火魅子伝 居場所 第25話(改訂版) (H:小説+マンガ+オリ M:九峪・紅希・姫由希・蛇渇・土羅久琉・天目・兎華乃・兎音・兎菜美 J:シリアス)
日時: 04/07 12:50
著者: 蒼獅


―九峪と魔狼達が戦う数日前、阿蘇山の山奥―

天目は一人、阿蘇山の山奥まで来ていた。

暫く歩き続けると、何者かが近づいてきたので、足を止める。

「何だ、やっぱり天目か……」

聞き覚えのある声に、天目はその声の人物の名を呼ぶ。

「兎音か……」

「どうしたんだ天目。お前が此処に来るなんて……何かあったのか?」

「まぁな。で、兎華乃はいるか?」

「いるよ」

兎音は天目にそう言うと、付いて来いと促す。天目もそれに従い、兎音の後について行く。





暫く歩き、とある小屋の中に入ると、酒を飲みながら寛いでいる兎華乃が居た。

「あら天目。久しぶりね」

「ああ、久しぶりだな」

和やかに挨拶を交わす二人。

「早速だが、頼みがある」

「あら、天目が私達に頼みなんて珍しいわね」

「まぁな。今、我々狗根国は耶麻台国復興軍と名乗る者達と戦っているんだ。復興軍の方は別にいいんだが、此方に厄介な奴が来てな。そいつが要らぬ事をしでかして復興軍が潰れてしまったら困るのだ」

顔を顰めながら答える天目に、兎華乃は素っ気無く答える。

「ふ〜ん……で、私達には何をしてほしいの?」

「ああ。耶麻台国の最高司令官で、神の御遣いと呼ばれる者がいるらしい。そいつの護衛をしてもらいたい」

「へ〜敵なのに護衛するの? まぁいいけど。で、どんな奴か分かる? 顔が分からなかったら護衛なんて出来ないわよ」

「どうやらそいつは若い男らしい。背が高くて、妙な形をした剣を持ち、中級魔人すら倒したそうだ」

「!!(まさかあの人……)ふ〜ん。わかったわ。でも中級魔人を倒すくらい強いんだったら護衛なんて要らないんじゃないの?」

内心の驚愕を隠して兎華乃が尋ねると、天目は頷く。

「ああ、私もそう思うんだが……何か嫌な予感がしてな。頼まれてくれるか?」

「わかったわ。兎音、兎菜美、準備して。行くわよ」

「わかった」 「は〜い」

外から二人の声が聞こえる。

「なんだ、早速行くのか?」

「ええ、その人にも会ってみたいし、中級魔人を人間が倒すなんて殆ど有り得ない話だからね……」

兎華乃はそう言って薄く笑う。

「そうか、じゃあ私も帰るよ。護衛の件、頼んだ」

天目がそう言って立ち上がり、部屋を出ようとすると、兎華乃の声が聞こえてきた。

「ねぇ、天目。もし、その神の御遣いの事、私が気に入ったら、私はその人につくわよ? それでもいい?」

「ほぉ〜……兎華乃が気に入る男がいるとは思えんが……好きにすればいいさ」

「わかったわ。でも天目。貴方も気をつけてね」

「ああ、わかっている」

天目は兎華乃がそのような事を言うとは思わずに、目を丸くしたが、すぐに笑みを浮かべて答え、小屋から出て行った。




「姉様、準備できたよ」

天目が帰ってから数十分後、兎音と兎菜美が武器を片手に小屋の中へ入ってきた。

「ええ、わかったわ」

兎華乃はそう言いながら、自分の武器を持ち、立ち上がる。

「それじゃあ行きましょうか」

その言葉と共に、兎華乃達は阿蘇山の山を凄まじい速さで駆け抜けていった。






―現在―

「ククク、オモシロイ、貴様ノチカラ、ミセテミロ!!」

土羅久琉が九峪にそう言いながら、襲い掛かってきた。

「ククク、ソラッ!」

「くっ! くそっ!」

「クハハッ!! 遅いゾ!!」

「ぐはっ!!」

九峪は襲い掛かってきた土羅久琉の剣を受け止めると、蹴りを放つ。しかし、傷ついた体で満足に動けない九峪の蹴りなど、当たっても効くわけが無く、土羅久琉は笑いながら九峪の攻撃を受け止め、そのまま剣で斬りつけるのではなく、拳を使って殴り飛ばした。

