火魅子伝 居場所 第22話(改訂版) (H:小説+マンガ+オリ M:九峪・復興軍幹部・常慶・虎桃 J:シリアス) |
- 日時: 03/17 22:53
- 著者: 蒼獅
―美禰の街―
美禰の街の狗根国兵達は、留守の護衛に二十人と九洲兵を残して、撤退している復興軍の方へと向かっている。
「いいか! 敵は撤退中でまともに反撃など出来ん。敵を見つけたら問答無用で斬ってしまえ!!」
「おぉ―――!!!」
「よしっ! 出撃!!」
狗根国兵達は隊長の言葉に従い足を速めた。
―囮部隊―
「来たわね。皆さん。伏兵部隊が居る地点まで誘います。準備はいいですね?」
「はっ!」
星華の声に兵士達は勢いよく答える。その様子に、星華は満足そうに微笑むと、キッと表情を引き締め合図を出す。
「では行きましょう!」
その言葉と共に、美禰の街の兵士達に姿が見えるように星華達は動き出した。
星華達は、ワザと敵に見つかる様に歩き、着かず離れずを保ちながら、狗根国兵達を誘き寄せている。
そんな星華達を見つけた美禰の街の狗根国兵達は、誘い出されているとも思いもせず、早足で辺りに警戒することなく進んでいく。
「よしっ、敵は背を向けている。このまま追いついて全滅させるぞ!!」
「おぉ―――!!」
威勢の良い声と共に、狗根国兵達はどんどん星華達に近づいていく。そして後もう少しというところで、いきなり前方から矢が飛んで来た。
「な、何っ!?」
「ぎゃっ!!」
「な、て、敵だ―――!!」
「怯むな―――!! このまま突撃だ―――!!」
飛んで来た矢に兵士達が次々と倒れていく。しかし、狗根国兵は慌てながらも、着実に星華達との距離を詰める。
そして、狗根国兵達が後もう少しという所まで迫った時……。
「はいっ!!」 「はっ!」
入れ替わる様に、あの二人が向かって来た。
しかも、左右からも敵が攻めてきて、狗根国兵達は次々と倒れていく。
「う、うわぁ―――! あ、あの女達だ―――!!」
「こここ、こっちにも敵が居るぞ―――!!」
「ひぃぃぃ、に、逃げろ―――!!」
「こ、こら! お前達、戦わんか!!」
香蘭と紅玉の姿を見た狗根国兵達は、みんな怯えだし、次々と逃げていく。隊長はそんな狗根国兵達を怒鳴りつけるが、自身の声も態度とは裏腹に裏返っていた。
香蘭、紅玉達の反対側に逃げた狗根国兵達を待ち受けていたのは、只深の部隊だ。
「ほな行こか伊部?」
「そうやのぅ。いっちょやるか」
「おっしゃ、うち等の初陣や! 気張っていくで―――!!!」
「おぉ―――!!!」
只深の声と共に、兵士達は逃げてくる美禰の街の狗根国兵達に向かっていく。
「おりゃ〜!!」
「よそ見しとったらあかんで〜!!」
只深と伊部は、香蘭、紅玉のように、狗根国兵達を次々と倒していく。その様子に、只深の部隊の兵士達も、士気を高めて、次々と美禰の街の狗根国兵達を倒し、そして遂に……。
「よっしゃ――!! うち等の勝ちや―――!!」
「うおぉぉぉぉ―――!!!」
只深が右手を上げながら叫ぶと、復興軍の兵士達も右手を上げながら叫ぶ。
「あらあら、今回は只深様に良いところを取られてしまいましたね」
「只深、嬉しそうにしてるね」
紅玉と香蘭は兵士達に囲まれている只深を見ながら微笑を浮かべている。
「そんな、私だって頑張ったのに……」
「まあまあ星華様。只深様はこれが初陣だったわけですから。星華様だって初陣は華やかしい勝利で治めたではありませんか」
「そうよね。今回ぐらい只深さんに譲ってあげても良いわよね」
