読んでいただける方へ
このSSの主人公は仁清君となっています。
多分いらっしゃらないとは思いますが、「仁清って誰やねん」と何故か関西弁で呟いた方は本家小説『火魅子伝』の方をまず御読みください(なお、アニメ・ゲーム・漫画等には出ていません)。
設定等は小説より頂いております。が、御存知の通り本家小説の方は今だ終了しておりませんので、私の勝手な推測に基づいて復興後を書いております。
火魅子伝 外記 仁清伝
耶麻台国が復興してから、すでに半年。国内は徐々にではあるが平安を取り戻しつつあった。それまで国内の仕事で寝る暇もなく働いてきていた九峪達元復興軍幹部達にも余裕が生まれていた。
それは元火魅子候補伊万里の片腕として忙しい日々を送っていた仁清も例外ではなかった。
仁清は、午前の軍事演習を終え一人耶牟原城の廊下を歩いていた。涼しげな風が秋の到来と、来るべき冬の足音のように仁清の体を通り抜けて行く。
ゆったりとした胡服を纏い、その上に耶麻台国の朱色をおびた大陸風の鎧を纏った仁清には激しい戦を潜り抜けただけの風格が備わっていた。だが、その実仁清は今だ十六の歳の若造でしかなく、そのギャップが伊万里の副官として指揮官の能力が自然と求められる仁清を悩ますのだった。
仁清は、その吹き付けてくる風の冷たさに身を振るわせ、誘われる様に風が吹き降ろしてくる遥か向こうに広がる山々を見た。そこは二年と半年前まで、山人の彼にとって家であり生きる為の糧を与えてくれる場所だった。それを今、城塞都市の城の中から眺めている。仁清自身、そんな昔を思い出し今の自分がいる場所を考えると忸怩たる思いが生まれていた。
「あ、じんせ〜い」
廊下を走る軽い足音と、聞きなれた自分を呼ぶ声に仁清は振り返った。
そのまま伸ばせば腰までとどく青みががかった髪を無造作に頭で括り、健康的な肢体を持った美女が仁清に親愛の情を顔に浮べ弾むような足取りで近寄ってきた。
男なら誰しもが心沸き立つシュチュエーションのはずなのだが、その美女の事なら表も裏も、それこそ彼女が死んでも隠しておきたいと思っている事すら知っている仁清は何の感銘も受けなかった。
「……上乃」
仁清は、溜息と共に呟く。
上乃も仁清と同じように、元山人であり伊万里の片腕として復興軍の一将軍として戦火を駆け抜けた一人だった。だが、その外見は何も知らなければ今だ匂い立つような妙齢な美女でしかない。復興軍をよく知らない人間にはとてもではないが上乃が建国の功臣の一人には見えないだろう。
「何、何か不満そう」
仁清の素っ気無い態度に上乃は口を尖らせるが、上乃も本気で気にしているわけではなかった。
「そんな事ないけど、何か用?」
「ああ、そうそう伊万里が呼んでるよ」
「伊万里様が?」
仁清は素朴な疑問のためにそのまま聞き返した。直属の上司である伊万里とは、つい先程まで演習で会っていたばかりだった。
「そう。まあ、正確には私もなんだけどね」
「……わかった」
仁清は胸に起きた疑問をそのまま飲み込んだ。部屋に帰ったところで、一休みするか、帳簿の整理をするつもりだったのだから確たる予定があるわけでもなかった。
「うん」
仁清は上乃の右に並ぶと、来た道を引き返した。
「上乃」
珍しく仁清の方から口を開いた。もっとも、その表情は晴れやかとはほど遠いものだった。
「何? そんな怖い声だして」
「ここは県居の里でも、復興軍でもない」
「むっ、だから何?」
上乃は、眉間に皺をよせ不快感を露わにした。上乃は、よくも悪くも感情を隠す事がない。
「以前の様に、伊万里様の事を気安く呼んでは駄目だ」
「何、言ってるのよ。伊万里は伊万里じゃない、王族だろうが王族じゃなかろうが。私の乳兄弟に代わりはないじゃない」
「もう違うんだよ」
「何がよ?」
「……ここはもう復興軍でもなければ、俺達の里でもないんだ」
言葉に詰まった仁清は、同じ事をただ繰り返すしかなかった。言わなければならない事はわかっていた、ただ仁清はそれをどう口にすればいいのかがわからなかった。頭の中であれやこれやとそれを文章にしてみるのだが、それはただ長すぎたり短すぎたりして結局口にできたのがそれだけだった。
「それはもう聞いた」
仁清の無口さ、口下手さ加減をよく知る上乃も口を尖らせる。
「けじめだよ」
今や、新生耶麻台国には元王族に連なる人々や豪族達がどこに隠れていたのやらぞくぞくと戻ってきていた。国家としてはまがりなりにも行政機構が充実され、地方の有力者の地盤を組み込む事による国力の増加にもつながるので決して悪い事ではないのだが。その実今まで復興軍の中では曖昧だった組織や上下関係を整理する必要にも迫られていた。その中で、幾ら乳兄弟や昔馴染みだとしても上官と部下といったけじめをしっかりとつけていかなければならない、と仁清は考えていた。
