(BGM「シャル ウイ ダンス」フェード イン)

「ご来場の皆様にお知らせします。
 只今より『火魅子様と九峪』(原題:Queen and I)を上演いたします。
 どなた様もごゆっくりお楽しみ下さい」

(BGM「シャル ウイ ダンス」フェード アウト)







 『 ゴーーーン 』

 今宵は満月、草木も眠る丑三つ時、所は九峪様の御寝所で御座います。
 因みに九峪様はもうお休みになっておられます。

 「( シュー、パタン )」

 おや? どなたか九峪様の元に忍んで見えたご様子ですね。

「・・・ううん、なんだ?」

 気配に目を覚ませれた九峪様、寝起きの性かまだ自体が把握できていない御様子です。

「九峪様・・・」

「・・・って、え? どぅわー! なっなななななにしてんだ星華、こんな時間に俺の部屋でー」

「九峪様・・・私・・・」

「星華! おまえは今や第十三代目火魅子なんだぞ! もっと女王としての自覚をだな・・・」

「わたくしは!・・・私は、今の私は耶麻台国の女王としてだはなく、一人の女としてここに参りました。
 今は・・・今のこのひとときだけは、そのことは忘れて下さい」

「いっいや、しかしだな・・・そおは言っても・・・」

「いやです! わたくしは、今の私は耶麻台国の女王ではなく、あなたの、貴方様だけの・・・」

「おっおまえの気持ちは嬉しいよ、確かに嬉しい。でも俺にはあいつが・・・」

「聞きたくありません! 今だけはあなたは私のもの。わたくしの、私の・・・」

 「( スルスル、ファサッ )」

 お召しになったお着物を脱ぎ捨て、月の光に照らし出されたそのお姿は・・・。

「まっ待て星華、早まるんじゃ・・・」

『 私のことは、女王様とお呼びー! オーッホッホホホホホホ 』

 ・・・・・・そのお姿はまごうことなき女王様ルック。
 そのお身体を包むは本革ボンテージ、お手には鞭と蝋燭、おみ足には網タイツにピンヒール。
 完璧です、完璧で御座いますよ星華様。

「なんじゃそりゃー」

「さあ九峪様、二人で禁断の愛の世界へ旅立ちましょう。オーッホホホホホ」『 ビシッバシッ 』

「わーっ待った待った、ちょーっと待ってくれ・・・・・・って清瑞はどうした? 護衛役なら助けに入ってこんかい」

「あーら、だめよ九峪様、この二人っきりの大切な時間に他の女の事を思い出すなんて、もお、いやな人ね」

「(聞こえない、聞こえない)清瑞、意地悪しないで助けてくれ、き・よ・み・ずー」

「そーんなに他の女のことが気になるの? 私よりも清瑞なんかに会いたい?( ギロリ )」

「えっ? あっいやあのえーっと・・・・・・」

「いいのよ、貴方の会いたがってる清瑞ならほら、あ・そ・こ( ビシッ )」

 『 カン! カカン! 』

 何時の間に用意したのか、唐突に灯るスポットライト(セッティングは間違いなく羽江殿、でしょうな)
 その明かりの先には・・・・・・。

「清・瑞?」

 そこには一個の美しきオブジェが在りました。

「・・・・・・おまえ、何やってんだ?」

 両手、片足を高々と掲げ上体を大きく反らした姿勢で縛り上げられ、残る片足で爪先立ちするその姿は・・・。
 天井から吊り下げられて片足立ちでクルクル回るその姿は、さながら銀盤を舞う氷上の妖精。
 まるでビールマンスピンを決めるフィギアスケーターの如き見事な美しさでありました。

「・・・・・・」

 ただし、ボールギャグと鼻フックを咬まされたその顔は哀れな子豚ちゃんではありますが・・・・・・。
(だーってブタさんかわいいもーん by上乃)

「清瑞おまえ、忍者失格!」

「うううっ、うぅあぁうぃ」

 余程悔しいのか目の幅涙で身悶える清瑞殿、しかし藻掻けば藻掻くほど縛り上げた荒縄は食い込み清瑞殿を締め上げます。
 柔肌に食い込むラメ入り荒縄がライトに照らし出されてキラキラ輝いて、それは悪趣味ながらも抗いがたい妖艶な美しさがあります。
(あっ、いえあの勿論忍び装束の上から縛られていたんですけどね、何せあの格好も結構きわどくて・・・)

「・・・ちょっと、そそられるものがあるかな(デヘッ)」

「うぅあうぃぃぃ、うっああぁぁ( じたばたじたばた )」

「そんなもん咬まされてちゃ、普段の迫力はねーなー」

「ところで九峪様」

「(ギクッ)」

 あまりの衝撃的な清瑞殿のお姿に自分の立場をお忘れになってましたね?

「そろそろ私の愛を受け入れる覚悟はお決まりになりまして?」

「あっあはははははは、えーっと・・・」

 迫る星華様、追い詰められる九峪様、張りつめた糸はほんの一押しで千切れようかという、まさにその時!

