絆
作者:welsper さん
世の中には自分の力ではどうにもできないことがあると痛感した。
俺は今年で二十四歳になった。思い起こせばあれから七年の月日がたっている。その七年のあいだ、いつも俺の隣には彼女がいた。
―――――音羽かおる。
俺の最大の理解者にして、最愛の人。
高校卒業後、俺とかおるは同じ大学に進んだ。別に一緒にいたかったから同じ学校を選んだわけじゃない。そういう気持ちがなかったことはないけど、二人ともそこまで主体性のないような事はない。ただ、学力も同程度、得意科目も苦手科目もまるっきり一緒では志望校も自然と一緒になった。それだけのことだった。
俺は大学卒業後、映画の配給会社に就職した。そこで、気まぐれで応募したエイが脚本の公募でグランプリを取ってしまい、今となっては映画はもちろんテレビドラマの脚本まで書く立派な(?)脚本家になっていた。
そもそも俺が映画関係の会社を選んだのは四年、いや五年近くか、かおるにまさに引きずられるように映画を見て、文字通り"感化"されたからに他ならない。
その当のかおるはというと……今もテレビをつけてチャンネルをまわせばどこかに映っているだろう。
大学に入ってすぐに、かおるは演劇部に入った。そこにどういう心境の変化があったのかは分からないが、とにかく、三年のときに大きな転機が訪れた。チャンスと言ってもいい。かおるの昔の恋人だった脚本家から出演依頼があったのだ。
出演依頼といっても、当然主役でとか言うわけではなく、ちょっとした端役だったがイメージがぴったりな人がかおる以外に見つからないのでどうしてもお願いしたい。と強く頼まれたのでしかたなく出演したところ問い合わせが殺到。あれよあれよの間にその容姿とキャラクターで今や日本を代表する女優兼タレントになって、一日のうちテレビで彼女の姿を見ない日は無い、と言うほどの人気になった。
俺は俺で〆切に追われ、かおるはスケジュールとにらめっこをし、会う時間は相当減ってしまったがその程度の事で俺達の絆が揺らぐことはなかった。
俺はかおるの全てを信じ、かおるは俺の全てを信じた。それが別れの言葉でない限り。
しかし、俺が今置かれた状況ではその何よりも強い絆、結束が最大の障害となった。
俺はこれからかおるに対して相当慎重に行動しなければならない。なぜなら俺達の間で嘘は通用しない。相当に巧妙な嘘も互いの全てを知り尽くした俺達の間では意味をなさないのだ。
しかし、今回ばかりはそんな事は言ってられない。俺は全身全霊を懸けてでも一世一代の大嘘を貫き通さなければならないのだ。
………プルルル………
決意を新たにしていると不意に電話が鳴った。手元の子機で電話に出ると聞きなれた声が響いた。
「あ、もしもし、智也?」
予想通りかおるだ。
「ああ、俺だけど」
「あのね、今日はあと二時間くらいで帰れそうなの。それで智也の所に行こうかと思ってるんだけど…」
「今から二時間後って言うと七時くらいか。うーん、悪い。ちょっと人と会う約束があるんだ」
「そうなの。何時くらいまで?」
「ちょっと分かんねぇ。もしかしたら今日は帰らないかもしれない」
「えぇ〜〜、久し振りに会えると思ったのに……」
「ゴメン、大事な約束なんだ」
「………分かった。じゃあまた今度ね。多分次のオフはあさってかその次の日くらいだからそのときは空けといてよ?」
「わかった。明日になれば予定もつくと思う。……今日はほんとごめんな」
「ううん、仕事なら仕方ないよ。じゃあ、また明日電話する」
