火魅子伝 居場所 第27話(改訂版) (H:小説+マンガ+オリ M:九峪・復興軍幹部・土羅久琉・兎華乃・兎音・兎菜美 J:シリアス)
日時: 04/21 11:02
著者: 蒼獅


九峪は向かって来る土羅久琉に自身も向かって行く。

「ハァァッ!!」

「せいっ!!」

ガキィィィンとお互いの剣がぶつかり、その衝撃で二人は後退するが、すぐにお互いに剣を振るう。

「フンッ!!」

土羅久琉は九峪の右腕を斬ろうと剣を振り下ろす。

「はっ!!」

九峪はその剣を左に身を捻って避けると、お返しとばかりに炎の御剣を土羅久琉の腹部目掛けて横へ一閃する。しかし、やはり土羅久琉も紅希と打ち合えるだけの剣技をもっており、九峪の攻撃を飛んでかわすと、そのまま九峪へ蹴りを放つ。

九峪はその蹴りを、地面を蹴って左に避けると距離をとる。

「ドウシタ? 威勢が良いノは口だけか?」

土羅久琉の挑発するような声に、九峪は自身の手を開いたり閉じたりしていて、聞いているようには見えない。

「ん? 何か言ったか?」

惚けた口調で九峪が逆に尋ねる。

「クッ、キ、貴様ッ!!」

上級魔人である自分に向かって、あの様な口をきく者など今まで誰も居なかったのに、高が人間如きに言われ、思わず怒りの形相になる。

「何、怒ってんだ? ほら、さっさと掛かって来いよ。俺は速く皆の所へ帰らないといけないんだから」

そんな土羅久琉に、九峪は更に挑発するように手招きをする。

「キ〜サ〜マ〜〜〜〜!!! 殺しテヤルッ!!!!!」

土羅久琉は九峪の挑発に、完全に怒り、凄まじい踏み込みで、地面を陥没させながら、九峪へ迫る。

「殺してやる……か。それは……こっちだって一緒なんだよ!!!!」

九峪は迫り来る土羅久琉にそう言いながら、自身もまた土羅久琉へと向かって行った。

「オォォォォォッ!!!!」

「はぁぁぁぁぁっ!!!!」

お互い、叫び声を上げながら剣を振るう。

「死ネッ!!」

体格の大きい、土羅久琉の方が、早くに九峪を間合いに居れ、九峪の頭へ剣を振り下ろす。

九峪は振り下ろされた土羅久琉の剣を、炎の御剣で受けると、土羅久琉の力の強さに、押されるが、その力を逆に利用して、土羅久琉の剣を炎の御剣に絡ませながら受け流す。

「クッ!」

思わず体が流れる土羅久琉に九峪の蹴りが腹部へと決まる。

先程までとは比べ物にならない重い一撃により、土羅久琉の体が後退する。そこへ九峪の炎の御剣が振るわれた。

「はっ!」

―バキィィィン―

九峪の炎の御剣を防ごうとした土羅久琉の剣は九峪の炎の御剣とぶつかると、音を立てて砕けた。

「ナッ!?」

驚愕する土羅久琉を余所に、九峪は更に右腕を狙って上から一閃する。

「クッ」

慌てて土羅久琉は新たに剣を出現させ、右腕に迫る炎の御剣を受けようとする。しかし、そこで九峪は手首を捻って剣をクルリと回転させ、逆手に持ち替えた炎の御剣で下から右腕を狙って一閃する。

―ザシュ―

「グワッ!!」

避けることなど出来なかった土羅久琉の右腕は、綺麗に斬られ、土羅久琉は慌てて右腕を拾うと九峪から距離をとる。

「フ、フンッ、腕を斬ラレようと、ワレには無意味……ナッ、何故ダッ!? 何故、回復シナイ!?」

傷口につけても、ポロリと落ちてくる右腕を見ながら、土羅久琉は叫ぶ。その様子に、九峪は呆れた口調で答えた。

「はぁ〜、お前、紅希が“紅の鬼神”って知ってたのに、この剣の事は知らないのか? この剣はお前達“魔”の者を滅ぼす事に対して最強の剣だ。その剣に斬られた傷がそう簡単に治る訳無いだろ?」

