火魅子伝 居場所 第23話(改訂版) (H:小説+マンガ+オリ M:九峪・復興軍幹部・常慶・蛇渇 J:シリアス) |
- 日時: 03/25 11:31
- 著者: 蒼獅
―美禰の街―
九峪達が美禰の街へ到着すると、既に清瑞達により街は解放され、美禰の街へ入ってきた九峪達を美禰の街の民達が皆笑顔で迎えてくれた。
九峪達襲撃部隊の幹部達は旧留守の間に集まっていた。
「さて、皆ご苦労だった。早速だけど美禰の街の民達に演説を行う。星華頼めるか?」
九峪は皆に労わりの言葉を掛けると、星華に演説をしてもらうように頼む。
「え? 私ですか? 九峪様は……」
「いや、俺は神の御遣いだけど、九洲の民達にしたら余所者だからな。こういうのは火魅子候補である星華のほうがいいんだよ」
「そうですか……わかりました」
星華は、自分より九峪の方がと思ったが、九峪に言われて頷いた。その光景を見ながら、紅玉は悔しい思いをしていたが、香蘭では演説は無理だろうと思い、溜息をついていたりした。
そして、美禰の街の民達に星華は凛々しい姿で堂々と演説を行い、その星華の姿に、美禰の街の民達は女王火魅子の姿を被せ、復興軍の協力に惜しみない援助を行うと誓ってくれた。
星華の演説が終わると、再び九峪達幹部は、旧留守の間に集まり、今後の行動をどうするかを話し合っていた。
「さて、これで後は、討伐軍を片付ければ火向に敵は居なくなる」
「そうですね。しかし九峪様。討伐軍が撤退した時、今のままでは去飛の街に撤退していく可能性が高いです」
「そうだな……真姉胡。去飛の街に狗根国兵はどのくらい居るかわかるか?」
九峪は、紅玉から指摘のあった去飛の街の事を思い出し、真姉胡に尋ねる。
「え? あ、はい。え〜と此処よりは多い、二百から三百程度だと思います」
「そうか。ならこの街で志願してた人達の数を入れて、此方は約二千三百。十分だな」
真姉胡から兵士の数を聞いた九峪はぶつぶつと呟いていると、星華が尋ねてきた。
「あの……九峪様?」
「ん? ああ。悪い。じゃあこれからの行動だけど、まず、さっき紅玉が言ってくれたように、去飛の街に討伐軍が撤退してくるのは厄介なんだ。そこで、これから去飛の街を落とし、討伐軍を孤立無援にする」
「去飛の街を落とすと言ってもどうやって落とすのです? 確かに兵力は此方が上回っていますので可能とは思いますが、相手が篭城してきたらどうするのですか?」
星華はそんな疑問を九峪に尋ねる。九峪はそんな星華の質問にさらっと答える。
「なに、復興軍が美禰の街を落とし、兵力を三千以上に膨らませ、去飛の街に向かっていると知らせれば良い。それと、それで駄目だった場合に備えて、噂を流して実際に俺達が向かっていけば、狗根国兵といえど、戦おうとするか?」
「……いえ、私なら逃げます。」
星華は、相手の立場になって暫く考えるとそう答える。
「そう。星華も言った様に、逃げると思うんだ。だから、これから清瑞達に去飛の街に噂を流しに言ってもらいたいんだ。その間に俺達は部隊を編成して去飛の街に向かうから」
「わかりました」
清瑞は、乱破部隊の者を数名連れて、去飛の街へ向かって行った。
「じゃあ真姉胡。この事を当麻の街の皆に伝えてきてくれ。後、何日くらいなら持ち堪えるかも聞いて来てくれ」
「はい。わかりました」
真姉胡は九峪の言葉に頷くと、当麻の街へと向かって行った。
「じゃあ、今のうちに部隊を決めよう。まず、この街の守備に重然。頼めるか?」
「へい。お任せ下せぇ」
「次に、全部隊を俺、星華、只深、香蘭の四部隊を大本に、各五百の兵で構成する。何か質問はあるか?」
九峪の言葉に、誰も異論を言わないので、九峪は話を進める。
「じゃあ、清瑞と真姉胡が戻って来る前に部隊の編成を終わらせて、休息をとろう」
九峪の言葉に全員が頷き、皆、旧留守の間から出て行った。
―当麻の街―
篭城部隊は、討伐軍が一時退却したので、その間に被害状況を確認していた。
「ふむ、やはり兵達も疲れておるの」
「そうですね。しかし、狗根国兵の方が疲労は大きいでしょう。此処まで来る間にも、襲撃や罠、そして現在も襲撃され、ろくに休息を取れていないのですから」
幹部達がそんな事を話しながら兵士達を見て回っていると、声が聞こえてきた。
「亜衣さん」
「真姉胡? どうしたんだ?」
「九峪様から今後の予定を亜衣さん達に伝えてくれって言われまして」
「そうか。で、九峪様はなんと?」
「はいこれから九峪様達は、去飛の街を落としますので、後何日くらい持ち堪えることができるか聞いてきてくれ、と」
九峪は伊雅と亜衣にそう言うと、亜衣は少し考える。