そこで電話を切ると子機を充電器に戻し立ちあがって出かける準備をする。さっきの電話の内容は本当のことだ。八時によく行くバーで信と待ち合わせているのだ。
信とは大学もわかれて進んだ道は全く違ったが、高校卒業後もよく会っていた。あいつは大学卒業後結構大手の商社に入社した。今は企画部という第一線で社会の荒波に立ち向かっている(信が自分でほざいてた)。
本当かどうか少し疑わしいが、以前信の同僚と酒の席をともにした度き『非凡な企画で植えからも注目されている』『俺達の中では一番の出世頭になる』と言われていた。まあ、あいつの頭は常人とは少し違うからな、そういうこともあるかもしれない。なんせ俺が脚本家なんかになっているのだ。世の中何が起きても不思議じゃない。そんなことを考えながら俺は秋の夕日がまぶしい街を歩き出した。
――――そういえばちょうど今の季節だったな。
電車の窓に流れる街並みを見ているとかおると始めてあったときのことを思い出した。しかし俺はその思い出を強引に心の奥に押し込めた。かおると知り合う前の、あの頃のように。
店に着いたのは八時少し前だった。すっかり辺りも暗くなり、会社帰りのサラリーマンの姿もよく目につく。そんな変わらない風景を眺めながら俺は行き付けのバーの扉を開いた。
からん……。
乾いた音が俺を迎えてくれる。この雰囲気が気に入って常連になったのだ。
取り敢えずカウンターに座るとすっかり馴染みのバーテンが注文を取りにきてくれる。
「いらっしゃいませ、三上さん。本日は何にしますか?」
「いつものお願いします」
「かしこまりました」
"いつもの"とはこの店自慢のウイスキーだ。この店の店長が相当のこだわりをもって仕入れている物だが、俺はそのウイスキーに一発で惚れこんでしまった。で、俺は酒がそんなに強くないので水割りにしてもらっている。
「お待たせしました」
その"いつもの"が俺の前に置かれる。
「三上さん、稲穂さんもうお見えになってますよ」
「え、もう?」
俺はグラスに一口つけてから言った。なんとも言えない清涼感がのどを潤す。
「ええ、一番奥のテーブルです」
「ありがとう」
俺はグラスを持ったまま立ちあがりバーテンが指差した方に進んだ。
「おい智也。こっちだ」
めざとく俺を見つけた信が店の雰囲気を壊さない程度の声で俺を呼びとめる。
「よう、待ったか?それにしてもどう言うわけだ?時間どうりに来るなんて」
「ばーか、商社は時間に正確が第一なんだよ。お前は脚本家なんて時間に自由な仕事してるから気にしないだろうけどな」
「はは、それもそうかもな」
「………」
「………」
お互いのグラスが傾いて中の氷がぶつかる音だけが響く。
「で、珍しくも今日俺を呼び出したのはどう言う風の吹き回しだ?」
グラスの中身が半分以上減ったところで信がまじめな顔で聞いてくる。さすがは俺の親友と言うべきか、雰囲気だけで今日俺が話すことを生半可な気持ちで聞いては行けないことが分かったらしい。
「ああ……」
一口グラスにつける。
「まず話す前にだな、今日俺に会ったこと、話したことは誰にも言わないって約束してくれ」
「誰にも?音羽さんにもか?」
「いや……かおるには特に、だ」
「………」
少しの沈黙。しかし俺の真剣な目に応えるかのように、
「分かった。誰にも話さない」
そう言ってくれた。
「……………俺、かおると別れようと思ってる」
信とバーで話してから三日が経った。
今日はかおると会う約束をしている。場所は澄空駅。今日別れ話を切り出そうと思って俺が指定したのだ。
今は待ち合わせの十分前。緊張で手に汗がにじむ。
俺はかおるを傷つけることに耐えられるだろうか?
