気がつくと、欝蒼とした深い森の中にいた まだ頭が動かない全身がしびれる様な感覚が残っている。 「どこだ……ここは……?」 「くぅん……」 どうやら久遠も巻き添えにしてしまったようだ 俺は重たい頭を持ち上げ周りを見回す 巨木が密生した原生林の中に自分達がいるとこを確認すると俺はただ呆然と立ちすくんでいた…… 「一体……どういうことだ?少なくとも日本にはこんな場所があるはずない」 頭を左右に振り思考をはっきりさせようとしていると 「あれれ、なんで君が?」 この男とも女ともつかない声はあの時の………… もう一度注意深く周りを見渡すと自分の顔の二メートル前に、おかしなものがふわふわと浮いているのにきづいた。 「お前は何者だ?」 「やあ!ぼくは天魔鏡の精さ。そうだなキョウちゃんとでも呼んでおくれよ」 「天魔鏡?」 「あれ?ずいぶんと落ち着いているんだね。泣け叫ぶとか気絶するとか、 大声上げてパニックに陥るとかのリアクションを期待していたのに」 俺が思案顔で考え込んでいるとキョウと名乗ったそれは面白そうに言った 「別に……そう驚くとこではないだろう……久遠のこともあるし」 「……久遠って?」 「ああ……一緒に来てた狐が…… がぶっ 「あっ………」 「……………え?」 変な物体が後ろを振り向くと久遠がしっぽに噛み付いているのが見えた 「いたいっ、いたいっ!いたーいっ!」 パシュンっ 久遠はすぐに口を離し人型に変化する 「……おいしくない」 「人に噛み付いておいて第一声がそれかいっ………ってなにこの子……」 俺の肩に必死に掴み久遠を警戒している 「見ての通りだ……いまさらキョウみたいのが出てきてもそうそう驚かない…」 夜の一族や自動人形、そして霊障……少なからず人外の者達を見てきている……精霊の類がいても不思議はないだろう 「久遠」 「くぅん」 パシュンッ 久遠は狐型に戻り俺の足に擦り寄ってくる、それを抱き上げると同時にキョウは俺を離れて久遠には届かない高さまで上昇する 「それで天魔鏡とは?」 キョウは噛み付かれたしっぽのようなものをさすりながら答える 「あれ、見ただろう、君も。銅鏡さ、耶牟原遺跡で発掘された銅鏡。あれが天魔鏡なんだよ」 「あの銅鏡のことか……ということはあの銅鏡に宿っている精霊ということだな?」 「そうそう、そういうこと♪」 そうか……キョウの所為でここに飛ばされた……と見てもいいだろうな 「たとえ信じれなくても、ここにこうしてぼくがいるのは事実だよ」 「……じゃあ……ここは何処だ?少なくても日本ではないだろう?そしてどうして俺を連れて来た?」 「え?」 キョウは動きを止めて強張った顔で俺を見つめる 「どうした?これはお前の仕業なのだろう?」 「いや、あのね……つまり、これはまちがいで、その、予定とは違って、君達があんなことするから……… 本当は……を……ああ、これからぼくはいったい……」 キョウは下を向いてブツブツと独り言を始めた 俺は鋼糸を投げる ヒュッン 「え?」 見事にキョウの体に絡みつきそれを掴む 「何をブツブツと独り言を言っている。早く帰る方法を教えてもらおうか?」 「な、何この糸、これ君がやったの?」 「そんなことより説明してくれ」 「わかったよ、その前にこの糸、外してくれない?」 「逃げるかもしれないだろう?」 「し、信じてないんだね……」 「少なくとも初めて会った人間を無条件で信用するほど俺はお人好しではない」 「わ、わかったよ、説明するから……ここは古代の九洲。君達の世界でいうと、三世紀頃かな」 キョウは地面に九洲の字を書く 「……九洲? 三世紀の?」 「う〜ん、ちょっと違う。九州じゃなくて“九洲”。君達の世界の歴史とは直接繋がっている世界じゃないんだよ。 なんて言ったらいいのかなあ?ほら、この宇宙には無数の同じような世界が存在しているとかって………」 「平行世界とかいうやつか?」 多重世界、パラレルワールドでもいいのか?たしか美由希に薦められてそんな小説を読んだことはあるが…… 「そうそうそれそれ、パラレルワールドでも良いんだけど、まあ、同じようなものだと思ってよ」 「軽い調子で突拍子もないことを言われてもな………」 「でも事実なんだから仕方がないじゃん」 「事実でも嘘でもなんでも構わない。