火魅子伝 居場所 第20話(改訂版) (H:小説+マンガ+オリ M:九峪・星華・清瑞・常慶・虎桃 J:シリアス) |
- 日時: 03/04 14:33
- 著者: 蒼獅
―討伐軍が川辺城を発って二日後―
太陽が上り始めるより早く、星華達飛空挺部隊は、遥か上空から刈田の街を発った討伐軍を見つめていた。
星華は飛空挺に備え付けてある箱から火砕岩を取り出し、飛空挺部隊に合図を出しながら火砕岩を落とし始めた。
―ドォォォォン―
「うわぁぁぁ―――!!」 「ぎゃぁぁぁ―――!!」
「な、何事だ――!?」 「て、敵かっ!?」
辺りを爆発音が響く中、狗根国兵達は慌てる。
「ええい! 落ち着かんかっ!!」
討伐軍を率いる常慶は部下達に怒鳴り声を上げるが、自身も内心では焦っていた。
(くそっ! いったい何処から……)
辺りを見渡すが、何処にも不振な人物はいない。そして暫くすると爆発音は途絶えた。
「おいっ、被害があったところを報告しろ」
「はっ」
常慶は近くに居た兵士にそう言ってこの攻撃を行った者は何者かを考えていた。するとそこへ間延びした声が聞こえてきた。今回の討伐軍の軍艦として来た虎桃の声だ。
「常慶ちゃん。さっきの爆発何だったの〜?」
「(くっ、この小娘は……)い、今部下に調べさせているところです」
「ふ〜ん、そっか〜。じゃあ邪魔しちゃ悪いし〜あたしはあっちに居るから〜」
そう言って虎桃はヒラヒラと手を振りながら帰っていた。
「くそっ! 一々そんな事を言いに来たのかあの小娘っ!」
常慶は虎桃のヘラヘラした態度に癇癪声を上げる。
「常慶様、被害ですが、兵士の五十人程が重傷、三百名程が軽傷をしたくらいです」
「そうか。ならばこのまま進軍する。重傷者は刈田の街に戻しておけ」
「はっ」
常慶は部下にそう言うと自身も進軍するために準備を始めた。
―その日の夜―
美禰の街へと急ぐ討伐軍にまたもや星華達の攻撃が襲い掛かる。
―ドォォォォン―
「くっ、またか……全員散らばれっ!! 集まるな―――!!」
常慶は歯軋りしながらも、大声を上げる。
辺りには朝方よりも激しい爆発音が響き渡り、兵士達の悲鳴も聞こえてくる。
「くそっ!! 敵は何処に居るのだっ!!」
常慶は怒鳴るが、それで敵が出てくるわけが無く、また暫くすると爆発音は無くなった。
「ちっ、被害の確認を急げ!!」
「はっ」
怒鳴り声を上げる常慶に兵士は短く返事をすると、すぐさま走り出した。
「常慶ちゃん〜。朝に続いてだけど、これからどうするの〜?」
「(またこの小娘か……)はっ、これからは夜も進軍し、当麻の街へ急ごうと思っております」
「え〜夜も動くの〜? それじゃあ兵達が疲れるじゃな〜い。私も疲れるし〜。それに、疲れた兵士達で反乱軍の奴らに勝てるの〜?」
「いえ、私が申すのは美禰の街まで夜も進軍するという意味で御座います。暫くのご辛抱をお願い致します虎桃様」
「ふ〜しょうがないな〜。美禰の街までだよ〜?」
「はっ」
虎桃はそう言って常慶も元から去っていく。常慶はすでに虎桃の事を忘れ、今回の襲撃はおそらく復興軍の奴らの仕業だと考えていた。
(ならば速く当麻の街に向かった方がよい)
常慶がそう考えていると、兵士がやって来た。
「常慶様、今回の被害は……ニ百人が重傷、七百人が軽傷を負いました」
「そうか……全軍に連絡。これから美禰の街まで休み無しで進軍する。重傷者は後から付いて来いと伝えろ」
「はっ」
常慶は部下にそう言うと直ぐに美禰の街への進軍を開始した。
―当麻の街―
星華は討伐軍を襲撃して戻ってくると、九峪の元へ来て報告していた。
「じゃあ敵は夜もずっと進軍しているのか?」
「はい」