「そうです、そうです星華様(はぁ〜やっと機嫌を直してもらえましたか……)」
こちらは、囮部隊の総隊長を頑張ったのにと愚痴る星華を何とか宥めている衣緒がいた。
「どうやら上手くいったようだな」
九峪は呟きながら此方へ向かってくる皆を見つめた。
九峪が見つめる中、皆は嬉しそうな顔をしながら、九峪達がいる天幕へと戻ってきた。
「ただいま戻りました九峪様」
「ああ。皆ご苦労さん。只深、初陣勝利おめでとう」
「あ、これは、これは、おおきに九峪様」
九峪の賛辞に只深はぺこぺこと頭を下げる。
「さて、そろそろ街に行こうか」
「はい!」
そう言うと一同は美禰の街へと向かった。
―時間は遡り、当麻の街―
真姉子からの報告を聞いた篭城部隊の面々は、討伐軍が全軍此方にやってくると聞き、緊張した面持ちで旧留守の間に集まり、最終確認を行っていた。
「では、まずは敵の総兵力ですが、これまでの奇襲により、約八百が死亡又は重傷らしく、現在では約四千の兵力です」
「むぅ〜四千か。もう少し減らしたかったが……」
「仕方ありません。物資の問題もあることですし、篭城している間も使わなくてはならないのですから。それに、只深様が持って来て下さった物資のおかげで、質はともかく、量は当初の予定より大幅に増えました。後は我々の力を狗根国軍に見せつけ、退ければいいのです」
「うむ。そうであった。元よりわしは戦うのみ」
亜衣の言葉に伊雅は頷く。
「後は、我々が今まで用意してきた罠で敵の数を減らすようにしましょう」
「わかった。そろそろ敵も仕掛けてくる頃だ。持ち場に戻ろう」
「はっ!」
伊雅の声に皆が鋭い返事を返し、それぞれの持ち場へと向かっていった。
―当麻の街を取り囲む討伐軍―
常慶は当麻の街を見ながら、ポツリと呟く。
「ふむ、敵の姿が見えんな」
「やはり、美禰の街に復興軍の兵力集中させたのでしょう」
「そのようだな。よしっ、まずは小手調べだ。攻撃開始!!」
常慶の言葉に、展開した兵士達が動き出した。
「来たか……」
亜衣は呟きながら兵士達に合図を出す。その合図に従って、兵達は着々と準備を進める。
そして、狗根国兵が城壁を登ろうとしてきたので、亜衣は大声で叫ぶ。
「今だ!! 攻撃開始――――!!!」
その声と共に、城壁を登ろうとした狗根国兵に大量の矢が飛んで行く。
「ぎゃぁぁぁっ」
「て、敵だ――――!!」
「うわぁぁぁっ」
「くそっ、引けぇ―――!! 引けぇ―――!!!」
敵の叫び声が一斉に各所で響き渡り、狗根国兵はたまらず退却する。この小手調べで死亡した兵士は実に三百にものぼった。
常慶は返り討ちに合った狗根国兵を見ながら、舌打ちを打ち大声を上げた。
「くっ、何という事だ!! くそっ、こうなったら本気で行く!! 全軍、突撃――――!!!」
短慮としか言いようがないが、それを咎める事の出来る人物は此処には居ない。そして、常慶率いる狗根国兵四千が一気に城内へ侵入しようと襲い掛かってきた。
―篭城部隊―
「ふんっ、敵は随分と焦っているようだな」
「そうだね。あんなに大勢で来たって意味無いのに」
藤那と閑谷は敵の動きを見ながらそんなことを言っている。
「まぁ、私達にとっては好都合だ。よしっ閑谷、兵達に油と火矢を準備させろ」
「わかった」
藤那の言葉に、閑谷は頷くと、兵達の居る方へ走って行った。
「珠洲、準備はいい?」
志野は傍らに控える珠洲に尋ねる。珠洲は自分の武器である人形を弄びながら答える。
「うん、大丈夫」
「そう……これが私にとっては初陣なのよね」
「志野、緊張してるの?」