土羅久琉に殴られ、飛ばされる九峪は、土羅久琉が遊んでいる今しか倒せる機会が無い事を悟り、痛みをこらえながら立ち上がる。

そんな九峪を、土羅久琉は面白い玩具を見つけたような目でみながら、九峪を攻め立てる。

「ハハハ、ドウシタ? 貴様ハその程度カ?」

「はぁはぁ、くっ、がっ、」

土羅久琉はワザと九峪が受けれるくらいの力と速さに押さえ、九峪に斬りかかる。九峪はそんな土羅久琉の攻撃ですら聞いているのか、荒い息をつきながら必死で防いでいる。

「ククク、ドウシタ? 息がアガッテイルゾ?」

「っ! うるせぇっ!!」

九峪は土羅久琉の声に、怒声を上げながら、炎の御剣から炎を放出させ、土羅久琉に向けて放った。

―ドォォォォンッ―

至近距離で放った所為で、九峪は爆発に飛ばされる。

「ククク、中々楽シマセテクレル」

「くそっ! あれを受けても倒せないのか?」

九峪はあの炎が“魔”の者に絶大な効果を持っているのに、土羅久琉が倒れない事に驚愕する。

土羅久琉は九峪が放った炎が当たった場所に手を置きながら笑い声を上げる。

「誇るがイイ。貴様はワレに傷を作るコトが出来たノダ」

土羅久琉は炎が当たった場所から手をどけて、九峪に見えるようにした。

(くそっ! 何がワレに傷を作るコトが出来た……だ。あんなの蚊に刺されたもんじゃねえか)

九峪は土羅久琉が見せた傷とも呼べないこげ後に、内心焦る。

「ククッ、そろそろ貴様ノ精気をイタダコウカ。貴様の精気ハ上手そうダカラナ。ククククッ」

土羅久琉はそう言いながら九峪に近づいてくる。九峪は自分の精気が吸われると聞き、あの魔狼達の姿を思い出す。

(くっ、あんな姿にされたくない。けど、どうすればコイツに勝てる?)

九峪は近づいてくる土羅久琉を睨みつけながら何か策は無いかと摸索する。そして、紅希の存在を思い出す。

(そうだっ! 紅希に力を貸してもらえば……)

九峪がそう思っていると、突然、九峪の頭の中に声が聞こえてきた。

(……雅比古……)

(紅希? どうやって話し掛けてるんだ? いやそれより力を貸してくれ!)
 
(雅比古、お前とこうして話すのも最後になる。よく聞いてくれ……)

(何を言ってるんだ紅希? 最後って!?)

(雅比古、俺の存在は鈴に宿った思念体だ。本来思念体なんてものが寄り代から外に出るって事は膨大な力を使う。それに、お前が此方の世界に来てから、あの廃神社で一度外に出たからな)

(そんな事言われても……じゃあ紅希はどうなるんだ?)

(俺が外に出れるのはこれが最後、そして、外に出たら俺は消える)

(なっ!? そんなっ!!)

(雅比古、この前に戦が終わったら話す事があるって言ったよな? その話はどうやら出来そうに無いから、これから俺が外に出るのと同時に、俺の記憶を見せる。その記憶に俺が話したいことが全部詰められている。記憶を見た後どうするかはお前に任せる。けど、出来る事なら……)

(紅希? おいっ! 紅希ぃぃぃ―――――!!)

九峪は紅希に呼びかけながら、自分の意識が段々と薄れていくを感じたが、紅希の最後の声だけはしっかりと聞こえた。

―出来る事なら、“あいつ”を救ってやってくれ―




(すまないな。こんなダメな父親で……)

紅希は九峪の意識を自分の記憶へと送り、自分は九峪の体を動かす。そして、こちらに向かってくる土羅久琉を睨みつける。土羅久琉は九峪の雰囲気が変わったのを感じて尋ねる。

