火魅子伝 居場所 第26話(改訂版) (H:小説+マンガ+オリ M:九峪・紅希・復興軍幹部・土羅久琉・兎華乃・兎音・兎菜美 J:シリアス)
日時: 04/14 17:44
著者: 蒼獅


―現実世界―

紅希によって九峪が紅希の記憶を見ている時、現実世界では九峪の体を動かしながら、紅希が土羅久琉と戦っていた。

紅希と土羅久琉の激しい戦いにより、周りは所々陥没したり、木が数本薙倒されていたりしている。

「せいっ!」

紅希は炎の御剣を土羅久琉の頭目掛けて振り下ろす。

土羅久琉は紅希の振るった炎の御剣を右に避けると、そのまま左回し蹴りを放つ。

紅希は土羅久琉の回し蹴りを炎の御剣で受け止め、そのまま土羅久琉の足を斬ろうとする。

しかし、土羅久琉は受け止められた足を引っ込む勢いを使い、紅希に回転しながら剣を振るう。

「フンッ!」

「ちっ」

舌打ちしながら紅希は身を屈めて避けると、土羅久琉の腹部へ炎の御剣を横に一閃する。

空気を切り裂きながら土羅久琉の腹部へと向かう炎の御剣だが、土羅久琉もさる者。ほんの数歩分さっと身を引いて炎の御剣を避けると、屈んでいる紅希に剣を振り下ろす。

「死ネッ!」

「誰が、死ぬかっ!」

紅希は振り下ろされた剣を炎の御剣で受け止め、そのまま力押しで土羅久琉の体に体当たりを放つ。

「クッ」

体当たりされて、土羅久琉の体勢が崩れ、紅希は一旦距離をとる。

(ちっ、やはり自分の体じゃないと上級魔人の相手はきついな)

紅希は内心で愚痴りながら炎の御剣を構える。土羅久琉はそんな紅希を見つめながら、感嘆の声を漏らす。

「流石ダナ。このワレとココマデ戦えるトハ」

「はっ、お前ぐらいの魔人なんて何回も戦ったことがあるからな!!」

土羅久琉の言葉に、紅希はそう答えながら向かって行く。

「はぁ!」

「カァ!」

―ガキィィィィン、キィン、―

甲高い音が響き、お互いの剣が弾かれる。

「でいっ!!」

「ハァ!!」

紅希は霞むような速度で炎の御剣を振るい、土羅久琉もそれに匹敵する速度で、紅希の攻撃を弾き、捌き、反撃する。

(ちっ、こいつ剣の扱いに慣れてる。少し時間が掛かりそうだな)

紅希は土羅久琉と打ち合いながら、そんな事を思い舌打ちを打った。





―当麻の街―

紅希と土羅久琉が戦い始めた頃、当麻の街では今だ復興軍と討伐軍との激しい戦いが繰り広げられていた。

「くっ、あちらの勢いが増してきている」

藤那は自分とは反対側に居る部隊の勢いが、少しずつではあるが、狗根国兵に押されているのがわかった。しかし、わかったとしても、此方も手が一杯なので援軍に駆けつける事は出来ない。

そして、そんな藤那を嘲笑うかのように、狗根国兵が城壁を次々と登り始めた。

「よしっ! このまま中へ突撃だ―――!!」

「おぉ――……ぎゃ!!」

城壁を登りきった兵士が叫び、それに答えようとした兵士達が次々と矢に打たれて倒れていく。

「押し返せ―――!! なんとしても、侵入を阻止しろ―――!!」

藤那の反対側、すなわち、先程城壁を狗根国兵達が登ってきた方で戦っていた伊万里が大声を上げて、敵の侵入を阻止しようとする。その声に答えるように、弓兵の勢いが増し、城壁に上りきった狗根国兵を倒していく。