それより早く還してくれないか?俺達をここに連れてきたのは間違いなのだろう」 「へっ?」 「まさか…………」 俺の中に嫌な予感が広がっていく 「無理だよ」 「なに?」 「ぼく時をさかのぼることはできても、もう一度下ることはできないもーん」 「ほう…………この状況下で通用すると思っているのか?」 「ちょ、ちょっと待って……何?何するつもりなのさ」 俺は無言でキョウを木に縛り付ける 「き、君?落ち着いて……ね?」 キョウは何をされるかわからない恐怖で震えているようだ 「さて……本当は還れるのだろう?」 「………………」 ヒュッ…カッ! 「っ!!!」 飛針がキョウの顔らしき部分の真横に突き刺さる 「いや、あの……」 ヒュッ…カッ! 「ひっ……」 「還れないとでも言うのではないだろうな?」 「か、還れる。還れるさ、もちろんじゃないか」 「どうやって?」 「え?それは、つまり、その……」 「いまこの場で嘘を言ったらどうなるか……わかっているな?」 新たに飛針を取り出す 「ち、ちがうよ、だから、つまり、あのね………そう、火魅子さ、火魅子。 耶麻台国を復興させて女王の火魅子を立てれば、君は君のいた時代に還れるんだよ」 「卑弥呼?」 「おしいけどちょっと違う“火魅子”。こっちの世界の“耶麻台国”の女王“火魅子”さ。」 「その火魅子を見つけ出してどうするんだ?」 「あのね、火魅子はこの世界でただ唯一、時の御柱と呼ばれるものを動かす力を持っているんだ。もちろんそれだけじゃないけどね まあ、とにかく時の御柱さえ動かすことができれば君は、君のいた時代に戻れることができるんだ」 「では、まずは時の御柱とは何だ?」 「時をさかのぼる仕掛けだと思ってくれればいいよ」 「なるほど…それを動かせば俺達は還ることができると?」 「うん」 「第二にその火魅子とやらはどこにいる?」 「いないよ」 ヒュッ……カカッ 「俺は飛針、それを同時に三本投げることができる、できない事も無いがそれ以上は命中率は下がるがな」 「こ、こんなの刺さったら死んじゃうよ」 「どうやって時の御柱を動かせというんだ?」 「わ、わかったから、手にもってるそれを降ろして」 「いま、ここは三世紀の九洲だってことは話たよね?でねこの地はかつて耶麻台国という国が治めていたんだけど、 少し前に狗根国によって滅ぼされちゃったんだよ。で、今は狗根国が占領している。ここまではわかる?」 「なるほど、国自体がもうすでに存在していないからその国の女王でもある火魅子も存在していないというわけか……」 「そう、その通り!」 ヒュッ……カッカカッ! 「じゃあどうやって動かすつもりなんだ?」 俺の言葉を聞くとキョウは急に明るくなりしゃべり始める 「実は火魅子の資質を持った女の子が九洲の何処かにいるんだ。 だから耶麻台国を復興してその娘を女王位に就ければ、条件をクリアーすることになる。 つまり時の御柱を動かすことができるようになるんだよ」 「それは……俺にその耶麻台国とやらを復興させろと?一度本当に刺さったら死ぬか試してみるか?」 「や、やめて、大丈夫だよ!僕も全面的に手伝うから!」 「お前が手伝うとして一体何ができるんだ?よっぽど久遠が付いていてくれる方が役に立つと思うが?」 「ひ、ひどいなぁ、これでも天魔鏡は由緒ある耶麻台王家の神器の一つなのに」 「ほう」 「そ、そうだよ。これでもぼくは偉いんだよ耶麻台国の人間なんか、僕の前に出ればみんな、ひれ伏しちゃうんだからね」 「で?どうやってその火魅子の資質を持った女の子を捜すつもりだ?」 「その点は大丈夫、ぼくには火魅子候補の女の子を見つける能力を持っているから その女王候補を見つけ出して狗根国を追い出して耶麻台国を復興させればすぐに還れるでしょう?簡単でしょ?」 ヒュッ……カッ!!! 一度に五本の飛針がキョウの周りに打ち込まれる 「それは簡単に説明したからだ。国一つを復興させるのにどれほどの労力が必要だと思っている?」 