「……貴様、何者だ? サキホドノ小僧とは違う」

「それを知ったところで貴様には意味が無い。貴様は……ここで死ぬんだからな。(炎の御剣よ。今一度、雅比古を守る為に、俺に力を貸してくれ)」

紅希は炎の御剣にそう呼び掛けながる。すると、九峪の時とは比較にならないほどの炎が放出された。

「ふぅぅぅぅぅっ」

そして、深く息を吸い込みながら、放出された炎を自身の力へと変えていく。そして、紅に変わった瞳で、土羅久琉を見据える。

「!! その目は……貴様ッ…………」

「あぁ? 俺を知ってるのか? 上級魔人なら俺の事は知っていて当たり前か……」

「“紅の鬼神”魔天戦争の際、ワレワレ魔界の住人ヲ尽く滅ぼした存在」

「ほぉ〜その呼び名まで知ってるか……。まぁ俺としてはそんなもんはどうでもいい。俺のかわいい息子を弄んだ分、きっちりとお返ししてやるよ!!」

その言葉と共に、紅希から凄まじい殺気が溢れ出す。その殺気を受けて、土羅久琉も先程の余裕の表情ではなく、真剣な表情をして、紅希に剣を構えている。

「さぁ覚悟はいいか?」

「クッ、それは此方の台詞だ!!」

そして、紅希と土羅久琉の壮絶な戦いが始まった。






―紅希の記憶へ送り込まれた九峪―

「おいっ!! 紅希!」

九峪はそんな事を言いながら意識を取り戻す。すると、目の前には大きな建物があり、先程まで居た森は何処にも見当たらなかった。

「此処は……紅希の記憶の中なのか?」

九峪は呟きながら建物の中へと入っていく。

「あれ……もしかして……此処はあの夢の時に見た場所か?」

九峪は建物の中を見回し、此処は自分が何回も夢の中で見た建物だということを理解する。

暫く歩いていくと、ある部屋の中から声が聞こえてきた。

「紅希様。もうあまり時間が……」

「あぁ、わかっている」

九峪は紅希の名を呼ぶ声が聞こえ、部屋の中へと入っていく。すると、そこには夢の中で見た光景があった。

紅希は姫由希に抱かれている雅比古を、優しい眼差しと、悲しい眼差しを織り交ぜたような目で見つめながら話し掛ける。

「お前にはすまないと思っている。何も知らぬまま、巻き込んでしまったこと……本当にすまない。だがお前は、俺と姫由希の唯一の子だ。それに、お前が望めば炎の御剣は応えるだろう。愛しているよ雅比古。後の事は頼んだぞ姫由希」

紅希はそう言うと床に置いてあった炎の御剣を持ち、立ち上がると外へ向かって歩き始める。姫由希は目に涙をためながら紅希の背中に向かって呟く。

「…………はい。承知しております。紅希様。来世でまた会いましょう」

紅希の姿は既に見えない。姫由希は零れ落ちる涙を手で拭う。そして、雅比古に向かって、聖母の様な笑みを浮かべる。

「あなたは、私と紅希様との間に生まれた唯一人の愛しい子、でもそんなあなたに何もしてあげられなくてごめんね。でも……あなたの事は世界で一番愛しているわ。立派ないい子に育ってね」

姫由希はそう言うと幼子の額に口付けし、なにやら呪文を唱える。

「我、姫由希の名において命ずる。時の御柱よ雅比古を誘いたまえ」

姫由希の呪文が唱え終わると同時に、眩い光が視界いっぱいに広がる。そして、光が収まった後には、雅比古の姿は消えていた。

「ふぅ、これであの子は大丈夫。……紅希様……」

姫由希は雅比古を無事に送ることが出来たことに安堵して、自身も先に行った紅希の後を追うべく、部屋から出て行った。

「あ、ちょっと……って聞こえないか。それにしても、俺も日魅子みたいに時の御柱を使ってあの世界へ行ったのか……」

九峪は姫由希に声をかけようと思ったが、此処は記憶の中だと思い出し、意味の無いことに気づく。そして、自分が本当に此方の世界の人間だったことに先程の光景を見て今まで心の奥底では半信半疑だったが、漸く納得したのだった。

「そうだ。俺、この世界の後の事は知らないんだ。姫由希の後について行けばいいかな」

そう言って九峪は先程出て行った姫由希の後を追った。





九峪が姫由希の後を追って外に出てみると、そこは魔人や魔獣で溢れかえっていた。

―ドゴォォォォンッ!!!―

そんな魔人達と戦う二人の人物。そう、紅希と姫由希だ。二人の力で放たれた巨大な炎の塊の後には、焼き尽くされた魔人や魔獣の死体が転がっている。

九峪は目の前の光景は前に一度見ているので、さほど驚きはない。しかし、戦っている紅希と姫由希の前に出てきた人物の名前を、紅希が叫んだ時は自分の目を疑った。

「何故だ!? 何故こんな事をする!! 答えろ蛇渇!!!」

「ちっ、あの幼子は逃がしたか……」

(蛇渇? あの男が蛇渇? 此処があの時代より過去だからか?)

