幻想月夜first story U


キーンコーンカーンコーン

「それでは今日はここまでとする」

ちょうど区切りが良かったのか、授業の終了を告げるチャイムが鳴ったと同時に、黒板の前に立っている教師が言う。

「きりーつ、礼」

それぞれが適当に礼をすると、教師は教科書等を持って教室の外へと出て行く。

「さてと……」

現在の時刻は12時半前だが、恭也は既に帰り支度をしていた。
何故なら、今日は4時間目までで授業が全て終了なのである……ちなみに何故、午前中授業なのかは当然の如く覚えていない。

「良し、帰るか……」

ものの数分で全ての教科書をバックに詰め終り、席を立つ。

「ん……?そう言えば、月村は?」

そう呟いて、振り向いた先の恭也の隣の席……月村 忍の席には既に彼女の影も形もなかった。

「そう言えば、ゲームの発売日がどうとか今朝言っていたな……」

ゲームの事となると、意外と行動が早い月村 忍であった……




カラカラカラ

リーンコーン

恭也が横に開けるガラス戸を開けて、ある店の中に入る。
刀剣専門店「井関」……士郎がまだ生きていた頃から、お世話になっている刀の専門店である。
恭也は此処で木刀や刃落し刀を購入したり、八景や龍燐の手入れなどをして貰っている。

「お、恭也君、いらっしゃい」

店の奥の方から40代くらいの男性が出て来る……彼がこの店の店主のようである。

「小太刀の手入れなら出来てるよ……ああ、今朝受け取った二本もやっておいたから」

言いながら、店のカウンターから『八景』と『龍燐』と数本の小太刀を取り出す。

「有難う御座います……」

恭也は財布から代金を出して、カウンターの上に置き、代わりに小太刀を受け取る。
そして、それらの小太刀を入れる為に持って来ておいたバックに布で包んだ小太刀を丁寧に納めていく。

「それでは……」

「ん、気をつけてなー」




スタスタと恭也は高町家への帰り道をを歩いて行く。
重い真剣の小太刀が詰まったバックを持っているにも関わらず、そのスピードは普段と変わっておらず、周りの人を追い抜いて行く。
暫くそうして商店街を歩いていると、十字路に差し掛かった。


――――ドックン――――


「…………なっ!?」

恭也の眼が大きく開かれ、その端整な顔には滅多に浮かぶ事がない驚愕の表情が表れている。
そう……普通に恭也の目の前を通り過ぎて行く人々に紛れて……


                        ――彼女はいた――


――――ドックン――――


昨日の夜と同じ白のタートルネックシャツに、紺のスカート……そして、夢でも見た肩までの長さの金色の髪と赤色の瞳……
まだ二回しか見ていないが、それでも何故か間違いないと確信する。
そして、昨日の夜と同じく恭也の心臓が大きく鼓動し始める。
だが、それでも昨日の夜に見た所為か、幾らか恭也の思考も冷静だった。

「……そう言えば、こんな事件が続いていると言うのに何故、彼女は夜の街に……?」

翌々考えてみればおかしなことだった……今の夜の海鳴の街は危険そのものである。
特に女性は、一層危険だろう……なのに彼女は平然として、深夜の道を歩いていた。


――そして、その歩く姿は酷く幻想的だった――


(それに……彼女は何かが違う……)

剣士としての『本能』とも言うべき恭也の感性が告げている……


――彼女は『人』ではないと――


恭也は目を細めて、その女性を睨むように見つめて……意を決して気配を完全に絶ち、その女性の後を着け始める。




――――ある森の中

あれから暫く着けていると、白服の女性は山の方に登って行った。

(此処は藤見台の墓地の近く森だな……しかし、一体こんなところに何の用が……?)