だが、それを全て口にするには長すぎた。だから、仁清は一番大事だと思われる部分だけを取り出て一言そう言ったのだが。これでは、そういった事を考えてはいない上乃に通じるわけがなかった。
「何よ、けじめって。仁清の言ってる事わからないよ」
「……とにかく、もう人前で伊万里様の事を気安く呼ぶのは止めたほうがいい」
「い・や。そんな事したら、伊万里が悲しむもの」
「……ふぅ」
仁清は諦めて溜息をついた。日頃、何事にもいい加減な上乃だがこれと決めた事は決して曲げない頑固な面を持っている事を嫌というほど知っていた。
「伊万里〜、来たよ」
「伊万里様、参りました」
「ああ、二人とも。早かったね、こっちに来て」
床机に座り何かの資料と思われる竹簡を見ていた伊万里は、二人の異なった挨拶に同じように答を返した。上乃がそれ見た事かとでも言わんばかりの一瞥をくれたが、仁清はそれを無視した。伊万里が、少なくても自分と上乃に関しては、前と同じように接して欲しいと願っている事はよく知っていたからだった。
「里にですか」
「うん、もう二人とも二年以上帰ってないんだ。一度、戻って見てもいいんじゃないかな」
つい先だって、伊万里率いる第一軍は魔獣狩り及び各地の復興の為に軍を動かしたばかりだった。其の為、次の軍事行動までは日数的に余裕がある、それを利用して一度里に戻ってはどうか、と伊万里は二人に話を持ち出したのだった。
「伊万里は?」
不満そうに仁清を睨みつけていた上乃が、一転して嬉しそうに伊万里に詰め寄る。
「私はいいんだ」
だが、案に反して伊万里は整った顔を少し曇らせるとあえて上乃の方を見ないでそう告げた。
「何で〜、三人で帰ろうよ」
「上乃」
なおも伊万里に食い下がろする上乃を、仁清は右手で制した。
「何よ、仁清」
「わかりました、では今の仕事が終わり次第にでも立たせていただきます」
「ちょ、ちょっと、仁清」
「うん、そうしてくれると嬉しい。九峪様と火魅子様には私の方から言っておくから心配しなくてもいいから」
伊万里は、明らかにほっとした様に一つ溜息をついた。
「二人で勝手に決めないでよ、私は行くなんて一言も」
「いいから、行くよ上乃」
納得がいかない上乃の腕を強引に掴むと、仁清はそのまま伊万里に一礼してその場を退出する。
「あ〜、ちょっとちょっとぉ」
伊万里から帰郷の旨を告げられたそのニ時間後には、仁清と上乃は耶牟原城を出立した。目的地である仁清と上乃の故郷県居の里は南火向と東火向の国境付近にある。いくらこの世界の中でも健脚を誇る元山人の二人とはいえ、歩き詰めでも到着までニ三日はかかる日程だった。さらに、上乃がせっかく帰るのだからと耶牟原城から荷車一杯のお土産を持参していたため野宿するわけにもいかず二人の足は遅くなる一方だった。
耶牟原城を出てから三日目の夜になって二人は里に近く、思い出深い城郭都市当麻の街に辿りついた。
だが、いくら今の地位を考えれば当然の事とはいえ、仁清にしろ上乃にしろ自分達の親と同じ年に見える領主に始終頭を下げられ、上にも下にも置かないような接待を受けるのはどうにも落ち着かなかった。それにもまして、この行程の中で仁清が頭を痛めたのは耶牟原城を出立してから続く上乃の不機嫌さ丸出しの態度に他ならなかった。
「ぶ〜〜〜〜」
「……」
「ぶ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「……………」
仁清は、自分の背中に突き刺さる視線を嫌というほど感じながらも、身じろぎ一つせず耶牟原城から持ってきた帳簿をつけていた。
「何か喋りなさいよ〜」
「何かって、何?」
「何って、もう。こ〜んなかわいい子と二人きりだっていうのに」
「上乃……」
「はいはい、もうそんな馬鹿にしたような声出さないでよ。ちょっと、ふさげてみただけなんだから」
「で、何がそんなに不満なのさ」
わかりきった事だったが、とりあえず仁清はそう言ってみた。
「そんなの決まってるじゃない。なんで伊万里を連れてくるのを邪魔したのよ」
「……仕事があったからだよ」
(我ながら馬鹿な事を言っているな)
仁清は言いながらそう思う。上乃に嘘を言って突き通せた事は一度も無かった。今だ、後ろを振り向けない自分も情けなかった。
「嘘吐き。じゃあ、私達はどうなのよ」
「もう、いいじゃないか。伊万里様がそうして欲しいって言ってんだから」
仁清には、何となくだが伊万里の気持ちがわかったような気がしていた。
