このお話を皆様にお聞かせする前にお断りして置かなければならない事がございます。

このお話の中には一部に過激なシーンや生理的に嫌悪感を抱かせる描写が存在いたしております。

そういった表現に拒絶反応をしめす方はご遠慮下さいます様御願いいたします。

特にお食事時の閲覧は危険を伴いますので、ご注意下さいませ。



さて、御覚悟の方は完了いたしましたでしょうか?



おっと、物語を始める前にこのお話の状況設定をご説明させて頂きましょう。

まず最初に申し上げておかなければならないのは、この作品における九峪様のお人柄についてで御座います。

大きな声では申せませんが、この九峪様というお方は大変な女好きの外道にして節操のない鬼畜野郎であらせれるという評判でございました。

いちおう亜衣様が恋人として公認されておりますが、それはたまたま亜衣様が一番最初に告白される機会に恵まれたにすぎないという噂で御座いました。

というのも当時九峪様がお付き合いされていらした女性は一人や二人では御座いませんでした。

しかも「釣った魚に餌はいらない」とばかりに、おとした女性をかえりみず誘われるままに女性を口説かれていたそうで御座います。

およそこの九峪様というお方はいかに戦況が苦しくなろうとも、いかな貴人麗人の愛を獲得しようともなお女性へのアプローチが疎かになる事は御座いませんでした。

その姿は「他にやることがあるだろう」という突っ込みすらも忘れさせるほど精力的だったそうで御座いました。

さて九峪様の博愛ぶりに関しましてはまあ「英雄色を好む」とも申しますし、その時点で当事者が納得しているのなら取り敢えずは構いませんでしょう。
(あとでどのような凄惨な修羅場が待っていたとしても、それはまあ自業自得というものでございましょう)

しかしそれが目的のために手段を選ばなくなってまいりますと、これは少々問題でなかには陰で外道呼ばわりする者もいる始末で御座います。

どれ程の外道で鬼畜かと申しますと、先の戦役において遠州様が見殺しにされてしわれたのは、戦略上の問題ではなく経験値と戦利品欲しさ故との噂で御座います。

対帖佐最終戦に臨むに際しても、あれほど参戦を希望されていた只深様が外された理由もまた同様との事でございました。
(表向きは只深様自身の戦力評価の低さがその理由として上げられてはおりましたが、果たして如何なものでしょうか)

そんな調子で集められた宝物も信頼関係を築くためと称して惜しげもなくプレゼントされてしまい、軍団の倉庫は万年からっぽの状態で御座いました。

しかるに九峪様本人の装備品はなぜか有り余っていましたから、一時期は業務上横領や贈賄の疑惑さえ取りざたされも致しました。
(もっとも装備品の多くがガラクタとしか云いようのない代物でありましたので一応すぐ嫌疑は晴れたそうですが・・・)

そうして築いた友好関係は、その部隊長の多くが女性であるが故か恋愛感情に発展するのにさほどの時間はかかりませんでした。

結果として多くの女性から告白を受け、実質的なハーレム状態だったそうでございます。

また少しでもデートイベントを発生させるためだったのでしょうか、蛇斉城攻略は三年目に入ってずいぶんたってからの事でございました。

そのため提案を無視され続けた火魅子候補お二方の不興もそつなくフォローされていたのは流石と申すべきでしょうか。
(さすがにお札が足らなくて恋人関係を築くまではいたらなかったご様子でしたが・・・)

そんな訳で、耶牟原城攻略もなんとか期限ぎりぎりでクリアこそできましたが、一歩間違えばゲームオーバーに至りかねませんでした。



おや、どうかなさいましたか?苦虫を噛みつぶした様なお顔をなさって、私何かお気に障る様な事でも申し上げましたでしょうか?

