火魅子伝 居場所 第29話(改訂版) (H:小説+マンガ+オリ M:九峪・兎華乃・兎音・兎菜美 J:シリアス)
日時: 05/05 10:26
著者: 蒼獅


―美禰の街―

九峪達は、去飛の街に守備兵を三百残して、美禰の街へと到着した。

「よし、皆お疲れ。今日は各自休息を取るように、明日からは交代で街の警備をしてくれ。解散」

九峪の言葉を聞いた兵士達はそれぞれ散っていった。




九峪は旧留守の間へと案内されたが、自分が使うには広いので、その隣の小部屋を使う事にした。

「ふぅ〜。今日は本当に疲れた……」

敷かれた布団に座りながら、九峪は呟く。その呟きに、兎華乃は呆れるような顔をして答えた。

「当然でしょ。九峪さんが倒した土羅久琉は上級魔人。しかも、魔界の吸血族の中でも、吸血貴族だったのよ。いくらその剣があって、貴方が紅希さんの息子でも疲れて当然。むしろ今まで動けた事が凄いわ」

「そうそう。人間が勝てる相手じゃないんだけどな土羅久琉は。それとも魔天戦争の時の人間達ってのは皆あれぐらい強かったのか姉様?」

「まぁ、確かに強かった人間も居たわ。でも土羅久琉程の上級魔人を倒せる人間なんて、それこそ紅希さんや姫由希さん。あとは“あいつ”くらいなものよ」

兎華乃の答えに、兎菜美が疑問に思った事を尋ねた。

「姉様。そういえば前も“あいつ”って言ってたけど誰なの?」

「……そうね、明日にでも話すわ」

「わかった」 「うん」

兎華乃の返答に、二人は頷く。そんな話を聞きながら、九峪は眠たそうに目を擦る。

「九峪さん、疲れてるんだから速く寝たら?」

そんな九峪に気づいた兎菜美が尋ねる。

「ああ、それは分かっているんだが……兎華乃達は何時まで居るんだ?」

「何言ってるの? 私達は九峪さんの護衛をしに来たのよ。此処に居るに決まってるじゃない」

「決まってるじゃないって……いや、女の子に護衛をさせといて自分だけ眠るのも何か気が引けるし……」

九峪はそう言うが、兎華乃達は訳が分からないといったような顔をしている。

「女の子って……。そりゃ見た目私は少女だし、兎音と兎菜美は女だけど、今の九峪さんよりは強いわよ?」

「いや、そう言う事を言ってるんじゃないんだが……」

「もう〜九峪さん。私達と一緒に居るのが嫌なの?」

兎菜美は、九峪の態度が気に入らないのか、九峪にグイッと迫りながら尋ねる。しかも、前屈みになって迫ってくるので、大きな二つのスイカがポヨンポヨンと左右に面白いように揺れる。

「(す、凄い…………はっ!)いや、嫌じゃないよ。うん……。たださ、例え護衛でも男と女で一緒の部屋というのはどうかな〜と思うだけで……」

九峪は、兎菜美の揺れるスイカから視線を逸らして言う。

(ふふふ、九峪さんってば…………)

(九峪さんもやっぱり男なんだな……)

(九峪さんなら良いかな〜)

兎華乃達はそれぞれ内心でそんな事を考えながら、九峪を面白いものを見つけたような顔をして見つめる。

そして、お互いにアイコンタクトを送る。

(貴方達、良いわね?) (兎華乃は、からかうつもりでいます)

(もちろんさ) (同じく兎音も、からかうつもりでいます)

(こっちも良いよ〜) (兎菜美は、半分本気です)

お互いのアイコンタクトで、意思の疎通が出来ているのは、兎華乃と兎音だけで、兎菜美は、半分本気にしている。

そして、兎華乃達は九峪を囲むようにして座る。兎菜美から俯いて視線を外している九峪は、そんな兎華乃達の様子に気づくことが出来ず、何時の間にか包囲される。そして、そ知らぬ顔で兎音は九峪が答えて欲しいと思う台詞の前半を口にする。

「ああ、わかったよ九峪さん(邪笑)」

(ほっ……って待て!! 何で俺は囲まれているんだ!?)

