時刻はもう深夜、場所は帝劇舞台上、消灯時間もとうに過ぎて周りに人影もなし。

 彼女達はそこにいた、不穏な雰囲気を辺りに漂わせながら・・・。

「やっぱりあんただったんだな。最初会ったときから気に喰わない奴だとは思ってたんだよな」

 開口一番マリアに詰め寄るロベリア、完全に喧嘩腰である。

「いったい何の話かしら? だいたいもうとっくに消灯時間を過ぎてるのよ。
 それをこんな所に呼び出したりして、いったい何のつもり?」

 対するマリアの態度は毅然としたものである。

 あのロベリアの威圧に毛ほども臆するところがない。

「しらばっくれてんじゃねーよ、解ってんだろ? 隊長のことだよ」

「隊長の?」

「あんたなんだろ? 隊長が帝都に残してきた恋人ってのはさ」

「わっわたしは・・・」

 マリアの顔は耳朶まで一気に赤く染まる。

「ぼっ」と赤面する音が聞こえてきそうな程で、これはもう白状したも同然である。

「惚けなくてもいいよ、あたしにはちゃーんと分かってるんだから」

「・・・」

 上気する頬を気にしつつも無理に厳しい表情を維持しようとするマリア。

 しかしそれは無駄な努力としか言いようがない。

 これでは誰が見ても一目瞭然である・・・・・・いや、エリカなら気付かないかもしれないか。

「しっかしあいつもたいしたタマだよな。
 殺し屋くずれの恋人に隠れて、欧州最高の大悪党の愛人を巴里に囲ってたんだからよ」

 びきっとマリアの表情が引きつる。

 はたして反応したのは「殺し屋」にであろうか? それとも「愛人」の部分だろうか?

「剛胆っていうか、太っ腹っていうか、考え無しっていうか。
 まったくよくやるよな・・・・・・バカだからか?」

 マリアがロベリアを睨み据える、それは全てを凍てつかせんとする絶対零度の視線。

 心象風景はさながらシベリアのブリザード、そして全てを征する「剣の女王」

「今の一言、聞き捨てならないわね、それってどういう意味かしら?」

 不敵な笑みを浮かべてそれをいなすロベリア、しかしその瞳には灼熱の炎が燃える。

 こちらは炎上崩壊する「塔」タワーリングインフェルノと言ったところか?

「知りたきゃ本人に直接聞いてみるんだな、尤もあたしを倒せれば、の話だけどね」

 ぶつかり合う視線は火花を散らす、互いに一歩の引かない構えである。

「問答無用ってことかしら?」

「へっ、分かってんじゃないか。ここまで来ちまっちゃお互い仲良しこよしって訳にゃいかねぇよな」

 懐からナイフを取り出すロベリアの瞳が歓喜に煌めく、まるで宴の始まりを待ち焦がれるかのように。

 それともあれは獲物を前にして舌舐めずりする肉食獣の笑みか。

「さあ、抜きな」

「・・・・・・・・・・・・・・・そうかもしれないわね・・・・・わかったわ」

 最早衝突は避けられないと観念したのか、溜息を付くながらこちらも愛銃エンフィールド改を抜き出す。

「今日はあの偉そうな立会人もいないことだし、こいつでいくとするか」

  ヒュッ・・・・・・パシッ!

 自ら投げ上げたコインを空中で掴み取り、そしてまた指先で玩ぶ。

「このコインが床に落ちた瞬間が勝負だ・・・いくぜ?」

  ピーン!

 ロベリアの弾いたコインが宙を舞う。

 ライトの光を反射してその軌跡を映し出す。

(よっしゃー! ここで仲裁に入って好感度アップだ!)

「やめるんだ、二人とも!」

「「隊長!」」

 二人の間に割って入る大神。

 一瞬凍り付いた様に動きを止めるマリアとロベリア。

(よーし、極まった!!!)

