幻想月夜first story T



注:この物語は『とらいあんぐるハート3』とタイプムーン製作の『月姫』のクロスオーバーです。
  そう言うのが嫌な方は見ないで下さい……この物語を読んだ後でその手の文句や苦情を言われても、
  作者の『朱献』は一切関知致しませんので、ご了承下さい。
  それと、もう一つ……月姫の主人公である『志貴君』は出ませんので、それもご了承ください。
  ちなみにこの物語を書こうと思った理由は幾つもありますが……敢えて言うなら……
  『鏡合わせのようなマルチの中でこんな物語もあったら面白いのでは?』
  と、思ったわけです……
  あ、、それと『月姫』をご存知の方に言っておきますが、この物語のヒロインは『アルクェイド・スタンブリュッド』さんです
  では、上の注意事項を了承された方……ごゆるりと楽しんで下さい

































――――夜

――――――それは、白く輝く月が綺麗な幻想的な夜だった

――――――――そんな夜だった……始めて、あの『純白の吸血姫』を見たのは……


『幻想月夜〜the moon night illusion〜』


First story『 時の歯車〜The destiny which is started turning〜』





(これは……何処だ……?……見たこともない景色だが……何処かの山奥か?)

彼――高町 恭也――は見覚えの無い広大な草原に佇んでいた。
その風景は何処かの山奥にある『城』の庭園だった……左手を見てみると、見たことも無い『城』が見える。
その庭園は今まで、恭也が見てきたどの風景よりも幻想的だった。
恭也が自分の格好を見てみると、黒いシャツに黒のズボンと言う普段の格好だった。
すると、不意に風が静かに吹き抜けていく……そして、風が吹いて来た方向にいつのまにか少女がいた。

(……!?……誰だ?……解らない……見たこともない……誰なんだ?)

彼女は、恭也に気付いた感じもなく唯、静かに月を見上げていた。
その少女は、腰よりも更に長い金色の髪にルビーのような真紅の瞳を持ち、身を蒼いドレスで包んでいた。
その少女が佇んでいる庭園は、何故か先程よりも更に幻想的に魅せていた。
どの様な風景よりも幻想的であり、どの様な風景よりも切なくなる……恭也の胸に染み込んでくるような感覚が広がっていく。
そう……何もかもが枯れ果てた庭園の中で、彼女だけが凄く鮮明だった。


――それは例えるなら、白黒の画像の中に一つだけの色の付いたヒト――


――その姿は……唯、美しかった……全てが目に入らなくなる程……唯、美しかった――


ガラにもないと自分でも思うが、恭也はその少女に心を奪われていた。
彼女を見ているその時……確かに恭也は彼女だけに心を奪われていた。
身体に吹き付ける風の感覚も……目の前で風に吹かれて舞う木の葉も……身体は何も感じず、眼には何も写らない……
名前も、年齢も……何も知らないその少女だけを……唯、見つめていた……


そして、彼女が恭也の方をゆっくりと振り向いて――




「…………夢……か……」

恭也はハァ〜と溜息をつき、自分の視線の先にある天井を見つめながら呟く。
枕もとに置いてある時計を見ると、まだ3時を少し過ぎた時間だった。

「妙な夢だったな……」

恭也は先ほどまで見ていた夢を思い出しているようだ。
見たことも無い山奥の庭園……中世ヨーロッパを思わせる『城』……真円を描いている月……
そして、風が吹く中一人佇んでいるドレスを着た少女……どれも恭也には見覚えないはない……ある筈がない。

「一体、何だったのだろうな……」

一言そう呟いて、恭也は再び眠りにつく。


その『夢』は、彼のこれからの運命を警告する『予知夢』だったのかもしれない……


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「フッ!!」

ビュン!!

「ハァ!!」

ブォン!!

高町家にある小さな道場……その中心で恭也が舞いを舞うかのように小太刀の木刀をそれぞれ片手に持って素振りをしている。
恭也が今持っている小太刀は黒塗りでの木刀で、中に鉄芯が入っている特注の物でかなり重たい。
それを片手でいとも簡単に操る恭也の腕力は凄まじいの一言に尽きる……正に幼少の頃からの鍛錬の賜物であろう。
暫く、続けていると……

ピピピッピピピッピピピピピピピピピピピ

恭也のポケットに入っている、愛用のクリップオン時計のタイマーが道場に鳴り響く。
恭也は時計を取り出し、タイマーを止めて、入り口の方に歩いて行く。
そのまま外に出ると、いつものシャツとジャージ姿で美由希が、飛針の投擲練習をしている。

