火魅子伝 居場所 第30話(改訂版) (H:小説+マンガ+オリ M:九峪・兎華乃・兎音・兎菜美・紅希・姫由希 J:シリアス) |
- 日時: 05/12 11:30
- 著者: 蒼獅
- ―翌朝―
暖かい光が、九峪の居る部屋を照らし、その光が九峪の顔に当たる。その光を、眩しそうに九峪は手を上げて遮ろうとする。
(あれ? 何で腕が動かないんだ?)
左右どちらの腕も少ししか動かせない事に気づいた九峪は、もう一度両腕を動かしてみる。
―もぞもぞ―
「んっ、……あっ……」
「あんっ……」
なんとか腕を動かしてみると、九峪の両脇から甘い声が聞こえる。
(ん? 何だ、いったい?)
まだ寝ぼけているのか、九峪は更に腕を動かす。
―もぞもぞ、ムニュ、ムニュムニュ―
「んっ、あっ、駄目……」
「あんっ、ご主人様〜」
柔らかな感触を持つ何かを掴んだ九峪は、それを遠慮なく揉みまくる。その度に、両脇から甘い声が聞こえて、なにやらご主人様などと呟いているが、九峪はその感触を揉んでいるうちに、やっと目を覚ましてきた。
(あ〜俺は昨日は魔人と戦った後、去飛の街へ戻って、その後美禰の街に本拠地を移すから移動したんだよな。で、その後俺は疲れたから部屋に入って寝たよな? ………………マズイ、その後のことが思いだせん!! この状況からすると……)
九峪は周りを見ると、部屋の隅に兎華乃達が着ていたと思われる服が置かれており、そして、今気づいたが、左右に自分の腕を抱え込んで眠っている兎音と兎菜美。更に腰に抱きつきながら兎華乃が眠っている。
そして、お互い身に纏っている物は無く、兎華乃達の体には、あちこちに何かに吸われた様な痕がある。更に、布団には、血が……。
此処まで状況を把握すると、嫌でも結果は出てしまう。
(つまり、俺は昨日の夜、兎華乃達と一線を越えたのか)
そうとしか考えられない状況に、九峪は自己嫌悪に陥った。
(はぁ〜最近、我慢のしっぱなしだったとはいえ、此処までするとは…………しかも三人も同時に……)
そんな事を考えていると、腰に抱きついて眠っている兎華乃が身動ぎした。
「うっ、う〜ん。あれ? 此処は……」
「お、おはよう。と、兎華乃」
目を覚ました兎華乃(少女体型)に、九峪はとりあえず挨拶をする。
すると、兎華乃は九峪に笑顔を浮かべて……。
「あ、ご主人様。おはよう御座います」
メイドの様な言葉使いで挨拶を返してきた。
「は?」
その言葉使いに、九峪の思考が停止する。
「ご主人様。朝のご奉仕ですね? ほら、兎音、兎菜美、早く起きなさい」
「う〜ん。ご主人様〜〜」
「ん〜もっと〜〜」
思考が停止している九峪を余所に、兎華乃は兎音と兎菜美を起こす。兎音と兎菜美は、寝言を言いながらも、目を擦りながら上半身を起こす。
「ほら、ご主人様が待ってるわ。早くしなさい」
「は〜い。ご主人様〜」
「……はっ! と、兎音!? んっ、ちゅ……」
思考が停止していた九峪が戻ってくると、兎音が既に九峪の顔を抑えて深い口付けをしてきた。
「私も〜」
「ぷはっ、と、兎菜美まで!? ま、待って……ちゅ、んっ……」
兎音との深い口付けを終えたと思ったら、今度は兎菜美が深い口付けをしてくる。
(うっ、ヤバイ!!)