「そうか……わかった。引き続き襲撃を続けてくれ」
「わかりました」
星華は次の襲撃を行うために飛空挺部隊が居る場所へ向かって行った。
―数日後、美禰の街―
常慶は、美禰の街までに失った兵士が、七百人もいることに苛立っていた。
「ちっ、復興軍の奴らめ……」
常慶はそんな事を口走りながら兵士達に進軍の準備を進めさせていた。
「常慶様。準備が整いました」
「わかった。直ぐに進軍を開始する」
「はっ」
兵士からの報告を聞いた常慶は兵士にそう言い。まだ朝方にも関らず、美禰の街を出発した。
討伐軍が当麻の街へ向かって進軍していると、先頭から悲鳴が聞こえてきた。
「ぎゃぁぁぁぁっ」
「うわっ、なんだ? ぐおっ!」
先頭で歩いていた兵達は、行き成り飛んできた竹の槍に貫かれたり、落とし穴に嵌り、そこに設置されていた杭に足を貫かれたりして、絶叫を上げていた。
その様子を見た兵士達が慌てていると、常慶が大声を上げた。
「馬鹿者!! むやみに歩くな! 注意深く進めば罠などに引っかからん!!」
その大声のおかげか、兵士達は仕掛けられた罠をなんとか掻い潜り、進軍して行った。
太陽は沈み、辺りが暗くなったのを見ると、常慶は罠を掻い潜って疲弊している兵士達を見る。
(ちっ、この様子ではまた罠に掛かるか……)
そう考えた常慶は、あの襲撃がくることを予想して、固まって天幕を張るのではなく、ある程度散らばって天幕を張らせた。
そして、何時ものように夜の襲撃に備えていると、案の定、辺りから爆発音が聞こえてきた。
―ドォォォォン―
散らばっている天幕から火の手があがる。それに対し、狗根国兵は散らばって逃げる。予想通り、暫くすると爆発音が止んだ。周りに居る兵士達は、直ぐに燃えた天幕を壊して火を消したり、負傷者の手当てなどを始めている。
そして、常慶の元に兵士からの報告が届いた。
「常慶様。今回は負傷者が三百名ほどで、重傷者は居ません。天幕の外に兵達を置いておいたのがよかったようです」
「ふん。こう何回も襲撃されたら対処法ぐらい思いつく。おそらく今日はもう襲撃は無いだろう。燃えた天幕を片付けたら休息をとるように伝えろ」
「はっ」
常慶は兵士にそう言うと、自身も休息するために、天幕へと戻っていった。
―翌朝―
討伐軍の面々は昨夜の復興軍の奇襲の後、休息をとったので皆眠たそうな顔をしている。
眠気を抑えながら進軍する討伐軍に、常慶は大声を上げる。
「いいか! これまでの敵襲は反乱軍の者どもの仕業だ! 我ら狗根国軍に、このような屈辱を与えた反乱軍を絶対に許すわけにはいかん! 我らが受けたこの屈辱を、反乱軍の者どもに与えるには、一刻も早く当麻の街へ行かねばならん!! これからも夜を通して進軍する。いいな!!」
「おぉぉぉぉ――――!!!」
常慶の言葉が効いたのか、兵士達は一気に眠気を吹き飛ばし、進軍する速度を速めた。
―当麻の街―
先程、星華にとっては最後の夜の襲撃を終えて美禰の街へ戻ってくると、星華は直ぐに襲撃部隊の船が置いてある海岸へと向かい指揮を執っていた。
星華の指揮の元、復興軍の兵士達が、恐る恐るといった様子で船に乗り込んでいく。
すると、遠くから九峪と清瑞が此方へ向かって来たので、星華は九峪の方へ駆け寄り、現状を報告した。
「九峪様。襲撃部隊の兵達の殆どは船に乗り終わりました」
「わかった。じゃあ俺達も乗ろうか星華?」
「はい。こちらです」
九峪達は、海岸に並んでいる船で、一番大きな船に向かいながら歩き始めた。
ちなみに、今、星華が着ている服は、あまり目立たないようにとの配慮から、体にピッタリくっ付く黒色の服を着ている。そのため、星華の見事な肢体がくっきりと見える。
(駄目だ、前を見るんだ!!)