九峪は紅希が叫んだ名の人物をみながら考える。その人物―蛇渇―は、女のような美しい顔立ちに、百九十近い長身を持ち、長い黒髪を地面に付くほどまで伸ばして、ローブの様な物を纏っている。

蛇渇は幼子を逃した事に舌打ちを打つ。どうやら九峪を時の御柱を使って逃がしたのは、蛇渇の手から逃すためだったようだ。

蛇渇は紅希の叫び声に、鼻を鳴らしながら答える。

「何故こんなことをするか……か? ふんっ、そんな事を貴様に言ったところで何になる? 幼子は逃がしたが、貴様とその女の力は貰うぞ」

「なっ!? 俺達の力を貰うだと? だったら何故、罪も無い民達を殺した!!」

「何故……か。そうだな……くくく、余興に貴様とその女が苦しむ顔が見たかった。それだけだ」

「「なっ!?」」

紅希と姫由希は絶句する。この男は、自分達の苦しむ顔が見たいから、この国に魔人や魔獣を放ち、民達を殺していったというのだ。そして、その所為でせっかく生まれた自分の最愛の息子―雅比古―とも別れなければならなくなったのだ。

「あなたという人は!!!」

「て、てめぇ!! 許さねぇ!! 絶対に許さねぇぞ蛇渇!!」

姫由希と紅希は蛇渇を射殺さんばかりに睨みつける。

「くくく、は―――ははははははは!! いいぞ!! その顔だ!! その顔が見たかった」 

狂ったように笑う蛇渇。紅希と姫由希はそんな蛇渇を睨みながらも魔人達の警戒を怠らない。そして、紅希は姫由希に話し掛ける。

「姫由希、俺は蛇渇の相手をする。魔人達の方……頼めるか?」

紅希の問いに姫由希は頷く。

「はい。御気をつけて下さい。蛇渇は、どうしてああなったかは分かりませんが、蛇渇は“人間”の身で“魔の者”を“取り込んだ”ようです。しかし、“人間”と“魔の者”との間には必ず隔たりが存在します。ですからその隔たりの境界に、紅希様は炎の御剣を打ち込んで下さい。そうすれば、私の術で、“人間”と“魔の者”とを分離させる事が出来ます」

姫由希の言葉を聞いた紅希は、ゆっくりと頷く。

「わかった。何故、蛇渇があそこまで力を求めるのかは分からないが、多分俺と別れた後に何かがあったからだろう。でも、それで“はいそうですか”と言ってあいつに力を奪われる訳にはいかない」

そう言って、蛇渇に鋭い視線を向ける。

「それに、あいつは何故か雅比古まで狙っている。時の御柱で雅比古を逃がしたと言っても、何かの拍子で此処へ戻ってきてしまうかも知れない。それと、蛇渇はもしかしたら雅比古を追う事が出来るかも知れない。そうなったら、雅比古を逃がした意味がないからな。だから俺は蛇渇を止める」

「紅希様……」

「大丈夫。俺にはこの国の民達の為にも勝たなくちゃならないんだ。死なないよ」

紅希は微笑みながら姫由希に告げる。姫由希は紅希の言葉にゆっくりと頷き、紅希から離れ魔人達へと向かって行った。

姫由希が魔人達と戦い始めると、紅希は蛇渇に向かって言い放つ。

「蛇渇。嘗ての親友として、お前を止める」

「止める? はっ! 何を言っている。私は止まりはせん。それに、いくらその剣を持っていても、今の私には勝てんぞ」

「そんなのは…………やってみなくちゃわかんねぇだろうがっ!!!」

紅希はそう叫びながら、己の愛剣―炎の御剣―を掲げ、呪文のように呟く。

「(真に認められた者では俺はもうないが……)炎の御剣よ、紅希の名において命ずる、汝を縛りし封印よ、その縛りを解き放て」

紅希の言葉と共に、炎の御剣の六つに別れている刃と、刀身が真っ赤になり、そして凄まじい量の炎を放出する。放出された大量の炎は、暴れるように辺りを飛び回る。紅希はその暴れ回る炎を、全て自身の力に変えていく。