「去飛……なるほど。討伐軍を孤立無援にするのか……わかった。こちらは“後五日以上は必ず持ち堪えます”とお伝えしてくれ」
「はい。わかりました」
真姉胡はそう言うと美禰の街へと戻って行った。
―討伐軍―
「被害はどのくらいだ?」
「はっ。約七百が死亡、五百が重傷で、残りは軽傷です」
「くそっ、反乱軍如きに七百も殺られるとは……」
兵士から被害報告を聞いた常慶は舌打ちをしながら呟く。
「常慶様。これからどうしますか?」
「…………兵は一旦下がらせたままだな?」
常慶は何事かを考えながら尋ねる。
「はい」
「ならば、その中から千人の精鋭部隊を編成しろ。その精鋭部隊と反対側に、囮部隊として他の者達を置き、城壁を一点突破。敵が囮部隊の対応に追われている間に、精鋭部隊千人を放ち、やつらを壊滅させる」
常慶がそう言うと、幕僚達が賛成の意を表すように頷く。
「わかりました。では直ちに準備させましょう」
その言葉と共に、討伐軍の中から千の精鋭部隊が選出され、囮部隊は、精鋭部隊の反対側へと移動し始めた。
この時、常慶達は、敵の本拠地を掴むために、上空を飛んでいた飛空挺に気づかず、部隊の編成を行い、兵士達を移動してしまったため、復興軍には直ぐに知れてしまうのだった。
―篭城部隊―
「なにっ!? 敵の部隊に動きがあった?」
旧留守の間に集まっていた幹部達は、飛空挺部隊からの報告に、緊張した面持ちをする。
「はい。敵は二つの部隊に別れ、正反対の場所に待機しておりました」
「そうか。おそらくどちらかが囮か……。なら一々待ってやる必要など無い。飛空挺部隊の準備は?」
「はっ。少しばかり火砕岩の補充をすれば……しかし、“あれ”はまだですが……それで宜しければ行けます」
「そうか……それは仕方ないな。よしっ。此方の準備が整い次第攻撃を掛ける。私が合図するから、それまでに補充は済ませておいてくれ」
「わかりました」
飛空挺部隊の者はそう言うと、直ぐに旧留守の間から出て行った。
「ふむ、敵はどうやら勝負に出たようだな」
伊雅は腕を組みながら呟く。
「ええ。おそらく敵は私達の反撃に予想以上の兵力を無くした為、焦っているのではないかと……」
「なるほど。しかし、そうなると敵は必死で城壁を越えようとしてくるはず。亜衣殿どうするのだ?」
「はい。先程も言ったように、一々敵の策にのってやる必要はありません。直ちに敵の上空から飛空挺部隊で攻撃をしかけます。その後は、どちらが本命かはわかりませんが、物資に余裕はあります。なので、敵に付け入られる隙を作らないように戦えばよいだけです」
亜衣は力強い言葉で言う。
「よしっ、そうと決まれば直ぐに準備に取り掛かろう」
「はい!」
伊雅の言葉に返事をすると、全員が慌しく動き出した。
そして、暫くして亜衣達の準備が整うと、亜衣は飛空挺部隊に合図を出す。
その合図に従って、飛空挺部隊が二つの部隊に一斉に攻撃を仕掛ける。
―ドォォォォンー
「うわ―――!! 敵襲だ―――!!」
「くそっ、上層部の役立たずめ。全員このまま街に突撃しろ―――!! 街に近づけば敵もあのような攻撃は出来ん!!」」
「ぎゃぁぁぁ――!!」
精鋭部隊と囮部隊の両方から悲鳴が上がる。部隊の隊長は兵士達に大声を上げながら、街に近づくように指示を出している。
―ドォォン、ドォォォンー
辺りに響く爆発音は今まで出一番長く続いた。その間、兵士達は逃げ惑い、バラバラになっていく。そして、爆発音が止んだと思ったら、今度は復興軍の兵士達の攻撃が狗根国兵に襲い掛かる。
「弓、放て―――!! 矢玉のことなど気にするな! 敵を中に入れさせるんじゃないぞ!!」
「そこっ、押されているぞ!! 油と火矢を使って追い返せ!!」
復興軍の面々は皆大声を上げながら必死で戦う。外から入ってこようとする場所が先程よりは限定されたとはいえ、その勢いは先程とは比べ物にならないくらい激しい。
「くそっ、閑谷!! 兵達に油を用意させろ!! そこへ私の方術を放つ!!」
「わかったよ! 皆さん、油の用意を!」
「はっ」
兵達は鋭い声と共に油を用意する。
「よしっ、そこの梯子に油を掛けろ! 掛けたら直ぐに離れるんだ! 巻き添えを喰らうぞ!!」
藤那の大声を聞き、兵士達は敵に油を掛けると、油を入れていた樽の様な物も一緒に敵に投げる。そして、すぐさま離れる。
「喰らえ、天の火柱!!」
藤那が放った方術は、炎の柱を連想させ、油まみれになった狗根国兵達に凄まじい勢いで降り注ぐ。
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
「うわぁぁぁぁ!!」
炎に焼かれながら兵士達が絶叫を上げる。
「はぁ!!」 「やぁ!!