「クッ、キサマ〜〜!!!」

九峪の言葉に、屈辱で一杯というような顔をする土羅久琉。

「はっ、そんな負け犬みたいな声出すなよ。そんなんじゃそこらの下級魔人と変わらないぜ?」

「貴様ッ、殺す、殺す、殺シテヤルッ!!!!」

怒り狂う土羅久琉は、直らない右腕を捨てて、左腕に剣を構えると、一直線に九峪へと向かって行った。






一方、当麻の街では、九峪の部隊が何時までたっても戻ってこないので、幹部達は旧留守の間に集まって、一体どうなっているのかと乱破を落とした街へ放ち、報告を待っていた。

すると、乱破が旧留守の間へと入ってきた。

「報告します。九峪様の部隊の者達は、去飛の街で九峪様の命令により、待機しているようです」

「何だと? して、九峪様は?」

「それが……」

伊雅の問いに、乱破は言いよどむ。

「何だ。はっきり言え」

「はっ。九峪様は……どうやら魔人から兵士達を逃がす為に、一人お残りになったと……」

「なっ!?」

乱破の言葉に、全員が息を呑む。

「く、九峪様はまだ去飛の街に戻られていないのか?」

「はい……」

「くっ、何と言うことだ!!」

伊雅はダンッと床を叩く。そんな伊雅に亜衣は諭すように話し掛ける。

「しかし、伊雅様。九峪様お一人ならば、そう簡単に魔人に遅れを取る事はないと思います。むしろ、兵士達がいると、かえって邪魔になると判断して、九峪様は街へと戻らせたのでしょう」

「そ、そうか……。九峪様お一人ならば、魔人如きに遅れをとりはしないだろう」

亜衣の言葉に、伊雅は、自分を納得させるように頷きながら呟く。その呟きは、全員がそうあって欲しいと願う事だった。





「近いわ……」

兎華乃は力の激突地点まで後少しと確信し、速度を速める。激突地点に近づくにつれ、甲高い金属音が聞こえてくる。

そして、三人が激突地点へと到着し、見たものは……。

「ガァァァッ!!」

「はぁぁぁっ!!」

見知らぬ青年と、上級魔人である土羅久琉が戦っている光景だった。





(違う、あの人じゃない。でもあの剣はあの人の……)

兎華乃は、見知らぬ青年―九峪―の方を見ながら考えるが、分かるはずも無い。

「なっ!? あれは、土羅久琉!? なんでこんな所に居るんだ?」

兎音は、九峪と戦っている土羅久琉が人間界に居ることに対して驚いている。

「それよりも姉様〜。あの男の人が天目の言ってた神の遣いなのかな?」

兎菜美は、九峪の方を指差しながら兎華乃に尋ねる。

「さあ、けどあんな形をした剣を持っているんなら、あの人が神の遣いで間違いないと思うわ」

「ふ〜ん。そうなんだ〜(カッコいいな〜♪)」

返ってきた兎華乃の答えに、兎菜美は九峪を見ながら何処か嬉しそうに頷く。

「姉様、それよりも土羅久琉と同等以上に戦ってる奴に私達の護衛なんか要るのか?」

兎音は、せっかく此処まで走ってきたのに……と呟きながら、兎華乃に尋ねる。

「さあ? けど、土羅久琉とあそこまで戦える人間なんて興味深いじゃない」

「まぁ、そう言われると……」

「そうでしょう? ほら、もうすぐ決着が付くわ」

兎華乃は兎音にそう言うと、九峪と土羅久琉の戦いを観戦し始めた。





兎華乃達が来ている事に気づいていない九峪と土羅久琉。

土羅久琉は人間と侮っていた事を後悔し、今では全力―といっても右腕はないが―で戦っていた。

(クッ、マサカ此処マデの奴とは……)