九峪は内心で自分を戒め、星華が歩くたびに揺れる小振りな二つのスイカを意識しないように、必死に顔を上げて船まで歩いていった。
そして、船に到着して、看板に登ると、重然が巨体を窮屈そうに折り曲げながら深々と九峪達に礼をした。
「ようこそ、御出で下さいました九峪様。星華様。清瑞殿」
「ああ。こちらこそ世話になる」
九峪が重然にそう答えると、重然は顔を上げて目を見開く。神の遣いが「世話になる」などと言うとは思わなかったようだ。
九峪はそういう反応をこちらの世界に来て何回か見ているので、何も言わずにいる。
「……はっ、あ、そ、それでは出発しますので、お〜い野朗ども――準備はいいか―――!!」
「おおっ―――!!」
重然の大声に、海人達が皆元気よく答える。
こうして襲撃部隊を乗せた船は順調に陸地を離れ、美禰の街を目指して出発した。
暫くの間、穏やかな夜の海を眺めていると、辺りをきょろきょろと物珍しそうに見て回っている清瑞を発見した。
「どうしたんだ清瑞? 船が珍しいのか?」
「あ、九峪様。はい。あまり乗ったことがありませんので……」
「ふ〜ん。でもあんまり乗ったこと無いんなら大人しくしていた方が良いぞ。船酔いになったら大変だし……」
「は、はい……ぅ……」
「おい、清瑞。大丈夫か?」
九峪が船酔いの話している最中に、清瑞が口元を押さえるものだから、九峪は心配そうに声をかける。清瑞は、そんな九峪に心配をかけまいと微笑を浮かべたつもりだが、九峪から見れば、それは引き攣った笑みにしか見えず、たまらず清瑞を座らせた。
「く、九峪様?」
「いいから、じっとしてろ。まったく、今水を持って来てやるから大人しくしていろよ」
「は、はい……。すみません」
九峪は清瑞にそう言うと、船員から水と布を貰い、清水の元へ戻ってくる。そして、水に浸けた布を清瑞の額に乗せる。
「……んっ……」
清瑞は、冷たい布の心地良さに幾分か気分がよくなった気がした。
そうして、暫く九峪が清瑞の看病をしていると、それを遠くから面白くなさそうに見ている人物が居た。そう星華だ。
(むぅ〜。乱破のくせして船に酔うなんて……。それに、九峪様に看病してもらうなんて、なんて羨ましい)
こっちは海人衆達と話し合いをしているのに……などと思いながら、星華は最早会議はそっちのけで九峪と清瑞の方を見ている。
(そうだわ。私も船に酔えば……九峪様に看病を……)
そう思いながら星華は……。
(何だ星華も船に酔ったのか?)
(はい。久しぶりに乗ったので……申し訳ありません、九峪様)
(気にするな。星華の看病が出来るんだ。役得だよ)
(そんな、九峪様……嬉しい)
(星華……)
(九峪様……)
と、そこまで考え、突然いやんいやんと首をふる。その様子に、周りに居た海人衆達が星華から距離をとっていたりしたが、星華は気にも留めていない。
思い立ったが即実行。星華は九峪の元へと近づいていく。
星華の足取りはフラフラと頼りない足取りだ。そして九峪の側まで来ると九峪の背中に胸を押し付けて九峪に話し掛ける。
「九峪様……」
星華の胸が、自分の背中に当たるのを九峪は分かっていたが、星華の弱々しい声に星華の方へ顔を向ける。
「ど、どうしたんだ星華?」
「あの、わ、私も……」
そういいながら少しずつ体を左右に動かす。
「(む、胸が、……って駄目だ!!)な、何だ、星華も酔ったのか?」
「(これは……行ける!?)はい。久しぶりに船に乗ったので……」
何が行けるのかは分からないが、星華はそう言いながら、更に九峪にもたれる様に体を寄せ、九峪の背中に自慢の武器で更に苛烈な攻撃を仕掛ける。そして、清瑞に意味ありげな視線を一瞬送る。
(ふんっ、あなただけに美味しい思いはさせないわ!!)