「もぉ〜何時まで続くのよ〜!!」

上乃はそんな事を良いながら、槍を振り回し、狗根国兵を倒していく。

「そんなこと言わないでよ上乃! あ、ほらそこ!!」

「あ〜も〜鬱陶しい!!」

愚痴る上乃を仁清が宥めながら、敵が登ろうとしている場所を指差す。上乃はそれを聞いて、うんざりした顔をしながらも、敵を倒すために向かって行った。





「くっそ〜〜きりがねえ!!」

ドカッと自慢の拳で敵の顔面を殴り飛ばした織部は、そんな愚痴を言いつつ、新たな敵に蹴りを放つ。

「そんな事言わないで下さい。織部姉さん」

その近くで、志野が舞う様に双龍剣を振るいながら織部を宥める。

「けど志野、このままじゃあ突破される」

珠洲は、人形を使って敵を屠りながら志野に言う。

「わかってる。でも今は耐えるしかないわ」

珠洲の言葉に、志野はそう答えるしかなく、手当たり次第に剣を振るって敵を倒していった。





「むっ、狗根国兵どもめっ!!」

伊雅は城壁を登り、此方に降りてこようとしている狗根国兵に、すかさず剣を振るう。

「ぎゃぁぁ!」

城壁から降りようとしていた狗根国兵は、いきなり斬られ、訳の分からないうちに絶命する。

「くっ、“あれ”はまだかっ!!」

伊雅は、苛立った表情で亜衣の居る方向を見つめた。





亜衣は下で行われている戦いを見ながら、指示を出していると、飛空挺部隊の隊員が声を掻けてきた。

「亜衣様! 完成しました!!」

「わかった! 試している暇は無い! 敵の本拠地を目指して叩き込め!!」

「はいっ。わかりました!!」

飛空挺部隊は今までのような単純に火砕岩を持って行くのではなく、大量の火砕岩を細かく砕いた物を、発火札を大量に貼り付けた筒の中に入れた物を用意していた。しかし、この特別製の火砕岩―火砕弾―は生成に大量の火砕岩を使用するため、三つしか作れず、しかも先程出来上がった物だ。

亜衣の言葉に、返事をした火砕弾を持った飛空挺部隊は、すぐに常慶達幕僚が居る場所へと飛んでいった。




常慶は、何故、敵に先読みされたのかが分からず、辺りに怒鳴り散らしていた。

「ええい!! 何故敵はこうも此方の動きを読めるんだ!!」

「じょ、常慶様。お、落ち着いて、指揮を……」

「五月蝿い!! 言われなくても分かっておる!!」

幕僚の言葉に、常慶は怒鳴りながら応える。

(くそっ! いったいどうやって……)

常慶は、そんな事を考えながら偶々上を見ていると、何かが此方に向かってきているのが分かった。

(ん? 何だあれは?)

疑問に思う常慶を余所に、その何かは、常慶達が居る場所の真上まで来ると、何かを落として去っていった。

(糞でも落としたのか?)

そんな事を考える常慶だが、落ちてくる物が、自分の近くに転がるのを見ると、顔色を青くする。

「そ、総員退避――――――!!!!!」

常慶の大声に、何事かと常慶を幕僚達が見詰めた次の瞬間……。

―ドガァァァァァァァァァァン―

凄まじい爆発音を放って爆発した。





―ドガァァァァァァァァァァン―

その凄まじい音に、復興軍も討伐軍も動きを一瞬止める。そして、常慶達幹部が居たであろう場所から、火が立ち昇るのを見ると、討伐軍の動きに動揺が走り、動きが格段に落ちた。

