永遠に歌えば 一話 (H:小説 M:九峪他 J:シリアス)
日時: 05/28 01:45
著者: 牛ガエル

               夢を見た

            常人なら理解できない夢を

               鏡に導かれ

               時を越える

               ありえない話

              でも、なぜだろう 

            自分はそれを夢と思わない

               必然だと思う



目が痛くなるような日差し、肌が焼けるような暑さ、季節は夏。
人々はT−シャツ一枚やタンクトップ、女性にいたっては日傘を差し日焼け防止
誰もが足早にクーラーの効いた涼しい建物またはコンビニに入っていく。

「アッチーな」

「この暑さ馬鹿だろ?」

「今日の気温三十八度らしいぞ」

「マジかよ?冗談きついぜ、早く涼しい所行こーぜ」

こんな会話が、いたる所で聞こえてくる。
そんな中、ただ一人汗ひとつかかず平然と歩いている男がいる。

「なあ、九峪?」

「何だ、隆?」

「お前……暑くないの?」

「ああ、暑いのには慣れてるからな全然平気だ」

「そうか……いいなお前」

九峪は軽い笑みをつくり隆の肩を叩いた。

「まあ、鍛え方が違うんだよ。鍛え方が」

「鍛え方の問題化よ!?」

「違うわな」

九峪はそう即答すると声を上げて笑った。

「てめ〜」

隆は眉間に青筋をたて怒りをあらわにして九峪を睨み付けた。
そんな隆の様子に九峪は肩をすくめた。

「しょうがねえだろ?生まれつきなんだから」

「お前いつもそれだな……その暑さに対する抵抗力もそう、馬鹿げた体力もそう、
 腕力も何もかもがだ」

「後者の方は本当に鍛えてるんだが……」

「学力だってそうだ……それにもてるし」

「お〜い、聞いてるか?」

「妹だってかわいいし、お兄ちゃんとか呼ばれてるし……」

「無視か?」

九峪の声なんて聞いちゃいない隆はどんどん愚痴を言っていく
こうなると手がつけられない事を知っている九峪はため息をつくと
そのまま、隆を無視して歩き始めた。
そういえば、今日でちょうど十年か………早いもんだな。
九峪はなんとなく思った。
そう、あれから十年……

「そういえば、九峪?」

いきなり隆が愚痴をやめ九峪に声をかけてきた。

「何だ?」

九峪は思考を一時中断し隆を見た。

「お前今日の講義受けなくていいのか?確か専門じゃなかったっけ?」

「ああ、いいんだよ。今日のは全部余裕だし……それに今日は教授の
 所に行くからな。」

「姫島教授か?いいよな〜教授と仲良くて、うらやましいよ」

「別にいいことなんてないぜ」

「それでもな〜」

「まあ、いいじゃないか。おっと着いたな、じゃ俺行くわ」

九峪はそういうと足早にさっていった。

「忙しいね〜大学生。俺も今日はサボるか」

隆はあくびを一回するとそのまま学食に歩いていった。











大学考古学研究棟二階には邪馬台国についての膨大な資料が保管されており
一般の人、もちろん大学の生徒でさえ二階はおろか入る事でさえ特別な許可がいる場所である。

「すみませ〜ん、姫島教授いますか?」

九峪はそこら辺を歩いている学生に聞いた。

「お前なんでこんなところに入っているんだ?ここは一般の生徒立ち入り禁止だぞ」

「いや、そうなんだが……」

(あれ、俺の事知らないんだ。他大学の生徒かな?)

九峪は頭をかき、困った顔をした。それを見た学生は怪訝な顔をしてこいつはきっと 
許可を取っていないと思い九峪を睨み付けた。

「君何学部か知らないが、ここの学校の生徒だろ?まさかここがどういった場所か知らないわけ
 ないよね?」

「いや……」

九峪の反応に学生は鼻で笑い、そして胸をはり自慢げに口を開いた。

「あのね、ここは……」

(うわ、面倒くせ〜。こいつ説明し始めた。早く逃げよう)

「すいません、俺今日胸につける名札忘れて、今から仮の名札取に行こうと思ってたんですよ」

九峪はかなり長く続きそうな学生の会話を切るために適当な嘘をついた。
学生もまだ少し、(というか、かなり)疑っているが自分もこれから講義があるようなので
それ以上は追求せずにどこかに去っていった。

「はあ〜、まあ直に行っているか確かめるか………面倒だがな」

九峪はそういうと三階の姫島教授の部屋へ歩き始めた。








「教授いますか〜?」

九峪はドアをノックして中の反応を待ったがいつまで経ってもない。

「いないかな」

しかし、ドアノブを回すと……


        ガチャン


「あら、開いた……」

ゆっくりとドアをそのまま開ける。しかし中に誰もいない
九峪は部屋に入ると辺りを見回した。
荒らされた痕跡はなし。いつもどうりきれいに物が片付けられ整っている。
では、なぜ部屋の鍵が開いていたのか?
教授はかなり几帳面な人だ。考古学の大切な資料を扱う人間として鍵などの施錠は
とくに気をつけている。自分の部屋のドアを閉めないなんて考えられない。
では、なぜ開いているのか……
九峪は一つの結論に達した。
そしてその時には背後の気配にも気づいており、じっと相手が動くのを待っていた。