もし自らの日頃の行いを振り返って、なにか身に覚えがお有りなら早々に改める事をお奨めいたしますよ。

男女の仲に駆け引きは付き物とは申せ、結局最後には誠実であることが肝要で御座いますから。



もっとも、九谷様のあの御乱行は女好きの鬼畜な行動ではなく、ただの(しかし超が付く程の)優柔不断であるという話も御座います。

提案の廊下では待ち受ける女性の前を素通りすることもならず、お話をお聞きになればもう却下はお出来になれない。

自室に戻られてからも御同様で、入れ替わり立ち替わり訪れられた女性のお誘いを無視することなど出来よう筈も御座いません。

かくしてお札は使い尽くされ進軍もままならない有様となったよしに御座います。

たしかにいくら救国の英雄とは申せ噂どおりの外道・鬼畜の類であれば、あれほど多くの女性から思いを寄せられる訳は御座いません。

おそらくあの噂の出所は九峪様に思いを寄せる女性に言い寄った挙げ句に振られた男どもが嫉妬混じりに流した根も葉もない誹謗、中傷の類で御座いましょう。

まあどちらにせよ結果的に見殺しにされた遠洲様にしてみれば、甲乙付けがたき情けなさではありましょうが、今となっては詮無きお話に御座います。



はて、汗などかかれて如何されましたかな、お顔も少し赤くなっておりませんかな。

えっ、そんなことよりさっさと本題にはいれ?はいはい、分かっておりますとも、どうも年寄りは説教臭くなっていけませんな。

たしかに前置きが長すぎたやもしれません。



さて結局のところ、九峪様は自ら神の国への帰還を断念なさいました。

しかし九峪様が九洲に残られたのは、何も恋人となった亜衣様との別れが耐え難かったからという事とは限りません。

なにせあの九峪様のことで御座います、只単にせっかく築いたハーレム状態を手放すのが惜しかったからに他ならないとのもっぱらの噂で御座いました。

そんなお話がまことしやかに飛び交っておりましたから、亜衣様の心中は喜びの中にも複雑な物が御座いましょう。

なにせ九峪様は自分だけを選んでくれたとは限りません、それどころか恋敵は星の数、いえまだまだ増えるかもしれないのですから無理も御座いません。

たとえ九峪様が優柔不断なだけだったとしてもそれはそれで問題でありまして、決して安心など出来様はずも御座いません。

自分のいない間に言い寄ってきた女性に押し倒されてそのまま・・・などという事態に陥りでもしたらと思うといてもたってもいられません。

ですがそんな不安に胸を痛めているからといって、耶牟台国のブレーンたる亜衣様には感傷に浸っていることすら許されません。

度重なる戦乱により荒廃した国土を復興し、長きに渡る狗根国の支配により疲弊した国力回復すべくやらねばならない仕事は山積みで御座います。

自分が忙しさにかまけている間に九峪様に言い寄る女性たちのことに心を砕きつつも、亜衣様はその双肩にのしかかる激務を日々精力的にこなしておりました。



さてそんなこんなで時は移り耶牟原城解放からはや数ヶ月が経ちました、社会も安定を見せ始めた頃に亜衣様の計画は静かに始動したので御座います。

「あら、お早う御座います九峪様、ご一緒に朝食でもいかがです?」

「今朝はちょっと趣向を凝らしてみたんですよ。わたしと亜衣姉様で腕を奮ったんですから」

「そーだよー!いっしょにあさごはんたべよーよー!」

「ふぁーあー・・・んじゃあ御馳走になるかな・・・」

「いかがです、九峪様の世界の朝食をできる限り再現してみたつもりなのですが」

「へえー、まさかこっちで洋食の朝飯にありつけるとは思わなかったな」

「今朝の献立は蒸し麺麭、薫製肉添え目玉焼き、醍醐、乳腐、玉葱の酢醤油和え、赤茄子の搾り汁ですよ」

「(パンケーキ、ベーコンエッグ、チーズ、ヨーグルト、オニオンサラダ、トマトジュースってとこかな)この卵、鶏にしてはちとこぶりだね」

「これは鶏ではなく青海亀の卵を赤犬の薫製と一緒に焼いた物ですわ、狗肉はやっぱり赤犬が一番ですわよね」

「そっそうかい・・・はははっ(たらり)取り敢えずこのヨーグルトから頂こうかな。
(フロストシュガーなど有る訳ないから蜂蜜をかけてっと)パクッとな・・・ぶっふぁーっ、うえぇなんで椎茸なんか入ってんだ!」