伊万里は、復興前ならともかく王家に認められたれっきとした王族の一人だ。その自分がいまさらどんな顔をして山人の里である故郷に戻ればいいのかわからなかったのだろう。だが、その一方自分の都合で仁清と上乃の二人を何年の故郷の土を踏ませないのも、伊万里としては気が咎める事に違いなかった。
「だ・か・ら、それが納得いかないのよ」
「もう、寝る」
仁清は帳簿を閉じて布団の上に横たわった。
仁清としては、このような時自分の口下手さ加減が情けなく、憎らしい。嘘を言う事もできず、良い言い訳を言うこともできず、かといって理由をうまく説明できない以上。後に残った選択肢は徹底的に無視する事ぐらいしか残ってはいないのだから。
「こら、仁清。ちゃんと答えなさいよ」
「…………」
「む〜〜〜〜〜、もう怒った。この上乃様を無視すると、どうなるか教えてあげる」
上乃がニタリと口を曲げて笑う。伊万里がこの場にいればすぐに、上乃が何やら良からぬ事を思いついたのに気がついただろう。
ムニュ
「なっなぁぁぁぁ、何するんだ、上乃」
仁清は、自分の背中に押しつけられた柔らかな感触に驚いて飛び起きた。もちろん、その程度の事でおいしい獲物を逃がす上乃ではない。しっかりと仁清の背中から手を伸ばして抱きついている。
「どうだ、伊万里にだって負けないんだぞ〜」
「や、やめろよ」
「へっへへへへへ、仁清顔まっかぁ〜。どんなに偉そうに言っても純情なのは変わらないんだから」
「た、たすけて」
いくら相手が兄弟のように見知った上乃とはいえ、仁清も健康優良な十六歳の青年である、その背中に押しつけられた二つの柔らかな感触に仁清の脳味噌はすでに半ば蕩けいた。
「へへへ、伊万里は居ないよ〜。観念しなさ〜い。って、これ男の台詞だよねぇ」
「い〜〜や〜〜〜だ〜〜〜〜」
仁清の悲痛な、しかし実に情けない悲鳴が部屋の中で儚く消えて行くのだった。
それから丸一日をかけて、二人はようやく県居の里に辿りついた。
当初、突然の帰郷に驚いていた里の人々だったが、今や耶麻台国の重臣となっている二人を邪険に扱うわけが無かった。二人は里の人々にあちらこちらに振り回され、里長県居の屋敷に着くにはさらに時間を費やす事になった。
「おお、上乃様。それに仁清様もよく戻っていらした」
県居は元耶麻台国武将という肩書きに恥じない堂々とした体格、風格は何一つ変わらないように見えた。だが、仁清はその県居の瞳に今まで見たことのない卑屈で脅えに似た光を感じた取った。
「やだな〜、父さん。様付けなんかしないでよ」
「ははははは、そうだな」
「長、お久しぶりです」
「おお、仁清も御苦労だったな」
「いえ」
「ははははは、変わらないな。……それで、伊万里様の姿が見えないようだが?」
県居の言葉にはどこか媚びるような口調が混じっていた。
「それは、うぐっ」
上乃が口を開きかけたその瞬間、不意に仁清が後ろから上乃の口を両手で押さえ込んだ。
「伊万里様は、お仕事の方がお忙しい為今回は」
「……それは残念だな」
あくまで冷静にそう答える仁清に、県居も気圧されたように頷く。
「うぐうぐぐ」
「伊万里様も大変残念がってました」
「そうかそうか、二人とも長旅疲れただろう。夕方になれば宴を催すつもりだ、それまで休んでいるといい」
「はい」
県居が席から立ちあがったのを見計らって仁清はやっと上乃の口から手を離した。
「うぐ〜〜〜〜。ぷはぁ〜はぁはぁはぁ」
「大丈夫、上乃?」
「大丈夫じゃないわよ。ちょっと、天界の扉が見えたじゃない」
やっと解放されて思いきり蒸せていた上乃だったが、これっぽちの誠意の感じられない仁清の言葉に睨みつけると火がつかんばかりに仁清に噛み付く。もっとも、仁清はそれでも顔色一つ変えなかった。
「よけいな波風を立たせない為だよ」
「はぁ、何いってんの?」
県居は里長だけに止まらず、孤児だった伊万里を拾い育てた育ての親でもあった。にも関わらずこの里を避けている事を知れば、余計な波風がたつ恐れがあった。それでなくても、伊万里には火魅子藤那や星華や只深のようにしっかりとした組織を持っているわけではない。さらにこの里とまで仲が悪くなることだけは伊万里の副官を務める仁清としてはどうしても避けなければならなかった。
「いいから、それよりおばさんに会いに行くんじゃないの?」
「そ、そうだけど」
「じゃあ、早く行きなよ」
「う〜〜〜〜、いい。私は納得したわけじゃないんだからね」
「わかってるよ」
二年半ぶりに会った父と母は、当然だが仁清の記憶にある姿より老けているように見えた。もっとも、離れていたのはたかが二年半にしかすぎない両親にはっきりとした老いの兆候があるわけではなかった。それでも、仁清は自分の健康のことしか興味がないな母と、まるで子供の様に無邪気に自分の成功を喜ぶ父の姿には、懐かしさより停滞と荒廃の匂いの方が酷く鼻について仕方がなかった。