ふと見上げた空は抜けるように青く、どこまでも澄んでいた。
「智也、待った?」
程なくしてかおるが現れた。多分もう三週間ぶりくらいになるはずだ。
「かおる、昼は?」
「まだだよ、智也も?」
「ああ、取り敢えず軽く何か食うか」
「うん、そうしよ」
高校時代と随分変わった街並みを歩いて適当なレストランに入った。案内された席は窓際で、街並みがよく見渡せる。
「ご注文をどうぞ」
ウェイトレスが声をかけてくる。
「うーん、私はこれにしようかな」
そう言ってメニューを指差すかおる。すぐにウェイトレスはキー入力していく。
「じゃ、俺も同じ物を」
「かしこまりました、少々お待ち下さい」
はっきり言って今の俺は食事どころではなかった。しかし俺は極めて平静を装って運ばれてきた料理を口に運んだ。
食後のコーヒーを飲みながら外の街並みを眺めていると懐かしい服が目に飛び込んできた。
「あ、あの制服…」
「変わってないんだな」
そういえば今日は土曜日だった。
坂道を下りてくる学生達を見ていると昔のことを思い出さずに入られなかった。
「ねえ、智也。最初にあった時の事覚えてる?」
「ん?かおるが転校してきた日のことか?」
「うん」
「覚えてるさ。考え事してたらかおるに追求されて先生に怒られたこともしっかりとな」
「そんなことは思い出さなくていいんだってば……」
「ははは」
「私が自己紹介終えて先生が教室を出てって、クラスのみんなに質問責めにされてるときね、あのとき私智也と目があった気がしたの。今思えばあれが予感だったのかなぁ?」
「………そんなことあったか?」
嘘をついた。俺も本当はそう思っている。しかし、今それを認めることはできない。いや、ただ単に少しでも自分の心を守りたかったのかもしれない。
「あったよ。智也はそうは思わなかったかも知れないけど、私はそう思ったんだ」
かおるとの思い出は常に、どんなことでも鮮明に思い出せる。かおるとの想いも一緒のはずだ。
「懐かしいな。……よし、行ってみるか」
「えっ、どこに?」
「うーん、学校とか本屋とかとにかく昔行ったような所」
「思い出の場所の散策か……。それもいいかもね」
俺達は歩いた。思いつく限りあらゆる所を。
本屋、映画館、ファーストフード店、パン屋、文房具屋、ありとあらゆる場所を。
そして、空の色が青から紫に変わる頃学校へ向かった。最後の思い出の場所とするために。
ちょっとした坂道を登りきった所にそれは変わらずに佇んでいた。少し息を切らしながらも俺達は校庭に向かう。
「変わらないね、ここは」
校庭からは校舎や体育館が見渡せる。その景色は七年前と何ら変わらない。
「ああ、街の方は色々変わってたけど、ここは変わらないんだな」
「…………………」
どちらともなく沈黙が続く。いろんな光景が頭の中によみがえってくる。
どれほどそうしていただろうか?空の色はもうすっかり紅くなっている。風が少し出てきた。
「もう、行こうか?」
「ああ」
俺の少し前をかおるが歩いている。かおるは思い出を思い起こしては、語っているが、もう俺の耳には、…意識には届いていない。
「そうそう、智也。今度私ね映画の主演が決まったんだよ。智也も私を使った作品書いてよ」
俺は意を決して切り出した。
「俺、もうお前とは付き合えない」
絞り出すような俺の声。驚いた表情でこちらを振り向くかおる。
「別れよう……俺達」
「……冗談…でしょ?」
顔は色を失っていく。
「………」
「なんで、そんな事言うの?」
信じられないと言った表情のかおるの瞳からみるみるうちに涙がこぼれそうになる。
「俺、少し前からもう駄目かなって、思ってた。
お前が女優になって最初のうちはさ、日を追うごとに綺麗になってくかおるを見てて、嬉しかった。いきいきしてるお前を見てて俺まで元気になれるような気さえした。
だけど、この頃は会う時間も少なくなって、何よりどんどん凄くなってくかおるを見てて、俺はずっと置いてかれてしまうんじゃないかって思って、怖かった。」
