺うような口調で話し九峪を見つめる。
「正解だ、星華」
「あ、ありがとう御座います」
笑顔になって答えた九峪の顔を見た星華は、顔を真っ赤にして俯く。その様子に、何人かの女性がむっとなる。
「……そう、飛空挺で進行中の討伐軍を上空から襲撃する。今まで羽江に作ってもらった飛空挺を使い、方術士達に襲撃させる。これなら細かい作戦なんかいらないし、ただ敵に攻撃するだけだからな。簡単だ」
九峪の言葉に、全員がおぉ〜とどよめく。
「しかし、九峪様。いくら飛空挺で襲撃といっても人数や物資の問題があります」
「ああ。飛空挺で襲撃するのは討伐軍が刈田の街から出て美禰の街を通り、此処まで来る間だけだ。ただし昼には行わない。朝方や、夜に襲撃する。そうすれば、敵に見つかっても、敵は俺達が攻撃した事はわかっても何に攻撃されたかは分からない。それを何回も繰り返せば、夜も警戒しなくてはならず、昼間は進軍しなくてはならない。これで、狗根国兵に気の休まる時間を与えなくする事が出来る」
九峪の言葉に、感心したように全員が頷く。
「そして、此処からが本番だ。まず、討伐軍がこの街に近づいて来たら、美禰の街を襲い、敵の兵力を分散させる。此処からは部隊が二つに分かれる。まずは先ほど言った、美禰の街を襲い、敵の兵力を分散させる襲撃部隊。次に、この街を守る為の篭城部隊だ。ここで討伐軍が兵力を分散させるか、そのまま当麻の街を攻めるかで俺達の対応が変わるんだが……亜衣、わかるか?」
九峪は亜衣を試すように尋ねる。亜衣は九峪の作戦の内容を考えながら、思いつく事を述べていく。
「え、えっと……まず、討伐軍が兵力を分散させた時は、襲撃部隊は当麻の街へ戻ります。次の、そのまま当麻の街を攻める場合は本当に美禰の街を襲い美禰の街を奪還する……ですか?」
「うん。正解だ」
九峪が笑顔で亜衣に答えると、亜衣はぽっと頬を赤らめ俯く。その様子に、何人かの女性が亜衣をギンッと睨みつける。まぁ、亜衣は上の空で効いていないようだが……。
「こほん。この襲撃部隊には移動手段として必要な物がある。わかるか?」
「船……ですか?」
「そう。船を使うんだ。幸い最近仲間になった重然と愛宕達も加わったことで、船は人数分しっかり確保できてるからな」
九峪はそう言うと清瑞に尋ねる。
「清瑞、確認するけど、五千という兵力は外から来たのではなく、各街に存在する狗根国兵を集めるんだよな?」
「はい。川辺城から千五百と長井の街から五百、都督府から二千五百、美禰の街から三百、刈田の街から二百との報告です」
「このように、各街から狗根国兵が行くとなれば、その街に残る兵の数も普段より減っている状態だ。そして、今回の五千の討伐軍を撃破する事が出来れば……」
九峪はあえてそこで言葉を切る。すると亜衣がボソリと呟く。
「火向に狗根国兵は居なくなる……」
その一言を聞き、全員の顔が明るくなる。
そう、討伐軍を撃退すれば、後は刈田の街と国都・川辺城のみになるのだ。
「じゃあこれから襲撃部隊と篭城部隊の説明をするから聞いてくれ」
九峪はそう言って話し始めた。
「まず襲撃部隊だけど、連れて行く兵力は千五百。襲撃部隊は、討伐軍が美禰の街を通り過ぎた後、暫く待ってから美禰の街を攻める。詳しい説明は向こうに着いてから……。ここで敵が俺達を見て討伐軍に増援を呼んで、増援が着たらすぐに船を使い当麻の街へ戻る。逆に、増援を呼んでも来なかったら、乱破を使い、増援が来るので外へ出て迎え撃てとの偽の情報を流す。そして出て来た敵を倒し、これでまずは美禰の街を奪還だ」
九峪はそこで一旦区切る。そして再び話し始める。
「後は部隊だけど……海人衆の渡りに星華がいるから、星華の部隊と、篭城戦に向いていない香蘭部隊。そして俺の部隊だ」
俺の部隊という言葉に反応したのは伊雅だ。