「むっ!」

蛇渇は、そんな紅希の様子に、警戒するように自身も構えた。

「……っ……ぅ……」

暴れ回る炎を、自身の力に変えている紅希の口から苦痛の声が漏れる。

此処で真に認められた者であった頃の紅希ならば、先程の呪文によって封印を開放しても、炎は紅希の言う事に従ってくれた。

しかし、現在炎の御剣に、真に認められている者は…………雅比古なのだ。

当時、たった一才程の雅比古が、紅希の手に持つ炎の御剣に触れると、突然炎の御剣は眩い光を放ったのだ。

その時、紅希は雅比古が炎の御剣に真に認められた者になった事を知り、自分は既にそうでなくなったと理解した。しかし、だからと言って雅比古に戦う事が出来るはずが無く、紅希は姫由希に、自分が使える様に炎の御剣に封印を掛けてもらったのだ。

そのため、炎の御剣から放出される炎は、紅希が適度に使える程度にまで落とされていた。

しかし、それでは蛇渇に勝てないと思った紅希は、封印を開放したのだ。

「……っ……あぁぁぁぁぁっ!!」

そして、紅希は苦痛を叫び声を上げてごまかし……。

―ドゴォォォォンッ―

凄まじい爆発と共に、紅希は全ての炎を自身の力に変えた。

その爆発で、近くに居た魔人や魔獣が跡形も無く消滅しているのを見て、蛇渇は肩を震わせる。

「くくく、まさか……此処までの力とは……流石は紅希と言っておこう」 

蛇渇の言葉に、紅希は炎の御剣を構える。

「今にその笑い声を消してやるよ。覚悟しろ蛇渇!!」

「はっ、覚悟するのは……貴様の方だ紅希!!」

お互いの名を叫び、嘗ての親友であった二人は激突した。




「紅希と蛇渇は親友だったのか。それに蛇渇は俺の力を狙っているようだったけど、俺に蛇渇が狙うほどの力があるのか?」

九峪は紅希達を見ながら、そんな事を考えていると、どこからか心臓が大きな音をたてた様な音が聞こえてきた。

―ドクンッ―

「な、何だ!?」

その音がやけに近くで聞こえたので、九峪は辺りを見渡す。すると、九峪の体が紅希の記憶の中から何かに引っ張られるように、弾き出された。

「なっ!!?」

突然の出来事に驚く九峪だが、辺りを見渡すと、紅希といつも修行している精神世界へと来ている事に気づいた。

「いったい、何だったんだ?」

呟く九峪の前に、大きな鏡が出て来た。そして、そこに映るのは、紅希が土羅久琉に止めをさそうとしている瞬間だった。

―ドクンッ―

再び聞こえた音に、紅希の動きが一瞬止まり、土羅久琉の反撃を受けて飛ばされる。

「おいっ、紅希!?」

叫ぶ九峪の声など紅希に聞こえるはずも無い。

―ドクンッ―

再び聞こえた音に、九峪は嫌な予感を覚えて、必死で何とかならないかと考える。すると、鏡に映る紅希の動きが見る見るうちに衰えていく。

そして、土羅久琉の剣が紅希に向かって振り下ろされる。

(…………………………雅比古、ごめんな)

「紅希ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

聞こえてきた紅希の謝罪の声に、九峪は必死で紅希の名を叫ぶ。

すると、眩い光が辺りを覆い尽くした。




あとがき

どうも蒼獅です。第二十五話如何だったでしょうか?

今回は魔兎族三姉妹と天目の邂逅、そして、九峪と土羅久琉の戦いから、紅希の記憶に移り、九峪、紅希と姫由希の過去、紅希、姫由希と蛇渇の関係。さらに、現実世界では何時の間にか紅希がピンチになってます。

次回は、現実世界に戻り、紅希と土羅久琉の戦いの様子をお送りしようと思います。紅希と蛇渇、二人の戦いの結末がどうなったのかを知るのはまだ先という事で……。

宜しければ感想掲示板に意見や感想、指摘などをお願いします。

では今回はこれにて失礼します。