YUKIGUNI 6(H:オリ、清瑞など M:九峪・伊雅・清瑞・オリ・亜衣など J:シリアス傾向)
日時: 06/09 17:57
著者: スピンヘア

「貴族は兵力を確保するため、奴隷を市民とする。市民は権利を拡大しやがて貴族に。そして、その貴族はかつての自分達に滅ぼされる。その繰り返しが人類史である。その流転を阻止する制度が民主主義であり、目的が達成されれば民主主義は形骸化する。それは当然の流れだ」
「なんだそりゃ?」
「投票率の低い理由よ」
―――青山雪と久峪雅比古の会話

10
「なりませんぞ!!」
という伊雅さんの大喝にびっくりして何人かがその場を振り返る。相手は九峪っちで腕を組んで憮然としている。いや、あれはすねているのか?

「いかに神の遣いであらせられても、こればかりは譲れません。直接戦に出られて怪我でもされればどうされます。いや、仮に大事にでもなられれば」

そういって九峪っちが主張した「俺も戦うわ」発言を一蹴する。

さすが伊雅さん、この場で九峪っちをとめられるのはアンタだけだよ。そしてそれはあたしの考えとも一致する。

「そうよ、九峪っち。あんたいくらこっちに来てから剣の練習をしたっていってもまだ知れてるでしょ?」
今回はあきらめなさい。

しかしその発言に対して怪訝な表情を返す人間もいた。清瑞ちんだ。

清瑞ちんは言っていた。

『九峪様はもともと剣を振っていたことがあるのでしょうね。型はできています。ここ何日かでずいぶん練習されていたようで戦に出ても後方におられるなら問題はないと思われます』

私もこう答えたのだ。

『そう、なら出しましょう』と。

だけど、まだ、あからさまな出兵は控えるべきなのだ。まだまだ、知られるわけにはいかない。

まさか、神の遣いが、火魅子候補よりも手柄を多く立てて、兵を掌握して、権力を簒奪しようとしている、などと、まだまだ、知られるわけにはいかないのだ。

だから、今回は、『後で』出る。

今回の戦争が、当麻攻略戦がすんなりと、円滑に進行することなどありはしないし、それに円滑に進行したとしてもそれが九峪っちの途中参戦を否定する理由にはならない。

苦境の中で否応なく出兵せざるを得なかった神の遣い。火魅子候補に恩を売れるし、何よりも将来耶麻台国復興軍の幹部候補になるであろう、現在の兵達。彼らに大きな信頼を植え付けることは非常に重要だと私は考えていた。

権力は資源。BYダール。

私の今考えている資源は兵。戦力。彼らを将来的に掌握することが、権力を握るための1つのキーである。そのような認識なのだ。

「それよりも伊万里さんが心配なのよねえ」

私は話題を転換する。

伊万里さんは今回おとり役として出兵する。非常に危険だ。それもこれも戦力の過少からくる弊害ということができるだろう。できるならばこのような戦法は取りたくない。

なぜなら私たち神の遣いは伊万里さん支持者なのだ。

なぜか? なぜなら彼女にはなんら野心がない。つまり、彼女が火魅子に内定すれば一番傀儡として操りやすいからだ。

星華さんなんかになられては最悪だ。宗像に代表される古きよき支配体制が一層の熱意を持って推進されてしまう。

以前とは違う、狗根国の侵略に抗すことのできる宗教色緩やかなる現実的軍事国家。それこそが目指されるべき支配体制であり、火魅子だとか、王位とか言ってる場合ではないのだ。

そんなものは星になってしまえばいい。

「とはいいましてもこれより他に手段がないとおっしゃいましたのは雪様ではありませんか」

私たちの会話を聞いていた亜衣さんが何をいまさら、と云う。まぁ、確かにそのとおり。そのとおりなんだけどできることはまだあるような気がする。ってわけで。

「キョウちん。あなた伊万里さんについていきなさい」
「ええ!!」

と驚いたのはキョウちんばかりではない。周りにいた幹部連中全員が驚いている。っていうかここまでキョウちんをずさんに扱ってるのもあたしくらいのもんだからね。

「ちょ、僕いちおう神器なんだよ? 戦に出て鏡割れちゃったら大変だよ」
「そのときは修復するわよ。どうせ写りの悪い状態なんだから。一回割れて直したほうがいいんじゃない」
「ひど」
「いい? あんたの役目は過少な兵力しか持てない伊万里さんが迅速に移動できるように、常に上空から敵の動きを監視すること。敵の動向を逐次伊万里さんに報告。伊万里さんはその情報に基づき地の利を生かす戦況を整える。どう?」