「「ちょーっと待ったー!」」

 『 バン! ババン! 』と開け放たれる障子と襖。

「何者です? このような夜更けに無礼だとは思わないのですか!」

「(星華、取り敢えず今のお前に言われたかないぞ)」

 心に棚を作った星華様にはその様な道理など通用しようはずもありません。

「さあ即刻出てお行きなさい、今のうちなら許してあげます」

 かたや魔兎族の長、兎華乃様。

「なーに言ってんのよ、ここはあんたの部屋じゃないでしょ。
 第一、人のこと言える立場?」

 こなた元狗根国軍四天王、天目様。

「全くですわ。いくら第十三代火魅子に就任したとは言え、いけずーずーしい。
 盗人猛々しいとはこのことですわ」

 まあそれに関してはこの時点で全員同罪といえますが・・・。

「・・・ええい、第一貴女達は何をしにいらしたっていうの?」

「いえね、所詮貴女は補欠合格の繰り上がり当選で火魅子を襲名したんでしょ。
 その貴女が九峪様の女王様を名乗るのは、ちょーっとおこがましいんじゃないかしら?」

「まったくですわ、まあ普段取り澄ましてるくせしてこのていたらくとは少ーし意外でしたけれど。
 成り上がり者の本性見たり前世魔人外道照心霊波光線ですわね」

「? 最後の意味はよく分かりませんけれど・・・。
 つまり貴女方は自分こそが九峪様の女王様に相応しいと言いたい訳ですね」

「当然よ! 耶麻台国の女王の座なんて目じゃないけどね、神の遣いを下僕にするとなれば話は別よ。
 魔界の魔兎族を統べる女王たる私がそれに相応しくない等と言うことは有り得ないわ」

「それを言うなら私とても同じ事。
 今でこそ耶麻台国に身を寄せてはいるけれど、元はと言えば私もイズモの正統王位継承者。
 その格においておさおさ引けは取りませんわ、必要とあれば何時でも我が王国を復興させてみせましてよ」

「何を仰ってるの! 九峪様は仮にも耶麻台国の総大将だったお方。
 私が火魅子を襲名した今、女王として君臨するのに何の問題が有るというのですか」

「わかんない小娘ね、あなたが耶麻台国で女王として君臨しようがお飾りになろうが、んなことはどーでもいいのよ。
 だからって九峪を奴隷にしてもいいって事にはならないの、御理解頂けるかしら。
 それくらいなら・・・」

「いいですこと! はっきり言って貴女が九峪様の女王様なんて役不足もいいところでしてよ。
 だいたい貴女にはまだ女王様としての高貴なる気品が、匂い立つ様な色香が、総てを包み込む包容力が足りませんわ。
 言うならば女王様として、いいえ女として修行不足! 十年早くってよ、おーっほっほほほほ」

「ちょーっと、人が話してるのに横から割り込まないでよ」

「貴女も貴女ですわ。 実年齢は兎も角、その貧弱なプロポーションで女王様なんてちゃんちゃら可笑しくってよ。
 私ほどのンナーイスバディは無理としても、そこの小娘程度には育ててから出直してらしたら?」

「・・・小娘って私のことかしら? たしかに貴女達のような年増からすればそー見えるかもしれませんわね」

「(いっ今の内になんとか逃げ出せれば・・・)」

「うぅあぁうぃー、うぃあぁうぁうぃえうぅうぃあぁー」

「「「 九 峪 様 ! 」」」

「はっはいーっ」

「こーなったら誰が女王様に相応しいか、九峪様自身に決めていただきましょう(ジロッ)」

「そーですわね、まっ結果は見えてますけれどそれで貴女方の諦めがつくなら異存はなくってよ(チラッ)」

「そーね、誰の下僕に為りたいのか九峪様に決めさせるのもまた一興よね(ギロッ)」

「さあ!」

「九峪様!」

「「「 ど っ ち ? 」」」

 進退窮まった九峪様、その返答や如何に?

「えーっと(キョロキョロ)あっち!」

「「「 えっ? 」」」

 九峪様の指さす先には亀甲縛りの清瑞殿。

「ゆるせ清瑞、さらばだ! わーっはっはっはっはっはー」

 脱兎の如く逃げ出す九峪様。

「逃げたぞ!」「追え!」

 我に返ってその後を追うお三方。
 いやはや何とも大変な騒ぎではありました、そして後に残りますのは・・・。

「( ドタン、バララ )」

 え? おおっ! さすがは忍者、あの芸術的な縛りを抜け出した様です。

「 くーたーにー、お ま え を こ ろ す 」







(BGM「突撃行進曲」フェードイン)

「ご来場の皆様にお知らせします。
 只今の演目におきましてタイトルに間違いが御座いました。
 正しくは『三大女王様南海の対決』(原題:Coll me Queen)となります。
 訂正しお詫び申し上げます。
 何方様もこれに懲りず、またのご来場をお待ちしております」

(BGM「突撃行進曲」フェードアウト)