耶牟原城に勤める文官(38)の一日(午前の部) 「小説+ゲーム+オリ 九峪 亜衣 他 文官ビュー
日時: 09/23 02:58
著者: トマト

耶牟原城に勤める文官(38)の一日(午前の部)

午前5:30 妻に起こされ起床。
息子はまだ夢の中だ。4歳になってもムツキが取れず夜鳴きが酷い。この寝顔だけ見れば天使なのだが・・・
そのせいもあって私は寝不足気味で頭が重い。二度寝しようとして妻に殴られた。最近私に対して敬意がなくなってきている気がする・・・。


午前6:45 朝食、身支度を整え妻子に見送られ家を出る。
いつも思うのだがこの見送りのおかげで1日働ける気がする。不満は山ほどあるがそこだけは感謝せねばなるまい。


午前7:00 途中にある朝市のでている通りをなじみの赤ら顔の農夫などに挨拶しながら通り過ぎる。


午前7:15 宮中に到着。木板の私の札を帰宅から在宮に戻す。先月から宮勤めの文官武官の所在を把握するため導入された。神の御遣い様の意見だったらしい。すでに何人かの同僚の札は在宮になっている。朝に弱い極小数からは不評な制度だ。(ちゃんとこい馬鹿共)


午前7:20 南宮二ノ〇一に到着(私の勤務場所)。昨夜、私が帰った後に届いた現場、部下から挙がっていた報告を記した木簡に目を通し、作業の進捗状況を把握する。
疑問があったため問題箇所に丸印をつけておく。


午前7:50 本日は定例の大会議(耶牟原城にいる幹部の多くが出席し報告、提案が行われる。火魅子様、神の御遣い様も出席なされる)のため部下を集め資料を整理、確認しておく。


午前8:40 会議の行われる大広間に到着。半数ほどがすでに着席し雑談や打ち合わせをしている。私も指定の末席に着き雑談に興じる。(この期に及んで打ち合わせなど段取りもできん無能のすることだというのが私の持論。)


午前8:55 火魅子様も含めほぼ全ての出席者が集まってきているようだ。さすがにこの人数となるとヒソヒソ声でも騒がしい。
一番騒がしいのは技術長官の羽江様だが皆諦めている。私も前に、勇気を振り絞って「こっそり」諌めたら泣かれたので困った。本当にいらぬ誤解を招いた。嫁も泣いた。亜衣様にも吊るされた。


午前9:00 定時となったが会議が始まらない。神の御遣い様がまだ到着していないらしい。周りからは「またか・・・」と溜息が漏れている。
軍師の亜衣様が目を吊り上げて何か指示をしている。人を向かわせたようだ。
私が任官したての頃、大失態を犯し亜衣様の逆鱗に触れたがその時の事を思い出すと胃がキリキリと痛む・・・今でもことある度にネチネチネチネチと小言を言われ胃が痛む。
亜衣様はまさに当代の諸葛孔明というに相応しい神算鬼謀の持ち主ではあるが、あの粘着質の性格だけはいただけない。頭が良すぎるだけあってタチが悪い。
毎度のことだが神の御遣い様の胃は白金でできているのだろうか?恐るべき精神力である。


午前9:20 場違いな笑い声を上げながら神の御遣い様御到着。お目付け役の清端様も同行している。何故か清端様の顔が真っ赤である。心なしか神の御遣い様もやや赤い。お二方とも体調が優れないのだろうか?
末席のためよく聞こえないが亜衣様が二三言ボソボソと呟いた途端、お二人とも顔を真っ赤して俯いてしまわれた。傍にいる星華様(祭事のため逗留中)も別の意味で真っ赤になっておられる。それに引き換え火魅子様は余裕の笑み・・・いや口元がヒクついている。本日は亜衣様の独壇場のようだ。
・・・ふむ、あの粘着軍師様の恐ろしさを知る私は神の御遣い様、及び清端様への哀惜の念を禁じえない。今後、始まるであろうお二方に対するマツヤニすら超える粘着を考えると空恐ろしい・・・が、いい雑談のネタができたようだ。さっそく昼食のときにでも前の方の席の者から情報収集し語り部となってみよう。


午前9:30 30分遅れで会議が始まる。まず火魅子様、神の御遣い様からの挨拶である。ありがたくご拝聴する。が、お二人ともとてもとても話が短い。ありがたがる暇も無いほどである。


午前9:31 報告の部が始まる。それぞれの文官武官が抱えている重要な計画の進捗状況や懸案の報告なのだが正直、一文官の私には必要も関係も無い情報ではある。睡魔と闘いつつ自分の番を待つ。


午前10:10 私の報告の番が近づいてきたので睡魔を追い払う。頭の中で報告内容の最終確認をする。
おっと嵩豚様と眼が合った。あの細い眼をさらに細めて眼鏡の奥から私をじっと見ている。寝ていたのがばれたか?
ずっと見つめられるとさすがに気持ちが悪くなる。やめていただきたい。