その日の宴会の席では、仁清と上乃は当然の様に上座が用意されていた。仁清は年齢を理由に固辞したのだが、上乃が嬉々として座ってしまったため仁清も座らないわけには行かなかった。
座りなれない上座に座らされ仁清は最初こそ緊張していたが、宴会はあっという間に上座も下座も関係なくなるほどの無礼講の場に化していったため緊張も糞もなくなった。もちろん、その場の中心は上乃である。
「いや〜、もう大変よ。みんながみんなおかしな輩ばっかりでさあ。まともなのは伊万里様と私達ぐらいのものだからさ〜」
「はぁ〜、上乃様達だけがまともねぇ〜。そいつは大変だ」
いつのまにやらすっかりできあがった上乃を中心に里人達が車座に座り、講談師よろしく復興軍の話をする上乃に耳を傾けていた。酒の場の事だ、当然の様に復興軍のかなりきわどい内情にまで話が及ぶに至って仁清としては何度か止めようと試みたのだが、日常的に娯楽の少ない山里に住む人々が恰好の娯楽の種を逃がすわけがなかった。
結局、諦めざるをえなかった仁清は、その車座からは少し離れた所に座り、上乃がやばい事を口走った時いつでも止めに入れる様に待機するほか道はなかった。
「それでさあ。中でも肝心の九峪様っていうが、まぁ、変わり者なわけよ」
「へ〜、その御方が神の御遣い様なんだろ」
仁清は、上乃の言葉に触発されて九峪を思い浮かべた。
上乃の評を不謹慎だとは思いながらも正直な話、仁清の九峪評の上乃のそれとそう変わりがあるわけではなかった。
足は遅く、剣術は問題にならない、体も貧弱の一言につきる。およそ一兵卒では問題にはならないだろう。無論、幾ら神の御遣いと名乗っていてもおよそ欠点だらけの人間が復興軍の総大将となり、果ては誰もが不可能だと思っていた狗根国打倒をやってのけれるわけが無い。
九峪は、時に誰もが考えもつかないような作戦をどこからとも無く捻り出し、またある時はあの凶暴無比の魔人をも一撃で倒すという、まさに神の御遣いに相応しい力を発揮して見せた。
だが、何より仁清が九峪を評価しているのはその統率力だった。伊万里を含めてあれだけ灰汁の強い火魅子候補達を最後まで纏め上げたのは、もう奇跡としか言い様が無いのではないかと仁清は思う。
「そうだよ〜。もう、頭がいい、顔がいい、優しいの三拍子。んで、す・け・べ。だははははは」
上乃は、だらしなく大口を開けて笑う。年頃の女性としては誉められた行為ではないだろうが、上乃にはひどく似合ってはいた。
「助平ね〜、まあ「英雄色を好む」っていうしな」
「お、親父さんいいこという言うねえ。もう一杯いこ」
「悪いな〜、上乃ちゃん」
上乃に限らず、神の遣い九峪については復興軍の中で良く言う人間はあまりいない。だが、嫌われているわけではない、むしろ皆に好かれていると言う方が正しいだろう。事実、九峪を間接的に誉められた上乃は実に嬉しそうにお酌をしている。
九峪という人物は、何かそういった欠点と長所を超えた魅力がある人だと仁清は思っている。
(……だからこそ、伊万里様もあの御方の前だけは違う表情をされる)
小さな、それこそ仁清自身気がつかないほどに小さな痛みが仁清の胸の中に生まれて消える。仁清がその痛みの意味を知る事は一生ないだろう。もし、知ったとしても、それを覆い隠して生きていく事しか仁清にはできないのだから。
そういった仁清の思いなどお構いなしに宴はその狂乱の度を増していっていた。
「無礼講、無礼講よ〜、今日は無礼講〜」
上乃の言葉に、その場にいた酔っぱらい達が唱和する。
「上乃、呑みすぎ」
仁清は、無理だと承知で一応そう言ってみた。
「なぁ〜にいってんのよ、仁清。まだまだ、こんなの序の口じゃない」
「序の口って」
ちなみに酒壷がすでに三つほど空になっている。まるで、今日の宴だけで里にある全ての酒を飲み干してしまうのではないかという勢いだ。
「あ、そうなのよ。酒飲みって言ったらね。もう、こんど火魅子になった藤那っていうのがすごくてね」
「へ〜、火魅子様でも酒なんて呑むのかい」
一人の山人が驚いた様に聞いてくる。一般の民から見れば、火魅子は人ではなく神に限りなく近い。飲酒や飲み食いといった自分達と変わらない行為をしている事事態が充分に驚くべき事だった。
「もう、呑むなんてものじゃないわよ。あれは、もうざるよ、ざ・る。朝から晩まで、気がつきゃあ酒ば〜っか呑んでるんだから」
「上乃」
仁清は、上乃の口調にからかいの粋を超えた刺を感じた。
「もう、うるさい、仁清。なんであんなのが火魅子になれて伊万里がなれないのよ〜」