「な、なんですと〜! く、九峪様が行かれるなど……」
「じゃあ誰が行くんだ?」
「そ、それは……」
伊雅は九峪の言葉に反論できず口篭る。
「伊雅、この戦で肝心なのは襲撃部隊の行動だ。その指揮を執るには、この作戦をよく理解した者で無ければならない。わかってくれ」
「わ、わかりました」
「すまない」
「い、いえ。九峪様が謝ることなど御座いません。私こそ出すぎた真似を……」
「いいさ。俺を心配してくれたんだろ? まかせろ。この俺が指揮を執るんだ。必ず成功させて、復興軍を勝利に導いて見せるさ」
「く、九峪様……」
九峪の力強い言葉に、この場に居るほぼ全員が感激している。そんな皆に九峪は更に続ける。
「次に篭城部隊だけど、此処に討伐軍が来るまでは、討伐軍の進む先に罠を作って少しでも敵の数を減らす。討伐軍がこの街に来たら、後は耐えて貰うしかない。篭城部隊の指揮官は亜衣にやってもらうつもりでいるから、細かい事は任せた」
「あ、はい。わ、わかりました」
亜衣は頷きながらも九峪の作戦に驚いていた。いや、九峪の作戦の発想にと更にその対応のよさに驚いていた。
(私では思いつかなかった。九峪様は私達が話し合っている間に既に先の事を見越していたのか……)
亜衣は内心でそう思いながらも九峪の発想を自分も取り入れようと考えた。
皆は九峪の作戦を聞いて周りの皆と話している。
(流石は九峪様。我々には思いも付かぬ作戦を……)
(凄いわね。もし上手くいったら本当に日向は復興軍しか居なくなるわ)
(でも上手くいくとは限らないじゃない)
(でもこれ以上の作戦は無いと思うわ)
(九峪様って凄いんだね藤那)
(ああ。神の遣いが此処までの知略の持ち主とは……)
(九峪様は凄いわね香蘭)
(うん。私全然思いつかなっかたよ)
(威張って言うことじゃありません!)
(あぁ、九峪様。素晴らしい作戦ですわ。九峪様と御一緒出来るなんて……)
(はぁ〜星華様ったら……)
(うひゃ〜。九峪様って突拍子も無いこと考えるわね)
(そうですね。でもあんな事考え付くなんて凄いです)
(まあね。天目様でも思いついたかどうか……)
(天目様なら……私には天目様の考えも思いつきません)
(天目様といい。九峪様といい。見てて飽きないね)
様々な声が旧留守の間に響き渡る。皆の様子を見ながら九峪は再び話し始める。
「じゃあ、皆作戦は分かってもらえたかな? あと、皆に言っておくことがある。もしかしたら魔人や魔獣が襲ってくるかも知れない」
「ええ――!! ま、魔人や魔獣がですか!?」
「ああ。昨日倒した魔人の最後にした咆哮。あれがどうにも気にかかるんだ。だから皆気をつけておいてくれ。もし出たら飛空挺を使うか、乱破を使うかして、皆に連絡してくれ」
「はっ!! わかりました」
「よし、討伐軍は三日後に川辺城を出るようだから。じゃあ各自準備を進めてくれ」
「はっ!!」
九峪の言葉と共に、皆が慌しく動き始めた。
―翌日―
九峪はなにやら復興軍の皆が騒いでいると思い、城下に下りてみると、そこには大量の物資や武具を持って帰還した只深達がいた。
「只深、伊部。帰ってきたのか」
「あ、九峪様。お久しぶりで御座いますなぁ〜。あの砦に向かったら当麻の街を狗根国から奪い返したそうやないですか。それなのに、なんや慌しいようですが何かあったんですか?」
辺りを見回しながら尋ねる只深。
「ああ。この街に狗根国軍五千が討伐軍として向かってきているんだ。それで、今その迎撃の準備に忙しいんだよ」
「そうでっか。なら、うち等はちょうどいい時に帰ってきたんですかね」
「ああ。只深が持ってきてくれた物資で作戦の成功率は間違いなく上がった。あ、これから皆に紹介するよ。あと、只深が居ない間に起こった事もその時に話すから。じゃあ行こうか」
「あ、はい。わかりました。伊部、うちはちょっと行ってくるで、任せたで」