内心で九峪の強さを認め、自身にあった驕りを捨て、九峪の右腕へ剣を振るう。

「ハッ!」

ヒュッと音を鳴らし、九峪へと迫る土羅久琉の剣は、九峪の炎の御剣に受け止められる。

そこへ、九峪が土羅久琉の剣を上空へと弾き上げる。

「チッ!」

剣を弾かれ、舌打ちを打つ土羅久琉へ九峪の炎の御剣が横へ一閃した。

「はぁ!」

「舐めルナッ!!」

叫び声と共に、土羅久琉は瞬時に出した剣で受け止める。

「くっ」

「ヌッ」

ギィィンとお互いの剣がぶつかりあい、お互いが後退する。

体格の良い土羅久琉の方が力は上の様に思われたが、土羅久琉の方が僅かに九峪より後退する距離が長い。

(クッ! 力ですら勝てヌカ!?)

土羅久琉は内心で呻くが、これは紅希との戦いによる消耗が原因であり、万全の状態の土羅久琉なら力は九峪より強い。

しかし、今、押し負けたのは事実。ならばと、土羅久琉はスピード重視に変更し、その速さを利用して剣を九峪へと叩きつける。

四方八方から来る斬檄に、九峪の足が止まる。だが、この程度で焦るほど今の九峪は弱くない。

(落ち着け、相手の気配を探れ)

迫り来る斬檄を炎の御剣で受けながら、九峪は土羅久琉の気配を探る。

(…………そこか!!!)

カッと目を見開き、九峪が掌を掲げ方術を放つ。

「天の火矛!!」

「グワァァ!!」

九峪が放った方術は見事、土羅久琉に命中し、土羅久琉は吹っ飛ぶ。そして、九峪は体勢を立て直す土羅久琉に炎の御剣を振り下ろした。

「はぁぁぁっ!!」

土羅久琉は九峪の炎の御剣を、地面に肩膝をつきながらも何とか受け止める。しかし、受け止めた衝撃で土羅久琉の握る剣は既に破壊される寸前だ。

「グゥゥゥッ!! アァァァッ!!!」

叫び声を上げながら、土羅久琉は九峪の炎の御剣を、自らの剣を壊されながらではあるが、押し返し、九峪へと蹴りを放つ。

「ちっ!」

九峪は、舌打ちを打ちながらも、後方に飛んで避けると、既に剣を出現させ、此方へ向かってくる土羅久琉に掌を向け方術を放つ。

「天の火矛!!」

「二度モ喰ラウカッ!!」

土羅久琉は、向かってくる炎の塊を、剣を一閃して真っ二つにし、九峪へと迫ろうとする。しかし次の瞬間、目の前に巨大な炎の塊が襲ってきた。

―ドォォォン―

「グワァァァッ!!」

その炎の威力に土羅久琉は苦痛の叫び声を上げる。そう、九峪は方術を放った後、炎の御剣から生み出した炎の塊を放っていたのだ。

そして、苦しむ土羅久琉へと九峪が全速で向かい……。

「これで……終わりだ―――――――!!!!!!」

炎の御剣に淡く輝く青白い炎を纏わせて、土羅久琉の体を真っ二つに断ち切った。

「ギャァァァァァァッ――――――!!!!!! アァァァ……」

あまりの激痛に絶叫を上げる土羅久琉だが、真っ二つにされた場所から、淡く輝く青白い炎が体全体を覆い尽くしていくと、土羅久琉は何故か安心したような声を上げて、光になって“天”へと昇って行った。






あとがき

どうも蒼獅です。第二十七話如何だったでしょうか?

今回は短いですが、土羅久琉との決着の様子をお送りするところまでで、一旦切りました。

次回は、兎華乃達との出会い、そして、寝まくる仙人とその仲間達が当麻の街の復興軍と対面する様子をお送りします。

宜しければ感想掲示板に意見や感想、指摘などをお願いします。

では今回はこれにて失礼します。