「上乃!!」
それまでのものとは違い仁清の声のトーンが一段階高く、厳しいものとなった。幾らすでに戴冠しているとはいえ、同じ火魅子候補だった伊万里の副官である上乃が言っていい台詞ではない。一つ間違えば、火魅子批判に繋がりかねない。
「うっるさい、仁清。あんた悔しくないの」
仁清の言葉が詰まる。無論、仁清とて悔しくないわけでもない。仁清は、宗像三姉妹のように伊万里を火魅子にする為に戦った訳ではなかった。それでも、人情としては他の誰よりも伊万里に火魅子になって欲しかったというのも当たり前の事だった。
「まあまあ、上乃ちゃん。落ち着いて」
「うん、もう一杯ちょうだい」
「はいはい」
ぐいっと酒のみ茶碗を突き出す上乃にすかさず、隣にいた赤ら顔の親父が酒を注いだ。仁清としては、さっさと上乃のは酔いつぶれて欲しい所だった。
「すまんなあ、仁清。上乃が迷惑かけているようで」
仁清が気がつかないうちに、県居が苦笑いを浮べて隣に座っていた。
「いえ、そんな事は……」
図星を指されて、仁清は思わず言葉を濁す。
「はははは。お前は昔から嘘がつけんなぁ。顔が引き攣ってるぞ」
「えっ」
「はははは、まあ一杯呑め」
「はぁ……」
「ふざけんじゃないわよーーーーー」
「上乃?」
ガチャンという陶器が割れる音と共に、先程まで気持ちよく酔っ払っていたはずの上乃は、両目に怒りをたたえてその場に立っていた。
「伊万里がそんな事するわけないじゃない」
「い、いや、しかしだなぁ。少しぐらい……」
上乃に、正面から睨みつけられている親父は真っ青な顔で反論しようとはしているものの腰はすでに引けている。上乃は若い女性ながら幾多の修羅場をくぐり抜けて来た歴戦の勇者なのだ。本気になればそこらの中年山人など鼻から相手になるわけがない。
「いい、伊万里はねぇ。糞真面目で、堅物で、融通が利かないけどねえ。そんな不正にかたんふぐっ」
「すみません、上乃はできあがってしまったようです。今日はもうこのぐらいで」
放っておけばそのまま腰の刀まで抜く勢いの上乃を、仁清が後ろから頭を押さえ込んだ。
すでに、この場もしんと静まり返っており、あからさまにではないものの上乃に批判的な雰囲気が流れていた。
「……ああ」
「そだなぁ」
今まで、上乃の隣で気持ちよく飲んでいた親父達も顔を背けきまり悪そうに呟いた。
「ちょっとお、こら、私は酔ってなんて、ふぐっ」
今だ怒りが収まらない上乃を片腕で羽交い締めにして、口を塞ぐ。上乃が酔っているからこそできた芸当だった。それでも、ずいぶんと大変な作業ではあった。
「すみません。酔っ払いほどそう言うもんなんです」
「そうだなあ」
「じゃあ、休ませておくといい」
「はい、そうします」
「こらぁぁぁぁぁぁ、仁清」
「いいから」
(一体何度目だろう、こうやって上乃を引っ張って行くのは……)
仁清は声には出さず、そう呟いてみた。意味のない事だとは重々知ってはいたが、そうでもしないとなんとなく割り切れなかった。
酔った勢いもあって散々に暴れまわる上乃を、何とか上乃の実家に放り込んで仁清は月明かりの中家路を急いでいた。
「仁清様」
里の中心部まで来た所で、躊躇いがちな声で後ろから呼びかけられて仁清が振り向いた。
そこには、大柄な体を山人特有の獣の皮をなめした服を着た、見るからに猟師然とした男が瞳に緊張を漂わせ立っていた。
「……八代?」
一瞬、名前が出なかった仁清だったが、目の前の男性の名前を記憶の中から引き出すのは容易な事だった。
「覚えていてくれたか、仁清様」
仁清の口から、自分の名前が出た事で安堵したのか八代はほっと溜息をついた。それでも、八代の態度にはどこかぎこちなさが残っていた。
「久しぶり。……まさか、八代に様付けされるとはね」
八代は、兄弟のいない仁清にとって伊万里と上乃が姉だとすれば兄のような存在だった。得意の弓を最初に習ったのも八代からだった。
「……まったくだが、仕方ないだろう」
「仕方ないか……」
「そうさ、わかってるんだろ」
「……ええ。だけど、昔通りでいいです」
「まあ、そうだな。誰もいないし、お前に敬語を使い続けるのはきつい」
「まったく」
正直、八代から敬語を使われるのは着馴れない服を無理矢理着させられるのと同じくらい居心地が悪かった。
「お前が言うな、お前が」
「仕方ないでしょう」
仁清は肩をすくめた。
「はははは、変わらないな。実に素っ気無い」
「そうは変わらないよ」
「どうだ、宮仕えの身は?」
「どうだって言われても」
「まあ、上乃を見れば楽しくやってるんだろうなっていうのはわかるよ」
「……まぁ、ね」
