「九峪様が行方不明!? 弐の巻」
この前は九峪様が突然消えてしまいました。
必死に探す清瑞達。
果たして九峪を発見する事ができるのでしょうか……
暗い倉庫の中。
ごとっ。
つぼのような物のふたを開ける珠洲。
「いないね〜九峪様」
いかにも楽しそうに聞いてくる珠洲。
「珠洲! いい加減にしなさいよ。そんな所に九峪様がいるわけないでしょう」
「そうかもね」
やれやれ、と言った口調で珠洲が答えた。
「マジメに探さないならお部屋に戻ってもいいのよ?珠洲」
「え?? ……ごめんなさい……」
「ほんとに?」
「ほんとにほんとっ!」
珠洲はいかにも真剣な目で志乃の目を見つめた。
……しかし、これは長い月日の間に身に付けてしまった珠洲の一つの特技でもあった。
もちろん、内心は反省などしてない。
「…分かったわ。ここにはもういないだろうから他を探しましょう?」
「そうだね」
外に出ようとした珠洲が何かを踏みつけた。
「なに…これ?」
珠洲が恐る恐る拾い上げる。平べったく冷たいものだった。明かりは志乃のろうそくだ
けが頼りだったがもう外に出てしまってよく確認できない。
「早くきなさい、珠洲」
「うん…」
倉庫の外に出て珠洲は平べったいそれを確認した。
(なんだ……ただのガラス……)
のぞきこんだそれに反射して自分の顔が映し出される。冷たく、そして冷ややかな自分
の目が、自分を見つめ返してきた。
(これが私……)
自分の顔をジッと見つめる。そう言えば久しぶりに見たのかもしれない。自分の顔なの
に……
しかし、不意にかけられた志野の声で珠洲は現実へと引き戻された。
「なにやってるの? そんなもの捨てて早く行きましょうよ」
そう言うと志野は歩き出した。
珠洲は黙って志野についていく。先ほど拾ったガラスは服にしまっていた。
城内は慌ただしい雰囲気に包まれていた。
総大将である男がいなくなったのだから当然と言えば当然と言える。
「夷緒、ここはさっき探しませんでしたか?」
「そうですね…するともう城内にはいないのでしょうか?」
「その可能性は高いと思います」
ここは城内の食料倉庫になっている場所である。
もう城内は全て回った。しかし九峪どころか九峪の髪の毛一本発見できなかった。
やはり……外だ。
星華は判断した。しかしそれは他の3人も同じだったのかもしれない。
「九峪様は外かもしれないね」
羽江が言うのだ、やはり……みんな考えは同じか。
「分かったわ、もう城内にはいないみたいだから。亜衣は嵩虎さんにこの事を伝えてく
ださい。私は清瑞さんのお手伝いに行きますので」
「分かりました。……それと星華様?私は嵩虎様と一緒に待機していてもよろしいでし
ょうか?」
「あら……なぜ?」
それはもう分かり切った事だったのだが、一応聞いてみる。
「嵩虎様と情報の収集に」
多分ウソだろう。本当は嵩虎とゆっくり話ができる時間を取りたかったに違いない。…
・しかし亜衣の好みは長年の付き合いではあるが星華にはイマイチ理解できなかった。
「はい、お願いします。それでは私は行きますね。夷緒達はどうします?」
「私は羽江と城内をもう一度見てきます」
「わかりました」
「ばいば〜い、亜衣姉ちゃん!」
亜衣は軽く手を振って星華達を見送ると嵩虎の元へと急いだ。
その頃、伊万里達は兵士達と供に市場周辺を聞き込みなどもしながらくまなくさがして
いた。
しかし有力な情報も九峪の手がかりも見つけられなかった。
「本当に九峪様はどこへ行ってしまったんでしょう?」
「ど〜せそこらへんでうろうろしてるに決まってるってぇ!」
上乃が面倒くさそうに言う。
「しかし九峪様の姿を見たという人が誰もいないというのは少し変だと思うけど?」
「そりゃそ〜だけどぉ〜〜」
早く終わりたいと言う気持ちが前面に出てしまっている上乃。
もうここは調べ尽くした。そうすると残るは城内か……さっき藤那達と会ったとき
に広場にはいなかった、と言う報告を受けていた。
考え事をしていた伊万里のもとへ兵士が駆けつけてきた。
「伊万里様。城内に九峪様のお姿はなかったとの事です」
「本当ですか?」
「はい。間違いありません」
(……それじゃもうこの城の敷地内には九峪様はいないってこと??)