「少し……ね。でもやると決めたからにはちゃんとやり遂げるわ」
「私も皆も居るわ。志野一人がそんなに気負う必要無いよ」
志野を励まそうとしているのか、珠洲は真剣な表情で志野を見つめながら言う。そんな二人に織部が近づいてく。
「そうだぜ座長。俺達がついてるんだ。狗根国兵なんざ楽勝よ。そうだろ、おめぇら!!」
織部はそう言いながら背後に控えている志野の配下になった兵士達に呼びかける。
「おぅっ!! あったり前でさぁ、志野様、我々も居りますぜ!!」
その呼びかけに、兵士達は威勢の良い声で返してきた。
「ありがとう皆さん。この戦い、絶対勝ちましょう!!」
「おぉ――――!!!」
皆に励まされた志野は、元気な声で兵士達に呼びかけ、兵士達は大きな声で答えた。
「さて、上乃、仁清。準備はいいか?」
伊万里は傍らに居る上乃と仁清に尋ねる。
「ばっちりよ」 「大丈夫」
「そうか……じゃ、気合入れて行きますか!」
伊万里は、そんな二人に笑顔を浮かべながら答える。
「そうだね。皆、この戦いに勝てば私達は火向を解放できるんだよ!! 気合入れていこう―――!!!」
「おぉ―――――!!!!」
上乃の声に、伊万里の部隊の兵士達は勢いよく答えた。
城壁の様子を、城の中から見下ろしていた亜衣は、飛空挺部隊に声を掛ける。
「さて、お前達は“あれ”の準備がまだ終わってないだろ? それと、敵の本拠地も掴んで置けよ。“あれ”をそこに放てば、我々の勝利は確実なものになるのだからな。時間が掛かるのは分かっているが、なるべく早く頼む。」
「わかりました、亜衣様」
飛空挺部隊の者は、亜衣の言葉に頷いて、移動して行った。それを見送った亜衣は、伊雅に話し掛ける。
「伊雅様。我々も準備をしましょう」
「うむ。奴等相当焦っておるようだな」
伊雅は、城壁を勢いよく駆け上がってこようとしている、狗根国兵の姿を見ながら呟く。
「はい。おそらく九峪様の部隊による、美禰の街への様子と、殆ど居ないと思われたこの城からの予想外の反撃を受けたのが原因でしょう」
「そうか。狗根国兵が此方へ全軍で来たと聞いた時には、思わず腰を浮かしたが、これならば我らにも勝機はある」
「ええ。しかし、あの数はやはり厄介です。今でこそ進入を防いでいますが、一つでも破られれば、瞬く間に城内に敵が溢れ返ってしまいます」
亜衣は、伊雅の言葉に賛成しながらも、敵を侮ったりはしない。復興軍に敵を侮る等という事は、してはいけないのだ。
「うむ。それをさせぬ為にも我々も死力を尽くさねばならんか。では亜衣。わしも行ってくる」
「わかりました。私はここから指揮を執ります」
伊雅は亜衣の言葉に自分を戒めると、自分の持ち場に向かっていった。
―討伐軍―
常慶は、復興軍に良いようにやられている兵士達に段々と苛立ちを増していく。
「ええいっ!! 何をやっておるのだ!! こんな攻撃などそう長くは続かん!! こちらも矢を放ちつつ城壁を乗り越えろ!!」
常慶の大声が届き、兵士達は弓矢を構えて放つ。しかし復興軍から雨の様な矢が放たれるので、なかなか上手く弓矢を放てず、城壁に辿り着く事が出来ずにいた。
そして、その光景を見ながら常慶はさらに怒鳴り、その所為で意味も無く兵士達が次々と死んでいく。
戦場から離れた場所で、討伐軍と復興軍の戦いを見ながら、虎桃達が話している。
「あ〜あ、あんなにむきになっちゃって、馬鹿だね〜」
怒鳴り散らす常慶を見ながら虎桃が呟く。
「そうですね、しかし、復興軍のあの攻撃は何時まで続くのでしょうか? 流石に長すぎると思うのですが?」