ううん・・・とキョウちんが思いっきり逡巡する。というか嫌がっている。けどこれは決定事項。別に願っているわけではないけど、もしキョウちんが再起不能になっても別にオッケー。火魅子候補はもういらないし、キョウちんの懐古主義は私たち的には不必要。

ま、本気で死んでもオッケーってことを思っているわけではないけどね。でも考えちゃうことは別物でしょ? 勝手に頭は回る。これは仕方ないことだわね。

それにね、キョウちん。これは最初の戦争だけど、負けたら最後の戦争なのよ? あんたも命、かけなさい。

「わかったよ〜。でも危なくなったら逃げ・・・」
「心中しなさい」
斬って捨ててみた。「九峪〜」と泣いてすがるキョウちん。なだめる九峪っち。何気に仲いいなこいつら。

「さて、では神の遣いさま準備は万端ですかな?」

そういって伊雅さんが年長者の威厳で私と九峪っちに云う。

私はうなづく。

九峪っちは最後の締めを行う。

「幸いなことに俺たちには勝算がある。本州において領土を拡大し、幾重の戦争に勝利している、最強国家たる狗根国に対して勝算がある。それはすでに奇跡的なことだ。そうだな亜衣?」

かつて幾重の戦闘で苦汁を飲まされ続けた亜衣さんが力いっぱいうなづく。

「まして今回は火魅子、神の遣い、王族、宗像が一同に会した。滅亡より15年。このようなめぐり合わせはかつてなかったし、今後もないだろう」

伊雅が畏敬のまなざしで九峪っちを見つめる。

「だが、不安がることはない。無論、俺だけでは無理だ。だが、君らがいればこの困難も赤子の手をひねるようなものだと俺は確信している」

おお・・・と九峪っちの言葉に皆が引き寄せられていく。

「もしも狗根国を破ることのできる者達がいるとすればそれは俺達だろう。なぜなら反乱とは中心より離れた場所で神の信託を受けた者達が一斉に蜂起することでなされる。信託は下され、そして一堂に会した俺達は、まさに九州の総戦力でもって本州の一部でしかない狗根国に対峙しようとしているに過ぎない」

『これが容易でないはずがない』

伊雅、星華、伊万里。亜衣、伊緒、上乃、清瑞。一種の陶酔をもってその演説に聞き入る。

「俺達は進軍する。敵の中枢へ。敵の心臓部へ向かって。かつての故郷を取り戻すために、かつての郷土を奪い返すために。これより行うは九州をまたにかける大遠征、此度、その長駆の第一歩たる当麻城攻略戦を実行する!」

おおお!! 一同が熱狂し、その鼓舞に酔う。
 
「伊万里そして亜衣は第一軍を率いて進撃。自らの命を供物に敵を誘い出せ。最も死ぬ確率の高い舞台を用意したつもりだ。存分に戦え。伊雅に星華、お前は第二軍を統率し、第一軍につられて出てくる狗どもを一匹残らず駆逐せよ。楽な仕事だ。一人でも多く始末しろ。他のものも諸軍を率いて続け。死ぬときは相手の足をつかんで姿勢を崩しながら死ね。此度の戦い、復興軍の興亡を決す戦争だ。必ず勝利しよう!」




『これより当麻城攻略作戦を開始する!!』








感想への返信

おすんさん 
「主人公の雪ちゃんがすごく魅力的で、さくさく読めます」
それは重畳です。雪は力入れてるのでうれしいですね。今考えてるのは他のキャラで雪に匹敵するようなキャラがほしいと思ってるんですけど・・・なかなかむずかし!

Eite
「「野伏せ釣り」ではなく「釣り野伏せ」ですよね」
ちょ、めっちゃ恥ずかしいんですけ(///)。うはー、原作をたて読みしている(厳密には横読み)つけがまわってきたー!!すいませんでしたー。パス分からないから直せないー!!
「暗殺の件に関しては、雪ちゃんの個人的感情はいいとして(笑) 色々他にも理由を書かれていたので、少し楽しかったです」
よかった。ちょっとは喜んでもらえて・・・。もうちょっと盛り上げないといかんな、と思いましたです。がんばります。

北野
「本編を読む上で突っ込み所は尽きないので、再構成の長編を読む場合、そこをどう表現するのかも楽しみだったりします」
私はぜんぜん考えてないけどね! 王道をデコレーションすること、が作品を簡単に生み出すコツだと思ってるんで。今回もあらかじめ原作のストーリーにデコレーションした、ってかんじですね。感想ありがとうございます。励みになります。



あとがき

はい、スピンヘアです。就職活動も無事おわりまして、再開ということですね。

ちょくちょくここには来てたんですが、まとまった時間取れないかったんで中断していました。

これからはちょくちょく書いていきたいので、感想とかくれたらうれしいです。

本日は短めに。スピンヘアでした。