「あら、私が独自に集めた情報によりますと、九峪様の世界の特産物とお聞きしましたが何か間違ってましたかしら」

「(何処からそんな話を・・・)いや、確かに椎茸ヨーグルトは九州某県が特産品の椎茸を使って若者向けに開発した町興し商品って話だけどね。
 結局ほとんど売れ残って大量に抱えた在庫を自称「食通」怪人を言いくるめて全部食わせたって曰く付きの代物だぞ」

「まあー、この味が分かるなんて怪人とはいえさすが食通というだけのことはありますわね」

「そーじゃなくって・・・」

「せっかく亜衣姉様が九峪様のためにつくったんですから、残さず召し上がって下さいね(ご免なさい九峪様、じゃないと私達の方に廻ってきちゃうんです)」

「そーだよ、くたにさまーがんばってねー( ウルウル )」

「あうぅっ(・・・フーッ)分かった、分かりましたよ・・・」

  ・  ・  ・



「へー、今日は鰻丼に名古屋名物エビフリャーか、なんの脈絡もない取り合わせだな、まっいいけど。
 まずはこいつから、いただきまーす( ガチッ )・・・・・・骨がある?手羽先のフライだったか?まあこれはこれで癖がなくてけっこういける・・・」

「( ガラッ )オーホッホッホッホッ、甘いですわね九峪様、甘い甘いオーアマですわ」

「おわっと、何だよ亜衣、人の部屋に入って来るときはノックくらいしろよな」

「のっくってなんです?」

「ノックってのはだな・・・フーッ、まあいいや、んでなにがあまいんだ?」

「それは海老ではなく「蛙の足の揚げ物」です、それに鰻丼ではなく「マムシの蒲焼き丼」ですわ」

「(エビのしっぽかと思ったのはカエルの水掻きだったのかよ)んでもマムシならやっぱ鰻でいいんだろ、じゃあ・・・」

( ! 解説しよう、関西地方では小盛りの鰻丼の上にさらにご飯、ウナギを乗せる二重構造となっている。
 このため下側の鰻はご飯でサンドイッチされ蒸した様な状態となるためこれをマムシ(間蒸し)と呼ぶ、らしい)

「ちがいます、蝮ですわ、ヘビの「蝮の蒲焼き丼」と「蝦蟇蛙の足の揚げ物」です。
 そして今ここに持参したこの「焼き蛞蝓の酢味噌和え」を加えれば、「ヘビ」「ガマ」「ナメクジ」の華麗なる「みつすくみ御膳」の完成ですわ。
 おーほっほっほっほっ−」

「・・・・・・(浸ってる内に逃げよう)」

  ・  ・  ・



「九峪様、お肉はお好きですか?」

「ああ、そりゃあまあな」

「では今晩は肉料理に致しましょう。
 「山犬の腸詰め」「三毛猫のミミガー」「山鯨のラフテー(角煮)」「丹頂鶴の照り焼き」・・・
 残念ですわー、戦時中ならもっと面白い食材が手に入りましたのに、黒狼牙とか虎魔班とか巳弥明とか」

「・・・・・・(あの時もしも兎音を処刑していたら、あの晩の食卓に魔兎族料理が並んでたかもしれなかったのか)」

  ・  ・  ・



「九峪様、本日は牛肉料理にしてみました」

「おっ、焼き肉かな? しゃぶしゃぶかな? ステーキってのもいいよな」

「ステーキ? いえ、本日の料理は・・・
 「牛の睾丸の大蒜いため」に「子牛の兜煮」「牛モツ鍋」ですわ」

「・・・・・・(こっこれは、かのピカソが常食としたスタミナ料理。ピカソは材料確保のために毎日闘牛場に通ったとかな)」

  ・  ・  ・



「九峪様、本日のお食事は題して「母なる大海原、磯の香りスペシャル」ですわ。
 「海丑の姿焼き」「船虫の掻き揚げ」「竜の落とし子の唐揚げ」「海鼠のたたき」「海星の干物」
 この油揚げの代わりにイソギンチャクを使った「磯巾着の餅入り巾着」はまた絶品で・・・・・・」



