永遠に歌えば 0話 (H:小説 M:九峪と他 J:シリアス)
日時: 05/16 22:51
著者: 牛ガエル

         邪馬台国
三国志の魏志倭人伝に記された、二世紀後半から三世紀前半の頃の倭にあった最も強大な国。
女王卑弥呼が支配。魏と交通した。位置については、九州地方と畿内地方と両説があるが、
いまだにはっきりとした場所は解っていない………しかしそれは現実の話……

「九州でまた邪馬台国につながる新たな出土品が見つかったらしい」

「すごいな、ここ三年で大きな進歩だ。」

「ああ、このプロジェクトが始まって10年になるが……これはもう公式発表も近いな」

「10年か……長かったな。当初はどうなると思ったが……」

「……そうだな、あの二人がここに来るまではほとんど何も見つからず。大変だったからな……」

「姫島教授と九峪助教授か……」

「不思議な人たちだな、俺は今まで色んな人間を見てきた。その中には怠け者いたし、自分の夢のために懸命に
 努力してる奴もいた。もちろん、その夢が実現できるものでないと知り妥協した奴もだ。」

「お前は……努力か?」

「俺は……努力だったと思う。だからここにいる。ここが俺の夢だからな……」

「……そうだな……」

男はゆっくりと空を見た。もう日は落ち空には星がぽつぽつと輝き始めている。

「俺も………」

「お〜い、そこの二人そろそろ終わるぞ〜」

不意に本部テントの方から自分たちを呼ぶ声がした。

「お呼びだな……帰るか。」

「ああ、そうだな。こんな面白くもクソもねぇ話するなんて俺たちも歳かな?」

「はは、違いない」

ゆっくりと、笑いながら二人は本部の方へ歩いていった。ここまでは平和な日常
なんの変哲もなく、いつもと変わらず過ぎてゆく………


            だが……


            

            時は動く……



       
            壮大とも言える……




            
            物語のために……





夜は8時を回ろうとしている。ここにいる全員は朝早くからずっと大地に向かい、道具を使い
それでいて慎重に作業を進めてきた。もう体力的にも精神的にもくたくたである。
しかし今この研究所はものすごい熱気に包まれていた。

「これは、すばらしい発見だ!」

「いや、さすが九峪助教授だ!」

「すばらしい!!」

「いや〜、偶然だ、偶然」

この歓喜の渦を作った男、九峪は酒を片手に照れくさそうに笑みを浮かべている。
そんな九峪の横に立っていた少し小太りの男があきれながら口を開いた。

「なにを言うか、九峪君偶然などは存在しない。この世に存在するのは必然だけだよ。
 これは君が日ごろから頑張っている成果だよ」

「姫島教授……」

「この発見は、十年越しの計画が成功したことを意味する。一ヵ月後に正式に発表
 したいと思うが……いいかね?」

「もちろんですよ。この喜びを早く世間にも伝えたいですからね」

「そうか……では、皆この快挙に乾杯」

「「「「乾杯」」」」
  
この宴会は始めから準備、予定されていたわけではないのでとても簡素なものだが
人々は時を忘れ、疲れを忘れ、騒いだ。

「そういえば、九峪君今日は確か君の息子の10歳の誕生日ではないかね?」

「ええ、今隣の部屋で寝ています。あとであいつに今日発見した。あれ……
 見せてあげたいんですけど……いいですかね?」

「もちろんだよ。彼も君に似て考古学の才がある。今のうちに勉強させそいて
 損はないだろう……」

そこで姫島はいったん言葉を切った。

「……子供か……そうか、あれから10年か……」

「……………」

九峪は何もしゃべらない、ただぼんやりと目の前で騒いでる人々を眺めている姫島の
横顔を黙ってみていた。九峪には解っていた彼が何を考えているのか、何を思っているのか
そしてそれは自分と同じことを……

