火魅子伝 居場所 第28話(改訂版) (H:小説+マンガ+オリ M:九峪・復興軍幹部・兎華乃・兎音・兎菜美・寝太郎・竜宮娘 J:シリアス)
日時: 04/28 08:38
著者: 蒼獅


九峪は土羅久琉が、光になって“天”へと昇って行ったのを見ると、ふぅと息を吐く。

「……勝った……」

そう呟く九峪に紅希の声が聞こえてきた。

(よくやったな雅比古)

「ああ、けど物凄く疲れた」

(まぁあれだけの力を使ったんだ、当然だな。それに、あの光、あれは“天の御柱”上級魔人を“魔”であることすら忘れさせ、“天”へと還らせるなんて……あれが、雅比古の力なのか?)

紅希は、後半は内心で呟く。

「まぁいい。さっさと戻ろ……!!!」

九峪はそう言うと、去飛の街へと歩き始めようとしたが、此方へ向かってきた三人の女性に足を止めた。




「貴方達行くわよ」

「わかったよ」 「は〜い」

九峪と土羅久琉との戦いを見ていた兎華乃達は、九峪が土羅久琉を倒したのを見ると、九峪の元へ向かって行く。

そして、此方を見る九峪に兎華乃が話し掛けた。

「初めまして、神の遣いさん。私は兎華乃、こっちは次女の兎音、こっちは三女の兎菜美。貴方の護衛を頼まれて来たの」



いきなり挨拶してきた真ん中にいる少女―兎華乃―の言葉に、九峪は呆気にとられつつ答える。

「あ、ああ。初めまして。俺の名前は九峪だ。護衛を頼まれたって誰に?」

「御免なさい。それは言えないの。それより、護衛をしても良いかしら?」

兎華乃の問いに九峪は返答に困った。

(なぁ紅希、どうしよう。あの三人って魔人だろ?)

(……雅比古。少し代わって貰って良いか?)

(?? まぁ、良いけど)

九峪はそう言うとすっと自分の意識を落とす、そして紅希が表に出てくる。

ちなみに、何故こうも簡単に九峪と入れ替わる事が出来たかというと、九峪が合意したからであって、前みたいに九峪の体を、九峪の意思に関係なく操る事はもう出来ない。

さらに、今している会話も、九峪から送られてきた力で、今しか出来ない。

「ねぇ。ちょっと聞いてるの?」

いきなり黙り込んだ九峪に、兎華乃は不審に思いながら尋ねると、突然九峪の雰囲気が変わった。

「ああ、聞こえてるよ兎華乃」

「その声……やっぱり紅希さん?」

「ああ、今はな。さっきまでお前と話していたのは俺の息子だ」

「え? じゃあどうやって貴方は話しているの?」

九峪の体から紅希の声が聞こえてきた事に、兎華乃は困惑しながら尋ねる。

「ああ、今は一時的に体を貸してもらっているんだ。俺はこの鈴に宿る思念体だからな」

そう言って紅希は兎華乃に鈴を見せる。

「ふ〜ん、そう。私達は九峪さんの護衛を頼まれて来たの。でも、さっきの戦いぶりじゃあ要らないと思ったけど……あなたの息子なら、もしかして“あいつ”に狙われているの?」

兎華乃の“あいつ”という言葉に紅希はゆっくりと頷く。

「ああ、けど雅比古もやっとこの世界に適合して、本来の力を発揮出来る様になったからな。力じゃもう俺を超えたし、そう簡単に遅れを取る事は無いと思う」

「そう。貴方を超える存在がいるとはね……」

「俺と姫由希の息子だからな。俺を超えるのは当然だ。それより兎華乃。あの約束はまだ有効か?」

紅希は兎華乃に悪戯小僧の様な笑みを浮かべて尋ねる。その笑顔に、兎華乃が屈辱の記憶を思い出し、顔を顰めるが、はぁと息を吐いて頷く。

「ええ、有効よ。“俺に負けたんだから俺の言う事を何でも一回聞け”だったわよね。あの後、魔天戦争が終わったから貴方に会う事は無かったけど、私に勝った人なんて貴方だけだったのもね。いいわよ。何?」