「今だ――――!!! 敵を逃すな――――!!!!」

亜衣の大声が当麻の街に居る全員に響き渡る。その声に復興軍の面々は、はっとして狗根国兵を倒すために向かって行った。

さらに幸運なことに、この時、爆発音を聞いた清瑞、真姉胡、星華、只深、香蘭の部隊が急いで当麻の街に到着し、理想的な形での挟撃を行うことが出来た。

そして狗根国兵達は、頭を潰されながらも必死の抵抗を見せたが、次第に潰され、遂に……。

「我々の勝利だ―――――――――!!!!!!」

「おぉ―――――――!!」

「やった、やった――――――!!」

「俺達が勝ったんだ―――――!!」

勝利の喜びを全身で表す復興軍の兵士達。その中にはもちろん、幹部達の顔もあり、皆が笑顔で周りの者と騒いでいる。

「やった――! やったね藤那!!」

「ああ、やったぞ閑谷!!」

閑谷は喜びのあまり、藤那に抱きつく。何時もならここで張り倒す藤那だが、今は抱き返して勝利の余韻に浸っている。

「やったわね珠洲」

「うん!!」

志野が珠洲に嬉しそうに言うと、珠洲も普段からはとても想像出来ない満面の笑みを浮かべて志野に答える。その後ろでは座員達がお互いの無事を喜んでいたりしている。

「お疲れ、上乃、仁清」

「は〜疲れた〜」

「あ、伊万里。伊万里もお疲れ様」

伊万里は、上乃と仁清に労わりの言葉を掛けると、上乃はだらけた声を上げ、仁清は伊万里に労わりの言葉を掛ける。

「ふ〜何とかなったな」

亜衣は額の汗を手で拭いながら呟く。

「亜衣」

亜衣は、自分の名を呼ばれて振り返る。

「あ、星華様。それに只深様、香蘭様。清瑞まで……救援に来ていただきありがとう御座いました。おかげで敵を殲滅させることが出来ました」

「いいえ、私達が来た時は殆ど敵が浮き足立った状態だったもの。それにあの爆発は何? 凄かったけど」

「はい。あれは火砕弾と言って、火砕岩を細かく砕いた物を、発火札を大量に貼り付けた筒に詰め、それを敵陣に落として爆発させたのです」

「そう……。けど本当に凄い威力だったわね。何故最初に使わなかったの?」

星華はそんな凄い物があるなら最初に使えばよかったのにと思いながら尋ねる。

「ええ。そう出来ればよかったのですが、完成したのが先程だったのです。その所為で此方の被害も大きくなってしまいました」

亜衣は悲しい顔をしながら星華に答える。

「亜衣、そんな顔しないで。それに、あれが無ければまだ戦いは続いていたでしょう。貴女がそんな顔をするより、此処まで頑張ってくれた当麻の民と復興軍の兵士達に御礼を言うべきよ」

「星華様……」

亜衣は星華の言葉に、感動しながら星華の顔を見つめて頷く。

「はい。ありがとう御座います」

「ふふふ、いいのよ。それにもう少ししたら九峪様の部隊が此方へやって来るはずです。お出迎えをしなければ」

「はい。わかりました」

星華の言葉に頷き、亜衣は九峪が帰ってくるまでに、街を少しでも修復しようと、疲れた体に鞭を打って兵士達が居るところへ向かって行った。

しかし、そろそろ来るであろう九峪の部隊は何時まで経っても来なかった。

そう、この時、九峪は紅希の記憶を見ており、紅希は九峪の体を使い、土羅久琉と戦っているのだった。

さらに、この戦いを軍艦として見ていた虎桃達三人は、常慶達の居た場所より離れていたので、あの爆発には巻き込まれず、何とか無事だった。そして、復興軍の戦力が予想以上に高い事と、此方にはない武器を持っている事を確認して、既に都督府へと向かっていたのだった。