それから、ひとしきり二人の間では昔(といってもたかがニ年半ほど昔にしかすぎないわけだが)の話で盛り上がった。仁清は、この里に帰ってきて初めて懐かしさと安堵を覚えていた。
「久しぶりの里はどうだ?」
「……何も、変ってない。懐かしいですよ」
「何も変ってない……か。そうか、そうだな。あの木も、あの家も変わってないものな」
「ええ」
二人はほとんど同時に黙り込んでしまった。
「……わかってるんだろ。なぁ、仁清。俺が言わなきゃ駄目なのか」
「……人が減った」
「そうだ」
「昔の活気がない」
「そうだ、この里は今はもう年寄りと女子供が大半を占めているからな」
「仁清、この里にはもうほとんど蓄えがないんだ。わかるだろ、狩にいける人数はひどく限られているし女達が作った布を買いつけてくれる商人達の立ち寄る回数も減ってる。このまま放って置けば確実にこの里は滅びるんだ。滅びなかったとしてもこのまま冬を迎えたら死人だって出る」
「……わかってる」
「なら、何とかしてくれ。米でも、人でも良い。簡単だろ、たかが小さな里一つ救うぐらい」
八代の顔が醜く歪んで見えた。でも、仁清は知っていた。本当に歪んでいるのは八代では無い事を。
「話は通す、でも約束はできない」
「なっ、どういう事だよ」
八代は、仁清の予想外の答えに驚愕したようにうめいた。
「酷い状況なのはここだけじゃない」
十年以上前の狗根国による制圧から続いた戦火は、九洲全土を徹底的に荒廃させていた。今、着実に復興の道を辿っているとはいえ戦火が止んで今だ半年にしかすぎない。里や村が九洲の国土から消えた例はありふれた話とは言わないまでも、たいして珍しい話ではなかった。
「くっ」
「えこひいきは、できない」
耶牟原城が元の姿を取り戻し、新しい火魅子が戴冠した今、八代のような訴えはあまた、それこそ里や村のある数だけ届けられている。幾ら元火魅子候補の故郷だからと言って優先的に扱うわけにはいかない。
「……どこが、えこひいきなんだよ。お前も伊万里様もここで育ったんだぞ。故郷に少し個人的に援助してくれるだけでいいんだ」
八代は、仁清がいままで見た事の無い卑屈な笑みを浮べていた。それは、県居の瞳に見たものととてもよく似通っていた。
「えこひいきはできない」
仁清は、八代の顔をあえて見ないようにして同じ事を繰り返した。
「駄目だってのか」
「約束できるのは最初の事だけだ」
自分がいつもと同じように無表情で通せているか、仁清は自信が持てなかった。
「それだけじゃ足りないんだ。ここにはもっと手にとれるような確実な希望が必要なんだ」
「……わかってる」
「わかってない、お前は何もわかっちゃいない」
仁清は、下唇をかみ締める。そして、八代に背を向けた。もう話す事はなかった。
「……そうだな、どうせ。伊万里様はこの里の生まれじゃないもんな。孤児には、故郷なんてないって」
「八代!!!!」
気がついたときには、仁清はただ叫んでいた。後ろで何かがが崩れ落ちた音が聞こえた。
「なんでお前なんだ、仁清。どうして、お前じゃなきゃ駄目なんだ」
仁清は、背中に八代の言葉を聞いていた。だが、仁清は足を止めなかった。痛みと共に口の中に苦みばしった味が音もなく広がっていく。
「桁も、式多も、富士も、飛騨も、みんなみんな、みんな死んだんだぞ」
八代の言葉は遠ざかっていく。それと同時に、周りの山も風も家も両親もこの里にある全てが仁清から遠ざかって行くようだった。今の地位を捨て、山人の服を着てももう昔のように山に全てを委ね暮らす山人には戻れない事を仁清は知った。ただ、それだけだった。
それでも、仁清は何も感じなかった。悲しくも情けなくもなかった、ただ自分が酷く遠くに行ってしまったのだ、という感慨だけが虚しく奥の方で蠢くだけだった。
「お前達が、この里に死を運んできたんだ。お前達が、お前達があんな戦に参加しなければ」
仁清は、最後まで立ち止まらなかった。
「ふぁ〜、さすがにまだ眠い」
「まあ、まだ日も昇ってないしね」
まだ朝靄すら明け切ってはいない中、仁清と上乃は里を人知れず出ようとしていた。
何を思ったのか上乃がこの数時間前に仁清を文字通り叩き起こすと、ここを出立する旨を告げたのだ。昨日の晩の事も在り仁清も一もにも二も無くその案に賛成し、今にいたっていた。
「じゃあ、行こうか」
上乃は来た時とはうって変わって、仁清と同じように最小限の荷物と武器しか持ってはいない軽装だった。
「いいの」
「気にしない、気にしない。ご大層な追い出しをうけるなんて気がめいるもの」
「それならいいけどね」
「じゃあ、行こうか」
上乃は仁清の返答を聞くと振り向く事すらせず、仁清を先導するような形でずんずんと軽快な歩いて行った。