「おう。わかったわ」
只深は伊部にそう言うと、九峪と共に旧留守の間に向かって歩き始めた。
―旧留守の間―
復興軍の幹部達は、旧留守の間に集まり、九峪からの説明を受けていた。
「…………というわけで、彼女が火魅子候補である只深だ。今まで居なかったのは物資を調達しに行ってもらっていたんだ」
「皆さん。よろしゅうお願い致します」
「こちらこそ宜しくお願い致します只深様」
只深が皆に礼をすると、皆も礼を返す。そして、只深に、今まで起こった事や、これからの作戦について説明し、只深は襲撃部隊に加わることになった。
―只深が帰ってきてから二日後、九峪の精神世界―
九峪はあの人狼の咆哮の意味が気になり、幾多の魔人や魔獣と戦った経験を持つ紅希に尋ねてみた。
「なぁ紅希。あの魔人の咆哮って何か意味があったのかな?」
「さぁ、俺にもよく分からん。けど、お前が言ったように魔人や魔獣が襲ってくる可能性もある。用心するに超したことはない」
「そうだな。よしっ、じゃあ今日もやるか」
九峪はそう言いながら紅希に向かって炎の御剣を構える。
「ああ。それと、お前には今回の討伐軍を打ち破ったら大事な話があるから」
「大事な話? 何だよ、だったら今言えば良いじゃないか」
紅希は九峪の言葉に首を振る。
「今は余計な事は気にしてほしくないからな。ちゃんと話すから必ず生き残れよ」
「ああ。わかってるさ。じゃあ今日も頼むぞ」
「わかった。始めるぞ!」
「おう!」
そうして、九峪と紅希は修行を始めた。
―只深が帰ってきてから三日目の夜―
先程、遂に乱破から討伐軍が国都・川辺城を出たとの報告が来た。幹部達と夜に襲撃を行う飛空挺部隊の皆が旧留守の間に集まっていた。
全員が集まったのを見ると、九峪が話し始める。
「遂に討伐軍が川辺城を発った。これから夜の襲撃について話すから星華達、飛空挺部隊の皆はよく聞いてくれ」
星華と飛空挺部隊の面々は無言で頷く。
「まず刈田の街に着くまでは敵がどのように陣を敷いて夜を過ごすかを確認する。次に、美禰の街まで到着する間に、火砕岩だけで攻撃。美禰の街から此処へ来るまでに、方術や、火砕岩を使う。あと、篭城戦の最中に敵が陣地へ一旦下がったりした時にも襲撃する。以上だ何かあるか?」
星華と飛空挺部隊の面々は首を横に振る。
「じゃあ皆、任せたぞ」
「はい。九峪様の御期待に必ずや答えて見せます」
「頼んだ」
「はい。では行きますよ」
星華は、そう言って飛空挺部隊を伴い旧留守の間から出て行った。
星華率いる飛空挺部隊は当麻の街から離れた高く、見晴らしのいい場所に佇み、自分の飛空挺に何事か呟く。
すると、飛空挺が上昇し始めた。星華は右手で川辺城の方向を指差す。そして、その方向へ飛空挺を向けると凄まじい速度で飛んでいった。
暫く進むと、星華が右手を下に向ける。そこには川辺城を発った狗根国軍の天幕が大量に張られていた。
「凄い数ね……勝てるのかしら……」
そのあまりの天幕の多さに、星華は一人呟く。しかし既に作戦は始まっているのだ。今は自分の仕事を確実にこなさなくてはならない。
星華は、天幕の並びや、明かりの範囲、見張りの兵士の数などを上空から暫くの間見ると、帰還の合図を出す。
そして、飛空挺部隊は討伐軍にその存在を知られること無く無事に当麻の街に帰還した。
あとがき
どうも蒼獅です。第十九話如何だったでしょうか?
原作(小説)とは違い、ここでは討伐軍五千を相手に戦います。まぁ只深が帰ってきて物資も供給され、兵力も多いとはいえ、苦戦は必死です。
次回は、襲撃部隊の様子をメインにお送りします。
宜しければ感想掲示板に意見や感想、指摘などをお願いします。
では今回はこれにて失礼します。
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