―亜衣達が討伐軍を打ち破った頃―

紅希と土羅久琉は今だ、激しい戦いを繰り広げていた。

「せいっ!!」

「ハァッ!!」

ガキィィィンという音と共に、紅希の炎の御剣と土羅久琉の剣が弾かれる。紅希は弾かれた炎の御剣を逆手に持って斬りかかる。

「はっ!」

「フンッ!」

土羅久琉は咄嗟に、紅希の肩を蹴り、炎の御剣を止める。しかし、紅希は止められると、体を回転させ、水面蹴りを繰り出す。

その蹴りは土羅久琉に当たることなく、空を切る。そして空中へ飛んでかわした土羅久琉が紅希の首をめがけて剣を振るってきた。

「ハァッ!!」

「くっ!」

紅希は直ぐに地面を転がり、土羅久琉の剣をかわす。

すっと音も無く着地した土羅久琉の足を狙い、紅希はすかさず炎の御剣を振るう。

「はっ!」

「ヌッ!」

ガキィィィンと紅希の炎の御剣と土羅久琉の剣がぶつかり、弾かれる。すると、紅希はそのまま飛び上がり、回転しながら炎の御剣と蹴りを、ほぼ同時に繰り出した。

「しっ!」

土羅久琉は炎の御剣を受け止め、蹴りは自ら後ろに飛んで衝撃を和らげる。しかし、紅希が既に眼前にまで迫っており、そして、紅希の炎の御剣が土羅久琉目掛けて振り下ろされた。

「クッ」

紅希の重い一撃に、剣を合わせることで何とか受ける。しかし、咄嗟に受けたことで、体勢が崩れた。

―ドクンッ―

(ここだ!!)

紅希は心臓が大きな音をたてた様な音を聞いたが、それを無視して、土羅久琉に炎の御剣から生み出した炎の塊を放つ。

「グッ!」

ドンッと土羅久琉の顔に炎の塊が至近距離から放たれ、土羅久琉の顔が炎に包まれる。そして、その好機を逃す筈は無く、紅希は土羅久琉の体を真っ二つにせんと炎の御剣を振り下ろした。

「くたばれっ!!」

振り下ろされた炎の御剣が土羅久琉の体に触れる直前……。

―ドクンッ―

「なっ!?」

再び、心臓が大きな脈をたてた様な音が聞こえ、紅希の動きが一瞬止まる。その隙に、今度は土羅久琉が剣を振るってきた。

「ハァァァッ!!」

「くっ、ぐわっ!!」

紅希は慌てて炎の御剣で受けるが、力に押されて飛ばされる。

―ドクンッ―

再び音が聞こえる。すると、紅希は自分の力が下がっていくのが分かった。

(なっ、くそ!! もう時間が無いのか!?)

紅希は内心で悲痛な叫びを上げながら、それでも土羅久琉に挑む。しかし、紅希の動きは見る見るうちに衰え始めた。

そんな紅希の様子に気づかない土羅久琉ではなく。既に勝敗は決したかのように笑い声を上げる。

「ククク、ドウヤラ此処までのヨウダナ。先程ハ危なカッタが、今のキサマにはワレを倒せる力はナイ」

「くっ(あともう少しだったのに…………)」

紅希は土羅久琉を睨みつけるが、土羅久琉はそんな紅希に嘲る様な笑みを浮かる。

「フンッ、そんな目をシテモ無駄だ。貴様ハ此処デ死ね――――!!!!」

土羅久琉にしては珍しく、大声を上げながら紅希に剣を振り下ろす。

(…………………………雅比古、ごめんな)

振り下ろされる剣に、紅希は九峪に心の中で謝った。

しかし、土羅久琉の剣が振り下ろされ、紅希を斬る直前、紅希の内心から大きな叫び声が聞こえてきた。

―紅希ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!―

紅希はその声が九峪のものだと気づく。そして、その声に反応するように、炎の御剣が今までにないほど輝き始めた。

「ナッ……グハッ!!!」

驚愕する土羅久琉に不可思議な衝撃が走り、土羅久琉は吹っ飛ばされた。





吹っ飛ばされた土羅久琉を余所に、紅希は九峪へと話し掛ける。

(なっ!? ま、雅比古? 雅比古なのか?)