兎音の言葉に、ほっと胸を撫で下ろそうとしたが、何時の間にか包囲されていることに気づき、逃げ道はないかときょろきょろと辺りを見回す。

そんな九峪の様子に、兎華乃達はますます邪笑を深くして、更なる深みへ落とそうと兎音が口撃を放った。

「ようは私達が居ると我慢が出来ないという事だろ?(ははは、慌ててる、慌ててる)」

「へ?」

「ああ、そういう事か〜! なら私は全然平気だよ〜〜♪(九峪さん、そういう事ならもっと速く言ってくれても良かったのに)」

「そうね、私も九峪さんなら良いわ(ふふふ、紅希さんに散々、からかわれたお返しよ)」

「は? ちょ、ちょっと……」

九峪は、兎華乃達の言葉に戸惑うが、兎華乃達はそんな九峪を見ながら面白がって、更に話を進めていく。

「じゃあ、貴方達、九峪さんに御奉仕して差し上げて♪」

「「は〜〜〜〜い♪♪」」

「なっ!? まままま、待て、待ってくれ!! 俺はそんな事するつもりは無いぞ!!!」

慌てる九峪を余所に、兎音と兎菜美は兎華乃の言葉にとてもイイ笑顔で答えると、九峪の前後から九峪の体へ密着するぐらい近づく。

「うふふ、九峪さん。そんな事言っても駄目だぞ♪」

「そうそう。ほらっ♪」

兎菜美はそう言うと、大きなスイカを九峪の顔に押し付ける。

(兎菜美!? そこまでやる事はないのよ!!)

(えっ!? 兎菜美!? 何やってんだ!?)

後ろから、からかい口調で言っていた兎音は、兎菜美の行動に、兎菜美が自分と姉が、九峪をからかっている事に気づいていない事が分かった。

「ん〜〜。く、苦しい〜〜」

九峪は兎菜美の大きなスイカに顔を挟まれ、息が出来なくなり、口をもごもごと動かす。

「あんっ♪ 九峪さん。そこは食べちゃ駄目だよ〜♪」

兎菜美のスイカのとある部分に、九峪の口が当たったようで、兎菜美は甘い声を上げる。その様子を見ると、兎音は兎華乃に視線を送る。

(姉様どうしよう?)

(仕方ないわ。兎菜美はその気になっちゃってるし……嫌ならこの部屋から出て行けばいいし、どうする?)

(私は……九峪さんなら……)

目の前で行われている、九峪と兎菜美の行為に、兎音は顔を赤くしながら、兎華乃に視線を送る。

(そう。まぁ、私も九峪さんなら……良いかな……)

何気に兎華乃も、顔を赤くして、九峪にスイカのとある部分を咥えられて、甘い声を出している兎菜美を凝視している。

そして、兎音と兎華乃は頷くと、行動に移った。

「兎菜美、次は私と交代だ」

「は〜い♪(な〜んだ。兎音だってシタイんじゃない)」

顔を赤くしながら、兎菜美は兎音の言葉に素直に頷くと、兎音と立ち位置を交代する。

「ぷはっ! おいっ、二人とも、好きでもない男にこんな事……「ほら九峪さん♪」……む〜〜、(柔らかいけど……やっぱり苦しい……)……ん〜〜!!」

九峪の抗議は聞き入れる事無く、顔を赤くして兎音は自慢の大きなスイカに九峪の顔を埋める。

「ふふふ、どう九峪さん? やっぱり九峪さんも大きい方が良いのか?(あ〜九峪さん。そんな目で見つめないで……おかしくなりそう)」

(あ〜段々気持ちよく…………って、駄目じゃん!! と、兎音、は、早くどいてくれ……い、息が)

兎音は九峪の涙目になっている真紅の目に見つめられ、段々とその気になってくる。

ちなみに、九峪の顔色が段々紫色になって、抗議の視線を九峪は送っていると思っている。そして、その目に見つめられ、兎音が更にスイカを押し付けるという悪循環なのだが、九峪は気づいていない。その九峪の様子に気づいて、兎華乃が兎音に声を掛ける。

「ふふふ、兎音、次は私よ」

「わかったよ姉様」

しぶしぶ九峪から離れる兎音。

「ぷは〜〜!! はぁはぁ、もう、いい加減にしてく……「ダ〜〜〜メ♪ 二人だけ楽しんでまだ私は楽しませてもらってないもの」……って兎華乃? 何時の間にそんな体に?」

九峪はやっと開放されて、大きく息を吸い込む。そして、兎華乃達に止める様に言おうとするが、今度は目の前に、兎華乃が妙に大きく成長した姿で自分の前にいる事に気づいて尋ねる。

「ふふふ、どう? 私の能力が高まると体がそれに合わせて成長するのよ。そんな事より、ほら♪」

「そんな事って、うぷっ、(ヤ、ヤバイ!! 連続でこんな事されたら……)」

九峪は、兎華乃の成長した大人の体で、またしても顔を兎華乃の大きくなったスイカに押さえ込まれる。そして、九峪の中で変化が訪れて来た。

―先輩! “理性の獣”と“真紅の獣”がシンクロし始めました!―

―どういうこと? 何故、敵対させていた“理性の獣”と“真紅の獣”がシンクロを……―

脳内で童顔オペレーターと金髪マッドがそんな会話をしている。

(大体、護衛ならすぐ隣の部屋でも兎華乃達なら十分じゃないか。くそっ、何で俺がこんな目に……)

