第六天魔王 九峪 序章 「覚醒」

「我は神の遣いなり」

 彼はある日突然この地に現れた。

 彼は天魔鏡の精を伴って、この荒廃した大地に降り立った。

 神器の精の導きにより彼は耶麻台国の残党と合流を果たした。

「我は欲界、色界、無色界の三界を統べる神より、この地に遣わされし者なり」

 しかし同時に彼等の隠れ里には、敵の影もまた迫っていた。

 何時の日にか彼等が自ら起こすはずだった戦いの火蓋は、図らずもその敵によって切って落とされた。

 彼等は生き残るために立ち上がった、彼を旗印として。

「我はこの欲界に属する第六天より、この地に至りし者なり」

 決起した彼等の元には多くの戦士が集った。

 嘗ての耶麻台国武将の縁者、在野の戦士や術者、そして火魅子候補とその眷属達。

 彼等は初め神の遣いという権威故に彼を祭り上げ、後にはその秘めたる実力を認めて九峪に従い戦った。

「第六天は欲界を構成する六つの世界の頂点に立つ」

 戦火は九洲全土に広がり、戦いは激化の一途を辿った。

 多くの苦難と強敵が彼等の前に立ち塞がり、しかしその尽くを退けてきた。

 そして大願成就の時は来た。

「そしてこの地もまた欲界に属する世界の一つなり」

 耶牟原城を解放し、火魅子を即位させ、彼はその役割を全うした。

 歴史は役目を終えた彼を帰還させるため、刻の御柱を動かした。

 そして天穴は、異世界への扉は開かれた。

「そして第六天に属する者は他の五つの世界の快楽の全てを味わいうるものなり」

 しかし彼はここに遺ることを選んだ。

 自らが本来属するべき世界への帰還を拒んだ。

 そして正にその時、それは起こった。

「今こそ我は名乗ろう、我こそは第六天魔王なり」

 そもそも世界を渡る者には大きな力が宿る。

 時間の流れを遡るとき、その身の内に四次元エネルギーと言うべきものを貯め込む。

 しかしそれだけではその巨大な力を使いこなす事など出来はしない。

「故に我はここに宣言する、我この世界の覇王たらんことを」

 世界もまた一個の生き物であるとすれば、異世界からの来訪者は異物に他ならない。

 人は異世界の門をくぐるとき、本来異物であるが故に排除されるか変質させられて取り込まれるかの何れかである。

 従って異世界に留まる者はその本質を否応もなく変容させられ、それは時としてその者に強大な力をもたらす。

「人間界を遍く平らげたならば、次に目指すべきは魔界の制圧である」

 そもそも魔界の泉とは魔界の扉の隙間から滲み出た魔界の力が具現化したものに他ならない。

 それを飲み干すことで得る力は異世界を訪れる際に起こる変容を擬似的に体現しているにすぎない。

 即ちこの時の彼の変容に比べれば黒き泉によってもたらされる力など所詮は紛い物にすぎない。

「そしていずれは天界の扉をこじ開けて、天界にも攻め込み征服しようぞ」

 彼はこれまで戦いの中でその力の片鱗を見せてきた、しかしその秘めたる力を考えればそれはあまりにも些細な発現にすぎない。

 彼の中で膨れ上がる力は「天魔鏡」によって見出され「討魔の鈴」によって制御され「討魔の剣」によって奮うべき場を与えられた。

 三つの神器に認められしその力はその片鱗ですら、最後には軍団の如何なる者をも凌駕した。

「我はこの五つの世界を支配する、絶対の覇者となろう」

 天魔を映す鏡はその主にして長たる王をこの地に導き、彼はその仮の役目を全うした。

 そして今彼は神の遣い歴史の修正者たる立場を棄て、その真の力は解放された。

 今や彼の力は、五つの世界の如何なる者も、その足下にも及ばない域に達している。

「第六天に従属する五つの世界、その全てを掌握しそこにある快楽をば味わい尽くさん」

 今の彼は正しく異世界よりこの地に至りし魔王に他ならない。

 もはや彼を止めえる者はこの世界の何処のもいない。

 今ここに欲望の権化にして快楽の追求者たる第六天魔王は覚醒した。

「そう魔界も魔獣界も人間界も仙界も天界も・・・・・・美人のねーちゃんはみーんな俺のもんじゃー!」






 諸星あたる化した・・・ともいう。

「・・・神の遣いって、やっぱりただのすけべぃだ」



 第六天魔王 九峪 序章「 覚醒 」  完





 次回予告

「耶麻台国国民の諸君! 今我らは王都を奪還し狗根国軍を駆逐した。
 諸君らの愛してくれた我らが祖国が、耶麻台国が、女王火魅子が帰ってきたのだ。
 最早我々を蹂躙し搾取する者はいない、しかし安心してはいけない。
 彼等の本国は未だ健在であり、再び侵攻の時期を待ち今もその牙を磨いている。
 今暫くは大人しくしているだろうが油断はできない、彼等に力を蓄えさせてはならない。
 枇杷島が陥落し、四天王を更には二人の上将軍まで失った今こそが好機なのだ。
 雌伏の時は終わった、今こそ逆襲の時! 出面、泗国の反乱と呼応し山都まで攻め上り討ち滅ぼせ!
 狗根国王家の者共を根絶やしとせよ! 我らが安息の日を手にするため、後顧の憂いを絶つのだ!
 我々も苦しいが敵も苦しい、耶麻台国千年の安寧を手にするために、立ち上がるのだ!
 今こそ立ち上がる時! 立てよ国民!」

 次回 第六天魔王 九峪 第一章 狗根国討伐編 第一話「 宣戦 」

 君は生き残ることができるか?