一方此方は、伊万里と志野の軍が合わさって、狗根国兵の侵入を阻止していた。
「志野さん。そっちは?」
伊万里は、敵を斬りながら尋ねる。
「こちらはまだ。伊万里さんの方は?」
志野も敵を斬りながら、伊万里に答える。
「こっちは矢玉が無くなりかけてる」
「わかりました。私の部隊の弓兵とあわせましょう。此方もあまり多くはありませんから」
「わかった。仁清!! 志野さんの部隊の弓兵と此方の弓兵を合わせる。弓兵の指揮はお前が執れ!!
「わかったよ伊万理!!」
仁清は伊万里の言葉に頷くと、志野の弓兵部隊と伊万里の弓兵部隊に呼び掛け、指揮を執り始めた。
「天の火矛!!」
亜衣の放った方術で崩されそうだった一部が立て直す。
「くっ、此処までとは……だが、まだいける……」
亜衣は一人呟きながら、全体を見渡せる場所へと移動する。亜衣は、所々危ない場所はあるが、まだ耐えれると思い。兵達に指示を出した。
―時間は遡り、美禰の街―
清瑞と真姉胡が帰ってくると、九峪は直ぐに去飛の街へと向かい始めた。
そして、九峪達が去飛の街の近くにまで行くと、中から清瑞の配下の乱破が出て来た。
「九峪様。敵は九峪様達の姿が見えると、直ぐにこの街を放棄して行きました」
乱破が九峪に報告する。
「そうか。予想以上に上手くいったな」
九峪は乱破の報告に満足そうに頷いた。
そして、去飛の街でも美禰の街でやった事と同じ事をすると、幹部達は旧留守の間に集まっていた。
「さて、これで討伐軍は孤立無援になった訳だが、敵が強敵なのは変わりない。これから直ぐに当麻の街へ救援に向かう。いいな?」
「はい」
九峪の言葉に、全員が返事をすると、九峪は部隊に関して話し始めた。
「じゃあ、これから部隊編成の大本を決めるからよく聞いてくれ。まず、清瑞と真姉胡は五百を率いて討伐軍の輜重部隊を捕捉し壊滅させてくれ。その時、出来るだけ輜重は壊さないように」
「はい。お任せください」 「わかりました」
清瑞と真姉胡は力強く答える。
「次は、当麻の街の援軍に駆けつける本部隊だけど、星華、只深、香蘭のところへ、各七百の兵を割り振る。
そして、この街の守備に三百。美禰の街にも三百の兵を守備に回すから、残った五百で俺の部隊としよう。何か質問はあるか?」
「あの九峪様、わし等はどうしたら宜しいでしょうか?」
「ああ、重然たちは先に当麻の街へ船を使って戻ってくれ。その時に、物資も運んで亜衣達に渡してくれ」
「わかりました」
「他に何かあるか?」
九峪がそう尋ねると、皆首を横に振る。
「じゃあ部隊の編成が終わり次第出発してくれ。皆、後もう少しで火向は俺達のものになる。だが、最後まで油断するなよ?」
「ははっ!!」
九峪の言葉に全員が威勢の良い返事を返して、己の部隊へと向かって行った。
―九峪達が当麻の街へ救援の部隊を送ろうと準備している頃―
「カカカ、中々やるではないか……」
何処とも知れぬ場所で、不気味な笑い声を上げる蛇渇。
「では、我もそろそろ動くとするか……」
そう言うと蛇渇はその場から姿を消した。
あとがき
どうも蒼獅です。第二十三話如何だったでしょうか?
今回は襲撃部隊と篭城部隊を交互にお送りしました。常慶の策は、飛空挺部隊によって察知されていましたが、やはり狗根国兵自体は強いのです。まぁ、そう言いながらも、復興軍は何とか耐えているんですが……。
次回は、九峪君がある人物と邂逅します。
宜しければ感想掲示板に意見や感想、指摘などをお願いします。
では今回はこれにて失礼します。
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