世の男どもが聞いたら、九峪を殴り殺す様な台詞を吐きつつ、九峪の機嫌は悪くなる。この台詞を今、言えばよかったが、生憎顔を押さえ込まれているので、声が出せない。

―おそらく、我慢のし過ぎで、“理性の獣”の限界と“真紅の獣”の限界が同時に上昇し、共鳴しているのではないかと―

「ねぇ〜九峪さん。黙ってないで何か言ってよ〜♪ ほらほら♪」

「んっ、むっ、(くっそ〜何とか言えってこの状況で言えるわけ無いだろ!!)」

すっかりその気になって、完全に頬を赤く染めている兎華乃達は、九峪の中の変化に気づいていない。

―そんな! それじゃあ……―

九峪の脳内では、金髪マッドが、何か分かったのか、酷く慌てる。

―何? 何が起こるの?―

そこへ、作戦部長が尋ねてくる。

(そもそも、何で俺は我慢してるんだ? そりゃ俺はこっちでは神の御遣いだけど、あっちでは旅好きのただの男だったんだぞ)

だんだん“九峪君我慢ゲージ”が満タンに近づくにつれ、九峪の思考に変化が訪れる。

―このままいけば、おそらく……“理性の獣”が暴走し、“真紅の獣”が開放されるわ―

金髪マッドは、何処か諦めた表情でそう呟く。

(それに、こっちの世界では神の御遣いとして振舞わなくちゃいけないから、不意打ちを喰らって何度か危なかったし……。しかも、こっちの女の子達は何故か皆美女ばっかりだろ。そんなの今まで我慢してたんだから俺って凄い?)

何気に自分を褒めているが、逆に、今まで我慢していた事への枷が外れていく。

―なっ!? 何か“九峪君我慢ゲージ”を抑える何か使える物は無いの?―

その事がどれほど大変な事か理解した作戦部長は、金髪マッドに尋ねる。

(そうだよな。こんなに我慢したんだから……。それに、兎華乃達は紅希があんな事言ったのに、こんな事してくるし……これは……良いのか?)

実際本当に兎華乃達はその気になってしまっているので、あながち間違いではない。

そして、そう思うと、九峪の思考は段々危険になってくる。そして、そんな九峪に気づく事無く、兎華乃達は顔を真っ赤にして、九峪の体へ三人でスリスリしたりしている。

(それにしても、兎華乃がこんな隠し技を持っていたとは……。それに、兎音と兎菜美は予想以上の大きさだし……ゴクッ、食べたいな……)