「美由希……」

恭也が声をかけると、美由希は飛針を持った手を下ろして、恭也の方を振り向く。

「あ、恭ちゃん、時間?」

「ああ、今日の朝の鍛錬は終わりだ……昨日言った通り、夕方に軽く打ち合って、夜の鍛錬はなしだ……」

昨日、車に惹かれそうになった子供を助ける際に美由希が足首を軽く捻挫した為、今日と明日は鍛錬は軽くする事になっていた。
ほとんど、高町家の係り付け医師になっているフィリスによれば、それ程酷いものではなく二日程安静にしていればまた直ぐに、
鍛錬を再開できるとの事だった。

「まぁ、フィリス先生も直ぐに良くなると言っておられたし、たまには休め」

「はい……有難う御座いました」

「ああ、美由希、お前先に風呂使って良いぞ」

恭也は美由希にそう声を掛けて、家の中に上がる。

「あ、うん、ありがと」

自分の部屋に向おうとしている、恭也の背中に美由希の返事がかかる。

「美由希が上がるまで小太刀の手入れでもして置くか……」

恭也は美由希が風呂から上がるまでに何をするか、二階への階段を考えながら上がっている。


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ガキィィン!!

「へぇ……じゃあ、明日も美由希さんはお休みですか〜」

キキィン……キンキンキィン!!

「ああ、たまには休んでも良いだろう……大分、腕の方も上達してきたしな……」

恭也は現在、友人の如月 修司と道場で打ち合っていた……ちなみに恭也も修司も刃落し刀を使っている。
もっとも、修司は小太刀ではなく、通常の太刀サイズだが……
恭也も修司も話しながら打ち合っているので、遊んでいるように見えるがその実まったく気を抜いておらず、
そこ等の剣士では彼らの太刀筋は全く見えないだろう……もっとも、だからと言って本気でやってるわけでもないのだが……
二人が打ち込むたびに火花が散り、修司の後ろで纏めた長い髪が宙に舞う。

「ハァア!!」

ガッキィィィン!!!

修司が一際強い斬撃を恭也に打ち込む……それを恭也は二つの小太刀で防ぐ。
刃と刃をギリギリと重ね合わせたまま、二人は対峙して……

「ああ、そう言えば右膝の方はその後どうです?」

と、修司が言ったと同時に二人とも離れる。

「ん、かなり好調だ……【神速】を使っても全然痛む事がない……」

言いながら、恭也は両方の小太刀を納める。

「そうですか〜……まぁ、あの時点で完治したとは思ったんですけど……【神速】を使っても大丈夫なら完璧ですねぇ♪」

修司も恭也にならって刀を鞘に納める。

「ああ、修司には世話になりっぱなしだな……」

「いえいえ、友達ですから〜」

額に張り付いた雪を思わせる白銀の髪を、掻き分けながら修司はニッコリと笑う。

「ふっ……そうだったな……」

「はい♪」

修司は嬉しそうに笑い、恭也も微笑を浮かべている……恭也が家族以外の者の前で笑うのは珍しい事である。
それだけ、恭也と修司は友として絆を持っていると言う事なのだろう。

「さて、今は……4時半か……」

恭也がポケットから取り出した、クリップオン時計には確かに4時30分と言う数字が記されていた。

「ああ、もう2時間ちょっとも打ち合ってたんですか〜」

しかし、その割には二人とも汗はそこそこかいてるものの、息は上がっていない。
どうやら、美由希が彼らの領域に辿り着くのはまだまだ先の話になりそうだ……

「まだ、飯には早いな……ああ、そうだ、修司……打ち合いが終ったらなのは達がゲームの相手をして欲しいとか言っていたぞ」

ちなみに修司の家は当然別の場所にあるのだが、一人暮らしの為晩御飯は高町家で一緒に食べさせて貰っているのである。

「あはは、解りました……その前に、ちょっとシャワー借りますね〜」

恭也に手を振りながら、修司は道場の入り口の方に歩いて行く。
恭也と同じく剣術の鍛錬を主にして来た修司だが、ゲームの才能もあるのか、あのなのはと互角にやり合えるほどのゲーマーだった。

「ああ、汗を流して来い」

そして、シャワーから上がった恭也と修司は晩御飯までなのは達とゲームに興じたのだった。


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時刻は11時10分前……恭也の格好は寝巻き用のTシャツとジャージ……
ではなく、SPの仕事する時に着用する黒のズボンとシャツを着込んでいた。
上下とも特殊な繊維で作られており、下手な斬撃ならば服で受け止める事も可能である。
他にも、細工がしてあり、所々に鋼糸や飛針が収納できる様になっている……そして、その上にこれまた黒のサマーコートを羽織る。
最後に、『八景』と『龍燐』を他人に見えないように腰に付ける。