――――嘘だった。かおるを信じられないわけがなかった。いや、全てを信じていた。もし、裏切られてもいいとさえ思っている。
「脚本家と女優。同じ世界にいるようで違う世界なんだなって…思った」
かおるの瞳からは大粒の涙がこぼれつづけている。
「智也は私のこと信じられなくなっちゃったんだね………」
「………そうかもしれない」
乾いた音とともに頬に軽い灼熱感がはしった。
「…智也は……智也だけは私のことずっと信じてくれてると思ってた。あの頃からずっと……」
最後の方は嗚咽が入り混じって言葉になっていなかった。
「ゴメン………」
俺はゆっくり、ゆっくりと歩き出した。意識的にかおるのことを視界からはずし、そして、すれ違う。
後ろでかおるが崩れ落ちるのが分かった。それども俺は止まらずに歩きつづけた。
「本当にこれで良かったのか?」
あれから一週間が経った。今はいつものバーで信と一緒に飲んでいる。しかし、不思議なことにあれほどうまかったウイスキーは何の味もしない。
「……ああ」
「お前、本当にそう思ってるのか?ニュース見ただろ!?」
かおるはあれから一度もテレビに出ていない。無期限で女優業を休むと報道されていた。今映っているとすればそれまでに撮られていたCMだけのはずだ。
「俺、あれから音羽さんに会いに行ったんだ。」
「信、お前……」
「もちろん話しちゃいないよ、あのことは。話せるわけないだろ!?あんな状態の音羽さんに!」
「…………」
「見ちゃいらんなかったよ。目も少し虚ろで…。まるで糸の切れた操り人形みたいだった。」
信は本当にそんなかおるを見ていられなかったのだろう。机に肘をつくとそのまま両手で顔を覆った。
「そうか…」
「そうかって……智也、てめぇ!」
信は勢いよく俺の胸ぐらをつかんだ。周囲の客が注目するがそんな事は気にしちゃいない。
俺はまっすぐ信の瞳を見据える。
「智也………お前、なんでそんな………」
信は俺のシャツから手を離すとグラスの中の琥珀色の液体を飲み干した。
「なんでそんな目してるんだよ………」
絞り出すような信の声。手はこぶしを握り締めて白くなっている。
「すまない、こんな役お前に押しつけちまって。」
「いや、謝るのは俺の方だ。本当に辛いのはお前なのに……」
「………」
「………」
「…俺はかおるのこと信じてる。絶対立ち直ってくれるって。でも、もし半年経っても駄目だったら、お前があいつのこと支えてやってくれ」
そう言いながら俺は信に少し大きめの封筒を渡す。
「これは?」
「その時が来たら、全てを話してかおるに渡してくれ」
「わかった」
桜の花も散り始める頃、信は唯笑を連れてかおるの家を訪ねた。俺との最後の約束を果たすためだ。信は俺のことを話すのなら唯笑にも話すべきだと判断した。
「いらっしゃい、稲穂君、今坂さん。さ、あがって」
二人を迎えたかおるの声は思いのほか明るかった。少なくとも二人にはそう聞こえた。
かおるは実家で両親と暮らしている。その自分の部屋に二人を招き入れるとお茶を入れた。
「ありがとう」
三人は「久し振りだ、この頃どうしていた?」とかあたりさわりの無いことだけを話した。そうしながらも、信は話しの切り出し口を探している。
「そういえば音羽さん、テレビとかはいつ頃から出るの?」
信の心情を知ってか知らずか、助け舟を出すようなことを言ってくれる。
「え……」
「俺の会社の同僚とかも結構ファン多くてさ、みんな楽しみにしてたよ」
「そう、あはは…私ね、女優ってもう辞めようかと思ってる」
乾いた笑いを浮かべつつ、かおるは心苦しそうに言う。
「そんな!?どうして」
唯笑は驚いて半ば立ちあがってしまった。
「……もう、意味無いんだ」
「え…?」
「私が女優として頑張ってこれたのは智也のおかげなんだ。いつも智也が見てくれてるって思ってたし、頑張ればきっと智也も女優として使ってくれる。そう思ってたから。智也が見てくれないなら、もう、意味ないよ………」
最後は消え入りそうな声だった。
「………智也は見てるよ」