強気な口調だが、内心ではビクビクしながら尋ねる兎華乃。そして、紅希はそんな兎華乃に意地悪そうに笑いながら口を開いた。

「ああ、“これから雅比古の言う事を可能な限り聞く”これが俺の言う事だ(邪笑)」

「ちょっ! それって……」

「おや〜魔兎族の女王は“約束”を破るのかな〜?」

反論しようとする兎華乃に、ニヤニヤと笑いながら紅希は“約束”の部分を強調して訪ねる。

「ふんっ、そんな訳無いじゃない!! …………あっ!」

その言葉に、ついカッとなって答える兎華乃。しかし、兎華乃は言ってから嵌められたと気づいたが、最早時、既に遅し。

「あ、今のは……「いや〜流石は魔兎族の女王。寛大な心を持ってらっしゃる」……はぁ〜わかったよ」

何かを言おうとする兎華乃は紅希に言葉を遮られて、結局溜息を吐きながらも了承した。

そんな兎華乃を見ながら、紅希は続ける。

「ということで、今のが“俺からの言う事”だから、今後は雅比古の言う事を聞くように。まぁ、最近我慢のしっぱなしだったけど、夜伽をしろとかは言わないと思うから。じゃあ俺はもう戻るわ。それと、俺はもう表に出て来れないと思うから、後宜しく〜♪」

紅希はそう言うと九峪へと代わるため、意識を沈めた。

「はぁ〜〜〜〜!?  よ、夜伽って……ちょっ、ちょっと紅希さん!? 待ちなさい!!」

兎華乃が顔を真っ赤にして九峪の体を掴みながら声を掛けるが、再び雰囲気が変わった。

そして、九峪は掴み掛かっている兎華乃に、頬を赤くして話し掛ける。

「まぁ、なんだ……そう言う事らしいから宜しく(くっそ〜紅希め! 余計な事を言いやがって!)」

九峪は兎華乃にそう言いながら、紅希に殺意を沸かす。

そして、兎華乃は九峪の言葉を聞くとガクリと膝を突いた。





落ち込んでいる兎華乃を余所に、兎音と兎菜美が九峪を自分たちの方へ引っ張る。

「あの姉様をあそこまで手玉に取るなんて、あんたの親父は凄いな!! あ、私の事は兎音でいいぞ!!」

兎音は、兎華乃の打ちひしがれた姿を見て興奮気味に九峪へと話し掛け、バシバシと九峪の肩を叩く。

「そうそう!! あ、私の事は兎菜美って呼んでね〜♪」

兎菜美も、兎音の言葉に賛同し、自分の名を名乗りながら、九峪へと抱きつく。どうやら、兎菜美は九峪の事を相当気に入ったようだ。

(うおっ、こ、これは!?)

抱きつかれた九峪は、兎菜美の豊満な胸の感触に、思わず緩みそうになる頬を必死でこらえる。そして、密かに溜まっていた、“九峪君我慢ゲージ”の値が満タン近くまで上昇する。

―先輩、ゲージが……このままでは“真紅の獣”が―

―焦らないで、“理性の獣”を使って抑えるのよ―

―は、はい。……ほっ、許容範囲に収まりました。(あれ? 何時もより妙に大人しかったような……)―

なにやら、脳内では童顔オペレーターと金髪マッドがそんな事を言っていたが、そのおかげか、九峪は、何とか二人から一旦離れる。そして、まだ膝を突いている兎華乃に近づき、ポンッと肩に手を置く。

