火魅子伝 居場所 第31話(改訂版) (H:小説+マンガ+オリ M:紅希・蛇渇 J:シリアス)
日時: 05/19 16:07
著者: 蒼獅


―姫由希が魔人達と戦っている頃―

「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

「おぉぉぉぉぉぉっ!!」

紅希と蛇渇の戦いは苛烈を極めていた。

「はぁっ!!」

紅希は炎の御剣で、蛇渇を真っ二つにせんと神速で振り下ろす。

「甘いわっ!!」

しかし、その速さでも、蛇渇にはしっかりと見えているようで、己の剣で受け止めると、蹴りを放つ。

「そっちがなっ!!」

紅希は予想していたように蹴りを屈んで避けると、下から炎の御剣を振り上げる。

その紅希の攻撃を蛇渇は後ろに下がりながら避け、掌を紅希に向ける。

「禍し餓鬼!」

「くっ!」

迫り来る闇の塊に、紅希は咄嗟に右に避ける。

「くくく、どうした紅希? お前の力はその程度ではないだろう?」

(くっ、あの左道が厄介だな……)

蛇渇が紅希に笑いながら話し掛ける。しかし、紅希は蛇渇の言葉には耳をかさず、内心で愚痴る。

(蛇渇の剣の腕は俺より若干下、しかし、蛇渇には左道がある。俺には左道に対する対抗手段が炎の御剣で相殺するか避けるしかない……くっ、せめて左道さえ使えなく出来れば……)

紅希は、内心でそんな事を思うが、蛇渇はまだ本気を出していない事が分かっていた。

「どうした紅希? 私が一々術の名を唱えているのだ。もう少し頑張ってもらわねば……」

蛇渇は大げさに肩を竦めて見せる。

そう、今の蛇渇は左道を放つのに必要な詠唱や、術の名を一々言う必要は無い。

それは何故か?

蛇渇にとっては、左道は既に息をするのと同じくらい当たり前に出来る事だからだ。

紅希は、そんな蛇渇の態度には惑わされず、蛇渇の中にある、“人間”と“魔の者”との境界線を探すのに必死になっていた。

(くそっ、姫由希にはああ言ったが、境界なんて何処にあるんだ?)

紅希は蛇渇の体の何処に、境界があるのか分からず、焦る。

「ふむ……だんまりか……まぁいい。今度は此方から行くぞ!!」

焦る紅希に、今度は蛇渇が攻め込んできた。

「はっ!」

動きにくそうなローブの様な物を纏いながらも、その動きには無駄が無い。蛇渇は、紅希の腹部へ向けて自身の持つ、禍々しい気配を放つ魔剣を一閃する。

「(ちっ)はぁ!」

紅希は、内心で舌打ちを打ちながら、蛇渇の剣を受け止める。しかし、そこへ蛇渇が剣を握っていない方の左手を紅希に向けた。

(マズイ!!)