「あら、ご主人様。ご子息が起きたのですね? では私が……」
「ぷはっ……ちょ、ちょっとストップ!! ま、待ってくれ三人とも!!」
兎華乃が息子に近づいていくのを見た九峪は、慌てて兎菜美を引き剥がして、兎華乃達から離れる。
「どうなされたのですかご主人様? 私達に至らぬ所が御座いましたか?」
「いや、そういう事じゃない。その……ご主人様ってのはいったい何だ?」
「何だ? と仰られても、昨晩、私達に俺の事はそう言えってご主人様が……」
兎華乃の言葉に、九峪は昨晩の事を思い出そうとする。
(ふふふ、お前達……)
邪悪な笑みを浮かべながら、九峪が兎華乃達を見詰める。
(九峪さん。も、もう駄目〜) (も、もう許して〜〜)
もう限界とばかりに荒い息をついている兎華乃と兎菜美が九峪にそう言うが、九峪首を横に振りながら答える。
(もう駄目? 何を言ってるんだ? これからが本番じゃないか)
(こ、これからが本番!?)
九峪の言葉に、兎音は引き攣った声を上げる。
(当たり前だろ? お前達は俺にご奉仕してあげてって言っただろ? なら、ご奉仕するなら俺の事は“ご主人様”って呼ぶのは当然だよな)
そう言いながら、九峪は再び襲い掛かった。
そこまで思い出し、九峪は頭を抱える。
(マズイ! 確かに言った様な気がする。どうする? こんな呼ばれ方を幹部達に聞かれたら……)
九峪は、顔面蒼白になりながら考える。
(九峪様!! 私というものがありながらっ!!)
膝をついて泣き崩れる王族の巫女。
(九峪様、貴方がそんな方だったなんて……)
悲しい顔をしながら、目に涙を溜める乱破頭。
(九峪様!! ……を泣かした罪、償ってもらいますぞ!!)
あ〜美しきは親子愛? 娘を泣かせた九峪に憤慨する元副国王。
(ほら、神の御遣いって言っても所詮は男。こんなスケベな男に……がついていく事なんて無いよ)
冷め切った目で人形遣いが白拍子に言い切る。
(そうね。私達が必死で戦ってる時に、そんな事をしていたなんて……)
人形遣いに賛成しながら侮蔑の言葉を放つ白拍子。
(結局は神の御遣いって言っても男か〜。……どう思う?)
呆れた口調で尋ねる山人の乳姉妹の槍遣い。
(さぁ? 私には関係ないからな。でも……)
あっさりとした口調だが、呆れた顔をする山人育ちの王族。
そして、全員で声を揃えて……。
(九峪様最低!!)×(全員)
と大声で叫んだ。
「うわぁぁぁぁぁ!!!! お、俺は……な、何て事を……」
「「「ご主人様!?」」」
頭を抱えて急に叫び声を上げた九峪に、兎華乃達は慌てて駆け寄る。
「く、来るな!!」
九峪の叫び声に、兎華乃達はビクッと体を震わせる。
「あ、ゴメン。ちょ、ちょっと気が動転してて……」
兎華乃達が悲しそうな顔で此方を見るのに気づいて、九峪は謝る。しかし、兎華乃達は悲しい顔のまま、口を開く。
「申し訳ありません。私達なんかをお抱きになったので、機嫌が悪いのですね?」
「え? い、いや、そんな事は無い!!」
「でしたら何故……」
困惑顔の兎華乃達に、九峪は話す。
「兎華乃達が悪い訳じゃないんだ。俺が、俺が兎華乃達にあんな事をしなければ……」
「ご主人様。それは違います。元はといえば、私達がご主人様をからかったりなどせず、素直に部屋から出ていれば……」
兎華乃がそう言うが、九峪は首を横に振りながら答える。
「いや、それでも俺が我慢できなくて兎華乃達を抱いたのは事実だ。責任は取る。けど、都合の良い事を言うが、俺は耶麻台国を復興させるのが目的だ。だからこんな事を言うのは悪いとは分かっているけど……」
「わかりました。私達がご主人様とお呼びするのを、幹部達などに聞かれると、要らぬ噂が立ってしまい、行動に支障が出るという事ですね?」