「そんな顔するな兎華乃。紅希は俺がビシッと絞めとくから」

「九峪さん……」

九峪の力強い言葉に、兎華乃は涙目になりながら九峪の顔を見上げる。

暫く沈黙し、何となく良い雰囲気になった二人に、兎音と兎菜美はむっとして話し掛ける。

「九峪さん。姉様。護衛の返事をまだ貰ってないよ」

「そうだよ〜。ねぇ、九峪さん?」

「ああ、兎華乃達が良いって言うなら宜しく頼むよ」

この雰囲気に否とは言えずに、九峪は兎華乃達にそう言う。

「やった〜♪ これから宜しくね九峪さん♪」

兎菜美は、はしゃぎながら九峪へ笑顔を向ける。

「ふ〜ん。兎菜美があんな顔するなんてな。まぁ、私も九峪さんには興味があるし、宜しく」

嬉しそうに笑う兎菜美を見て、兎音もそう言いながら九峪へ笑顔を向ける。そんな二人の妹を見ながら、兎華乃はクスッと笑い、九峪へと話し掛ける。

「まぁ、紅希さんの口車に乗る訳じゃないけど、貴方の言うことなら大抵は聞くわ。でも私達は貴方個人の配下って事にして頂戴」

「ああ、分かっているよ。宜しくな兎華乃」

「此方こそ宜しく九峪さん。で、これからどうするの?」

「まずは去飛の街へ戻ろう。俺の部下達が心配しているはずだしな」

「わかったわ」

九峪の言葉に、兎華乃達も頷は頷くと、九峪と兎華乃達は去飛の街へと向かって行った。





九峪と兎華乃達が去飛の街へ向かおうとしている頃、当麻の街にはとある人物達が訪ねて来ていた。

「ふ〜ん、狗根国の討伐軍を撃退して、今、当麻の街は勝利の宴の最中なのね……」

城を目指して歩いている数名の人物達の中で、煌びやかな服を着て、背が高く、髪を長く伸ばしている人物が、街の人々の様子を見ながら呟く。

「寝太郎様。何で乙姫様は今回に限って行けって仰ったんでしょうか? それに、寝太郎様、乙姫様に何か渡されていませんでした?」

その人物―寝太郎―に、城を目指して歩いている数名の人物達の中で、一番若い、少女―鮃―が尋ねる。

「そんな事私が知る訳無いじゃない。乙姫に渡されたのは乙姫が書いた書物よ」

寝太郎がそう答えると、今度は、一番髪の短い少女―梶木―が尋ねた。

「乙姫様がそんな事するなんて、何かあるんですかね?」

「さぁ〜? 本当は乙姫自身が行きたかったらしいけど、用事があって行けないからこれを渡してくれって言われてね。それと、これに私達の事も書かれているみたいよ」

寝太郎はそう言いながら、特殊な箱で作られたと見える物を見せる。

「え〜!? 私達の事も書かれてるんですか? 何が書いてあるか寝太郎様は知ってるんですか?」

「いいえ、神の御遣いに渡すまで中を見るなって、ご丁寧に封印までしてあるのよ。まぁ、そんな顔しないで、その時までのお楽しみにしておきましょう」

自分達の事も書かれていると聞いて、騒ぐ娘達に、寝太郎はそう言うと城の前に立つ門番に近づき、声を掛ける。

「ねぇ、貴方。復興軍の幹部に会いたいんだけど、取り次いでくれない?」

「え、あ、あの貴方達はいったい……」

寝太郎に話し掛けられた兵士は、寝太郎やその後ろに控える女性達に見惚れながらも尋ねる。

「私達は仙人よ。復興軍に力を貸すように竜宮城の乙姫から言われてやって来たの」

「せ、仙人ですか? は、はい。わかりました。暫くお待ちください」

仙人と聞いて驚いたが、兵士は直ぐに幹部達が居る旧留守の間へと向かって行った。




門番の兵士は、旧留守の間に居る幹部達に、先程来た仙人達の事を伝えた。

「何だと!? 竜宮城の乙姫様の所から来た仙人が私達に力を貸してくれるとやって来たのか?」

「は、はい」 

「そうか。わかった。直ぐにその方達を此処へ連れてきてくれ」

「わ、わかりました」

亜衣の言葉を聞いた兵士は走りながら戻っていくと、数分後に寝太郎達を連れてきた。

「亜衣様。仙人の方達をお連れしました」

「わかった」

「失礼するわ」

そう言いながら、寝太郎達は旧留守の間へと入ってくる。亜衣達は、寝太郎達を見て、背筋を正すと、話し始める。

「早速ですが、貴方達仙人の方々が何故復興軍に力を貸していただけるのですか?」

「いきなり本題に入るの? せっかちね〜。その前に、とりあえず自己紹介しない?」

亜衣の言葉に、寝太郎は亜衣に尋ねる。

「あ、失礼しました。では我々から……」

亜衣は先走ってしまった事を謝ると、復興軍の幹部達を紹介していく。そして、全員の紹介を終えると、寝太郎達の自己紹介をして、改めて本題に入る。

「では、寝太郎殿。何故、貴方達仙人の方々が復興軍に力を貸していただけるのですか?」

「それはね、うちの乙姫が私達を復興軍へ送り込んだからなの」

「そ、そうですか……」

亜衣は、寝太郎のあまりに簡潔な説明にそう答えるしか出来なかった。だが、亜衣は内心で、仙人が味方についてくれるのは心強いと思い、回りを見渡す。周りの皆も、仙人が力を貸してくれると聞いて、喜んでいるようだ。

幹部達は寝太郎達の方を見ながら、全員で頭を下げた。

「これから宜しくお願いします」

「あ〜そんなに頭を下げなくても……。まぁ此方こそ宜しく」

寝太郎達は幹部達の行動に驚くが、自分達を受け入れてくれた事にほっとしていた。






―当麻の街に寝太郎達が居る頃、去飛の街―

「おいっ! あれ、九峪様じゃないか?」

門番をしていた九峪の部下達は、向かってくる人影を見ながらそう言うと、もう一人の兵士が、大声を上げた。

「あ、本当だ!! お〜い、九峪様が帰ってきたぞ〜〜〜〜!!!」

その声が聞こえた兵達は一斉に門に集まってくる。そして、九峪が到着すると全員で声を掛けた。

「お帰りなさいませ九峪様!!」

「……ああ、ただいま!!」

九峪は兵達の元気な声に、嬉しくなって少し涙声になりながら答える。兵達は、九峪が無事に帰ってきた事に喜ぶ。そして、九峪の後ろに居る農民の格好をした兎華乃達の事が気になるのか、九峪に尋ねてきた。