「あれ? なんで紅希の声が聞こえるんだ?」

何時の間にか紅希の声が九峪の脳裏に聞こえてくる。それを疑問に思った九峪は自分の体を動かしてみる。

「あれ? 動く?」

九峪は首を傾げながら手を動かしたり、足を動かしたりしている。そんな九峪を余所に紅希は考える。

(何故、俺は消えないんだ? もしかして……おい、雅比古。自分の目を見てみろ)

「え? 目…………って、えぇ〜!? 目が赤くなってる。紅希これって……」

九峪が、炎の御剣の刀身を使って、自分の顔を見てみると、目が紅希より更に赤い、真紅に変わっていたのだ。

(ああ、この世界にお前の体が適合したんだ。そうか、雅比古の体が適合した時、無意識に雅比古が何らかの力を俺に送ったのか? それで俺はまだ消えていないのか……)

「おい、紅希。何一人で納得してんだよ? こっちはお前が消えると思って心配したんだぞ」

九峪は鈴に居る紅希に向かって起こるが、紅希は苦笑を浮かべる。

(いや〜俺も消えると思ってたんだが、どうやら雅比古、お前のおかげで助かったようだ)

「俺のおかげって言われても……俺って何かしたっけ?」

九峪の言葉に、紅希は悪戯っぽい笑みを浮かべ言った。

(ははは、何を言ってる。あんなに俺の名前を大声で叫んだじゃないか。いや〜雅比古にあんな大声で呼ばれるとはね〜。お父さん感激だな〜♪)

「くっ、この野朗っ……」

九峪は紅希の名を大声で叫んだ時の事を思い出し、赤面する。

(まぁまぁ、今はそれは置いといて。それと、本当に俺はもう外に出て戦う事は出来ない。だから、あいつはお前が倒すしかないぞ)

あいつという言葉に、九峪は起き上がってくる土羅久琉を見つめる。

「ああ、なんでか知らないが凄く体が軽い。自分の体じゃないみたいだ。それに、炎の御剣も何か輝いてるし」

そう言いながら、先程から輝き続けている炎の御剣を見る。

(そうか……。その輝きはお前を真の主として認めたんだろう。俺の時も、姫由希から貰って、暫く使っていると輝いたからな。それにお前は既に前に一度……)

紅希は九峪に聞こえないように後半の台詞を呟くと、紅希は更に続ける。

(それと、お前は知らないだろうが、俺は生前、“紅の鬼神”って呼ばれてたんだが……どうやらお前に世代交代のようだ。しっかり俺の後を継いでくれよ。新しい“紅の鬼神”……じゃないな。“真紅の鬼神”よ)

「おい、紅希? 後を継げって言われても……。それに、“真紅の鬼神”って……言うだけ言って戻るなよったく」

紅希は九峪にそう言うと、鈴の奥底へ戻っていったようで、九峪の呼びかけにも答えない。

「“真紅の鬼神”か、良いさ、しっかり後を継いでやるよ。それと、これからも世話になるぜ、炎の御剣」

九峪は紅希の言葉に頷き、自らを認めた炎の御剣を軽く撫でる。すると、炎の御剣は何処か嬉しそうに一層強く輝き、刀身から、“淡く輝く青白い炎”を放出した。

この時、鈴の奥底から九峪を見ていた紅希は、炎の御剣から今まで見た事の無い、淡く輝く青白い炎が放出されたのを見て、目を見開いた。

(なっ!? 何だその炎は? もしかして、これがお前の力なのか?)

紅希はそう思いながら、あの廃神社で倒した魔人を倒す時に使った自分の浄化の炎と、今、放出されている淡く輝く青白い炎が違う事に気づき、これが九峪の力なのかと考える。

(しかし、この炎にどんな力が……? それに、俺が消えないのは何故だ?)

紅希は、この炎がどんな力があるのかは分からないが、それとは別に、自分は消えると思っていたのに、何故まだ消えていないのか疑問に思う。そして、あの魔狼達と戦っていた時に、九峪がしていた事を思い出した。

(あんな事、俺には出来なかった。じゃあ俺が消えていないのは、雅比古の力、癒しの力のおかげなのか?)