「禍し餓鬼!」

至近距離から放たれ、紅希は咄嗟に左腕で顔を庇う。

「ぐわっ!!」

しかし、そのあまりの威力に、紅希は後ろに飛ばされてしまう。

「ははは、無様だな紅希。あの時のお前はもっと強かったはずだが……ぬるま湯に浸かり過ぎたか?」

紅希の姿に、笑い声を上げ、何処か失望したような表情で呟く。

「ぬるま湯……だと?」

その呟きを聞いた紅希は、蛇渇に聞き返す。

「そうだ。魔天戦争が終わり、人間界には平穏が訪れた。貴様は、そのぬるま湯の様な平穏に身を置きすぎたと言ったのだ」

「俺は? じゃあお前は今まで何をしていた? 俺と別れた後何があった?」

蛇渇の言いように、自分は浸かっていないと言っているように聞こえ、紅希が尋ねる。

「何があった……か。そうだな、冥土の土産に聞かせてやろう。私に何があったのかを…………」

蛇渇はそう言うと、語り出した。





―蛇渇の回想―

時は魔天戦争時。

紅希と蛇渇がまだ親友で、お互い共に魔人達と戦っていた頃。

「…………しかし!!」

「だが…………ないだろう」

「だったら…………」

「駄目だ。それでは…………」

何処かで、二人の男が話をしている。周りには小さい天幕が複数張られ、中から寝息が聞こえてくる。

二人の男は、どちらも若い。おそらく、十五から十六くらいの精悍な顔つきをした青年達だ。

この二人の名は、紅希と蛇渇。周りに張られている天幕の中に居る人たちの、リーダー的な存在だ。

そんな二人は、何かを言い争っている。

「蛇渇。それではお前達が……」

紅希は、蛇渇にそう言うが、蛇渇は承知していると頷く。

「わかっている。しかし、こうすれば少なくとも紅希達の方は生き残れる」

「けど、そんな事をしなくても皆で力を合わせれば良いじゃないか」

紅希は蛇渇の言葉に、反論するが、蛇渇は首を横に振る。

「駄目だ。あの魔人には左道を使える私や、私の部下達しか対抗できん」

「何でだ? あの魔人はそこまで強いのか?」

「違う。あんな霧の様な形をしていては、通常の魔人達の様に、剣など効かん。それに、奴は人や魔人達の体を乗っ取る事が出来る。もし、お前が乗っ取られたら、誰がお前を止める? この中で最強のお前を」

「…………」

蛇渇に、魔人の特性を教えられ、紅希は黙る。確かに、今まで戦ってきた魔人達は、みんな実体を持っていた。だから戦えたが、自分達の武器が効かないのであれば、単なる足手纏いにしかならない。

「分かってくれ紅希。私はより多くの者が生き残れる様にこの方法を選んだのだ」

苦い顔をしている紅希に、蛇渇は諭すように話す。それに、紅希は沈黙の後、頷いた。

「…………わかった。だが、必ず戻って来い。約束だ」

そう言いながら、紅希は蛇渇に右腕を挙げる。

「ああ、約束する」

蛇渇も、紅希の様に右腕を挙げて、お互いの拳をコツンとぶつけた。



そして翌日、蛇渇と蛇渇の部下達が、張り巡らしていた結界を一部解除して、紅希達を行かせると、今度は、紅希達の方へ行かせないように結界を張り直す。その作業が終わると、蛇渇は部下に話し掛けた。

「よし、お前達は結界の維持に専念しろ。あの魔人達の相手は私がする」

「はっ!」

蛇渇の言葉に、部下達は鋭い返事をすると、結界の一部を解除した。

解除した結界の一部から、霧のようなものが入ってくる。そう、この霧こそ、昨晩紅希と蛇渇が話していた魔人達である。

昨晩は結界が張ってあったので、中に進入することが出来なかったが、結界を解除したので、入ってきたのだ。

周りに居た霧が全て中へ入ってきたのを見ると、蛇渇が合図を出す。

「よし、今だ!!」

「はっ!!」

蛇渇の声に、部下達は一斉に術を唱えて、解除していた一部の結界を修復し、霧を中へ閉じ込め、部下達は自身の周りにも、結界を張る。

外に出ようと霧が激しく動き回るが、そんな事をしている内に、蛇渇の左道が炸裂した。

「くらえ! 死魔烈刃!!」

放たれた左道は、複数の闇の刃となって霧に襲い掛かる。

―ザクッ―

闇の刃に斬られた霧が、二つに分かれて、消えていく。

その調子で、次々と霧を消していくと、残った霧が一箇所に集まった。

それを見た蛇渇は、好機と見て、特大の左道を放つ。

「ふんっ、纏めて消してやる! 破魔滅刃!!」

巨大な闇の刃は、一箇所に集まった霧に命中し、霧は次第に消えていく。

(殺ったか?)

消えていく霧を見ながら、蛇渇は油断せず身構える。そこへ、蛇渇の部下達の悲鳴が響き渡った。

「ぎゃぁぁぁぁぁ―――!!!」

「うわぁぁぁぁぁ―――!!!」

「じゃ、蛇渇様―――!!!」

「た、助け…………げほっ!!!」

「お前達っ!!」

慌てて蛇渇は部下達を見ると、部下達は何かに捕らわれて身動きがとれずに居た。しかも、その拘束は段々強まり、そして、部下達は全員潰されるようにして息絶えた。

「馬鹿な!? あの結界を抜けたと言うのか!?」

蛇渇は、部下達には結界を自分の周りにも張らせていたのに、何故襲われたのか分からずにいると、何処からか声が聞こえてきた。

「カカカ、あの程度の結界など、我に掛かれば赤子の手を捻るものよ」

「誰だ!!」

聞こえてきた声に、蛇渇は怒鳴る。しかし、相手はそんな蛇渇をどこからか見ているのか、愉快とばかりに笑い声を上げる。

「カカカカ、あの魔人達すら倒すその左道の腕前、気に入ったぞ」

「ふざけるな!!」

「ふざけてなどおらんよ。お主の腕前はとくと見させてもらった。実に素晴らしい」

その声は、そう言うと、蛇渇の前に姿を現した。

その者は、骸骨顔で、全身は闇色のローブの様な者を纏っているので、体がどうなっているのかは分からないが、蛇渇はその者から溢れる魔力と血の臭い、そして、その存在感に冷汗を流した。