「私の娘が死んで十年か……本当に最近思うよ……時が流れるのは早い。私は……時間に
 すっかり置いて行かれた……無常にもね…」

「………」

九峪は何も言わず紙コップの中の酒を飲み干した。それで気が少しだけでもまぎれて
欲しかったから、思い出したくない思い出をまた流したかったから。

「……こんな、ことじゃ…流れないか……」

人々の歓喜の宴の中、二人だけはその輪から少しはずれ時が経つのを待っていた。







そして夜も12時を過ぎ宴会は終わり二次会に行く者行かない者と別れ研究所内は
静かになった。

「じゃあ、九峪君私も帰るよ」

「そんな、教授も祝って上げてください」

「いや……やめとくよ。私は帰って娘と祝うよ」

「教授……」

「……それじゃあ」

姫島はそういうと一人街灯だけの暗い夜道を歩いていった。
九峪はその背中が見えなくなるまで見送ると、また建物中に入っていき
そこにいた一人の少年の頭を撫でた。 

「教授…帰っちゃうの?」

「ああ、今日は娘さん命日だからな」

「そうなんだ……」

少年はまだ何も知らない、いや知ってはいけない。
九峪は心にそう刻み込み笑顔を作って少年にいった。

「今日はすごい発見をお父さんがしたんだ。特別に見せてやるよ」

「ほんとに!?」

少年は目を輝かせ屈託のない笑みを浮かべた。自然とその表情に九峪も心が軽くなる。

「ああ、本当だ。さあ、こっちにおいで」

「了解!」

「ふっ……」

思わず噴出してしまう。こんなところはあいつそっくりだ。
九峪は亡き愛する人を思い出した。彼女はしっかりしているのか天然なのか解らず
いつも周りを困らせていた。それでいて自分はマイペース、九峪自身何度もそれに
振り回された。でもそれがどうしようもなく楽しくて、その後に必死に謝る彼女が
愛おしくてたまらなかった。本当に楽しかった…あの頃は……

「ごめんなさい……この子を、あなたを置いていくことを……」

あやまるなよ……別に攻めちゃいないただ…


      生きて欲しかった
 

「お父さん?」

その一言で思考が途切れる。

「あ…ああ、すまんな。ついたな……見てみな」

「わあー、すごい!!」

そこにあったのは六つの枝のようなものがついた不思議な形状の剣

「変な剣……」

「これはな、七支刀というんだ」

「七支刀…」

「ああ、見てみろよ。この刀身、千年以上も前の物とは思えないほどきれいだろ?
 まるで不思議な力に守られているようだ……って、おい!」

九峪の目の前には七支刀に手を伸ばし握っている息子の姿が映った。
さすがにこれには慌てた九峪が刀を取り上げようとすると……


          ブーーーーーン


「!!?……」

いきなり刀の刀身が光り始めた。まるで炎のように赤く。

「こっ、これは……おっおい、早くその刀を放せ!!」

刀はまるで少年を包み込むかのように変形していき、その瞬間、研究所で大爆発が起こった。














             おい…… 






              起きろ







「お父さん……?」







             もう、朝だ。








「ごめんなさい……僕……」







             あやまるな…それより……









             この子を頼んだぜ?


            




「お父さん……いかないで……あやまるから」







            
             いいな、雅比古。この子を守れよ……  







少年の耳にいや、頭に響いた父の声、彼が気づいたときその両手には一人の赤子と
そして右手に刻まれた七支刀の模様だけが残った。後には何も残らず、ただ少年は
瓦礫の中で一人



          オギャー、オギャー



赤子が泣く、しかし少年の耳には届かない。涙さえも流れない……




あとがき

少し人とは変わったことがしたくて、雅比古の親父の話から物語を
スタートさせました。まあ、この結果により雅比古は両親二人ともなくした
ことになります。まだ、少しだけ謎を残してみましたが容易に想像できる
ことだと思うので書かずに進むと思います。
でも、なんだか文がぐだぐだしてそうなのですみません。
ここまで読んでくれた方感謝です。もっとうまくなりますので、これからも
ちょくちょく読んで下さい。