そう考える紅希だが、自分の存在が消えずにいるのは、奇跡のようなものだと分かった。

(多分、あと一月くらいか……)

紅希は、自分の状態を確認して呟く。そう、九峪の力が送られてきても、その前に、紅希の存在自体がすでに薄れていた所為もあり、存在を繋ぎ止めていられるのが、あと数ヶ月しか残されなかったのだ。

(だが、一月あれば十分だ……)

自らが消える事を知っても、紅希に後悔は無い。あの時、自分が、ああしなければ九峪は死んでいただろうし、それに自分は元より死んでいるのだ。

(雅比古。俺に見せてくれ、お前の力を……)

紅希は九峪に聞こえないと知りつつも呟いた。





「ナ、ナニガオコッテイル!?」

土羅久琉は突然の出来事に驚愕している。

放出された淡く輝く青白い炎は、まるで意思を持っているかのように九峪の体に纏わりついた。

「ハ? ハハハ、馬鹿メ! ソノ炎ニ焼かれて死んでシマエ」

土羅久琉は目の前の現象に笑い声を上げる。しかし淡く輝く青白い炎に包まれているはずの九峪の体は、一向に燃える気配を見せない。

「ナッ、ナゼダ!? あの男ニはコンナ事ガ出来る力など……」

混乱気味に叫ぶ土羅久琉に炎の中から声が聞こえてきた。

「おいおい、上級魔人ならもう少し品性てもんを持てよ(体の傷が治っていく……)」

九峪は口ではそう言いながらも、体に纏わりついている淡く輝く青白い炎を吸収して、力に変えていくと、傷が治っていく事に気づく。そして淡く輝く青白い炎を全て吸収する頃には、全ての傷が治っていた。そして、鋭い視線で土羅久琉を睨みつける。

「貴様、ソノ目は…………」

紅希のような目をした九峪に、土羅久琉は呟く。

「あ? ああ、これか? この目は、お前達“魔”を滅ぼした“紅の鬼神”紅希の後を継ぐ……“真紅の鬼神”の証だ!!」

その呟きを聞いた九峪は、紅希の後を継ぐ“真紅の鬼神”を名乗り、その真紅の目で土羅久琉を睨みつけながら、先程の紅希すら凌駕する殺気を放つ。

「クッ、貴様が何者であろうと、ワレは貴様を殺すノミダ!!」

九峪から放たれる殺気に土羅久琉の余裕は既に無く、土羅久琉は大声を上げて九峪へと向かって行った。





一方、九峪と土羅久琉が二回目の戦いに突入する少し前、紅希と土羅久琉が戦っている頃、阿蘇山から走ってきた魔兎族三姉妹は、凄まじい力の激突を感じ、その方向―紅希と土羅久琉が戦っている―を見る。

「姉様、これは……」

兎音は、人間界では考えられないほどの力を持つ者同士が激突しているのを感じて、唖然と呟く。

「ええ。(この力はやっぱりあの人の……)貴方達、急ぐわよ」

兎華乃はこの力の片方が紅希のものと考えて、兎音と兎菜美にそう言うと、更に速度を早めて力の激突が起こっている場所へと向かって行った。





あとがき

どうも蒼獅です。第二十六話如何だったでしょうか?

今回で遂に九峪君はこの世界に適合し、真紅の目になりました。そして、兎華乃達ももうすぐ九峪君の元へと到着します。紅希の記憶によって九峪君は自分の力が蛇渇に狙われている事を知ったのですが、紅希と蛇渇の戦いの結果や、あの後の事、自分の力の事は知りません。まぁ、紅希は何か気づいたようですが……。

次回は、九峪と土羅久琉との戦いに決着が付き、兎華乃達と合流します。

宜しければ感想掲示板に意見や感想、指摘などをお願いします。

では今回はこれにて失礼します。