「それじゃ外かもね〜〜」
上乃の言葉で伊万里は確信した。九峪様は城外にいる。
そしてすばやくその場にいた者を集めた。
「私は今から清瑞さんのところへ急ぎます。あなた達は引き続きこの場所をお願いしま
すね」
と、そこで藤那が言った。
「私も行こう」
一言で簡潔に、と言う言葉がふさわしい。そんな口調だった。
「あ、藤那が行くなら僕も……」
閑谷が提案した。
しかし藤那は即答した。
「お前は来なくていい」
ぴしゃっと言い放った。
その瞬間閑谷の目が潤んだようにも見えた。
「酷いよぉ…藤那ぁ……」
閑谷が泣きそうな声で言ってくる……が、藤那は完全にそれを無視した。
「それでは行こうか? 伊万里殿」
そう言うと城門のある方角へと走り出していった。伊万里もそれに続いた。
彼女等の背中が見えなくなると閑谷ががっくりと膝を落とした。もう涙で顔がぬれてい
た。
「ひどいぃぃぃぃ!!」
叫びにも似た閑谷の言葉を聞いて上乃が声をかけた。
「まぁ……、どんまいでしょ」
しかしそれが逆に閑谷の心を刺激しらしく、閑谷はその場に泣き崩れてしまった。
訳の分からない事をわめいてる閑谷を兵士達が強引に持ち上げ、閑谷はどこかへと連れ
ていかれてしまった。しかし、閑谷の泣き声だけはいつまでも響いていた。
「……・それじゃ、もう一回始めようっか?」
上乃は全員に目配せをし、全員がしっかりと頷いた。しかしまだ閑谷の声は途絶えてい
なかった。
清瑞達は城外の近くを念入りに探したが成果がなく、あきらめかけていたその時だった。
兵士の一人が妙なものを発見した。
「清瑞様。こんなものが……」
「…これは……?」
清瑞が兵士から受け取ったもの、それは間違いなく九峪の物だった。
「討魔の鈴!? 何故これがここにあるのだ!」
そこに今度は別の兵士が駆け込んできた。
「清瑞様。嵩虎様からの報告ですが、九峪様の剣がなくなっていたとの事です」
「何? あいつ……ろくに扱えもしない剣を持ってどこをうろついているのだ!?」
清瑞の脳裏に不安がよぎる。なにかあったに違いない。
「すると九峪は……」
そこへ志野と珠洲がやってきた。
「清瑞さん、お手伝いにきました」
「あ、志野様。実は九峪が……」
そこに伊万里、藤那、星華が到着する。
「清瑞さん、九峪様は?」
「それが……九峪は森へと入ったようです」
「えぇぇ!?」
全員の声が綺麗にハモった。
「森の中って言ったら魔物が出ちゃうじゃない」
「それにしてもどうして、そんな急に……」
「分かりません……、先ほど九峪のものを発見いたしまして……」
そういって清瑞は討魔の鈴をさしだした。
「ここに落ちていたのか?」
「はい、それと九峪の剣もなくなっていたようで……」
「まさか……魔物と戦うために森へ入ったのでは?」
そんな事はない、と思いつつもつい口が勝手に開いてしまう。
「九峪にはそのような事をする理由がない」
藤那の言う通り通りだ、九峪には森に入る理由がない。と全員が頭をかかえた。すると。
シュン。
澄みきった音と供に討魔の鈴が光だし、それは一直線の光となり森のなかをさした。
「討魔の鈴は九峪探知機だとでも言うのか…」
苦笑まじりに藤那がいった。
「分かりません、しかし、これ以上の手がかりはなさそうです。森に入るしかないでし
ょう」
全員が頷く。そして討魔の鈴の示す方向に九峪がいることを願い走り出した。
「ねね、清瑞さん! ……あれ?」