(くっ、本当に辛いのに……)
清瑞は、どうやら星華の視線の意味がわかったようで、九峪の服の裾を掴み、僅かな抵抗を見せながらも、顔をしかめながら星華を見つめる。
一方九峪はというと、表には出さないが、星華の自慢の武器である、小振りな二つのスイカの誘惑と必死で戦っていた。
(くっ、落ち着け俺!! 此処では神の御遣いなんだ。醜態を晒すわけには……)
焦りを顔に出さず、内心で自分は神の御遣いと言い聞かせ、何とか自己を保っている。
しかし、星華の攻撃は止まる気配を見せない。そんな星華の攻撃は、一月以上我慢している九峪の理性に、ヒビを入れるのには十分だった。
(ああ、柔らかいな〜〜)
―先輩、“理性の獣”が“真紅の獣”に押されています!!―
童顔オペレータが、慌てて背後に居る金髪マッドに報告する。
―慌てないで、防御システムは?―
金髪マッドは冷静な口調で童顔オペレータに尋ねる。
(何を考えてんだ俺!! 誘惑に負けるな!!)
―あ! 展開を確認。少しずつですが押し返しています―
(このままでは……。だが、こんなところで俺は……俺は屈する訳には行かないんだ!!)
―報告! “理性の獣”が“真紅の獣”を押し返すのに成功しました!―
九峪の脳内にある某特務機関の発令所らしき所で、そんなやり取りが行われている頃。
現実では、九峪が己の身体能力を全力で使って、霞む様な速さで星華の体を引き剥がし、床に寝かせると、清瑞同様冷たい布を星華の額にピシャリと貼り付けていた。
「きゃ」
突然の出来事に、星華はなす術も無く横に寝かされ、額に当たる冷たい感触に可愛らしい悲鳴を上げる。
「…………は! あ〜二人とも、酔ってんなら大人しくしててくれ」
「「も、申し訳御座いません」」
何時の間にか星華を寝かしつけていたのに気づいた九峪は、星華と清瑞に注意する。
そんな九峪に、星華はばつが悪そうな顔をしながら謝り、清瑞は何で私までと思いながらも、九峪に迷惑を掛けているのは事実なので謝る。そんな二人を見ながら、九峪は両方の額に乗せている布を再び水に浸けて二人の額に乗せる。
「……んっ……」 「……はぁ……」
二人共、ひんやりとした布の感触に声を漏らす。
その後、二人は大人しく看病された。海人衆は、そんな二人を看病しながら、九峪の誘惑に耐え切ったという清々しい笑顔を生暖かく見守り、少しでも速く美禰の街へ急ごうと船の速度を速めた。
ちなみに、本当は酔っていないのに嬉しそうに看病されている星華を、衣緒は少しばかりの羨望と、海人衆に対する星華の態度に対して、深い溜息を吐きながら見つめていた事を追記する。
あとがき
どうも蒼獅です。第二十話如何だったでしょうか?
今回は、討伐軍に襲撃をかける飛空挺部隊の様子と、襲撃部隊の船の様子をお送りしました。まぁ、最後の方は九峪君が男として、日々我慢をしていることを知ってくだされば良いかと……。まぁ男ならあんな美女達に誘惑されたら……ねぇ?(苦笑)
さて、次回は襲撃部隊の様子をお送りします。
宜しければ感想掲示板に意見や感想、指摘などをお願いします。
では今回はこれにて失礼します。
追伸、青色さん。感想ありがとう御座いました。
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