「九峪様、本日は「悠久の大地、森の恵みグレート」と題しまして数々の山の幸を集めました。
 「蝗の佃煮」「蜂の子の甘露煮」「芋虫の煮っ転がし」「蚯蚓のつくね」「蝸牛の壺焼き」「蛭のマリネ」・・・
 そうだ、「蜘蛛の子のちらし寿司」などはいかがです? 蜘蛛のお腹の部分を噛み締めると、口の中に甘くてほろ苦い独特の味わいが広がってそれはもう・・・・・・」



『 九峪様、本日のデザートはアンパイズ謹製「カルビチョコレートえのきパイ」「いくらゼリー辛味噌パイ」
 そして脳味噌直撃「DHA頭脳パイ」の三品です。』

「どっわー!( ガバッ )ゼーッハーッゼーッハーッゼーッハーッ( ドキドキドキ )フーッ、夢かよ、そおだよな。
 亜衣の連日の手料理攻撃のおかげでえらいもん思い出しちまったぜ、内緒にしとかんと万が一再現でもされた日には洒落にならん。
 いくら忌瀬がいるとはいえ、この時代にあんなもん食わされたら命に関わる。
 (何でも麻雀で解決するあの作品とはシリアス度が違うんだからよ)」

「九峪様、本日は「でっざーと」とやらに挑戦してみたんですのよ。」

  ・  ・  ・



「忌瀬、悪いんだけどまた胃腸薬出してくれ」

「九峪さまー、だめよー暴飲暴食も程々にしなくちゃー、いくら神の遣いとはいえちょっとは節制しないと身がもちませんよー。
 胃も荒れてるし目も血走っちゃって、最近よく眠れないんじゃありませんー?」

「わかちゃいるんだけどね・・・」

「亜衣さんにはもっと滋養がついて消化吸収のよい食事をつくってもらうように云っておきますからねー。
 美味しいもの食べてゆっくり休んでくださいねー、じゃーお大事にー」

「・・・・・・(できれば夷緒か誰かに伝えてくれないか)」

「( ガラガラッバーン )聞きましたわよ、九峪様」

「( ビックーッン! )やっやあー亜衣さん、いったい何の話だい」

「とぼけないでください!!!」

「はい!ごめんなさい」

「滋養のつく食事が必要なんですね(ぐっふっふっ)今晩の食事は楽しみにしてて下さいましね、おーっほっほっほっほ」

「・・・・・・まあなんですねー九峪さまー、もうこうなちゃったら観念しちゃってくださいねー(なまんだぶ、なまんだぶー)」

「・・・・・・」

  ・  ・  ・



「九峪様、お楽しみの時間がまいりました。九峪様のために九洲中を駆けずり廻って、山海の珍味をとりそろえましたのよ」

「(うっわー、今まででも十分に珍しい味だったのにそれ以上かよ)・・・ええっとだな」

「さあ、さあ、さあ、さあ、さあ!」

「(うううっ)・・・わかりました、御馳走になります」

「おほほほほっ、では参りましょう」



「まずは食前酒を召し上がれ」

「・・・・・・このグイノミのなかでピチピチと蠢いているのは?」

「「山椒魚の躍り食い」ですわ、さあ焼酎ごと一息に飲み干してくださいませ。
 山椒魚が藻掻きながら食道を通って胃の腑に至る際の喉ごしは堪らないものがありましてよ」

「・・・・・・いや、俺まだ未成年だから酒はちょっと遠慮しとくよ」

「まあ、左様で御座いますか、美味しいですのにつまりませんわね。
 では、これなど如何ですか?「ハンザキの活け作り」ですわ。
 頭から真っ二つにしても生きていることから半裂きとも呼ばれる大山椒魚を、生きたまま刺身にいたしました。
 活きの良さは格別ですよ」

