Originar Mmemories Off




〜序章〜

―――記憶。

 その概念、確かな存在として有りながら不可視である存在。
 記憶は、視覚できない。
 我々が直視する記憶は、存在していたモノの過去、意味を成さなくなったモノの
過去の結末でしかない。

 ―――記憶。

記憶そのものを視る、という事は昔の出来事を見るという事ではない。
 生者を葛藤させる原因、生物が生まれてから自らで経験する体験を
映像として見るということ。

 ―――それが記憶を視る、というコトだ。


少年・渚耕介は『孤独』を身に纏っていた。
静かな黒いカーテンの向こうで、両親を『殺』されてしまった。
だが、それは記憶として残っていない。
残っているのは、ただの抜け殻、赤い血。血。血。血。血。
とても赤い、綺麗な赤。足元に広がる血。血。血。血。血。
そこで『記憶』は途切れる。抜け殻はただ消えて行く―――

次に目を醒ました時、耕介は白いベッドの中にいた。
医者が言うには、仮死状態から奇跡的に回復したらしい。
確実に死亡していた様態からの蘇生の代償か。
病院のベッドで目を覚ました彼は、記憶としての映像に残像のような点が見えていた。

人には見えず、自分だけにしか見えないその点は
モノの生死に関わりなく、それらのを過去を容易に映像化させてしまうものだった。

「モノの過去が記憶されてある場所」、としか言いようのないモノが
見えてしまうようになった志貴は、自らの眼を抑制して生きていく事となる。

―――それから八年の歳月が流れた

渚耕介は高校2年生になっていた。
自らの不可思議な目も、それに映る点も、自らの思考によって制御できるようになった。
見たい時に見れるし、見たくない時には見れない。
だが、激しい感情の起伏によって、その制御ははずれてしまう。
だから少年は誓った。何があってもいけるように、耐えられるように、と。

9月、渚耕介は、澄空学園に転校することになっていた。
それが偶然なのか、運命なのかは分からない。
ただ、自分で選んだ、自分で決めた。耕介はそう思いたかった。
背負い込むのは自分だけで充分だ。つらいのは自分だけで充分だ。
自己破壊願望とも違うその何かは、耕介の胸の奥深くにしまい込まれることになる。
――誰にも触る事のできない奥深くに……

序章 FIN