「清瑞様たちは行ってしまわれましたが…」
兵士が申し訳なさそうに言う。
「ええ?? 私だけ置いてきぼり??ひどいよぉぉぉ!!」
虎桃の叫びはもちろん清瑞達には届かなかった。
−−森を駆け抜ける影、その後を追うようにして邪気が迫る。
九峪は必死に城へ向かって走っていた。しかし方向がよく分からない。もしかしたら城
からとうざかっているのかもしれない。しかし走る事はやめない。魔物に追いつかれれ
ば自分は殺されるだろう。それに、背中にいるこの子も巻き添えになる。
背中には上と同じくらいの年頃であろう、男の子が乗っていた。
そもそも九峪がここにきたのもこの子が森をうろうろしていたからである。
魔人が出る危険があり。男のこの身をあんじた九峪は剣を手に取り森へやってきたのだ
った。しかし九峪の姿を見とめたその子が森の中へ逃げこんでしまった。九峪はそれを
追いかけて行ったのだが、途中で転んでしまった男の子を背負いかえろうとした、まさ
にその時。魔人は姿をあらわした。
――必死で逃げた。だがいっこうに城が見えてこない。それと森の中と言う事でまわり
もよく見えない。
九峪は自分一人で森へ入った事をひどく後悔した。
九峪の筋肉が悲鳴をあげる。高校生で特に体力のあるほうではなかった九峪の体力は
最早限界にさしかかっていた。
(ちくしょう! しつこいやろうだ!!)
九峪は必死に走りながらも魔物を罵った。いまだに姿を見せないソレ。だが確実にそ
の影は近づいてきている。
九峪が木の根に足を引っ掛けて転んだ。男の子は転げ、九峪は膝を痛打した。
慌てて刀を構える九峪。しかしそれが役に立つかどうかはよく分からない。
男の子に目をやる、よかった、ひどい怪我はしてなさそうだ。
再び視線を戻す。そこへ、魔人が姿をあらわした。人間と見間違えてしまうような、
そんな顔立ちをしていたが、やはり魔人は魔人、物凄い殺気―
九峪は間合いを置いた。じりじりと後退する、が。男の子より後ろには戻れない。
(ちくしょう! こうなったら!!)
九峪は一気に突進した。魔人めがけて刀を横一文字に振るう。しかし、それはあっさり
とかわされた。
魔人が腕を振るう。とっさに剣で防御はしたものの、骨に響くような物凄い衝撃ととも
にふき飛ばされる。
受け身を取り、なんとか態勢を立て直した。
(ダメだ……勝てねぇ……)
九峪は死を覚悟した。次、もう一度あれを食らえば確実に死ぬ。そして男の子も……
――あぁ……日魅子……
九峪は日魅子の名前を呼んだ。もちろん、返事はない。
(そう…俺はここまで…邪馬台国復活のための戦いで死ぬならまだいい…
だけど、勝手な行動をしたために死ぬのはみんなに迷惑がかかる)
九峪は最後の力を振り絞り、魔人へと突進した……次の瞬間。
「九峪様は……行かなくていい」
聞き覚えのある声。冷静で、どこか冷たさの混じる声。その声は…
「珠洲!?」
「まったく、九峪様なんか助けたくないのに」
そう言いつつも珠洲は魔人と対峙した。
(しかし……志野は?他のみんなは??)
志野は服から何かを取り出した。……ガラス?
珠洲はちょうど昼時−−そう、真上から差し込んできている太陽の光を反射させた。
魔人の目にその光が当たる。一瞬、ほんの一瞬だが魔人が目を細めた。その瞬間を珠洲
は見逃してはいなかった。
「はっ!!」
手にしたガラスのかけらを投げる。思いっきり。それは魔人の目をとらえた。
うぐぅぅぉぉぉぉぉ……っ!!