「ああ。だから俺の事はご主人様では無く、九峪って呼んでくれ。頼む」
九峪はそう言いながら頭を下げる。そんな九峪に、兎華乃達はお互いを見合わせて、頷く。
「わかりました。これからは“九峪様”と呼ばせていただきます」
「あ〜出来れば口調も元に戻して欲しいんだけど……」
「何故です? 私達は耳を隠せば人間に見えます。それに、九峪さんなどとお呼びすれば、何かと疑われると思いますが?」
「あ、そっか。じゃあ皆が居る時はそう言う風にしてくれ。この戦いが終わり、俺の役目が終わったら、ちゃんと責任はとる。“約束”する」
約束の部分を強調させて九峪は真剣な顔で兎華乃達を見つめる。
「九峪様……分かりました。しかし、九峪様は真の敵をご存知なのですか?」
真剣な九峪の顔に、頬を赤らめながら、兎華乃は頷くと、九峪に尋ねる。
「ああ。紅希の記憶を見せてもらったし、詳しい事は、後で紅希に直接聞くつもりでいるから」
「そうですか。わかりました。魔人や、魔獣に関しては私達にお任せください」
「ちゃんと守ってみせるよ」 「私も〜ご主人様の為に頑張るよ〜」
兎華乃にまだ話を聞いていない兎音と兎菜美も、九峪の為にと答える。
「兎華乃、兎音、兎菜美……ありがとう」
九峪はそう言いながら、兎華乃達をそっと抱きしめた。
「「「あ……九峪様」」」
その抱擁は、昨晩のような欲情からの抱擁ではなく、柔らかく包み込むような抱擁だった。
「じゃあ、そろそろ服を着よう。それから朝食を食べて、俺は紅希に話を聞きに行ってくる」
「わかりました。貴方達には私の知っている事を教えるわ」
「わかったよ」 「は〜い」
“何故か”二時間後に、九峪はそう言いながら服を着始める。その様子を見た兎華乃も、兎音と兎菜美にそう言うと自分の服を着始めた。
ちなみに、兎華乃達の体には真新しい吸い付いた後が幾つかあった。
そして、着替えが終わると、四人で朝食をとり、九峪は紅希の所へ意識を沈め、兎華乃はその様子を見た後、兎音と兎菜美に自分が知っている事を話し始めた。
―精神世界―
「来たか……」
紅希はそう呟いて九峪の方を見る。
「紅希……」
「雅比古……」
九峪は、紅希を真剣な表情で見つめる。対する紅希も、めったに見せない真剣な表情で見つめ返す。そして、紅希は真剣な表情のまま九峪に尋ねた。
「雅比古………………兎華乃達は美味しかったか?」
―ブチンッ―
「死ね――――!!!!!」
真剣な表情でそう尋ねた紅希に、九峪はブチ切れると、神速で炎の御剣を振るう。
「うおっ!! 危ないじゃないか!!!」
咄嗟に左に避けた紅希は、怒りの形相で炎の御剣を振るう九峪に抗議する。
「うるせぇ!! 真剣な顔してふざけた事抜かす紅希が悪い!!」
続けて九峪は下から炎の御剣を振るい、更に蹴りを繰り出す。
「何を〜〜! 昨晩、あんなに激しく、貪る様に兎華乃達を食べといて、しかも、さっきもあんなに食べといて、感想は無しか!?」
九峪の炎の御剣を自分の手に持つ炎の御剣で受け止め、蹴りをサイドステップで回避しながら、紅希は叫ぶように尋ねる。
「!!! そんなもん極上に決まってるだろ!!」
九峪はその問いに、顔を真っ赤にして大声を上げ、炎の塊を紅希に向けて放つ。
「ほ〜ら、やっぱり美味しく食べたんじゃないか!!!」
紅希は、向かってくる炎の塊を同じく炎の塊を出現させて相殺し、何故か勝ち誇ったような笑みを浮かべて九峪に言い切る。
「くっ、兎華乃達とは話はついたんだ。それより、俺が此処に来た意味、分かってないとは言わせないぞ?」
そんな紅希に九峪は諦めたように炎の御剣を下げると、尋ねる。
「……わかってるよ。で、お前は何処まで俺の記憶を見たんだ?」
「蛇渇と紅希が戦う寸前までだ」