「・・・・・・(なんで本物の魚で刺身造ってくんないかな)」

「こちらは「仔海豚の丸焼き」と「若鯱の肉饂飩」です。
 アニキサスがピチピチして堪りませんのよ。
 うどんの方は大陸の牛肉麺を真似て鯱の赤身を叩いて叩いて手延べ麺に仕立てたんです」

「・・・・・・(動物保護団体から訴えられるぞ)」

「こちらの「目玉の煮っ転がし」と「目玉焼き」はいかがかしら。
 目玉は脳細胞の活性化に効能がありますのよ」

「・・・・・・(そりゃあ魚の目玉の話だし目玉焼きは卵使えよ、いったい何の目玉使ったんだよ)」

「耶牟台国必勝を祈願して「百足の佃煮」と「鼠の唐揚げ」も造ってみました」

「・・・・・・(神棚にでもお供えしといてくれないかな)」

「「河豚の親子丼」も召し上がって下さいね」

「・・・・・・(フグの白子は美味いけど卵巣は毒があったはずでは・・・)」

「「八ッ目鰻、海馬の睾丸、蝦夷鹿の陰茎の土瓶蒸し」ですわ」

「・・・・・・(オヤジの精力剤じゃないんだから、第一九洲でどうやって手に入れたんだ)」

「これは稲葉の白兎をモチーフにして「兎肉の姿造り」してみました」

「・・・・・・(兎華乃たちから吊し上げにされるなあ)」

「こちらは定番の山の幸の盛り合わせです。
 「蝗の佃煮」「蝉の唐揚げ」「蜂の子の蜂蜜漬け」「蛆の肉団子」「油虫の・・・」」

「・・・・・・(今更なんだが見た目を何とかしてくれれば一寸は)って、ちょっとまてー!
 油虫ってまさかゴキブ・・・」

「大丈夫ですわよ九峪様、下拵えも調理でも念には念を入れて処理してあります。
 お腹の中で卵が孵って寝てる間に口や鼻から幼虫が這い出してくる・・・なーんてことはありませんわ、たぶん」

「・・・・・・ く え る か ー !!( ガッシャーン! )」

  ・  ・  ・



「あら亜衣さん、どうかなさいましたの? 元気がありませんのね」

「元気ない? 亜衣どかしたかね」

「・・・・・・紅玉殿、香蘭様、いえ何でもありませんわ」

「なんでもないって顔色ではありませんわよ。
 そうだ、これからうちは朝食なんです、たいした物はありませんけどご一緒にいかがですか」

「そうね、一緒に食べるいいよ、腹が減っては戦ができないのことね」

「・・・はぁ」



「・・・・・・まあ、そうでしたの。
 せっかくの心尽くしを・・・・・・九峪様もしょうがないですわね」

「・・・はぁ」

「それより香蘭おなかすいたよ、母上はやく朝御飯にしよ」

「これ、香蘭(ふーっ)そうですわね、我が家の今朝の朝食は中華粥ですの。
 付け合わせの腐乳はちょっと癖がありますけどお口に合いますかしら」

「・・・・・・あら、けっこういけますわね。」

「これは塩漬けにした豆腐を発酵させたものですの、美容痩身にも効果がありますのよ」

「まあ、それは・・・」

「でも香蘭は皮蛋とかのほが好きね。
 香蘭鍛えてるからふとる心配ない、若いからお肌すべす(ズバコーン!)」

「お黙りなさい香蘭! 以後食事中の会話を禁止します。いいですね!」

「でも・・・」

「(ギロ!)」

「・・・わかたよ母上、香蘭だまてるね。」

「ほほほほほっ、失礼いたしました。」

「・・・いえ(ピクピク)お気になさらずに。
 そういえば、和国にもよく似た食材があったのを思い出しましたわ。
 私もずいぶん以前に一度食したきりなんですけど、たしか「酢豆腐」とか云いましたかしら。
 通は一口しか食べてはいけないってゆう伝説の食材ですわ」