すると、女性は不意にピタッと立ち止まり、周りを見渡して――

「この街は割と自然が多いのね……」

などと、呟いている。

(此処なら一目にもつかないな……)

そう心の中で呟くと、恭也はバックに仕舞ってある二本の小太刀――『八景』と『龍燐』――を取り出す。
そして、それぞれ二本の小太刀についてるストッパーをベルトに引っ掛けて、外れないようにする。
ちなみに差し方は、左右の腰それぞれに小太刀を差す『二刀差し』である。
恭也のもっとも多く使用する差し方は『背負い』だが、今回は二刀差しで差した。
更に教科書などが入っているバッグの方に、常時装備してある特殊繊維を編んで作った黒のグローブを取り出し、腕に装着する。
持っていたバッグは樹の根元辺りに置き、武装の装備を完了すると、徐に白服の女性の前に姿を曝け出す。

「あら……あなた、誰?」

しかし、その女性はあまり驚いた風ではなく、直ぐに尋ねてくる。

「昨日の夜、道ですれ違ったのですが……覚えておられませんか?」

「昨日の夜?……さぁ、覚えてないわね」

そう答える彼女の真紅の眼は、先程よりも幾分鋭くなり、気配も微妙に変わって来ていた。

「まぁ、すれ違っただけですからね……ところで貴女はこんな時にあんな時間、何をしておられたのですか?」

その白い女性の動き一つ一つを見逃さないように、集中しつつ恭也は尋ねる。

「そうね……探し物をしてたの」

「そうですか……では、もう一つ……貴女は……」

そこで恭也は言葉を一旦切って息を一つして、目の前にいる女性をもう一度はっきりと見据えて――

「“何者”ですか?」

と、尋ねる。
その言葉を聞いた女性の眼はスィと細められる……気の所為か、その真紅の瞳はより紅く輝きだしたように見える。
そして、周りの温度はまるで急激に下がったかのようになり、動物や鳥達は皆、逃げ出し始めていた。

「……吸血鬼……と、言ったら信じる?」

と、クスッと笑って返す……但し、その真紅の瞳はまったく笑っていない……既にこの近くにいるのは、白服の女性と恭也のみになっている。

「……少なくとも、普通の『人』ではないのは解ります……」

「あら……貴方みたいな人に言われるのは心外ね……で、私をどうするのかしら?」

胸の辺りで腕を組み、彼女は恭也をその真紅の瞳で見据える。

「このまま放って置く訳にも行きません……」

そう言って、恭也は『八景』と『龍燐』の柄に手を添えて、所謂【抜刀術】の構えを取る。
それを見た女性は、まるでからかうように笑って、恭也を睨み……

――その瞬間から、その白い体から静かに殺気が漏れ出す……少なくとも、常人が放つモノではない。

「ふ〜ん……なら、やって見せて貰おう――」


――――ドックン――――


その女性が全ての言葉を言い終わるよりも早く、恭也の本能が目の前の存在を、敢然たる“敵”と認める。
周りの景色はモノクロになり、全ての音が消え去って……恭也は“御神の剣士”のみに赦された領域に入り込む。

【御神流・奥儀之歩法―神速】

全てがスローの世界の中、恭也だけがゼリーの中を泳ぐような重さを受けながら、駈けて行く。
白服の女性は当然、全く動いていない。

(最初の技で決める!!)

そうでないと拙い……と、恭也の本能が告げている。


――――ドックン――――


更に恭也は、脳内のスイッチを入れる。
すると、その身体が受けていたゼリーのような重さが少し強まる。
その代わりに、周りの時の流れは更に緩やかになる。

【御神流・奥儀之歩法之弐―二段神速】

(……そして……此処からだ!!)