生唾を飲み、兎華乃達を見つめる九峪。

―残念ながら…………―

そう言って俯いて首を振る金髪マッド。

―くっ、なら少しでも抵抗してやるわ―

そう言って意気込む作戦部長に、金髪マッドは諦めた表情で尋ねる。

―もう味方だった“理性の獣”ですら敵なのよ? どうやって抵抗するの?―

―そんな事……―

具体的な抵抗案を思いつけず、言葉に詰まる作戦部長。

「はぁはぁ、どうしたの九峪さん?」

真っ赤な顔で兎華乃は微笑みながら、九峪の耳元で囁く。

そして、その声を聞いた九峪の脳内では……

―先輩!! も、もうゲージが……―

そう言って、童顔オペレ―タ―は、“九峪君我慢ゲージ”が限界に達したのを指差しながら、泣きそうな顔で金髪マッドに報告した。

「私達は、貴方が望むなら……い・い・の・よ♪」

その一言を聞いた瞬間、童顔オペレーターの横に居た、ロン毛オペレータが悲鳴のような声を上げながら報告した。

―“九峪君我慢ゲージ”が限界を突破し、ほ、崩壊しました!! こ、これより“真紅の獣”が開放されます!! さ、更に、“理性の獣”も、ぼ、暴走し始めました!!!―

―総員退避!! 自分の命を最優先に!!―

それを聞いて全員が席を立ち、逃げようとするが、作戦部長に恋するオペレーターが引き攣った顔で報告した。

―ああああ、り、“理性の獣”と“真紅の獣”が、こ、此方に向かってきます!!―

―マズイ!!―

焦る全員を余所に、“理性の獣”と“真紅の獣”はお互いを見合わせて、ニヤリと笑うと、同時に発令所に襲い掛かり、発令所を瞬く間に叩き潰した。

―ぎゃぁぁぁぁぁ―

―うわぁぁぁぁぁ―

―ウォォォォン―

―グォォォォン―

そして、響き渡る叫び声は、たった数分で途絶え、後に残ったのは、発令所だったものと、解放されて喜びの雄たけびを上げる“理性の獣”と“真紅の獣”だけだった。

発令所を叩き潰した“理性の獣”と“真紅の獣”は、自分の体にスリスリしている兎華乃達を見る。

―ターゲットロック、目標一、前方、変身長女、目標ニ、右翼、グラマー次女、目標三、左翼、グラマー天然三女―

―了解。防音フィールド展開―

“理性の獣”が、冷静に“真紅の獣”に目標を報告し、“真紅の獣”は、誰にも邪魔をさせないように防音フィールドを展開する。

―防音フィールド、展開確認。周囲に生命反応無し―

―了解―

“理性の獣”からの報告を聞いた“真紅の獣”は、“理性の獣”に頷くと、行動に移った。





「「「えっ??」」」

“真紅の獣”は凄まじい速さで、兎華乃達を組み伏せる。

―その速さ、光の如く―

そして、何が起こったか分からない兎華乃達に構わず、“真紅の獣”―九峪―はそのギンギンに輝く真紅の目で、目標を射抜く。更に、九峪の体からは赤いオーラが放たれていた。

「ひっ!! くくく、九峪さ、さん? あ、あのね、ちょ、ちょっとした冗談なのよ? ね、ねぇ貴方達?」

「うううう、うん。そそそ、そうなんだ。く、九峪さんの心を癒そうと軽い冗談だったんだ。な、兎菜美?」

「そそそ、そうだよ! それに、私は姉様が言うから仕方なくやったんだよ!!」

九峪の真紅の目に射抜かれて、兎華乃達は悲鳴を上げて、言い訳をする。

「兎菜美!! 貴方、何自分だけ良い子ぶってるのよ!? 貴方が始めに九峪さんに迫ったんじゃない!!」

「そ、それだって姉様が言ったから私がやっただけだもん! それに兎音だってすぐに代われって言ってきたじゃない!!」

「なっ!? 何を言ってるんだ!! あれは九峪さんがお前の胸で苦しそうにしていたから、私が助けようとしたんだ!!!」

「そんな事言って、兎音だって九峪さんの顔に押し付けてたじゃんか!!」

「た、確かにそうだが、けど、元はといえば姉様が……」

「何ですって〜!! 全部私の所為だとでも言うの!!」

九峪に組み伏せられたまま、兎華乃達はお互いに罪を擦り付ける。しかし、誰が悪いとかではなく、既に“真紅の獣”は全員を目標にしている訳で……。

「お前ら……そんな事はどうでもいいんだよ」

「え? そんな事って……九峪さん?」

“真紅の獣”の言う事に、兎華乃が尋ねるが、もちろん“真紅の獣”には聞こえていない。そして、独り言のようにぶつぶつ呟く。

「そう、そんな事はどうでも良い。俺は……」

そこまで言うと一旦止める“真紅の獣”。

「「「俺は?」」」

律儀にも、兎華乃達は一々聞き返す。そんな事を言っている暇があるのなら逃げれば良いのに……。

そして、“真紅の獣”は待ちに待ったお食事タイムと言わんばかりに目を輝かせ……。

「俺は……お前達全員を食べるんだからな―――――――!!!!」

目の前に居る哀れな三人の兎さん達に襲い掛かった。

「「「きゃぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜」」」

兎華乃達は悲鳴を上げるが、誰も来る気配はしない。それは何故か? 先程の“理性の獣”とのやり取りでもあった様に、“真紅の獣”の特殊能力で、部屋に防音フィールドを展開しているからだ。

そして……哀れな兎さん達は……。

「あ、あん!! く、九峪さん!! す、凄い〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」

「ああ、そ、そこは〜〜〜!!!」

「あん!! そ、そこは、だっ、駄目〜〜〜〜〜〜!!!」

「く、九峪さん。ちょ、ちょっと休憩を…………きゃ!!」

「まだまだ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

「「「ああ〜〜〜〜〜〜もう駄目〜〜〜〜〜〜〜」」」

そして、その部屋では一晩中兎さん達の嬌声が響き渡り、甘い叫び声と何かを懇願するような声が絶え間なく続いたそうな。







あとがき

どうも蒼獅です。第二十九話如何だったでしょうか?

今回は九峪君が暴走し、“真紅の獣”が開放され、兎さん達は美味しく食べられてしまいました(笑)

九峪君の“真紅の獣”が開放されてしまい、数と戦力の差があるにも関らず、圧倒的な勢いで押され、兎さん達はなす術も無く敗北しました。

まぁ一月以上の我慢に、あんな事をされたら堪らんでしょ? 次回から兎さん達は九峪君への対応が変わると思いますが、それは置いといて……。

次回は、翌朝、九峪君が目を覚ますと…………。

宜しければ感想掲示板に意見や感想、指摘などをお願いします。

では今回はこれにて失礼します。