「・・・そっそうですの(私の聞いた話とちょっと違うような気がするけど)」

( ! 解説しよう。「酢豆腐」とは、落語に出てくる代物である、そのおおすじは以下のとおり。
 日頃、馬鹿旦那の食通気取りに辟易としていた八つぁん熊さん、カビのはえた豆腐を食わせて笑ってやろうと思いつきます。
 所詮は格好だけ知ったかぶりの似非食通、おだてられ分からない癖に見栄を張って口をつけたはいいがさすがに食べきれない。
 もっとどうぞと進められ、苦し紛れに云った台詞が「酢豆腐は一口が一番」)

「あっそうですわ、これお食べになります「熊の手の蒸し物」昨晩の残り物なんですけど。
 香蘭が温泉で仕留めてきたんですのよ」

「・・・・・・(熊の手昨日食べちゃたね、だからこれホントは熊の足ね)」

「・・・この熊の毛皮ってどうなさいました? もしよろしかったら譲っていただきたいんですけど」

「ええ、それは構いませんけど・・・」

「ありがとうございます、これで私の美しきカワヤがまた一歩完璧に近づきましたわ。
(お腹の部分をくり抜いて便座に被せれば寒い冬の朝もあったかだわ)」

「はあ、それでは後で届けさせますわ(よく分からないけど幾らか元気が出てきたかしらね)
 そうだ亜衣さん、いい食材が手に入ったのよ、なんならとっておきの中華料理を御馳走するわよ。
 気に入ったら調理法もお教えしますわよ、気分転換にもなるし、ぜひそうなさいな」

「でも、あれ今晩のごち(ズバコーン!)」

「(ギロッ)」

「・・・・・・(香蘭今晩の御馳走楽しみにしてたのに・・・ブツブツ)」

「えっええ、それではお言葉に甘えさせていただきますわ」

「香蘭、あれを持ってらっしゃい」

「・・・・・・(ガラガラガラ)」

「あら、この器けっこう凝ってますのね。剥製かしら・・・」

「「キーッ!キーッ!キー!(ガタガタガタ)」」「ひっ!」

「あら、麻酔の効きが悪かったかしらね、ちょっと失礼(プスッ)」

「「きゅー(ガクッ)」」

「・・・これって、生きてたんです、か?」

「ええ、針麻酔で仮死状態にしてから、頭蓋骨頭頂部を切り離して器にしてますの。
 実は体は台の中に隠して置いて、台の真ん中に穴をあけて首だけ出してあるんですのよ。
 なんと云っても「猿の脳味噌料理」は新鮮さが一番大事ですからね。
 さあさあ、この煮立った油を脳味噌にかけて、さくっとお召し上がり下さい」

「・・・・・・これだわ!(ダン!)これだったのですわ!(ババーン!)
 紅玉様!(グワシッ!)是非! この料理法!! お教え下さいませー!!!(ガックンガックン!)」

「えっええ、それは勿論そのつもりでしたから・・・」

「(九峪様、待っていてくださいね。これで貴方は私だけのもの、もう誰にも渡しませんことよ。
  貴方の戦略も知識も貴方自身も、爪の一欠け髪の毛一本に至るまで全て私の物。
  さあ、文字通り身も心も私と一緒になりましょう)」

「・・・・・・(亜衣が食べないなら、これは香蘭が美味しく頂いておくね)」



おや? どうなさいました? もし気分がお悪いのでしたらカワヤはあちらですぞ。

大丈夫だから気にするな? それより続きを聞かせろ? いやしかしそのようにぐあいの悪そうな・・・・・・。

分かりました、分かりましたよ。とは申せもう夜も更けてまいりました。

これ以上はお体に毒で御座いますよ、この続きはまた明日に致しませんか?

私ももう歳ですかな、些か疲れました、少々休ませて下さいませ。

今宵はここ迄と、致しとうございます。





『亜衣の異常な愛情 もしくは九峪はいかにして心配するのをやめてゲテモノを食する様になったか』 完了









次回予告?

 次回の「亜衣の異常な愛情」は「九峪、最後の晩餐」

               「御馳走は九峪焼きに盛った脳味噌料理」

               「食べちゃいたいほど愛してる」の三本です(嘘)