「だ、大丈夫だよ、た、確かに耶麻台国が占領されてから十数年が経っているけど 九洲の人間達が心から狗根国に服しているわけじゃないからその証拠に今でもときどき反乱が起きたりもしているんだよ」 「なるほど、しかし成功はしていない……か」 「うっ……で、でもそれは対狗根国戦の中心となるべき存在が欠けていたからなんだ」 「それが火魅子候補……というわけか?」 「火魅子候補だけじゃない今回は天魔鏡の精であるぼく、そして神の遣いがそろえば耶麻台国復興の求心力には十分だよ」 「ちょっと待て…神の遣い?何処にいるんだ?」 「いやだなあ、君に決まっているじゃないか」 「なん……だと?」 「だって考えてもごらんよ『僕は千七百年後から来たただの高校生です』って言って 火魅子候補や昔の耶麻台国関係者が君の言うこと聞いてくれると思う?」 「ふむ………」 「ねぇ。だからね、神の遣いを名乗るの」 「いいのか……それで……」 「いいんだよ。神器の精であるぼくが認めちゃえば君は神の遣いなんだから」 なるほど……誰も俺を知る人間もいない…… キョウが俺のことを耶麻台国の人間に神の遣いだといえば強制的にでもやらされるかもしれないな 「とにかく!ぼくは滅んだ耶麻台国を復興させたいの、そして、君は元の世界に還りたい どのためには火魅子候補を見つけて女王位に就けなきゃいけない。ほら、両者の利害は完全に一致したじゃないか ともかく手を取り合い、協力して目標に向って進んでいこうよ」 ともかく、還るためには何が何でも火魅子を就けなければいけないということか 「仕方がない、やるしかないのだろう?」 「そうそう、じゃあ早速出発しようよ」 「待て…何処に向うんだ?」 「伊雅を捜すんだ」 「伊雅?」 「かつての耶麻台国の国王の弟さ。まずは彼のところに行って寝床と食べ物を確保しなくちゃね。 これからずっと野宿だなんてやでしょ?」 別に野宿は慣れてはいる。だがこの世界にどんな生き物がいるのかがわからない以上得策ではない………か 「何処にいるのか知っているのか?」 「大体の場所はわかるよ、伊雅も王家の神器を持っているからぼくの探知能力に反応するんだよ。だから、わかるんだ。 それに伊雅は今でも半狗根国勢力と連絡を取り合っているはずだから、火魅子候補の行方も何か知っているかもしれないしね」 「なるほど……では早速出発するか」 「そうそう、まずは行動行動」 俺は銅鏡を拾い上げ懐に入れる 「ちょ、ちょっと、出発する前にこの糸外していってよねぇ、待って、待っててばぁ〜」 それから一時間、いつの間にか眠ってしまった久遠を抱き道も無い山の中を歩いている 「へぇ……結構体力あるんだね」 「まだまだこれぐらいは大丈夫だ」 「ふ〜ん、ちょっと楽しみにしてたのに………」 「残念だったな…これでも少しは鍛えているんだ」 「へ、へぇ〜、20世紀人はみんなひ弱だと思ってたよ」 「そうでも無いぞ俺より強い人はいくらでもいる……」 「そういえば何か刀持ってるけど剣道でもやってたの?」 「いや、剣術の方だ。それにこれは小太刀だ……」 (それならいざっていう時もある程度は大丈夫かな?) 「で……日が暮れるまでにどれぐらい歩けばいいんだ?」 「え?う〜んと今がちょうど正午ぐらいで日没が5〜6時間だから………… うんあと100キロを6時間で歩かないといけないよ」 「100キロ!?」 「ギリギリでしょう?」 「まあ……少なくとも6時間はかかると思うがな」 「う〜ん、でも向こうからもこっち近づいてきてるから大丈夫だと思うよ」 「それはいいとして寝床はどうするんだ?日が暮れると獣も動き始める」 「そうか、う〜んっと」 キョウは両腕を組んで何事かを考え始めたようだ 「よし、あそこに行こう」 「決まったのか?」 「この近くに、耶麻台国の神を奉った神社があるんだ。いまはどうなってるかわからない ………たぶん、狗根国によって廃棄されていると思うんだけど、 夜露ぐらいはしのげるはずだから。獣に襲われる心配もないし」 「どのくらいの距離なんだ?この世界と俺の世界とでは距離感覚が全く違うようだからな」 「そんなに遠くないよ、う〜ん、そうだな十キロぐらいだよ。二時間もあれば着けると思うよ」 「では早く出発するか……」
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