「いやややややややややや!!!」

背後から気合のはいった掛け声と共に相手が動く、その動きはかなり鋭く、速い
しかしまったくあせる事無く、九峪は左回りに体をひねり背後からの攻撃を避ける。
そのまま相手の真横につくと腕をとり、軽くひねり足を刈る。

「わっ!!」

相手が驚き声を上げる。そしてそのまま地面に尻餅をいた。

「いたたたた、ひどいよ〜雅兄、なんで解ったの?」

「まあ、この部屋の異常さと……お前の気配がわかったから」

「え〜なんで?完璧に消せたと思っていたのに〜」

「いい線きたとは思うな。そこら辺の奴なら十分だが……まだまだだな日魅子」

「ぶーーーーーー」


日魅子と呼ばれた少女は頬を膨らませ九峪をにらんだ。
九峪は日魅子のその表情が面白かったのか、声に出して笑った。
二人はしばらく姫島の部屋で話をした。その内容は学校の事とか、最近起きた出来事やら
本当にくだらない事だが二人にとっては楽しい時間であった。

「そういえば日魅子、姫島教授は?」

「おじいちゃん?今遺跡にいるよ」

「こんな早くから、何かあったのか?」

「うん、なんだか。すっごい発見が有ったらしいよ」

「すごい発見?」

九峪の脳裏に今朝の夢が浮かぶ。

「うん、邪馬台国につながるかもしれないって、皆大急ぎでいっちゃた」

そして十年前の事故が

「私も行きたかったけど、雅兄待ってたんだ」

嫌な予感しかしない、でも………

「何が発見されたんだ?」

「鏡だって」

もう、立ち止まれない









「教授〜」

「おじいちゃ〜ん」

「おお、日魅子、九峪君来てくれたか」

姫島はにこやかに二人を迎えてくれた。その額には汗が浮かびシャツなどは濡れていて
少し透けている。九峪と日魅子は姫島に近づくと早速鏡について聞いた。

「そうか、もう聞いているんだね。なら話が早い、今から見に行こう」

「え、いいのおじいちゃん?」

さすがに今朝発見されたばかりの物を自分たちが見ていいのかと日魅子が首をかしげる。
姫島はそんな日魅子の頭を軽く撫でた。

「いいんだよ。それにこの件は九峪君の方が優れている」

そういうと姫島は意味ありげな視線を九峪に送る。
九峪はそれに軽く微笑み返した。

「ふ〜〜〜ん」

ただ一人会話についていってない日魅子は面白くなさげに二人を見上げた。

「まあ、いいじゃねえか日魅子。そのうち教えてやる」

「今がいい!今教えて!何で雅兄じゃなきゃだめなの!?」

駄々をこねた日魅子が九峪を睨む、しかし九峪はその視線を軽く受け流しただ一言
「俺に勝ったら教えてやる」と、行ってプレハブの方へ歩いていった。

「うう〜、あの男を負かしたい……」

日魅子が九峪の背中を睨みながら呟いた。この二人の後ろでは姫島がため息をついていた。
なぜかというと日魅子はもう十分に強いからである。日魅子は今十歳だが、同世代の子供はおろか
大の大人だとしても三人がかりでもまるで相手にならない。それにこの性格である。よく喧嘩の
助っ人として呼ばれ、ここら辺の小、中学校では「最強の小学生喧嘩師」として有名である。
祖父としてなんとも嬉しくない名声だ。

「日魅子……」

「何おじいちゃん?」

「まだ、鍛えるのかい?もう、十分じゃないかね?」

「全然!雅兄に勝つまでやめない!!」

姫島は天を仰いだ。これは何いっても無駄だ。そして一言

「頑張れ……」

「うん!!」

(九峪君恨むよ)

この姫島の心の嘆きは誰にも聞こえない。もちろん当の本人でさえ。

「お〜〜〜い、お二人さ〜〜ん速く行こう」

「今行くね〜〜ほら、おじいちゃん行こうよ」

「あ、ああそうだね」

姫島は日魅子に引かれ九峪の方へ歩いていった。そのとき思った
もう自分の孫の力は小学生じゃない……いや、女性じゃないな。と……







 しばらく三人で歩きそしてプレハブについた。
中は人で溢れており異様な熱気に包まれていた。

(あのときと一緒だな……)

九峪はそう思った。

「これが例の鏡だよ。九峪君」

姫島が鏡を手に九峪の元にやって来た。
そしてゆっくりと九峪に手渡す。


          ブーーーーーーーン


不意に九峪の右手が光始めた。周りにいたすべての人間がその光景に目を見開く

「まっ雅兄!!!」

「九峪君!!!」

光はだんだん強くなっていき昼間だというのにプレハブの外まで光で包んでいった。
そして何処からともなく声が聞こえてくる。女とも男ともわからない声が……

             やっと見つけた

            さあ、行こう君の世界へ

               九洲へ

その刹那光はさらに輝きを増しすべてを包んだ。
そしてすべてが過ぎ去った後、残ったものたちはただ呆然としていた。

「日魅子、九峪君?」

姫島の呟きに答える者はいない、なぜならその二人は何処にもいないのだから……