それから、三十分も歩いただろうか。すでに里は山合いに隠れてその姿を確認する事はできなくなっていた。そして、その間実に珍しい事に上乃は一言も口を開かなかった。ただ、黙々と来た道を歩いていた。
それは、仁清にしてみると実に珍しい事態だった。里に向かう途中、上乃は始終不機嫌だったが。これほど長く口を閉ざしている事はなかった。上乃の口はほとんどの場合機嫌によって左右されることはない。不機嫌であれば、不機嫌である事を回りに知らせる為に喋るし、機嫌が良ければ、その機嫌の良さを回りに振り回さなければ気がすまない質なのだ。
だから、仁清の何度かこちらから聞いてみようかと口を開こうとはしたのだが。昨日の八代とのやり取りが頭の片隅に巣を作っている様で仁清自信、いつも以上に積極的に相手に話かけるのが億劫だった。
「ね、仁清」
「……なに?」
だから、だろう。歩いている途中で不意に上乃が話かけてきた時は、日頃上乃の突発的行動には馴れているはずの仁清もずいぶんと驚く羽目になった。事実歩きなれているはずの山道で、下りとは言え仁清はその瞬間足をすべらせかけたほどだった。
「伊万里にはさ、良い事だけ話そうね」
「えっ」
あの夜の事を上乃が知っているはずがなかった。あの時、上乃はしたたか酔っ払って部屋でぐうすか眠っていたはずだし、他の山人に聞かれる様に村外れで話をしていた。無論、昨日の事は上乃には何一つ話をしてはいない。
だから、上乃は昨日の宴会の事を話ているに違いないのだが。仁清は、まるで昨日あった事の全てを上乃は知っているのではではないか、という不安をぬぐい去る事ができなかった。
「この里では、色んな事があったけどさ。やっぱり良い事の方がずっと多かったんだからさ」
「上乃……」
「なに?」
上乃は振り向かなかった。仁清には、前を歩いている上乃の表情を窺い知る事はできなかった。ただ、きっと真面目な表情でじっと前を見ているに違いないだろうと、仁清は思う。こんな事を自分に言うのは照れるに決まっているのだから。
「いや、なんでもない」
「そう。じゃあ、早く帰ろ。伊万里が待ってるもの」
「そうだね」
仁清達が去ってから十日ほど過ぎて、県居の里には再び来訪者が訪れた。
「ほ、本当にいいのか」
八代の言葉は目の前に山と積まれた物資に思わず声を上ずらせた。
「ええ、かまいはしませんわ。ただ、先程のお話の方は」
この荷車を何台も引きつれて突然訪れた実に奇妙な姿をした小さい少女と、馬鹿でかい身長の中年男性という外見からは決して行商人には見えない二人組みは里に着くなり、県居の里にある布や狩りで得た毛皮を全て欲しいと言い出したのだ。しかも、ここ三年間の間独占的にこの里のものを買いつけたいとまで申し出ていた。
「あっああ、わかってる。こちらとしても好都合だ」
元々、引き取り手もなく持て余したいた品だったので里にしては願ったり叶ったりといったところだった。
「そりゃあ、よかった。いや〜、わてらも質の良い布を探してましたんですわ。わてらこの国で本格的に商いはじめてまだ半年ですやろ。品物が手薄で手薄で困ってましたんや」
「しかし、こんないい物と」
里の代表として交渉に当たっていた八代が驚くのも無理はなかった。二人の行商人が提示した交換の品々は普通では考えられないほどの量と質の物だった。
「気にせんでいいんですわ。何事も先行投資が大事ですよって」
「はぁ、そういうもんですか」
よくわからないなりに八代が頷く。正直糞怪しい事極まりないが、これほどおいしい話を棒にふるような余裕は里にはなかった。
「只深、話さんでいいのか」
山と積まれた物資に跳びかからんばかの山人を尻目に、その怪しい行商人の二人はその場から少し離れた所で小声で何やら喋っていた。
「そないな事言われても、仁清はんから自分の名前は出さんでくれってあないに頼みこまれてるさかい」
「くぅ〜、男やなぁ、仁清はん」
「まったく、阿呆なお人ばかりやからなぁ」
「それが良い所や無いか、なぁ只深」
「まあ、なあ」
「ほな、帰ろか」
「そやな」
〜完〜
後書き座談会
「というわけで、四度登場の高野です」
「は〜〜〜いい。みんなのアイドル、火魅子伝の真のヒロイン日魅子で〜す。よいこのみんな元気にしてたかな?」
「……あの〜、日魅子さん」
「う〜〜〜ん、声が小さいぞ。もっと大きな声でさん、はい。……は〜い、みんな元気ですね〜」
「……一人で盛り上がっているとこ悪いんですけど、そろそろ返事してもえらえませんか」
「何ようるさいわよ。せっかく火魅子伝のコア〜なファンを取りこんで出番アップ大作戦を邪魔しないで」
「いや、かなり怪しい文法でそんな事言われても……。ところで、九峪君は?」