午前10:20 ・・・そして最後に今後の予想される問題点と対策案を報告し、つつがなく私の報告が終わる。
まだ見られている。怖くなってきた。


午前10:30 報告の部が終わり小休止となる。さっそく先程の一悶着についての話題があちこちでひそひそと小さな花を咲かせる。当事者の方々は俯き顔を真っ赤にして、そそくさと退出していった。さすがに良心が痛み、まわりの者達を軽蔑する。かの方々のいないところで大いに盛り上がろうと心に誓う。


午前10:40 先の当事者の方々がお戻りになられ、提案の部が始まる。先日、神の御遣い様よりお呼び出しを受けていたので私は知っていたが、神の御遣い様より街道整備についてご提案があるとの事。(私の部署からの意見具申(苦情)が、どこをどう巡ったのか神の御遣い様の耳に入り「ピーーンッ」ときたとの事。)


以下は神の御遣い様が仰られた内容を私なりに解釈し読みやすくした文である。
※決っして神の御遣い様のお話が支離滅裂というわけではないし、・・・だべ〜?とか・・・じゃね〜の?などのやや一般的な意思の疎通と品位に欠けているという理由でもない事を先に断っておく。

訳)「え〜コホン。先の解放・防衛戦争の折、行軍速度の向上や流通の活性化を目的とした主要都市を結ぶ街道の整備を行ってきた。終戦時には主要な街道の6割が開通し、現在ではその8割が完成している。先ほどの報告にもあったように後12ヶ月から15ヶ月で主要な街道は全て開通予定だ。(←これが私の今の仕事である。一部の難所は除くが)現在、九洲全土的な治安の向上もあり街道の周辺に旅人を泊める宿が自然発生的にできてきている。この宿を国の主導で積極的に宿場町としてまとめてしまうのはどうだろうか?」

大広間がざわめく。なんの意味があるんだ?という意味の言葉が飛び交う。
そんなちっぽけな事を国が主導で行う必要があるのだろうか?
そんな疑問に答えるように神の御遣い様が口を開く。

訳)「国の主導が無くても流れに任せておけば宿場町はできるだろう。建物の建てやすい平地で、ある程度の距離を置き無作為に。だが国の主導で戦略的な要衝に大・中規模の宿場町を設けることができればどうだ?戦時であれば簡易的な砦となるし平時のうちに魔獣用の柵を強固なものにし、堀を深くしておけば性能の高い防衛陣地として機能するはずだ。もちろん平時であれば通常の宿場町として問題なく機能し流通を活性化させてくれるだろう。完全な砦と違い平時に兵を詰め込んでおく必要は無いし運営は宿主に任せ兵は警備として少数を配備しておけば事足りるので維持管理費は無いも同然だ。どうだろうか?」

実際の神の御遣い様の言葉は上記よりとても薄く、脆く、貧弱で、たどたどしく、曖昧模糊とした表現だったのだが言われてみればなるほどもっとも。大広間に先のざわめきとは全く違うざわめきが響いたのは確かである。(事前に聞いていた私も含め)

私の部署から出た「街道のど真ん中に掘っ立て小屋を建てて宿とか称している阿呆どもを何とかしてくれ。」という意見具申(苦情)からここまで持ってこれる神の御遣い様には溜息が出るばかりである。
さすが神の御遣い様というべきか・・・。


午前10:55 亜衣様からの質問の嵐が始まる。神の御遣い様が懇切丁寧に対応する。
我々凡人では考えつかないような質疑応答の嵐が目の前で繰り広げられる。喋り手が変わるたびに皆の頭が一斉に動くのは末席からしか楽しめない風景である。しかし内容の半分も意味が理解できない自分にやや嫌気が差す。周りの文官武官も同じようだ。


午前11:20 亜衣様、神の御遣い様を論破できず質問が終わる。
亜衣様は舌戦を楽しまれたのか肌がつやつやしているように思える。火魅子様をはじめ幹部の方々はげっそりとした顔をしている。内容についていくので精一杯という顔だろうか?それでも十分賞賛に値すると思う。
何人かの文官が質問をしている。私とは違う優秀な文官もいるようだ。


午前11:30 提案の部では神の御遣い様の案を採用、事務・実務段階で煮詰めていく事となり定例の大会議が閉会。

午後より上記の案の検討となり他の業務を部下に振るため職場に戻る。が、途中ふと視線を感じ振り向くと細い眼と目が合う。見なかったことにする。


午前12:00 昼食に向かう。





【あとがき】
小説を書くのは初めてです。これはありでしょうか?なしでしょうか?

ありであれば午後の部も書いてみようと思います。

批評、批判はあるでしょうけど痛烈なのは勘弁してくださいませ。

褒めれば伸びる子なんです。

でもたまに天狗になるのでさじ加減を調節してください。

※誤字脱字の修正をしました。読みやすいように段を分けたりしました。