「さて、そろそろ行くか……」

恭也はそう呟くと、自室の襖を開けて廊下に出る……その間に、物音はおろか気配も微塵にも漏らしてはいない。
恭也は数日前からこの時間に常に、武装をして街を見廻っていた。
何故、そんな事をするかと言うと……最近、海鳴では連続猟奇殺人事件が起きていた……犠牲者は現時点で7名。
当初は海鳴から少し離れた街で起こった事件だったが、3件目からずっと海鳴で発見されている。
その為、海鳴及び海鳴近辺の街では夜になったら人影が少なくなり、変わりに夜に巡回する警官の数が増えていた。
そして、この事件の特異性……被害者は皆、ほとんどの血が失われていると言う所から、警察の特別部に所属しているリスティは
『夜の一族』の暴走の可能性もあるとし、戦闘能力が自分よりも高い恭也にも応援を頼む事にしたのである。
ちなみに、当然『夜の一族』の一人であり、自分の友人でもある『綺堂 さくら』にもリスティは調査を頼んでいた。

「吸血鬼……か……」

一人ごちて、恭也は家族を起こさないように一人、夜の海鳴の街に出て行く。




足音をまったく立てずに、恭也は深夜の静寂に満ちた街の道を歩いていく。
黒い服で身を包み、闇を纏うその姿は完全に夜と同化している。

「流石に静かだな……まぁ、こんな時に街を出歩くのは警察か、酔った人ぐらいだろうが……」

周囲の気配を注意深く探りながら恭也は呟く……いつでも戦闘に入れるようにし、歩きながら気配を探り、
自分自身の気配は完全に消して歩いている。
すると、不意に前から誰か歩いて来る……聞こえてくる足音の軽さから推測するに、恐らくは女性だろう……
夜ゆえに遠目からでも、白い服を着ているのが解る。
恭也は少し警戒を強めて、その白い人影に近づいて行く。

「…………!?」


――ドックン――


しかし、少し距離が近づいたところで恭也はその女性の顔を見て、驚きのあまり足を止めてしまった。
そして、同時に心臓がドックンと一際大きく鼓動する。
その鼓動は、他人に聞こえるのではないかと恭也に思わせるほど大きなものだった。

(……くっ!?……落ち着け……落ち着け……)


――――ドックン――――


(……夢に……出てきた女性……か?……馬鹿な……あれは唯の夢の筈……)

腰以上まであった金色の髪が、肩口までに短くなっているのと、服が蒼いドレスからタートルネックのシャツと紺のスカートにと
服装等は変わっていたが、恭也の視線の先にいるのは正しく夢に出てきた女性だった。
金色の髪と赤い瞳……白い彼女を象徴するかのような服装……それは夢と同じく、やはりどこか幻想的だった。


――――ドックン――――


だが、女性の方は当然そんな事を知る分けも無く、呆然としている恭也の横を素通りして行く。
彼女が通り抜ける瞬間、脈拍が上がり心臓も更に大きく鼓動する。
暫く呆然としていたが、不意にバッと振り返って彼女の後姿を凝視する。
そして、何故か取り敢えず、彼女に声をかけようとして彼女に向って歩いて行く。

(……俺は……何をしている?……あの女性に何と声をかける気なんだ……?)

しかし、恭也の思考とは別に足は彼女に近づいて行く。
だが、恭也はピタッと歩みを止める……同時に眼は細められており、非常に緊迫した表情になっている……どうやら何かに気付いたらしい。

(この異様な気配……それにこの風に流れてくる匂い……これは“血”の匂い!?)

そう判断すると、恭也はくるっと向きを変えてと異様な気配と“血”の匂いが漂って来る場所に向って走る。


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「……くっ……」

目的の場所は恭也にとってはそう遠くなく、それこそものの5分程度で着いた。
恭也の視線の先には、恐らくはほんのちょっと前までは生きて普通に歩いていたであろう女性の変わり果てた身体がある。
全身が真っ白……と言うよりも真っ青になっており、血の気なんてまったくありもしない……周りには多少、血も飛び散っているし、
何よりもその女性の首は、身体の向きとは真逆を向いている……既に亡くなっている事は一目瞭然であった。

(間に合わなかったか……)

ギリッと恭也は血が滲む程に強く拳を握る。
そして、大きく息を吐いた後、携帯を取り出してリスティに遺体を発見した事を告げ、現在いる場所を告げる。

(……これは……)

恭也はリスティに連絡を取った後、少しでも情報を集める為に手袋して簡単に遺体を調べ始める。
すると、遺体の首筋のところに二つ並んだ穴の傷があるのを発見した。

(……確かにこれは、何かに噛まれた傷だな……)

今までの事件と同様の首筋の傷……つまりこれはやはり同一犯の仕業と言う事になる。
恐らくは血も抜かれているのだろう。

(となると、やはり夜の一族の仕業なのか……?)