物凄い叫び声とともに魔人が目を押さえた。
「清瑞さん!! 伊万里さん!!」
珠洲の声と同時に、どこから現われたかは分からないが清瑞と伊万里が姿をあらわした。
清瑞が九峪を、そして伊万里が男の子を抱きかかえすばやくその場を去った。それに珠
洲も続く。
そしてそこに新たに3人の人影。志野、星華、藤那だった。
「いきますよ……」
「……」
「……」
三人は精神を集中した。聖なる方術の力が三人を取り巻き輝いている。
しかし魔人が体制を整えた。三人に向かって突進してくる。
だかわずかに三人の方が早かった。
「はぁぁぁぁっ!!」
ごごごごごごご!!
物凄い炎が魔人を包みこむ。魔人は叫ぶ間もなく消滅してしまった。
三人はそれを確認すると急いで走り出した。
珠洲が現われてから三人が走り去るまで一分を要さなかった。素晴らしいとしか言いよ
うのない手際のよさだった。
九峪が無事…ではないが発見されたと知って城内の人間は安堵の表情を浮かべた。
九峪の間には九峪はいなかった。今は忌瀬に治療を受けている。
九峪の間には九峪を除く全員が集合していた。
「本当に今回は……どうなる事かと思いましたよ」
星華が改めて胸をなでおろした。すると軽いノックの後に忌瀬が入ってきた。
みんなが忌瀬に注目する。
「九峪様は多少の怪我がありますがたいした事はありません。それに、ずいぶん疲れて
らっしゃるみたいで眠ってしまわれました。それと、男の子も軽傷です」
忌瀬の報告を聞きその場にいた全員が安堵のため息を漏らす。
「本当に世話ばかり焼かされる。今回は後少し間違えたら邪馬台国復興軍の存続に関わ
るような大事件でしたね……」
清瑞が呆れたような口調でつぶやいた。
「でも、九峪様が無事でよかったです」
伊万里の言葉でみんな改めて安堵のため息を漏らした。
「それと、子供を助けるために危険を犯してまで行動した九峪様を見直しました」
音羽が嬉しそうに言った。
「そう言う勝手な行動ばかりするのはどうかと思いますが……」
そして……その後も九峪の話が尽きる事もなく朝をむかえた。
一晩中語り合い、みんなが疲れた様子で各々の部屋へと戻って行った。
……ここは……病室……
天井を見上げる。そこは間違いなく病室だった。
……朝、そうか。俺は眠ってしまったのか。
窓から差し込んでくる朝の光。その光が九峪の顔を照らす。
腕に鈍い痛みが残っていたがなんとか体を起こす。隣には清瑞がいた。
「お目覚めのようだな。九峪」
「あ……清瑞」
その後九峪はもう勝手な事はしないようにと清瑞に数時間にわたってどやされた。
しかし、清瑞の表情にはいつもの厳しさがなく、微妙な安堵の表情が読み取れた。
(俺のこと心配してたんだ……)
「まぁ、しかしだ。今回はお前の事を少し見直したぞ……」
最後がこもっていて聞き取れない。
「え? 何々?? 清瑞、今なんて言ったの?」
「なんでもない!! とにかく今後は今回のような事はするな!」
顔を少しだけ赤く染めた清瑞がすたすたと病室から出ていった。
清瑞が出ていった扉の方を見ながら九峪は
「あぁ……・ありがとう……」
聞こえるはずもない小さな声でそうつぶやいた。
〜おしまい〜
あとがき:今回は前よりバージョンアップと言うかスタイルが変わりました。
名前をいちいちかくのが面倒なので省略しましたし、後は改善点の
一つ、ト書きを増やしました。場面描写が足りないのが読みにくかっ
たので頑張ってト書きを……(笑)
まだまだへたくそですがどんどんレベルアップしていきたいと思います。
もしよければ次の作品もお願いします^^
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