「…え?」
「智也は音羽さんのこときっと、いや、絶対見てるよ」
「気休め言わないでよ!あれからもう一度話がしたくて探したけど、家も仕事場も実家ですら引き払われてたのよ?それで私の事見てるなんて、あるわけないじゃない!」
感情の堰が壊れたのか、一気にまくし立てるかおる。しかし信は静かに言葉を続けた。
「智也は…死んだんだ」
「―――――!」
「………」
「う……そでしょ?」
「俺もこんなこと冗談ですませたい。だけど、本当のことなんだ」
信じられないのか、信じたくないのか。かおるはすがるような目で今度は唯笑の方を見つめる。だが、
「………」
唯笑は何も答えない。今、一言でもしゃべったら泣き崩れてしまうことを知っていたからだ。
「私だけが知らなかったの?」
「知ってたのは俺だけだ。智也は両親にさえその直前まで黙っていたらしい。唯笑ちゃんには今日、ここに来る前に」
「なんで…どうして智也は?」
「俺さ、智也と音羽さんが別れる少し前に相談されたんだ」
「俺、かおると別れようと思ってる。」
「はあ!?お前水割り一杯で酔っ払ったのか?」
「どうしようもないことってあるんだな。あらためて思い知ったよ」
「智也、お前いったい何言ってんだ?」
「俺、あと半年しか生きられない」
「え?」
「いや、ひと月前に医者にそう言われたから、あと五ヶ月くらいか」
「……本当なのか?」
「ああ、小難しい病名は忘れたが助かる見込みはないってさ」
「…それでどうして音羽さんと別れることになるんだよ?」
「かおるは俺のことを愛しすぎた。自惚れじゃなく、掛け値無しに」
「それ、いけないことなのかよ?」
「いけなくないさ。そこまで愛し合えたことは嬉しく思っている。だけど、危ういんだ。」
「危うい?」
「いま、俺が急にいなくなったらあいつは多分耐えられない。それが、死という形ならなおさらだ。彩花を失ったときの俺のように」
「………」
「できれば同じ想いはさせたくない」
「…なんで俺に話してくれたんだ?」
「さあな、ただ、なんとなくお前には話さなきゃいけないような気がしたんだ。」
「お前があと五ヶ月でいなくなっちまうなんて……」
「あとのことは頼んだぜ」
「智也がそんなことを…」
「智ちゃん……」
信は話しを終えるとあの封筒をかおるに渡した。
「これは?」
「智也の最後の作品。智也が書いた最初で最後の音羽さんが主役の脚本」
かおるはそれを震える手で受け取ると、中に入っている一冊の台本のページをめくり始めた。一枚一枚かみしめるように。
ちょうどページが真ん中にきたときかおるの動きが止まった。
そこには一枚の紙が挟まれていた。それは俺からかおるへの最後のメッセージだった。
『かおるへ。
これをお前が見ているって事は俺はもうこの世にはいないって事だ。…なんて、お決まりのセリフを書いちまったけど、とにかく、俺の最後の脚本を台無しにするような演技しやがったら許さねーからな!
お前を信じてる。 智也 』
「ばか……智也。」
かおるは涙を拭うと二人をまっすぐにみつめた。
「ありがとう、稲穂君、今坂さん」
その瞳はとても純粋で、そして力強かった。
「大丈夫かな?かおる」
「大丈夫だよ、きっと。だって智也が信じた子なんでしょ?」
「そう……だよな」
「うん、彼女は大丈夫」
「不思議だな。お前にそう言われるとなんか信じちまうよ」
「へへっ、もうこの道五年だからね」
「ああ、死神か」
「ちっがーう!天使よ、て・ん・し」
「わかったわかった。じゃ、そろそろ行くか」
「もういいの?」
「ああ」
「…智也、なんか十年もしない内にいい男になったね」
「ばか、何言ってんだ」
「ううん、本当にそう思う。強くなったよ」
「……だとしたら、それはきっとかおるのおかげだ」
「そっか…。私がその役やりたかったな」
「ったく、何言ってんだか。先行っちまうぞ、彩花―――――」
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