遺体の傍に跪いて、そんな事を暫く考えていると、リスティが警官を引き連れてやって来た。

「これで8人目か……」

リスティは恭也の横で、警官達の捜査を見ながら悔しそうに呟いて煙草を握り潰している。

「……リスティさん……3本目ですよ……」

「え?……あ、またやっちゃったか……」

恭也に指摘されて、漸くリスティは手袋をした自分の手の中で煙草が潰れているのに気付いた。
ちなみに先ほどから、潰しては新しいのを出すの繰り返しで、また新しいのを出そうとしている。

「さくらさんの方から何か連絡はないんですか?」

「ん〜〜昨日、電話で聞いてみたんだけど……今のところ、怪しい奴はいないってさ……
まぁ、夜の一族もたくさんいるんだ……昨日今日じゃ調べられないだろ……それに夜の一族と決まったわけでもないし……」

リスティは、煙草を指で弄びながら答える。

「でも、何の為にこんな事を……」

恭也は眼を細くして、怒りを声に滲ませて呟く。

「理由なんて無いんじゃないかな……?」

呟くように答えたリスティの方に恭也は視線を向ける。
リスティは漸く、4本目の煙草を口にしてライターで火を点けた。

「被害者の共通点は女性だと言う事だけ……他はまったく共通点なし……中には旅行者もいたんだ……どう考えても無差別としか思えないよ」

そう言って、リスティは煙草を吸って煙を吐き出す。

「……人を殺す事を目的としている、と言うことでしょうか?」

「殺人快楽者って奴も確かにこの世にはいるけど……この事件は上手く言えないけど、それとは違う気がするんだけどね」

そのリスティの言葉は、実は恭也も感じていた事だった……“夜の一族”は確かに普通の人間とが違う部分がある。
しかし、それはあくまでも身体能力などの話であって思考は人間とまったく同じである。
そして、これが殺人快楽者によるものならば、どこかに異常性の痕が見られる筈だ……だが、遺体にはその様な痕は見られない。
唯、大量の血が失われているだけ……つまり、それは吸血をしたと言う事を意味するのだが、そうするとこの事件は血を手に入れる為
だけに、人を殺しているように思える。
確かに“夜の一族”は血を必要とするが、ここまでの血は必要としない。
この事件については、まだ何一つ解っていないのである。
唯一、解るのはこの犯人は恐らくは女性の血を求めている事だけである……そう、今までの被害者は皆、若い女性なのである。

「さて……取り敢えず、ボクはオフィスに戻るけど……恭也はどうする?」

リスティは、煙草の火を自前の携帯灰皿で消しながら、恭也に問う。

「ああ、そうですね……今夜はもう街を回っても仕方ないので帰宅させて頂きます」

この事件の共通点……それは、同じ日に二度は発生しないという事である。
不定期に発生するこの事件だが、続けて起こった事は未だない。
何故かは当然解らない……犯人は意外と慎重なのか……それとも、一回につき一人で血の量は足りるのかもしれない。
少し話が逸れたが、そう言う事でこれ以上見回りをしても意味はほとんどないのである。
もっとも、警官達は常時見回りをしてるが……

「なら乗ってきなよ……君の家の方に回させるから」

リスティは、白と黒に塗り分けられた車……即ちパトカーを親指で指し示しながら言う。

「いや、良いですよ、自分の足で帰りますから……」

と、恭也は断ろうとするが……

「あ〜遠慮しなくて良いって、ほら行くよ」

「リ、リスティさん……離してくれませんか……」

リスティは恭也の腕に自分の腕を絡ませて、無理矢理連行させる。
恭也は少し慌てて腕を解こうとする……理由は至極簡単で、リスティのその豊満な胸が腕に当たっているのだ。

「だ〜め、ほら行くよ」

リスティは、悪戯好きな小悪魔の笑顔を浮かべて、そのまま恭也を引っ張っていく。

「解りました、解りましたから離して下さい」

そうして、恭也は結局パトカーで家まで送って貰ったのだった。




――――恭也の自室

恭也はパトカーで家まで送って貰った後、シャワーを浴びて寝巻きに着替えて、畳の上に敷いた布団の上に寝っ転がっていた。
先程、リスティには言わなかったが、実は気になる事が一つあった。

「……俺が駆けつけた時、あそこには誰もいなかった……」

そう……最初に血の匂いを感じた時、確かに恭也は妙な気配を感じていた。
しかし、その気配の正体が掴めなかった為、リスティに話さなかったのだ。
今までに、“HGS”や“夜の一族”には何人か会ってきたがそれらとは異質なる気配だった。

「あれがもし、犯人のモノなのだとしたら……今回の事件は俺達が考えている事とは全く違うのかもしれない……」

「まぁ、今の段階で何を考えても仕方ないか……」

そして、恭也は布団の中に潜り込んで夢の中へと意識を落としていった。


first story T――END