「あの九峪様、その方達は?」

「ああ、彼女達は俺達復興軍に力を貸してくれると言って、ついて来てくれたんだ」

「そ、そうですか……(す、凄い……)」

兵達は、九峪の後ろに立っている、魔兎族三姉妹の内の二人を特に見ながら答える。その二人、兎音と兎菜美は、兵達の視線を気にしないようにしているが、ジロジロととある部分を見られて、やはり良い気はしないようで、暫くすると九峪の背中に隠れる様にくっ付いた。

ちなみに、兎華乃が、でかけりゃ良いってもんじゃないのよ……と呟いていたが、その声は兵達に聞こえる事は無かった。

「(せ、背中に当たってるんだけどな〜)……じゃ、じゃあまずは当麻の街に居る皆に俺の無事を伝えよう。その時に一緒に伝令も頼む。内容は“本拠地を美禰の街へと移すからそこで詳しい話をする”だ。確か馬があったな。それを使って行け」

「はっ」

九峪は兎音と兎菜美の背中に当たる柔らかい感触に戸惑いながらも、兵士に指示を下し、兵士は早速馬が繋がれている所まで行き、当麻の街へと向かった。

「じゃあ俺達はこれから美禰の街へ向かう。皆準備をしてくれ」

「はっ!」

兵達は返事をすると、直ぐに準備へ取り掛かった。兵達が去って行くと、兎音と兎菜美は九峪の背中から離れた。兎華乃は準備をしている兵達を見ながら九峪に尋ねる。

「いいの九峪さん? 貴方、大分疲れてるじゃない」

「いいさ。まだ大丈夫だし、皆に心配を掛けてしまったからな。速く安心させてやりたいんだ」

そう言って笑顔を浮かべる九峪。

(うっ、そんな顔しないでよ)

(九峪さん……)

(うわ〜。九峪さん綺麗……)

魔兎族三姉妹の面々は、兵達に優しい視線を向けながら微笑む九峪の笑顔に見惚れる。どうやら九峪の笑顔は魔人ですら効果があるようだ。

「ん? どうしたんだ?」

「な、何でもないのよ。ね、ねぇ貴方達?」

真っ赤になって兎華乃はそう言いながら兎音と兎菜美に尋ねる。

「あ、ああ。な、何でもない。な、兎菜美?」

兎音も真っ赤になって答えるが、兎菜美はキョトンとした顔をして素直な気持ちを答えた。

「ん〜? 九峪さんの笑顔が綺麗だな〜って思っただけだよ〜。姉様も兎音も本当はそう思ったんでしょ〜?」

「な!? わ、私は九峪さんの笑顔に見惚れてなんかいないわよ!」

「わわわ、私だって、そ、そうだぞ!!」

兎華乃と兎音は必死で否定するが、顔が真っ赤になっていては意味がない。

九峪はそんな兎華乃達を笑顔で見詰めながら、兵達の準備が終わるのを待っていた。






―当麻の街―

去飛の街から掛けてきた兵士は、当麻の街へ到着すると、門番に事情を説明し、一目散に復興軍の幹部達が居る旧留守の間へと向かって行く。

「はぁはぁ、し、失礼します」

戸を開けて中を覗くと、幹部達が一斉に兵士を見る。

「何だ?」

「は、はい。私は九峪様の部下の者ですが、先程、九峪様が無事去飛の街へご帰還なされました」

「何っ!? それは本当か? 九峪様に怪我は?」

「いえ、服が破れていましたが、傷らしい傷は見当たりませんでした。それと、九峪様からの伝言です。“本拠地を美禰の街へと移すからそこで詳しい話をする”とのことです。去飛の街の者達は今準備を進めている最中です」

「そうか。ならば我々も行かねばならん。亜衣、直ぐに準備を」

「わかりました。ご苦労だったな。九峪様に“ご無事で安心しました”と伝えてくれ。私達も今から準備するから数日の内に美禰の街へ着くと思う」

「わかりました。では私はこれで……」

兵士はそう言うと直ぐに旧留守の間から出て行く。そして、亜衣達は九峪の無事が確認できてほっとすると、直ぐに美禰の街へと向かう準備を始めた。





あとがき

どうも蒼獅です。第二十八話如何だったでしょうか?

今回は、土羅久琉を倒して、兎華乃と出会い、兎華乃が紅希に良いように遊ばれていましたね(笑)
それに、寝太郎達は復興軍幹部と対面しました。

さて、次回は、土羅久琉を倒し、美禰の街へと到着した九峪君と兎華乃達の様子をお送りします。

宜しければ感想掲示板に意見や感想、指摘などをお願いします。

では今回はこれにて失礼します。