俺は今確かに迷っている、でも今更なにを迷っているんだ?

 刻の御柱は動き始めた。

 後は討魔の鈴の導きに従うだけ、あの光を潜り抜けるだけで帰れるんだ。

 そう、この鈴があれば帰れる・・・でもこれがなかったら?

 もう悩む必要は、もう迷う必要はないってことなのか?

 なにを馬鹿なことを、おれは今この時のために頑張ってきたんじゃないか。

 でもそれは俺だけの力じゃない、仲間がそしてなによりあの娘がいたからこそ出来たことだ。

 確かに俺がここまで来られたのはあの娘のおかげだ。

 あの娘がいたからこそ、俺を支えてくれたからこそ今まで頑張ってこれたんだ。

 俺は今から俺の時代に、日魅子の待っているあの時代に帰る。

 でもそれはあの娘と別れること、もう永遠に会えないということ。

 本当にそれでいいのか? 後悔しないと言い切れるのか?

 俺はふと顔を上げた、あの娘が俺を見ている。

 今にも泣きそうな顔で、でも必死に涙を堪えながら俺を見つめている。

 俺は手の中の鈴を見つめ、そして握りしめた。

 俺は・・・俺は!

「九峪!」へ?

「あんたこんなとこでいったい何やってんのよ?」

 ひっ日魅子? おまえなんでここにいんの?

「九峪が何時まで経っても帰ってこないから迎えに来たに決まってんでしょ!」

 いや、だからって来ようと思って来れるってとこじゃないだろ?

「うっさいわね! そんなのどーでもいいでしょ! さあ帰るわよ!」

 いててててててっ、みっ耳を引っ張るなよ、おい。

「あっそれからそこのあんた!」あの娘を睨み付ける日魅子。

「九峪はあたしの彼氏なんだからね。色目なんか使わないでよ。手出ししたら承知しないんだからね」

 おっおい日魅子、そんな言い方・・・。

「九峪はだまってて! これはあたしとあの娘の問題なんだから」

 はっはいーっ、すいません、もう申しません。

「よし! それじゃ帰るわよ」いや俺は・・・「帰るのよ、い・い・わ・ね!」

 ・・・はい。それじゃって、おい日魅子引っ張るなってば、別れの挨拶くらいさせろよ。

「なによ、まだ済ませてなかったの? 急ぐんだから5秒で済ませなさいよ」

 わっ分かった、分かったから放してくれってば。

 それじゃこれでお別れだ。みんな元気でな! それじゃまたな!

「ちょっと、最後のまたなってどういう意味よ?」

 えっ? いや別に・・・、あっ急げ日魅子、もう時間がないぞ!

「あっこら! 誤魔化して逃げようってゆーの? きたないわよ九峪。
 ・・・あんたなに笑ってんのよ?」

 え? 俺ってば笑ってるかい?

「笑ってるじゃないのよ、なにさニタニタと顔緩ませちゃっていやらしい。
 覚えてらっしゃい、後であの娘のことも含めて、しっかり説明してもらからね!」

 たしかに俺は顔が笑み崩れるのを押さえることができなかった。

 そうさ、これが最後なんて誰が決めた?

 かつてキョウが俺をここに誘った、そして今また日魅子がここまでやって来た。

 本気で望めば不可能などあるものか、俺達はそうやって今まで戦いそして望みを掴んだじゃないか。

 そうさ、もう会えないなんて誰が言い切れる?

 いつか会いたくなったら必ず会いに来てみせる、耶麻台国のみんなにもあの娘にも。

 いてっ、抓るなよ日魅子。

「にたにたすんなって言ってんでしょーが。ほれっほんとに時間がないんだからぐずぐずしない」

 ああっ、分かってるって。

 今はひとまず別れを告げよう、耶麻台国に仲間達にそしてあの娘に。

 そして俺達は慌てて光の中に飛び込んだ、俺達の時代に向かって。