「そうね〜。あれは何か他の策があって、それまでの時間稼ぎにでもしてるんじゃない? だから、今の内にありったけ使ってるんじゃないかと思うよ〜」
「時間稼ぎですか? だとしたら、復興軍は余程の準備をしてきたのですね」
虎桃の配下として同行していた女の内の一人が、感心しながら復興軍を見ている。
「そうだね〜。(こりゃあ敵に回ったら厄介だな〜)」
虎桃は復興軍を見ながら、部下の二人に見えないように密かに溜息を吐いた。
―篭城部隊―
「閑谷―――! 準備は出来たか―――!!」
「出来たよ―――!!」
藤那の声に、閑谷は手を振りながら答える。
「よしっ、油を準備しろ!! 私の合図で狗根国兵どもに一斉に掛けるぞ!!」
「はっ!!」
藤那はそう言って兵士達に大声で呼びかける。そして、狗根国兵が此方へ来るように、矢を放つのを止めさせる。
「おいっ! こっちは矢が飛んでこないぞ―――!!」
「そこから城壁を登れ―――!!」
狗根国兵が、大声を上げながら藤那達が居る方へ向かってくる。そして、城壁に梯子を掛け、上ろうとする。そこへ、藤那の大声が響き渡った。
「今だ―――!!」
「うわぁぁぁぁぁ!! な、何だ!? す、滑る!?」
「こら! 何をやっておる!! 落ちてくるな!!」
上から一斉に掛けられた油が梯子に掛かり、梯子を登っていた兵士達が次々と油で手が滑り、下へ落ちていく。そして、上から更に油が大量に落ちてきて、狗根国兵達は油まみれになった。
「次、火矢放て―――!!!」
そんな狗根国兵に構わず、藤那は次の指示を出す。その指示に従って、油まみれになった狗根国兵達に火矢が向かっていき、狗根国兵達の体に引火し、兵士達の体が燃え上がっていく。
「うぎゃぁぁぁぁ―――!!」
「うわ―――!! 誰か―――!!」
「火、火を消してくれ―――!!!」
狗根国兵達は、体中から炎を立ち上らせながら、近くに居る兵士達に助けを求める。
「うわっ! ち、近づくな!! こっちまで燃えちまうじゃねぇか!!」
「た、助けてくれ―――!!」
「ああああ、あつ、あつ……い……」
火達磨になった兵士達は、周りの兵士に助けを求めるが、周りの兵士達は巻き添えを喰いたくないので、逃げていく。そして、燃える体を引きずりながら、兵士達は次々と死んでいった。
―討伐軍―
復興軍の予想外の攻撃に、兵士達が次々と死んでいくのを見て、幕僚の一人が怒鳴り散らす常慶に話し掛ける。
「常慶様。これ以上はもう……」
「くっ、仕方ない。全軍、引けぇ―――!! 退却だ―――!!!」
常慶も、これ以上しても意味がない事に気づいたのか、退却を促す。
その退却中も復興軍の攻撃によって兵士達が倒れていく。
「くそっ、こんなはずでは……」
常慶は戻ってくる兵士達を見てそんな愚痴を零した。
こうして第一波の、当麻の街の攻防戦は復興軍の勝利で、一時幕を閉じた。
あとがき
どうも蒼獅です。第二十二話如何だったでしょうか?
戦争描写は難しい。何回も思うことです。今回の話も、殆どが戦争描写のつもりなのですが、ちゃんと出来てますかね?
今回は、篭城部隊をメインにお送りしました。第一波は復興軍の勝利です。まぁ、只深が持ってきてくれた物資のおかげですね。
次回は、当麻の街での討伐軍と篭城部隊の攻防の決着までをお送りし、九峪達の方へと移ります。
宜しければ感想掲示板に意見や感想、指摘などをお願いします。
では今回はこれにて失礼します。
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