「く・た・に〜、そんな薄情物の名前なんて知らないわね」
「いや、薄情者とか断言している時点で知ってるという事だと思うんですが」
「うるさいわねぇ。いいのよ、そんな事。ところでその九峪とかいうのは知らないけど、巨大春巻きなら一つそこに転がってるわよ」
「巨大春巻き?」
「そう、巨大春巻き」
「……何だか赤いものが全体にかかってますけど」
「タレよ、タレ」
「……ところで先程から気になってたんですが」
「何?」
「いえ、あえて触れないでおこうと思ったんですけど。その〜、いつもの様に右手にお持ちになってる釘バットがすでに赤く染まっているのは」
「ああ、これ。これは調理道具だから」
「調理道具?」
「ええ、そうよ。ところで、そろそろ本題に戻らない。タレつき春巻きなんて些細な問題はこれくらいにして。それとも、身をもって詳しい説明を聞きたい?」
「そうですね。些細な問題は横において本題にいきましょう(きっぱり)」
「そうそう、賢明な判断だと思うわよ」
「うごぉぉぉぉぉぉぉぉうお」
「……なにやら、地の底でのたうち回っているような声が聞こえるんですが」
「もう、仕方ないわね。ちょっと待ってて」
「はい」
「もう(ゴキ)うるさい(バキ)んだから(メキ)静かにして(ドカ)よね(ゴキバキメキドカ×5)、ふ〜。おまたせ」
「……何と言うか、口元に浮べた笑みがとっても満足げですね」
「もう、くたくたよ。料理も大変なんだから」
「はぁ、料理ですか」
「何か文句でも」
「いいえ、何も(きっぱり)」
「そう、じゃあ本題にいきましょうか。今回の主人公は前から言ってた仁清君に落ち着いたみたいね」
「はい、今回は前に輪をかけて難産でした」
「まあ、出す期間がこれだけ離れれば大体の人はわかるでしょうね。で、結局どうしてこんなに遅れたわけ」
「いや、まあ。これ自体に時間がかかったということもあるんですけど、それより色々と私事で疲れる事が多過ぎて、書いてる場合じゃなかったんですよ」
「そうねぇ、この四月で」
「あぁ〜〜〜〜、それだけはそれだけは言わんとてください」
「いや、そんな半泣きで止めるようなことでもないでしょう」
「でもでも、心が痛むんですぅ」
「はいはい、仕方ないわね。で、この話自体はいつものように暗いというか、何というか火魅子伝でやる必要あるのかという話よね」
「そうですねぇ、主要キャラは顔見せ程度に出るくらいだし、話も本編には何の関連もありゃしませんしね」
「しねって、あんた確信犯かい」
「ははは、もういいんです。元々駄目もとなんで。今回なんてオリキャラすら出してますし。みなさ〜ん、苦情まってま〜す」
「いや、なんかもうそこまで開き直られると、何と言っていいやら。あんたの頭の悪さを嘆くしかないのかしら」
「もうなんとでも言ってくだされ。あ、ちなみに気づいていない人もいるでしょが、前回の珠洲伝と作品の核の部分で対になる作品だと個人的には思ってます」
「前回は反応薄かったもんね〜」
「うっ」
「悩んだんでしょ、今回の作品だすの」
「いや、まあ。確かにちょっと悩みましたけど……」
「まったく、個人の趣味と自己満足に突っ走るからでしょうが」
「うっ、いいんだもん。どうせ、どうせ、趣味だもん自己満足だもん」
「いや、大の大人の男がもんって」
「というわけで、今回のサンクスです。雁山さん、Catoさん、高瀬さん、ありがとやんした。今回ラストの筋を導いてくれ、今回も校閲してくれた友人ズ、サンクスです。そして、いままで恐れ多くて書けませんでしたが原作者の舞阪先生すみません、そして怒らないでください」
「……強引に持ってたわねって、あれ」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ、神の御遣いをなめるな〜。出番無し名前だけヒロインとプ〜タロ〜ごときに負けるものか」
「ほう、出番無し名前だけヒロインねぇ」
「ははははは、人が必死になって守ったプライバシーをあっさりと喋ってくれたねェ」
「いや、ちょっと待って、二人とも目が据わってる。はっ、その伝説の赤バットと黒バットは」
「ふっ、春巻きは春巻きらしくしてればいいものを」
「人には言っていい事と悪い事があるのになんでわからない」
「……今回は出番すら無かったのに、主役なのに。こんな終わり方はいやだ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「「問答無用」」
「ぎゃあああぁぁぁぁっぁあっぁぁ」
〜完〜
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