(な、何だコイツは!? 他の魔人達と桁違いじゃないか!? 上級魔人でもこんな奴は居なかったぞ……)

蛇渇は、過去に戦ってきた魔人達と比べ、今、目の前にいる者が、今まで戦ってきた魔人達とは次元が違う事に、驚愕する。

その者は、そんな蛇渇を余所に、話を進める。

「お主の力は素晴らしい。それに、この体もそろそろ代えねばならんのでの。その体、そしてその力、我が頂くぞ」

「なっ!? そんな事させるか!! 破魔滅刃!!」

動き出そうとしていたその者に、蛇渇はありったけの力を篭めて左道を放つ。

しかし、霧の魔人を倒した闇の刃は、その者の体に当たっても、何の効果も無しに、霧散した。

「なっ!?」

「ふむ。やはり見込んだとおり、この我の体に届くとは……」

自分の左道が当たっても何の効果も無い事に驚愕する蛇渇に、その者は感嘆したように頷き、そして……。

「遊びは無しだ。お主を頂こう」

そう言いながら、一瞬で蛇渇の背後に回り、蛇渇の体に溶ける様に蛇渇の体の中に消えていった。

「なっ!? くそっ!! 私の体から出て行け!!」

背中を掻き毟る様な動作をしながら、蛇渇は怒鳴るが、そんな蛇渇の脳裏に耳障りな声が聞こえた。

(カカカ、そう言うな。この我が見込んだのだ。そう簡単に手放す訳が無かろう)

「ぐっ、ごほっ!!」

(ほう。自ら死を……だが、甘いぞ。我が入る前にやればよかったがの。今のおぬしの体は我の物でもある。そんな事をしても無駄だ)

蛇渇が自分の舌を噛んで死のうとしたが、そんな声が聞こえてきて、一瞬で舌の傷が治った。

「くっ、くそ―――!! こうなったら……死魔烈刃!!」

蛇渇は傷が治された事に悔しがるが、次の瞬間決意したように、左道を放った。

(ぬっ、お主!!)

そう、自分の体に……。

―ザクッ、ブシャ、ボトッ―

「がぁぁぁぁぁっ―――――!!!!! くっ、燃えろ!! 禍し炎!」

蛇渇は、放たれた左道で、己の両手、両足、を斬り飛ばして絶叫を上げるが、続けて口から闇の炎を吐き出して斬り飛ばした両手、両足を燃やし尽くす。

「ふっ、これで治す事は出来まい……(紅希、すまない)」

両手、両足をなくし、地面に大量の血を撒き散らしながらも、蛇渇はしてやったりといったような顔をして、内心で紅希に謝り、地面に倒れる。

(くっ、お主を侮りすぎたか……)

そんな蛇渇に、蛇渇の中に入った者は、感嘆ともとれる呟きをすると、すぐに両手、両足の切断された部分を止血して、ぶつぶつと呟くとその場から姿を消した。




そして四年後、魔天戦争は終結した。

魔天戦争が終結したことにより、天界と魔界の扉は閉ざされた。そして、扉が閉ざされてしまったため、魔界から送られる力が無くなり、人間界に残っていた魔人や魔獣達は、殆どが死んでしまったのだ。

魔天戦争後、魔人や魔獣達にとっては、人間界に居る事は、以前まではただ、人間を食う場所としか認識されていなかったが、これからは呼ばれない限りは行こうとは思わない場所になったのだ。

何故、呼ばれると応じるのか? 