「いったい何をやって・・・うぅっ・・・」

 しかし次の瞬間・・・冷たく輝くナイフが喉元に突き付けられていた。

(・・・うっ動けない)

 コインの床に落ちる音が虚しく響き渡る・・・しかし最早誰も気にしてはいない。

「隊長、あんた何故そこにいる? 何故その女をかばったりするんだ?
 まさか今更その女を選ぶなんて言い出すつもりじゃないだろうな?
 えぇっ、どうなんだ? 答えろよ!」

 ナイフが僅かに触れたところから血が玉になって滴り落ちる。

 切れ味は申し分ない。

 ほんの少し力を加えるだけで大神の喉くらいいともたやすく切り裂けるだろう。

「・・・答えられないのかい?」

「ロッロベリア、ここは一つ冷静になってだな、話し合おうじゃ・・・」

  ゴリッ!

 大神の後頭部に突き付けられた硬質で冷たい感触は・・・エンフィールド改の銃口である。

「私も是非とも隊長の真意をお聞かせ願いたいですね」

 反射的に両手を上げる大神、一瞬目の前のナイフのことも忘れての行動である。

「それに随分とタイミング良く現れた様ですが、偶然ですかこれは?」

  ごくっ。

「はっ! そんな訳ねーだろうが。
 どうせそこいら辺に隠れて立ち聞きでもして様子を伺ってたんだろうさ。
 まああたしら相手に今まで気付かせなかったってのは誉めてやってもいいけどね」

 屋内にもかかわらず冷たい風が吹き抜ける、室温は今確実に五度は下がった。

「・・・・・・そうですか、それについては後ほど弁明を伺いましょう・・・それよりも・・・」

 冷え冷えとした雰囲気の中、しかし大神の額には汗が滴り、掌はいくら拭っても乾かない。

「そうだね、今聞くべきことは他にある・・・あんたが選ぶのは誰かってことさ」

(こっこれは・・・まさか「前門の虎、後門の狼」ってやつ?・・・進退窮まった・・・かな?)

「「さあ! どっち?」」

(わー! ちょ、ちょっと待ってくれー!)

<<LIPS タイマースタート!>>

 「マリア、君を離さないよ」  (・・・だめだ、言った途端に刺される・・・サックリと)

 「ロベリア、分かってるだろ?」(・・・撃たれる・・・かな・・・後ろからズドンと)

 「(それ以外)」       (・・・って、事ここに至って他のメンバー選んだりしたら・・・どーなるんだ?)

(いや、それより「あっち」とか言って気を反らせた隙に逃げ出せる選択肢とかはないのか?)

(何とかこの場さえ誤魔化せれば後で何とでもフォローできるんだが・・・)

(えーっと、うーんっと、あっあっあっ・・・)

  ピー! シュシュシュシュシュシュ・・・・・・

<<タイムオーバー>>

「・・・そうですか・・・それが貴方の答えなんですね」
「・・・わかったよ・・・それがあんたの答えなんだな」

「・・・いや・・・あのさ・・・落ち着いて・・・」

  ズキューン!
  ドシュッ!

「信じてたのに・・・」

 全てが終わったその瞬間、大神の瞳に映ったものは何をだったのであろうか?

 彼女の頬を滑り落ちていったもの・・・。

 ・・・それは・・・・・・。

  ・・・・・・・・・

  ・・・・・・

  ・・・



 『 ゲ ー ム オ ー バ ー 』







 はっ! なっ何だったんだ今のは?

 ・・・まさか・・・夢?

 ふうぅぅぅ・・・ここのところ忙しかったからな・・・。

 あーいかんいかん、しっかりしろ俺。

 見回り中に歩きながら居眠りしてたなんて、知られたら大目玉だ。

 気を引き締めていかないとな。

 さて、後は舞台の方を廻ったらあがるとするかな。

 ・・・・・・

 ん? なんだ、照明が点けっぱなしじゃないか。

 ・・・誰かいるのか?

 ・・・また誰かの居残り練習かな?

「やっぱりあんただったんだな。最初会ったときから気に喰わない奴だとは思ってたんだよな」

 へ?

「いったい何の話かしら? だいたいもうとっくに消灯時間を過ぎてるのよ。
 それをこんな所に呼び出したりして、いったい何のつもり?」

 何時か何処かで聞いた事がある様な気がするこの台詞・・・。

「しらばっくれてんじゃねーよ、解ってんだろ? 隊長のことだよ」

 えーっと・・・。

「隊長の?」

 まっまさか・・・これって・・・。

  ・・・・・・・・・

  ・・・・・・

  ・・・



 『 E N D  L E S S ? 』