不意に女性の方を見ると、僅かだが反応している……右腕も動き始めている……神速の二段掛けの状態であるにも関わらず、割と速い。
だが、恭也はまるでその事態が予想の範囲だったかのように、動じてない……そして、更に集中を高めて――


――――ドックン――――


三度、恭也の脳内のスイッチが入る。
恭也の視界の全てが一瞬白く染まり、通常の色のついた世界に戻る。
通常の世界と唯、一つ違うのは……全てのモノが“凍った”世界だと言う事……高町 恭也と言う存在以外は――

【御神流・奥儀之歩法・極―極神速】

士郎や静馬さえも辿りつけなかった領域……正しくその動きは神なる速さ……“御神”を極めたる強さ……それが今、牙を剥こうとしている。
先程から、ずっと握っていた柄に力を込めて、二本の小太刀を抜刀する。
そして、女性へと続く四つの“光の道筋”に銀の刃を走らせる。
その時、チラッとだが……その相対している女性の表情が見えた……が、恭也は躊躇せず技を放つ。

【御神流・秘義之壱―銀華】

御神流には本来、秘儀などは存在しない……当然である……御神流の強さは色々と上げられるが、裏世界最強と呼ばれた由縁は
奥儀之歩法の【神速】にある。
御神の剣士のみいる事が赦されている領域……それは正に――


――“最強”の証――


そして今、恭也がいる領域はその【神速】の更に先であり、御神流を極めた者のみが踏み込めると言う――


――聖域――


恭也が放った技……【銀華】は奥義之極と言われる、【閃】を用いて薙旋を放った技である。
【閃】を用いて放つ技……それこそが“秘儀”……今はまだ最も、得意とする【薙旋】でしか放てないが、これからの未来の先で恭也は、
数々の秘儀を作ってゆくだろう。


キィイン


二つの鍔なりがあまりの速さの為に、一つに重なって聞こえる……そして、八景と龍燐の刃には紅の血が付いている……


――ドックン――


「はぁ……はぁ……はぁ……」

ドサッと言う音共に、今まで女性だったモノは草むらに倒れる。
それは恭也が放った【銀華】によって、五つに分解されていた……その切断面はまるで最初から、離れていたのではないかと思わせる程に綺麗だった。


――ドックン――

「はぁ……はぁ……はぁ……くっ……」

しかし、そうした本人の恭也は何故か、苦しげに息を吐いている。
その様子は、何処か痛むとか……そう言う風なモノではないように見える……そして、頼りなくにフラッと歩き始める。

「……何なんだ……この感覚は……」

まるで熱病に冒されたかのように身体が熱く……身体全体がまるで外から強く締め付けられるように痛い……


――顔に何の感情も浮かべさせずに、唯、天の月を眺めている少女――


「……!?……くっ……また、あの……風景か……」



――彼女は、徐にまぶたを閉じる……自らの身体に吹き付ける風を感じているのだろうか?――


「……はぁはぁ……何故……何故、こんなものが見える……?」


そして、其処でその日の恭也の記憶は途絶えた――







――さてさて、こうしてこの物語は始まったわけですが、これからどうなるのでしょうね〜?――

――未来は誰にも読む事はできません……何故なら、未来は常に変化してるからです――

――この……『純白の吸血姫』と『黒き剣士』の物語はどう言う風に進んでいくのでしょうか?――

――これは……ある世界のまた別の物語……物語とは常に鏡合わせのようなモノゆえ――

――では、また何処かでお会いしましょう――

                                              by『V・A・H』







                                       〜To be continued on the next story〜
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さて、こんばんわのこんにちわの初めまして〜(マテ)
え〜今回も駄文お届けする『朱献』です……と、言ってもこちらに投稿するのは初めてですが(笑)
まぁ、そんなこんなで初めての『とらハ』と『月姫の』クロスオーバーSSをお送り致します。
これから、どうなるのか?それは作者の私にも解りません(マテ)
取り敢えず、此処まで読まれた方は暫くお付き合い下さいますようお願い申し上げます。
あ、それから最初にも言いましたが『志貴君』は出ません……他の月姫キャラも何人出るか解りません(w
今のところ確実に出そうなのは『混沌の死徒』と『アカシャの蛇』くらいでしょうか?(笑)
さてさて、では、今日はこの辺で〜〜さようなり〜〜(^_^)/~