「そうか、じゃあそこから見るか」
そう言うと、紅希は記憶を写し始めた。
―紅希の記憶―
「今にその笑い声を消してやるよ。覚悟しろ蛇渇!!」
「はっ、覚悟するのは……貴様の方だ紅希!!」
お互いの名を叫び、嘗ての親友であった二人は激突した。
戦いを始めた紅希と蛇渇から魔人達は離れて、既に魔人達と戦っている姫由希の方に向かって行く。
「滅びなさい、浄魔炎滅呪!!」
姫由希が叫んで、青白い炎の塊を魔人達へ放つ。その大きさ、速さ、威力、その全てが、あの廃神社で見た星華と亜衣が放った浄魔炎滅呪より、姫由希が放った浄魔炎滅呪の方が、遥かに上だった。
姫由希が放った青白い炎の塊は、魔人達を尽く消滅させる。一度に、百以上の魔人達が消滅するが、それでも魔人達の数は余り減ったようには見えない。
「ガァァァァァァッ!!」
「ゴァァッ!!!」
そして、その数にものを言わせて、魔人達は一斉に姫由希に襲い掛かる。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
「ギャァァァァ!!」 「ギョェェェェェ!!!」
姫由希は、向かってくる魔人達に、方術と体術を組み合わせて、次々と屠っていく。しかし、やはり数は力といったところで、姫由希の動きが鈍くなってくる。
そこへ、好機と見たのか、魔人達が四方八方から押し寄せる。
「はぁはぁ、炎龍、行きなさい!!」
荒い息を吐きつつも、姫由希は、龍を形作った炎に命令する。すると、炎はまるで意思を持っているかのように、姫由希に押し寄せてきた魔人達から、姫由希を守るように高速で円の動きをしながら、魔人達を燃やし尽くしていく。
「はぁはぁ、あと、もう少し……」
殆どの魔人達が炎龍に焼き尽くされて、残すところ後僅かのところまで来た。
此処まで来ると、魔人達にも怯えが走る。なにしろ、天空人とはいえ、たった一人に、五百以上もの魔人達が倒されているのだ。怯えるのも無理は無いだろう。
しかし、そんな魔人達だろうと、姫由希は慈悲を与える気は無い。姫由希は両手を魔人達に向ける。
「はぁはぁ……これで、最後よ。我、姫由希の名において命ずる、我が炎よ、今こそ一つの形を成し、我が眼前に立ち塞がる魔の者に滅びを与えよ! 浄魔滅却炎龍破!!!」
姫由希の両手から、凄まじい量の炎が放出され、次第に巨大な龍の形を作り上げる。
―グォォォォォォン!!!!!―
巨大な龍の形が完成すると、龍は雄たけびを上げるように大きく口を開けて、魔人達へと光の如き速さで突き進んでいった。
―ギャァァァァァァ―
―ガァァァァァァァ―
叫び声や、悲鳴を上げる魔人達。そんな魔人達に、龍は問答無用とばかりに襲い掛かり、遂に全ての魔人達を滅ぼした。
そして、魔人達を滅ぼした龍は、役目を終えたかのようにスッと消えていった。
「はぁはぁはぁはぁ、…………紅希様」
荒い息をついて倒れそうになる体を支え、姫由希は蛇渇と戦っている紅希の方を見る。
そこには、激しい戦いにより、血まみれになった紅希と、同じく血まみれになっている蛇渇。そして、その蛇渇から闇が溢れており、数十個の大きな闇の塊が蛇渇の体の周りを漂っていた。
あとがき
どうも蒼獅です。第三十話如何だったでしょうか?
今回は朝の兎華乃達との話と、精神世界での紅希との話。そして姫由希の様子までお送りしました。
まだまだ紅希の記憶の話は続きます。
次回は、姫由希が魔人達と戦っていた時の紅希と蛇渇との戦いをお送りしようと思います。
宜しければ感想掲示板に意見や感想、指摘などをお願いします。
では今回はこれにて失礼します。
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