それは、術者との契約によって、魔界に居る時よりは、力は落ちるが、人間界の空気が合わないなどの理由で死ぬ事が無いからである。

もちろん、術者が死ねば契約が切れるので、切れたら人間界の空気に合わない魔人は死んでしまうが……。

ちなみに、魔兎族は、高麗人参によって、魔界に居る時と同等の力を振るうことが出来る。更に、今では兎華乃達は、殆ど高麗人参が無くても魔界に居る時と同じ力を振るう事が出来るのだ。(兎華乃による地獄の特訓の成果です)

話がそれたが、魔界の扉が閉ざされた事で、蛇渇の中に入っていた者も力が落ちた事もあり、蛇渇の体を奪ってから約十年間、蛇渇が斬り飛ばした両手、両足の治療や、体を奪われても魂で抵抗していた蛇渇の所為で、満足に動く事が出来ずに居た。

そして、蛇渇の中に入った者は、十年以上の治療と、完全に消す事が出来ずにいた蛇渇の魂を封じ終えると、新たに得た蛇渇の力を試す為に、各地で破壊の限りを尽くす。その時、その者は知らなかったが、蛇渇の魂を封印している結界に、予定外の事態が発生していたのだ……。







「そして、私は各地で力を試した後、蛇渇の魂を封じた時に見た記憶から、貴様の事を思い出した。そして、貴様の様子を探っている時に、貴様とあの女の力、更に、貴様らの力を色濃く受け継いでいる幼子が貴様らの力をはるかに超える凄まじい力を秘めている事に気づき、貴様らの力を奪おうと、こうして今、此処に居るのだ」

そうして、蛇渇が語り終える。

「どうした? お前が聞いたから教えてやったのだ。感想はどうだ? 美しい友情じゃないか。親友達を助ける為に、自らが犠牲になる。その結果、自分の体は魔人に奪われ、今、親友の力を奪おうとしているがなっ!!!」

「…………」

蛇渇は、実に愉快だと言わんばかりに、大声を上げて笑っている。しかし、紅希は何も言わずに沈黙している。

「何だ、何か言ったらどうだ? 黙っていてはつまらんぞ」

蛇渇は黙っている紅希にそう言うが、紅希は一向に喋る気配を見せない。

「ふむ……どうしたものか……」

顎に手を乗せて、考える仕草をする蛇渇。

「ふざ……な……」

「ん? 何だ?」

「……けるな……」

「何だ、もっとはっきり言え」

ぼそぼそと呟く紅希に、蛇渇は苛立った声を上げる。

「ふざけるなよ手前ぇ―――――!!!!!!!」

―ブチッ、ブチブチ、ブツン―

紅希の中にあった線が、今、音を立てて全て切れた。

紅希の感情に、炎の御剣が応えるように、凄まじい炎を放出する。

その炎の熱風で、蛇渇は後ろへと後退する。

「カーカカカカ、親友を穢されて怒ったか? カカカ、愉快じゃ。やはり人間にはその負の表情が一番似合う。そしてその力、ますます欲しくなったわ。お主の力、是が非でも頂くぞ!!」

先程までの喋り方を止め、蛇渇の体を乗っ取っている者は、紅希の周りに渦巻く炎を興味深そうに見詰めながら言い放つ。

紅希は、今自分が嘗て無いほどに怒っている事を実感した。しかし、怒りだけでは奴を倒すことは不可能だ。

今まで、嘗ての親友として話していた事が、全てあの、蛇渇の中に居る者の演技だったと分かった時は、腸が煮えくり返る思いだが、それに身を任せてはいけない。

(蛇渇。お前は……そこに居るのか? 居るなら答えてくれ!!)

紅希は、祈るように、心の中で蛇渇へ呼び掛ける。

すると、笑い声を上げている蛇渇の体の一部が一瞬光った。

(蛇渇、お前はまだ戦っているんだな。なら、俺が必ず救って見せる!!)

「貴様は、必ず殺す!!」

「カカカカ、我を殺すなどお主には出来んじゃろ? なにせこの体は、お主の親友の物なんじゃからの」

(落ち着け、奴の隙を見てあそこへ一撃入れれば、姫由希が何とかしてくれる)

蛇渇の体で、その声で、カカカ、と笑う。その笑い声さえ聞くだけで胸糞が悪くなる。しかし、ここは耐えねばならない。

「(大体の場所はわかったんだ。なら、後は……)貴様!! 何時までも笑ってんじゃねぇぞ!!!」

紅希は、蛇渇を救う為に、再び向かって行った。





あとがき

どうも蒼獅です。第三十一話如何だったでしょうか?

今回は前回の続きで、紅希と別れた後の蛇渇の過去についてお送りしました。蛇渇の過去などは、私のオリジナルですので、ご了承を。

さて、次回も今回の続きです。

宜しければ感想掲示板に意見や感想、指摘などをお願いします。

では今回はこれにて失礼します。