砕かれた希望
はじめに
このSSは、ゲーム版火魅子伝を元にしています。ゲームのエンディングを見たことのない人には今一ワケのわからない仕上がりとなっていますが、どうかご了承下さい。
砕かれた希望
彼女はたたずみ、じっと鏡を見つめる。ここ九州で出土した、古代の銅鏡を。
あの鏡に、自分の恋人が吸いこまれ姿を消してから、一体どれだけの時がたったのだろうか。もう、数える気にもならない。彼がいなくなってからは一日が妙に長く、くすんだものに変わった。
帰ってくる。絶対、帰ってくる。
そう信じる。信じなければ、どうにかなってしまいそうだから。
「九峪……」
鏡を見つめ、彼女は想い人の名を呟いた。
その時だった。
「え?」
鏡の鏡面が、ゆれた気がした。
次の瞬間、鏡が翠の光を発し、あたりをまばゆく照らし出した。
同じだった。あの時と同じ。自分の恋人が消えた、あの時と。
「まさか……九峪…………!」
期待は一気に膨らんだ。この光りが収まったとき、そこに求めてやまない姿があると思った。
嬉しさに、涙が出た。
「九峪……」
声が震えるのを、止めることはできなかった。
だが――――
「あ……れ……?」
光が収まり、しかしそこに、彼女の恋人の姿はなかった。
呆然と、鏡を見る。そこから現われたものを見る。
見覚えがあった。そのはずだ。それは自分の物なのだから。彼女の恋人が消えたとき、彼がつかみ、共に消えてしまった物。
いつも胸に身につけていた、鈴。
「なんで……どうして……?
これだけ……?
九峪…………くたに…………?」
震える手で、鈴を拾う。間違いない。自分の鈴だ。彼とともに、消えた鈴。
彼の姿はなく、そして鈴だけが、戻ってきた。
それが意味することを、彼女は直感で理解した。
「うそ……でしょ……?」
証拠も何もない。だが、彼女はそれが正しいと思った。強い真実の響きを感じた。
「九峪……どうして……?」
彼はもう、戻っては来ない。
「九峪…………くたに………………ク……タニ…………」
鈴を抱きしめる。
涙が頬を伝う。
心が悲しみで満ち、壊れそうになる。
「くたにぃぃぃぃぃ――――――!!!」
彼は戻ってくる。きっと、絶対、戻ってくる。
信じた想いは、打ち砕かれた。
自分を支えてきた想いは、自分を保ってきた想いは、灰塵へと帰し、あとにはただ、残酷な事実が残る。
その重さに耐えきれず、彼女――姫島日魅子の心は悲鳴を上げる。
想い人の名を叫ぶ。
だが、その姿を彼女が見ることはない。
もう、二度と――――
後書き
どうも、お久しぶりです。桜華です。
昨日(6/2)、火魅子伝の二回目を音羽さんでクリアしました。このSSは、その時にふと思いついたものです。
初めて見た時は、時の御柱に投げつけた鈴は壊れたのだと思いましたが、もしそうでなかったら?
鈴だけが時空を超え、現代へと還っていたら?
そう思ったときに、こんな情景が浮かび上がりました。
まあ、あれですね。残された者はいつでも悲しむ。それが日魅子か、それとも伊万里たち耶麻台の人間かの違いだけです。
でも、日魅子の場合、九峪は突然ワケのわからないまま目の前で消えてしまったわけです。
耶麻台の人達は自分と九峪が違うことを知っていて、また、神の世界に帰ることが――つまり別れることが当然と思っているけど、
日魅子の場合、自分の側に九峪がいることが当然なわけで、だから戻ってくると信じられたと思うんですよ。
戻ってくると信じて、信じつづけて、しかし戻ってこないと知ったとき、日魅子は一体どうなるのか。
そんな事を考えながら書きました。
でも、音羽さんのCG見たさに迷わず鈴を投げ捨てましたけどね、私は(苦笑)。
それではまた、次のSSにてお会いしましょう。
桜華でした。
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